不景気の時こそ、リスクを取って攻める

慶野英里名氏(以下、慶野):あと、これもおうかがいしたいんですけれども。今は不景気なんですが、好景気に向けてどうするか。景気は循環するじゃないですか。今は先が見えないけれども、不景気がいつか好景気になるとして。それに向けて今、まだビジネスを始められていない人ってどうすれば良いですか?

「どうすれば良いですか?」って丸投げな質問をしちゃったと思うんですが(笑)。でも、みんな知りたいと思うんですよ。

磯部一郎氏(以下、磯部):(笑)。「不景気の時にどうしたら良いですか?」というのを単純にしゃべれば良いんだったら簡単ですよ。人と逆をやること。今、みんなが縮小しているから攻めるんですよ。

慶野:攻める。

磯部:リスクを取って攻めるんです。(不景気では)お金を借りる時に金利が安いじゃないですか。だから、リスクを取ってお金を借りて攻める。組織拡大を図るんですよ。社会が萎縮してみんなが動かなくなっている時に、必ず世の中は動いていますよね。

慶野:うん。

磯部:市場が必ず出現しますから。今だったら、もう見えてるじゃないですか。サステナブル・トランスフォーメーションですよ。「脱炭素社会をどうやって作るか」というベンチャー企業とかは、必ずこのコロナ後にぐいっと来るわけですから。例えばそういうことをやられたらどうかなと思いますけどね。

慶野:確かに。

事業で「やらないこと」を決めると、競合がパートナーに変わる

慶野:不況ってお金や人があまり動かないので、チャンスが少ないと感じている方も多いと思うんですが、実は次の好景気に向けの仕込みのチャンスかなという気もします。その仕込みによって、チャンスに備えていくということですよね。

磯部:そうですね。「選択と集中」って、レバレッジが効くところの中身。なぜ今、そうするべきなのかって、「選択と集中」は極めて攻めの姿勢なんですよ。「選択と集中」が単純にコスト削減にしか見えていない人は、まったくわかっていないと思います。

慶野:そうですよね。多角化経営に比べて、ハイリスク・ハイリターンなんじゃないかなという印象があります。

磯部:やらないことを決めると、タッグを組みやすくなるんです。「何にでも手を広げていますよ」と言うと、競合が出てくるわけですよ。だけど、「ここからここはやりません」「うちはここに特化しますから」と言って、選択と集中を行う。

やらないことを決めて、「やらない」と発信をすることによって、「磯部さんのところはそこをやらないんだ」と他社が認識すると、ライバルだと思っていたところが実はパートナーになるということが進むんです。

慶野:そうなんですね。その発想はなかったです。

磯部:そうですよ。

既存のビジネスの組み合わせで、独自の価値を打ち出す

磯部:例えばホームページ屋さんだと思っていて、「うちはホームページを作るのをやめました」「マーケティングのここの部分だけやります」「選択と集中を進めました」って言ったら、ホームページ屋でライバルだと思っていたところは、「もしかしたら磯部さんのところに行ったら、『そこの仕事は我々がキャッチします』という、最大のビジネスパートナーになるんだ」と認識するじゃないですか。

そういうふうに「選択と集中」を進めて、やらないことを決めることによって、牽制し合っていたところがタッグを組みやすくなるんです。そしてライバルも明確になるんです。

慶野:なるほど。じゃあ、個人がそれを実践するとしたら、自分がまずやること・やらないことを明確にするのと、仲間探しのためにちゃんと情報発信をしたほうが良さそうですね。

磯部:そうですね。それこそパラレルキャリアだと、さっきの見方(ベクトル)とは違うんですけれども。ちょっと前に閉幕してしまいましたが、例えばオリンピックの種目で言うと、マラソンで金メダルを取るのは難しいかもしれないけれども、パラレルキャリアだったら「マラソンとアーチェリーをやっているんです」という。

「マラソン×アーチェリーの両方をやっている人の中で金メダルを取ります」みたいな、この掛け合わせでやっていくとか。実際のビジネス上では、自分独自の価値を出せるところですよね。そこを作っていくことじゃないかなと思うんですけれども。

慶野:そうですね。特に初期は、初心者や個人は競技人口が少ないところを目指すのはすごく大事だと思っています。ライバルが多いところに行くと、新人の自分になかなかチャンスが回ってこないですし。そういうレッドオーシャンって、やっぱり大手で予算を持っているところが強くなっちゃうんですよね。

そこに戦いに行ってボコボコになって帰ってくるより、自分を求めてくれる、自分の強みがきちんと活かせるニッチなところを探しに行って、そこの人たちの困りごとを解決して仕事にしていく姿勢は大事かなと思います。

キャリアを「仮説思考」で考えたほうが良い理由

磯部:あと、足元発想で考える人が多いなと思います。例えば、「会社でこういう業務に触れ合った。だからこういう資格を取ろう」という、延長線上で自分のキャリアを引いていく思考回路ではなく、仮説思考で考えたほうが良いと思います。

「もしも自分が英語ぺらぺらだったら」「もしも自分がDXのプロフェッショナルだったら」「もしも自分が税務の知識を持っていたら」とか。

だから、ドラクエですよ。「どういう武器や魔法を手に入れたら、今から訪れる市場の中でつわものになれるのか」ということを、仮説を立てて考えていくんです。その時に、できる・できないということはどうでもいいんですよ。

これもまたもう1つなんですが、武器を自分で取得しなくちゃと思うのがサラリーマン的思考なんです。経営者は、「それを俺がやらなくちゃいけないのかな」「金で買えないのかな」と考えるんです。

つまり、「会計の武器を持つことができたら」と考えた時に、2パターン考えられますよね。1つは会計の知識を自分で勉強して身に付ける方法。もう1つは自分と組んだらおもしろいと思えるような、会計の知識をすでに持っている人を探して出会う。

慶野:本当にそうですね。

「条件」と「利害」だけで仕事を選ぶ人はビジョンを描けない

慶野:全部を自分でやるってとても大変なことですし、やはり会社員をやっていると、すべての職種は経験できないじゃないですか。でも、自分が得意なところでビジネスを始める。例えば営業マンの人が「経理を一から勉強します。5年くらいかかります」とかだとすごくスピードが遅いので、足りないところに人を雇うとか。

あと、雇うのが難しい個人の方は、仲間になる。自分と組んだら相手もうれしいし、自分もうれしいという人を探してパーティを組んでいくと、急にビジネスが加速するスピードが上がりますよね。

磯部:そう。じゃあ、それが組めるか組めないのかって何の違いかと言うと……。

慶野:本質的ですね。何でしょう?

磯部:ビジョンを描いて、それを共有できるかということ。

慶野:ビジョンですか。

磯部:そうです。ビジョンが描けるかどうかって何なのかと言うと、先ほどの話に戻ると思うんですよ。シングルキャリアで将来を見据えて活動を定義して、そこでトライしているかどうかなんです。仕事を条件と利害だけで選んでいて、パラレルワークで生きている人には、まったくそういったものは見えてこない。

現代社会は、SNSで無料で仲間を集められる時代

磯部:しかし、そういったことを自分のキャリアとして構築して深く考えて、常に公私ともに活動していて、複数の仕事でも1個の活動にまとめて生きている人には見えてくる。見えてくるから、そこにデザインの仕事やアートだったり、描くことが必要になってくるんですが。

そんなゼロイチが生まれて、それを発信することができる。オリジナリティを持って、自分で言語化する。それを“絵”と言うんですけれども。

その絵を描くことができたら、今はSNSがありますから。YouTubeだってFacebookだって、こうしたZoomを使ってオンラインセミナーをやることだって、自分の思いを発信することによって、「その思いおもしろいね」って、共感してくれる仲間たちと一緒に仕事をすることができますよね。それは経営者だけじゃなくて、個人も同じ時代なんじゃないでしょうか。

慶野:本当ですね。私も今、フリーランスでしている仕事の大半は、SNS経由で依頼が来たり仲間を見つけたりしているんです。

一昔前だったら、どこかに広告を出して人を集めるとか、人づてで「こういうことをやりたいんですけど、誰かいませんか?」と、紹介されたりとか。1人の仲間を集める時にコストがすごくかかったんです。

でも今は、SNSで「この指止まれ」と呼び掛けるだけで、仲間が無料で集められる時代になったと思います。集められるかは自分がビジョナリーな旗を掲げられるか次第だと思うので、この良い時代を活かさない手はないなと思っています。

働くすべての人が「起業家精神」を持っていて良い

慶野:磯部さんと「今日、50分話したら長いよね」って言ったのに、そうこう話しているうちに普通に50分話していました。

(一同笑)

慶野:なんか盛り上がっちゃいましたね。

磯部:はい。

慶野:じゃあせっかくなので、最後にパラキャリ酒場にご参加のみなさんに、我々からメッセージをお伝えできればと思います。磯部さん、ありますか? すごくしゃべった後なので、「どれを言おうか」という感じだと思うんですが(笑)。熱い思いを聞かせてください!

磯部:最近、こういうパラレルキャリアを追求するイベントにも出させていただいて。僕は『生き急ぐ』という本を出版しているんですが、命の最期を意識して今を生きること。冒頭でご紹介した自己紹介にあったとおり、「死ぬんじゃないか」という経験の中で、「時間を大事にして生きる」ということを人に伝えているんですけれども。

それって何なのかと思った時に、最近思うんですが、アントレプレナーシップ(起業家精神)そのものなんじゃないかと。これを呼び起こすことが社会のためになるし。

他の経営者の方々にとってみたら、「おいおい。社員が起業家精神を持ってしまうなんてふざけるなよ」「社員が副業をするなんてとんでもない」と。これはパラキャリと似ていて、副業をOKにしているけど、実は副業をネガティブに考えている会社さんは多いと思うんです。

アントレプレナーシップを持つことと、パラレルキャリアを自分軸で構築していくこと。さっき、シングルキャリア・パラレルワークという言葉を言い表したんですが、そうやって自律的に挑戦して生きる。

実際に転職をするのではなく、副業で副業先を増やしたり独立することが、2020年と2019年と言っていることは変わらなくて。全員がそういうことをしたって、94パーセントは脱落するという現実があるわけですよ。だから相変わらず、僕は別にそれを勧めたいとは思わない。

だけど、アントレプレナーシップを持って自律的に挑戦して生きるのは、全国民に必要なんじゃないかなと思います。以上です。

慶野:ありがとうございます。

会社に言われるがままのキャリアを歩む時代は終わった

慶野:今のお話にあった「アントレプレナーシップで自律的に挑戦して生きる」って、この人生100年時代に本当にぴったりのコンセプトだと思いました。

今日は「選択と集中」というテーマを中心に話してきましたが、やっぱり人生って、何かに集中する時期もあれば、自分の可能性を広げて拡大していく、いろんなフェーズがあると思うんです。人生ってそれの繰り返しで良いと思っていて。

自分の興味関心を広げて、いろんな人と会って、旅に出たりもして。可能性を広げてから、自分のミッションや「これだな」と思ったものに集中してみる。そこでまた限界を感じたり飽きたりしたら、「選択と集中」をしてからまた広げる。自分の人生をデザインしていけるのが、今の時代なんじゃないかと思うんです。

なんとなく会社に言われたとおりのキャリアパスを歩んでいれば良い時代は終わったと思うので、「多くの人がアントレプレナーシップを持って、自律的に挑戦して生きる」というのが、これからの新しい時代のスタンダードになっていくのではないかと期待しています。

今日のパラキャリ酒場にご参加の方が、自分らしく人生をデザインして挑戦していくヒントになれればうれしいです。今日はありがとうございました。

磯部:ありがとうございました。