目をこすると起こる作用は、涙の分泌だけではない

マイケル・アランダ氏:寝る時間が過ぎてしまうと、眠くて目がショボショボしますね。こんな時には、眼球をぐりぐりとこすると、なんだかほっとします。では、どうして目をこするとこんなに気持ちが良いのでしょうか。

これには理由が2つあります。まず、目をこすると目が潤います。そして実はもう一つ、心拍にも影響があるためです。

目は、涙によって守られています。とは言っても、長く生き別れた愛犬が家族の元に戻るお話で泣いても、涙のありがたみはピンと来ませんよね。涙は、感情を揺さぶられた時に出るだけではないのです。

人の体は、日中を通して「基礎分泌の涙」を分泌しており、これが眼球の表面に薄い膜を作っています。この涙は、視力を保ったり、感染症から守ったりといった重要な役割を果たします。

ところが疲れてくると、目が乾きます。これは、基礎分泌の涙がホルモンのコントロールを受け概日リズム(約25時間周期で変動する生理現象)に従っているからです。朝は分泌量が多く、時間の経過と共にだんだん減ります。やがて眠りにつく体制に入ります。

概日リズム関連以外でドライアイに悩んでいるなら、大脳辺縁系が原因かもしれません。大脳辺縁系は、行動や情動を主につかさどる脳の部位で、基礎分泌の涙も管理しています。睡眠不足やイライラしている時には、この有益な涙の分泌量は減少します。

ドライアイが不快なのは、眼球とまぶたの間の摩擦が増えるからです。

目をこすると、反射性分泌で涙が出ます。涙腺とマイボーム腺をつかさどる神経が刺激され、涙腺からは涙が、マイボーム腺からは皮脂が分泌され、膜を形成して涙の蒸発を防ぎます。たいへん合理的な働きですが、目をこすることによりさらに不思議なことが起きます。なんと、心拍が大幅に低下するのです。

目に圧をかけ過ぎることの危険性

目に圧力が加わると、涙を誘発する反射に加え、「眼心臓反射」が誘発されます。目の付近に圧力を受けると、三叉神経と迷走神経に信号が送られます。これらの神経が、心臓に身体活動を鎮静化するよう働きかけます。するとなんと、心拍が20パーセント以上も低下するのです。

ストレスがかかる状態では、人の心拍数は上がります。そのため、心拍を低下させることに沈静化作用があるのではないかと考える人もいます。事実、いくつかのマッサージセラピーでは、患者をリラックスさせるためにこの神経刺激のテクニックを使います。

とはいえ、衝動のままにこぶしで目をぐりぐりこすれば良いというものでもありません。眼心臓反射は、目の手術の際にさまざまな問題を引き起こします。目の外科手術の執刀医は、眼心臓反射によって患者の心拍数が低下しすぎないよう、ひいては心停止しないように、注意を払う必要があるのです。

目の外科手術のようなレアなケース以外でも、目をこする習慣によって他の問題が引き起こされる可能性を、ある研究が示しています。例えば、角膜を傷つければ視覚に悪影響を及ぼします。

手指で疲れた目をぐりぐりこするのは気持ちが良いかもしれませんが、リラックスするには別の方法の方がよさそうです。例えば、単純に寝てしまうのが良いかもしれませんよ。