多様な人材が正しく活躍できるため、過去の制約条件をなくしていく

小田木朝子氏(以下、小田木):そこから今日の本当のテーマである「ダイバーシティ推進」に迫っていくというか、ここに向けてどう考えていくのか? 進めていきたいと思うのですが。(スライドを指して)ふざけているのかと思われるかもしれないのですが、めっちゃ真面目な図です。

今日の全体のテーマ、考え方の立て付けをこんな感じで表現したのです。スタートは右下です。今日のテーマ、女性活躍推進であり、さらにそれを言い換えると多様な人材が、訳あり人材であろうがどんな人材もいきいき働けて、成果に貢献できる組織作りがスタートだったかなと思います。

今日の着眼点は「誰もが成果に貢献できるチーム」。チームのパフォーマンスを最大化するために、必要なことだとか必要な物の見方・考え方。チームとしてみんなが持っているべきスキル。

ここにテーマの主軸を置いて話をしていくことで、最終的に個人にとっていいだけではなくて、組織にとってもちゃんとバリューの出る組織作り。ここにどうつなげていくのか。

平たく言うと「はしごの絵」を置かせていただきましたけれども。多様な人材の活躍というところと、この変化の環境の中で成果が出せるチーム作りってなんなのか? ここをはしごでつなげて話すことで、右上に向けてのゴールイメージを具体化していこうという。これが今日の話の全体像になります。沢渡さん、これで伝わった?

沢渡あまね氏(以下、沢渡):はい、ばっちりだと思います。今は過去に答えがない時代ですし、なおかつ組織の中に答えを見出しにくい社会。少子高齢化になりますし、1つの組織の中で答えを見出だせる人を抱えきれるか? という話なんですね。

そうすると、多様な人材が正しく活躍できるための過去の制約条件をなくしていく、力を開放する。それがチームのパフォーマンスの最大化につながり、組織のパフォーマンスの最大につながる認識をしています。あ、組織の中に答えを見出しにくい時代と書きましたけれども、実は組織の中に答えを持っている人がいるかもしれないですね。

ただし、いままでは、中原先生がおっしゃる言葉を借りると“下駄を履いていない人”に発言権がなかったり、活躍するチャンスが与えられていなかったりした。よって、実は組織の中に答えを持っている人がいるんだけれども、埋もれていた可能性も高いです。ここにも注目して過去の制約をなくしていく、解き放っていく。これが小田木さんが書いた絵を実現する“一丁目一番地”なのかなと確信しています。

小田木:ということは「正しい活躍はどんなん?」という、ここについて議論していくことも、今日の着目点になりそうですよね。

沢渡:はい。

「皆さん、本当に多様性が好きですか?」

小田木:ありがとうございます。ここに、今日はまず中原さんに投げ込みいただきたいなと思っていまして。まさに『チームワーキング ケースとデータで学ぶ「最強チーム」のつくり方』という本を書かれているじゃないですか。多様な人がいきいき働けて成果に貢献できるチームというものについて、ぜひ中原さんの視点を今日は投げ込みいただき、そこから話を展開していきたいなと思っています。ボールをお渡ししてよろしいでしょうか?

中原淳氏(以下、中原):わかりました。どこから話そうかなと思ったんですけど、最初の問いからですね。ここまでのところをまとめると、要は女性の問題から始まっていって、究極、大事なことは組織ぐるみで誰もが働きやすい職場を作る、いきいきする職場を作る、貢献できる職場を作るという「誰もが」というところがポイント。

そうなってくると、ちょっと聞きたいのですけれども。「皆さん、本当に多様性が好きですか?」。言っている意味わかります? 「いや、好きだ」というならそれでもぜんぜん構わないんだけど「多様だ」ということには、けっこう難しい側面もあるわけですよ。どういうことかというと、1つは多様だということは端的にいうと「まとまりにくい」ということであり、僕の言葉で言えば「遠心力が働きやすい」。

それぞれの人に訳があって事情があって境遇がある。その個別の事情に合わせてマネジメントをしなければならない。マネジメントは個別個別になりやすく、それぞれの人がバラバラの方向に行くんですよ。ストレスでしょ?

僕も前職時代、20人ぐらいの多様な職場にいたんだけれども、本当に大変でした。今も大変だけど……大変です。とはいえ、「(多様性が)本当に好きですか?」という問いに「多様性が嫌い!」なんて言う人は、あまりいないですよ。その答えは、社会的に望ましくないとされますから(笑)

けれども、(多様性に向き合うのが)大変だというのはわかると思うんですよね。遠心力に抗うような「求心力」というものを持たないと、あるいは多様なチームや多様なメンバーを動かすスキルや、僕の言葉で言えば、多様なメンバーを動かす“OS”や”アプリ”みたいなものをしっかり武器として持っていないと大変なんですよ、正直な話。

小田木:武器も持たずに「丸腰で行け!」と言われても……という、そこですかね。

中原:武器も持たずに「丸腰で行け!」と言われても、そんなの昔の『ドラクエ』とかのRPGだったら、街出てスライムにやられて終わりですよね。

沢渡:そうですね、おっしゃるとおりです(笑)。

「同質か横並び」を重視する、日本の組織

中原:そうなんですよ。この本『チームワーキング ケースとデータで学ぶ「最強チーム」のつくり方』には、「すべての人に、チームを率いるOSやチームを率いるアプリをインストールするべきだ」ということを書いています。

小田木:マネージャーのための本ではなく「チームに関わるみんな」の本ですね?

中原:そのとおりです。マネージャーも、もちろん大事。マネージャーは他者に対する影響力が大きいわけですよね。

沢渡:そうですね、間違いないです。

中原:だからマネージャーも(OSやアプリを)もちろん持っているのは当たり前なんだけれども、もっと言うと、それぞれの人々。多様な訳ありの一人ひとりもチームを動かすことに関して、「あなたも関与してください」と言って輪に入ってきてもらう必要があると思っています。

(スライドを指して)端的に言うとこんなことが書いてあって。もうわけがわからないと思うのですが、要は「チームってこういうものなんだ」というOSと、「チームの中でこういう行動をちゃんとしましょうね」というアプリケーション。これをちゃんとインストールするべきということなんですよ。

日本では、チームを語る言葉が少なすぎるんです。なぜかというと「チームは一致団結すべき」とか「一体感があればいい」とか、そういう感じなわけ。でも、それでは具体的にチームを動かしたり、チームの中で成果を出すのは難しいわけです。

もっと、チームを語るボキャブラリーを増やさなきゃいけないわけですよ。「一致団結」と「一体感」だけでは解けないんですね。さまざまな言葉を使いながら、チームをこういう目で見ていきましょうよと。チームを具体的に動かす行動はこうです、ということをデータに基づきながら示しているのが、この本です。

日本の組織は「同質か横並び」を重視する。結局、日本のチームや職場を語る言葉は要するに「一体」とかでしょ? 僕の言葉で言えば「餅」です。

沢渡:「餅」。

中原:餅米をすべて潰していって、最後に個体として成立するのが「餅」じゃないですか。そこに「米粒」は存在しないわけですよ。そういうやり方ではなくて「おにぎり」、これは米粒が1個ずつ存在していて、しかしながらまとまりを持っているじゃないですか。

沢渡:はい。

中原:だからこれからはたぶん、餅じゃなくておにぎりぐらいじゃないとだめな訳。これは社会学者の見田宗介(真木悠介)先生が、かつて『気流の鳴る音―交響するコミューン』という本のなかで用いているメタファですね。

沢渡:わかりやすい!

「期末まで目標がきちっと握られててチームが動く」なんて幻想

中原:本の中ではいろいろ紹介しているんだけれど、たぶんこれだけ見ても絶対にわからないと思うので、ぜひお読みいただければと思うのですが。1つはチームを「常に変化するもの」として考えていく。例えでいうと、期初に目標をバン! と示したから「期末まで目標がきちっと握られててチームが動く」なんて幻想だということです。

(スライドを指して)2つ目の「全員リーダー視点」と書いてあるところ。メンバーにはそれぞれ強みと伸びしろがあるわけ。苦手な部分と得意な部分がある。その苦手な部分のところではフォロワーになってもいい、でも得意なところにいる時にはリーダーになる。この「役割の交代が大事だよ」というのが2番目のポイントです。

3番はさっき言ったこととほぼ同じ。常に元気なチームはないし、常に元気がない組織も存在しないわけです。常にこういうバイオリズムを描いていると。そのバイオリズムを常にモニタリングしていくことが大事です。これがOSの部分です。ちょっと端折っているからたぶんわからないと思うけど、紹介させてください。

小田木:はい。

中原:(コメントを指して)Aさん「餅は嫌だな」って、嫌ですよね。僕も嫌なんですよ。

沢渡:嫌ですね。

中原:でも、はっきり言いますけど「餅型のマネジメント」のほうが楽ですよ。「お前、個なんて潰して俺の言うようにやれ」「この組織の規範に従え」と言ったほうが、楽に決まっているじゃないですか。個別を見ないから。おにぎりは大変よ。

小田木:米粒がうるさいおにぎりを握るって、大変そうですもんね。

中原:しかも米粒が大きいのもあったり小さいのもあったり、たまに病気しているのもいたり子どもがいるのもいるわけでしょ? そうすると大変なんですよね。だから個別性のマネジメントについて、あえて僕は「多様性はあなた方は好きですか?」と聞いたけれども、実現しなければいけないのは良くわかる。

目標は設定するだけでなく「握り続ける」ことが大事

中原:だけども(コメントを指して)Nさんがおっしゃるみたいに、今の時代のマネジメントは難しいので、武器をきちと持たないといけないということなんですね。3つの行動原理は「ゴールホールディング(Goal Holding)」と「タスクワーキング(Task Working)」と「フィードバッキング(Feedbacking)」の3つです。データに基づいて考えた結果、成果が出るチームと出ないチームを比較すると、この3つに違いがあることが分かりました。

「ゴールホールディング」。目標を設定するだけでは不十分です。目標設定した後、「握り続ける」ことが大事です。

ここがとても大事で、ゴールはセッティングするんじゃなくてホールドしろと言っている。「タスクワーキング」というのは、さっき沢渡さんがおっしゃったみたいに、常に状況が変わっていく世の中ではその解決策も変わっていくわけですよ。

ある時にはこのやり方だったら勝てたかもしれないけど、ある時にはこれではだめ、と。例えば今の新型コロナの状態なんてまさにそうだと思うんですけど、1ヶ月前や2ヶ月前の正解が今の正解ではない。わかりやすく言うと「ワクチン1本打法でいけると思ったんだけど、やっぱだめ」みたいな。

沢渡:まさに「過去に答えがない」ですね。

中原:ないですよ。だってみなさんそうですよね? 「不確実性の時代」ですから。3ヶ月後のことすら読めなくないですか?

沢渡:読めないです。

中原:読めないですよ。(9月に)学校が始まってどうなるかわからない。だからこの時代にあっては、1人のリーダーみたいなものが全部決めて「あれしろ」「これしろ」と言ったって、うまくいかないんです。それぞれの人々がそれぞれの状況からものごとを判断し、やり取りをしていってチームに貢献していかなければならない。こういうことなんだと思います。

解くべき課題を解けというのが2番目「タスクワーキング」。3番目「フィードバッキング」は今風ですね。端的に言うと「お互いにちゃんと言いたいことを言え」ということですね。フィードバックをし合うのも、チームを動かすスキルです。チームを動かすスキルとして、全員にOSとアプリをインストールしましょうという本です(笑)。

小田木:でも「丸腰で行かせちゃだめだよ」、だし「丸腰で行きたくもないよね?」という思いだけは、強くガッときました。

中原:丸腰は辛いよね。だから“竹槍”だよね、要するに。

小田木:竹槍(笑)。

戦後70年経って「まだ竹槍で勝とうとするんですか?」

中原:今もう戦後70年経って「まだ竹槍で勝とうとするんですか?」というのが思うところであって。この本を売りたいわけで言っているわけではないのだけれども、チームを動かすスキルみたいなものは、それぞれの職場のメンバーの人たちで読書会や勉強会をやって言葉を合わせていく、共通言語を作っていくのが、実はチームを最も良く動かすコツだと僕は思っています。

沢渡:“竹槍状態”というのは本当に共感します。そうはいっても組織の風土を作ったり組織を導くために、事実上、マネージャーの影響力は大きいと思うんですが、マネージャーの武器がアップデートされていない。例えば「20年前に課長になった人が、20年前の課長登用研修で学んだスキルだけで勝負しよう」としているんですね。敵うわけがないですね。

ですからマネージャーを中心に、マネージャーだけでもなくてプレーヤーも含めてアップデートし続ける。コンピュータと一緒でアップデートし続けないと。OSもアプリケーションもミドルウェアもアップデートしないと、コンピュータは機能を発揮できないんですよね。ですから正しく全方位的にアップデートをかけていく。いかなる組織においても、その投資が求められると、私も実感しています。

中原:そのマネジメントのスキルみたいなものは、おそらく時代の変化に応じて変わってくるんですよ。

沢渡:おっしゃるとおりです。

中原:北陸のある企業の方から聞いたお話しで、いわゆる「The・製造業」の方なのですが、役職についたときに、先輩マネージャーに「どうやってマネジメントすればいいんですか?」と聞いたら、こう返ってきたそうです。「お前は『北斗の拳』のラオウになれ」と。

沢渡:個人的に好きですけどね(笑)。

小田木:嫌いじゃないけど(笑)。

中原:たぶん、このラオウが通用した時代もあったんですよ。

沢渡:ありました。

中原:だけど今はラオウだとけっこう厳しい。だとするとどういうスキルがいるの? というのを私たちが地道に探していくしかないし、この本が1つの参考になればいいかなと思っています。

マネージャーが変わる可能性が高い「マイナスnからプラスn」

沢渡:そうですね。未だに「偉そうにすることがマネージャーだ」と勘違いしている方もいらっしゃいますから、こういう呪縛からどう解き放っていくかは大事ですね。

中原:(コメントを指して)「ラオウマネージャーは多い」って書いてありますよ。

小田木:「ラオウマネージャー」は、今日のキーワードですね(笑)。一方で「本当にマネジメントが難しくなっていますよね」とコメントもありましたけれども。難しい中で試行錯誤しながらやっているとしたら、逆に知っていたらそれをやれた、知っていたらそういう工夫ができたのにという。

これもまた残念というかもったいないなと思うので、やはり武器を適切にアップデートしていく。「がんばれ」と言うのであれば、武器もいい武器を渡してがんばれと言う、それは大事ですね。

中原:そうですね。マネージャーの問題でいうと、ちょっとややこしい言葉を使うとトランジションと言います。マネージャーが変わる可能性が高いのは「マイナスnからプラスn」。これはたぶん業種とか業態によって違ってくると思う。

要するに「なる直前」「なっている時」「なったちょっと後」この時は一番役割が揺れやすい、自己も揺れやすい、アイデンティティも揺れやすいので変わりやすいんですよ。

こういう時期に、それこそOS・アプリをインストールしてもらうと、例えば「マネージャーをやって15年経ちます」みたいな人に「あなたのマネジメントスタイルを見直してください」と言ったって、けっこう厳しいと思うんだよね。前の日までラオウだったのが、次の日はトキになっているというのは気持ち悪いじゃないですか。わからないと思うな、今の学生は(笑)。

小田木:すみません、わかっちゃって……(笑)。今こうやって「OSとアプリケーション」という考え方の投げ込みを、中原さんにしていただきました。