女性活躍は「手段」なのに、それを目的化していた日本

垣畑光哉氏(以下、垣畑):ではテーマを変えまして「女性活躍」というキーワードがあるんですけれども。そもそも「女性活躍の目的」という点はどうなのかな? という議論をしたいです。

今までの女性活躍というのはどうでしょう。同じ男性目線でもありますが、安藤さんから見てはどうでしたか? 今までの女性活躍って、できていましたか?

安藤広大氏(以下、安藤):できていない会社が多いんじゃないかな、と。「いろんな側面でまだまだ日本が遅れている」というのは、その通りじゃないかなと思いますね。

垣畑:そこは石原さん、どうですかね。同じ問いなんですけど。

石原亮子氏(以下、石原):目的というところでいうと、一番の課題は、男女雇用機会均等法が30年くらい前から始まってからというもの、「女性活躍」自体は「手段」なのにそれを目的化していたと思うんですよね。

垣畑:女性活躍は手段。

石原:そう。その真の「目的」については誰も言ってこなかったんじゃないかな? 手段の目的化。「管理職(の女性比率を)30パーセント」とか、そういうことばかりだったので、その向こう側にある世界を誰も問うてこなかった。要は「御上が設定したものをやる。駄目だと言われて罰則があるから、じゃあやるか」とかそういったレベルだったんで、やはり進まなかった。その目的・向う側にあるものを提示されないから進まなかった。

経営者や男性陣を含めて、(女性が活躍することで)実はみんなにメリット・いいことがあるということを、具体的に伝えてこなかったというのはあるのかなと思っていますね。

垣畑:ちょっと前のテレワークに似ていますね。「テレワーク、やろうやろう」と言ってるけど「なんでだっけ?」みたいな話ですよね。

石原:そうですね。テレワークも手段の目的化みたいなところ、ありますよね。

ダイバーシティ組織の向こう側にある「企業価値の向上」

垣畑:テレワークに関してはコロナで、結果としてみんなが取り入れるようになって、メリットも享受しているというところだと思うんですけれども。女性活躍でいうと目的は「ダイバーシティ」。これはいいこと尽くめと先日おっしゃっていましたが、どういうことですか?

石原:今までって、そもそもの原因のところ……「原因」というといろいろあるんですけど。まずは可視化して、男女ともにイメージが一致することがまずスタートとして大事かなと思います。今まで意思決定をしてきた層は、フルタイムで働く男性が官僚の方にしても経営者にしても多いのかなと。「みんな同じような大学を出ている」男性の方々の美徳によって最適化されたシステム・ルールが作られていった。

女性は「男尊女卑・良妻賢母」と言われた時代から、性別的役割による荷重がある。「家事も育児も家のことは全部女性(の役割)」というところで「(家庭の外で)仕事もして」というと、(スライドを指して)こんな状態で傾斜のある坂道を登っていた。

あともう1つ、ここで傾斜になっているのが「生物としての差」ですね。女性の場合、生理ですとか、妊娠したらつわりだったりとか、女性のホルモンに関わる部分や身体上の特徴・差ですよね。こういったことも傾斜を作っていたというのが、前提としてあると思います。

そこをもうちょっとなだらかにしていくためには、この性別的役割をまず社会全体でですけど変えていく。最近は「イクメン」とか、男性の育休とかも義務化されたりしていますけど。

そして相互理解と歩み寄りが必要だと思います。ご夫婦とかカップルでも、男性が女性のパートナーの体のことを実はぜんぜん理解していないというか、タブーな感じになっているので相互理解する機会がなかった。「生理痛でお腹が痛い」と思っても、言えなかったり、我慢しちゃって実はパフォーマンスが落ちてたりということもあったと思うんです。このへんについては過剰な「心理的安全性」ではなく、最低限必要なところかなと思います。

女性も活躍できて、さらにいろんな方が活躍できるダイバーシティ組織を作っていくことは、いろんな部分でメリットがあります。識学でいうと「有益性」ですよね。女性の視点を活かした商品開発とかプロセスとか、社員の働きやすさ。多様な人を採用できるとか。

ここにある「企業価値の向上」というのが、ダイバーシティ組織の向こう側ですね。女性活躍とかを進めた先にはあるよというのが、目的としては本当はあったけど、それが先にあるということは、あまり(誰も)聞いたことないんじゃないかな? というのが、現時点までの女性活躍が進まなかった一番の理由なんじゃないかなと思っています。

女性が一定数活躍していないと、社会ニーズに応えられない

垣畑:そうですね。やはり僕も含めて、経営者って現金なもので。何か利があるなら一気に進むけれども、空気とか雰囲気って読めないというか、それだけではちょっと時間とかコストとかを割けないというのもあるから。そのへんの理解不足というのが根っこにありますよね。

石原:「費用対効果が見えづらい」とか「意味あるのかな?」みたいなことって、みなさんあるのかなと思うんですけど。安藤さんとかどうですか。

安藤:僕も4年ぐらい前の会社の全社写真を見たら、30人中2人くらいしか女性がいなくて(笑)。

石原:(笑)。

安藤:あまり意識せず経営していたと思いますが、かといって今は過度に意識してるか? というとそうでもないんですけど。ただ僕らもBtoBの商売やらせていただいていて、お客さまの先には当然、女性も活躍している会社がたくさんおられて。そういう社会を作っていこうという流れが少なからずあるというところでは、僕らが男性だけの会社だと、そこのニーズには応えきれないという危機感はずっと思っていて。

なので、女性社員が一定人数活躍している会社じゃないと、社会のニーズに応えられないというところから、女性社員をしっかり増やしていこうと思って、今は経営している感じです。

垣畑:そうなんですよね。

安藤:「女性社員を増やさなきゃいけないから」というより「増やしたほうが、僕らはいいサービスを提供できる」ということを心から思っているので今、そのようにしているという感じですかね。

「必要以上に女性に配慮する」と、甘やかしになってしまう

垣畑:僕も「白組」の一員として思うのは、そこは本当にそうなんですよね。そのとおりなんですけど、さっきの身体的な話とかになった瞬間に「どこまでどう踏み込んでいいのかわからない」とか。さっきの「優しさと甘やかしとの境界線」だったりとか、そのへんがちょっと難しいなというか、言葉1つ間違えるとすごく大きな誤解につながっちゃう。そのへんの線引きとかルール作りというところなのかな? と。

今日の本題にどんどん入ってくると思うんですけど、この辺り、お二方はどのように考えてらっしゃいますか?

安藤:さっきも言ったように「識学の組織運営は、そもそも女性にとって働きやすい環境だ」ということは、たぶん正しいと思うんですね。ただ、垣畑さんが言ってくれたような「必要以上に女性に配慮する」と、甘やかしになってしまう気がしていて。

僕がしばらく取っていた方法というのは、単純に「(株式会社)識学だけが識学のとおりに運営していれば、勝手に増えてくるやろ」という感じだと思ったんですけど。結果的に女性社員もそこそこ比率は増えてきてはいるものの、今回、石原さんのところの研修を受けさせてもらって、それは間違いだったなというのは、明確にわかりました。何が間違いだったか、というのも答えていいですか?

垣畑:ぜひ聞きたいですね。

安藤:今回、僕が石原さんのところの研修を受けさせていただいて、気付き・発見できたというところに関しては4つくらいのポイントがありました。

1つは、識学でルールどおりに運営していくというところなんですけれども、男性・女性で生物学的に違う部分があるので、一定の生物学的な違いの知識を身に付けて、一定の配慮はしなきゃいけないところがあるなということが、ちゃんと理解しきれていなかったというのが1つあります。

2つ目は、配慮しなきゃいけないとはいえ、僕らは家庭のルールまで踏み込めないので、各家庭によっては妻と夫の間での役割分担があると。今の日本社会においては……日本社会だけじゃないかもしれないですけど、やはり女性の家庭における役割が一定量男性より多いというのは、これは否定できない事実だと思います。

その役割分担をこなすにあたって、時間的制約が発生することについては配慮しなきゃいけない。つまり会社と配慮すべきところは、身体的・生物学的なところと、家庭内の役割。つまり、女性だけ男性とは別のルールを作らなきゃいけないということを、しっかりトップが認識しておく必要がある。

3つ目は配慮の仕方。「どこまで何を認めるか?」というところを、しっかりと線引きする。ルール化すべき、というところ。それがあいまいになっていると、そこに疑心暗鬼で誤解や錯覚が生じて、片方は「なんで配慮してくれないんだ」と思ったり、経営側からすると「なんであいつら甘えているんだ」みたいな話になってくるので、そこの線引きを明確にするということです。

そして4つ目が、わりと大きな気付きだったんですけど。ほとんどの「女性活躍がうまくいかない理由」というのは、男性経営者側、つまりほぼ経営側に原因があるんだと思っていましたし、それが一般的論調だと思っていたんですけど。

しかし研修の中で、一方で「女性が女性の立場を使って甘えているというところ」もあって、その甘えを許してしてしまうことで、女性が活躍する場を奪っているというところもある、ということを知りました

女性活躍を促進していくに当たって、当然、経営側も変わっていかなきゃいけないし、会社のルール側も作っていかなきゃいけないんですけど。一方で女性の側も「自らが配慮させるべきエリアとそうでないエリアが、明確に分かれているんだよ」というところを、しっかり認識する必要性があるということだと思います。

でも女性側に僕らがそれは君の成長機会であり、「甘えである」と伝えちゃうと、ちょっと危ないところもあると思うので、そのあたりはSurpassさんみたいなところの力をお借りしてやっていくのが、けっこういいんじゃないかなと今回は思いました。

垣畑:ありがとうございます。安藤さんが「間違っていた」と、潔く(笑)。

安藤:(笑)。

石原:珍しいことですよ。これ。

安藤:そんなことない(笑)。

石原:(笑)。

改善は「トップ・管理職・女性」の3方向それぞれから

垣畑:非常にグッときましたけれども、Surpassさんから研修を受けたというところですね。それはどんな研修だったかというのは、石原さんから聞いたほうがいいですか?

石原:そうですね。

垣畑:研修会社の雄に研修をすると。

石原:はい。今までは女性活躍って、どっちかというと男性はハラスメント研修のみとか、女性ばかり「がんばれ、がんばれ!」みたいな感じだった。

スキル研修など、女性のほうに多かったかなと思うんですけど。それを企業も「小さな国」と考えたら、まずトップがファクトを理解するということと、あとは方向性を示す。コミットするということ。あとは幹部もそれに付随して理解・推進していくという、まずそこが重要。でも今まであまりなかったんじゃないかなと。

女性ならではの体の話とかも含めて、意外と聞けないし、何を聞いたらいいのかもわからなかったから、配慮の仕方もわからなかった。その結果、金曜日の夕方とかにお菓子買っていってご機嫌取るみたいな、それって甘えを増長させるやり方なので、決して誰のためにもなっていなかった。

逆に、女性も「がんばれ、がんばれ!」と言われるんだけど、会社のルール、仕組みが変わらなければ、がんばったところで報われないという意味では、バーンアウトしちゃうんですね。

そういうところでいうと、「トップ・管理職・女性」の3方向からそれぞれ、誰かが悪いわけじゃなくて、みんなそれぞれ改善すべきことがあるということで、歩み寄りをしていくようなプログラムを始めました。その第1号として、識学さんにやらせていただいたという感じなんですね。

垣畑:なるほど。お菓子買って行っちゃいけないんですね。

石原:いやいや、別にいいんだけど(笑)。

垣畑:「あそこのパン買っていくとテキメンだよ」とかって、すごい意気揚々としゃべっている社長の姿が今、約1名くらい浮かんだんですけど。

石原:(笑)。

垣畑:「お菓子じゃなくてパンがいいんだよ。パンが」って(笑)。

社長が聞けない、いくつかの質問

垣畑:やはり僕も、そこに悩める経営者の1人として、本当に安藤さんと同じで境界線のところですよね。「甘えと成長の境界線」みたいなところ。そう思うところもあるし、でも本当に言い方間を違えると大炎上してしまうみたいな。

せっかくそれまですごくがんばってくれている一線級のメンバーが、ちょっとしたことで歯車が狂ってしまうと思うと、なんか腫れ物に触るようになっちゃったりとかして。それはそれで、いろいろなものをすごく毀損するじゃないですか。

そこをどういうふうに、Surpassさんで研修プログラムを準備されているということなんでしょうか。

石原:社長が聞けない「いくつかの質問」ってあると思います。今だと、たぶん「DXって何? 誰に聞いたらいいのかわからない」とか。そして女性活躍。「ダイバーシティの本質ってなんなの?」とか「どうやったらいいかわからない」とか、そのへんを聞けるところが、ありそうでない。

本を読んだところで、事例紹介されてもなかなか実践まで持ってくことは難しい。実は、女性が困った時には相談する先とかサービスっていっぱいあるんですが、経営者・トップとか男性管理職の方とかが、女性のマネジメントとか組織作りに悩んだ時に、本当のことを教えてもらえたり、個別で相談する先がなかったな、と。体系的に学ぶ機会もなかった。

そこをやらずして、男性ばかり責めてもよくはならないよねというところで。ちゃんとみんなで学んで、もう1回相互の歩み寄りを作っていきましょうというプログラムです。

安藤:学んで、制度設計もね。

石原:そうそう。制度設計、ルール作りも。人事制度とか福利厚生とかも変えていくというのをやっていきます。

垣畑:なるほど。それはやはり、安藤さん。制度設計と言ったら、そこをずっと識学でやられていたんですけれども。やはりSurpassさんならではの、そういう知見というのはあるわけですね。

安藤:それはかなりあると思います。そこに対する制度設計というのは、僕らは今まで特に着目してやってこなかった。そこに対してはノウハウはないので、僕らも研修というかコンサルに入っていただいて、新たな制度設計を今しているという状況です。

早くやったもの勝ちで、躊躇しているのがもったいない

垣畑:最初、100名以上の企業対象っていうので「うちの会社はまだ先なのかな?」と一瞬思ったんですが、お話を聞いていると、やはりSDGs文脈でそれが理解できない会社は淘汰されるんだと強く感じました。

女性活躍の先にあるダイバーシティのメリットを理解して運用にちゃんと落とせるようになっていると、企業として強くなるというか「魅力的な企業」という見え方になる。結果、女性がどんどん活躍するようになると、その先にまた男性も活躍するという好循環が生まれていく。

経営者であれば・人を雇用するんであれば、ここを絶対に理解して所作としてしていくべきなんだな、と。

安藤:採用の選択肢が増えますからね。

垣畑:そうですね。そう思います。

安藤:本当にシンプルに考えるべきだと思っています。行き過ぎた「女性の比率をこうしないと格好悪い」とか、そういう意味じゃなくて。単純に経営側の視点に立つと、選択肢も増えるし、さっきも言ったようにお客さま側も女性がいっぱい活躍されているのであれば、それは当然、女性がいたほうが会社としてもいいサービスできる。そう考えた時にやらない理由はない、というところかなと思いますよね。

垣畑:そうですよね。さっきも言ったように、うちなんかは編集者・ライターが多いので、女性が多いんですよね。

石原:多いですね。

垣畑:女性に向いている仕事だなと思う面も多々あって。今はオンラインで在宅でもできる仕事になったので、一気にそこの裾野が広がった。だからこそ、こういう所作を経営者として身に付けないともったいないし、広がるものも広がらないなと思って聞かせていただいております。

石原:たぶん、女性活躍って本当はダイバーシティの“第1歩目”くらい。人口構成から見ると半分くらいが女性なので、男性からしたら一番近い異文化が女性。異文化といえば、海外の人とかLGBTQの方とか、障がい者の方とか、いらっしゃるわけですが、やはりなかなか理解が難しい。自分にはない感性を持つ人には、自分が歩み寄っていかないといけないけど、それもまた難しい。自分とは異なる価値観を持つ方を理解することは誰でも本当に難しいということ。

一番多い身近な異文化が女性であり、その人たちも働きやすい環境すら作れないと、人材獲得競争にも負けていってしまう。逆に(ダイバーシティを推進していると)そういう人たちは入ってくる。例えば、弊社は私がこういうコンセプトでやっているのもあるんですけど、ドイツ人の女性とかモンゴル人の女性とか、様々なバックグラウンドがある人が「働きやすそう」と言って来てくださって、しかも優秀なんです。だから女性も働きやすいと、海外の人も働きやすくなる。

垣畑:うーん、なるほど。

石原:ダイバーシティが進むと視点の多様性も出てくる。業績に寄与するし、新しい視点を取り入れるという意味では、早くやったもの勝ちというか。逆に躊躇しているのがもったいないなとは思います。

垣畑:海外の方なんて余計にそうですよね。海外ではむしろそっちがスタンダードなのに、それが日本の中では先進的に見えたり(笑)。ちょっと残念な感じもしますけど。

石原:日本では珍しいので、そういう会社にめぐり合うと長くというか、本当にちゃんとわかり合いながら働けると思う。まだまだ日本では遅れている会社が多いからこそ、早くやるメリットは大きいんじゃないかなと思います。特に小さい会社なんかは。

垣畑:石原さんの会社はまさにそうですね。