「職場に“適切に”感情を持ち込め!」

池照佳代氏(以下、池照):斉藤さんご自身も、100人ぐらいの組織をマネジメントされていらっしゃるということなんですが。斉藤さんご自身はいかがですか?(笑)。

斉藤知明氏(以下、斉藤):ありがとうございます、このままシームレスにディスカッションにいきましょう(笑)。

僕自身はそうですね。今はUniposを立ち上げて5年ぐらいになるんですけれども。最初は5人ぐらいから始めて、5年で急に100人にまで成長してるっていう状態なんで、もう追いつかないですよ(笑)。

もう年々「倍々」になっていくっていうようなスピードなので。「どうやったらみんなが一番力を発揮してくれるかな?」って。もちろん事業としても「どうやったら社会に貢献できるだろうか?」っていう観点でも考えてるので、自分の感情は置き去りにしがちかもしれないですね。

池照:そうですよね。この「感情」という言葉自体が、会社の中で語られることはないですもんね。

斉藤:ないですね。1on1とかで「部下の(感情)」とか「みんなの(感情)」とかを引き出したりだとか、自分自身の感情が高ぶった時にそれを話す。「高ぶる」というのは、良い意味で高ぶった時に話すことが多いんですけど。ネガティブな時はちょっと、抑え込んじゃうことが多いかもしれないですね。

池照:そうですよね。私はよく「職場に感情を持ち込むな」って言われて育った世代なんですが、今みなさんに紹介したいのは「職場に“適切に”感情を持ち込め!」って(笑)。

適切に持ち込んでいただくことで達成できるのが、今日ご紹介する、例えば「どうやって部下・メンバーの方々と信頼関係を築くのか?」とか「どうやって部下の方々の悩みや内面に寄り添うことができるのか?」とか。そういった部分が達成できるので、ぜひ「適切に持ち込む」ことで、新しい世界が生まれてくるんじゃないかなと思ってます。

「自分の感情」を適切に人に伝えることの難しさ

斉藤:このままディスカッションに入らせていただきたいと思うんですけれども。感情を適切に持ち込んで部下との関係性が良くなるところって、まさに「持ち込むな」よりも「持ち込んでそれを解釈し合おう。ただ感情をぶつけ合うだけじゃなくて、お互いに知性を持ってそれに向き合い合おう」ということだと思うんです。

例えば「ぜんぜん感情知性が発揮できていない1on1だな」と思うものと「すごく感情知性が発揮できている・持ち込めているコミュニケーションだな」と思うものの対比とかの例って、あったりされますか? そこの具体的なイメージをもっと持ちたいなと思ってるんですけれども。

池照:実はですね、これ、ご紹介してなかったんですが。感情を持ち込むっていう時に、(スライドを指して)これは私の本『感情マネジメント 自分とチームの「気持ち」を知り最高の成果を生みだす』の中でも紹介してる「ムードメーター」っていうものです。もともとはイェール大学の感情知性センターが開発したもので、最初は学校の先生方向けに作っています。

なぜ作ってるか? それは、学校の先生方、特にアメリカの学校の先生方なので。例えば3〜40人の生徒がいる時に、彼らみんなが国籍も言葉も宗教も違うっていうような、ものすごく多様な生徒さんがいらっしゃるんですよね。そういう多様な考え方に対して、彼らはマネジメントしなきゃいけないわけですよ。なので、先生方はとても大変なお仕事をされていて。その時に一番影響力があるのが「感情」だったっていうことがわかったからです。

なぜかというと、まず「自分自身の感情を知る」っていう“道具”の1つでもあるんですね。(スライドを指して)まず縦軸の「エネルギーレベル」を、自分の主観の中で1点から10点まで点数づける。そして横軸の「フィーリングレベル」も、1点から10点まで点数づける。そうすると例にあるように、私は「エネルギーレベルが7」「フィーリングレベルが9」なので「Proud」という名前がついてるんですが。

自分の感情を適切に人に伝えるのって、けっこう難しいですよね。職場で「今はどういう気持ち?」って聞かれても「いや、別に?」「いや、大丈夫っす」とかが、たぶん一番多い答えだと思います。でも「別に」とか「大丈夫っす」じゃなくて、今どういう気持ちでいるのかを言語化するって、非常に難しいんですよ。

なので彼らはまず、この100個の言葉がある「ムードメーター」を作って、まず自分自身の感情がどの位置にあるのかを知る。例えば私は今「Proud」。でも「私の言葉で言うとどちらかっていうと『ワクワク』かな?」って、自分で言い換えしても良いわけですよ。自分で定義すれば良いわけで。そうやって自分の状態を言うことが、相手にも安心感を与えるとわかってるから(感情知性センターはこれを開発した)です。

なので、さっきおっしゃった1on1でうまくいってるところっていうのは、まず上司の方の自己開示が進んでる・ある程度できているところは、話しやすい雰囲気だったり、これから議論するテーマに対して活性的な意見が出てきています。

これは別に、常に上司の方がこの黄色の、エネルギー・フィーリングレベルの両方ともが高いレベルにいなきゃいけないわけじゃなくて。「いやー、なんかさ、ぜんぜん昨日眠れなくって」という自分の体調の状態が悪いっていうことも含めて、お互いに共有できる。もしくは感情の状態も「いや、実は飼ってる犬が病気で心配でね」っていうことがちゃんと言えるようになるとか。

そういう「仕事以外のことでも自分自身を大切にしたこと」が言える状態をどう作るか? 今は「心理的安全性」とかってよく言われてますよね。これとまったく同じことだと思うんですが、そこに着目できるリーダーが実施する1on1というのは、ぜんぜん効果が違うかなと思っています。

感情をうまく持ち込めているか、持ち込めていないか

斉藤:あとは先ほどおっしゃっていただいた感情を吐露することで、相手も感情を吐露しやすくなるという環境を作り、それをぶつける。相手に対するネガティブな感情とか、そういうものをぶつけるのではなくて、自分が抱いている、“こと”や“場”に対する感情を吐露すると、相手も感情を吐露する。それで感情を共有しあう。

今度は感情を共有しあった時に……「EQが行動の基になっている」というスライドがあったじゃないですか。

池照:(スライドを指して)これですね、ありがとうございます。

斉藤:そう、これを拝見した時に。よくEQが発揮されていない状態、ないしは感情を持ち込んでいない組織って、なにをしているのかなぁ? と思って。思考とか行動とかばっかり問いを投げると「思考が自分と違う人は相いれない」ってなって、協働が生まれなくなってしまう。「(相手が)なんでそんな考え方するかわかんない」と思って、あきらめちゃう。これがたぶん、感情をうまく持ち込めていない例で。

感情を持ち込めている時は「なんでそんな思考になっているんだろうか? 池照さんってなんでそういう思考なんだろう?」「今はワクワクしているから、そういう思考になっているんだ。僕は今、ヤキモキしているからそういう思考になれていないんだ。だから行動が違うんだ!」と解釈できると、その溝(相手との思考の相違)に橋を渡せるようになる。

これが「感情をうまく持ち込めているか、持ち込めていないか」の1つの例なのかなという気がしたんですけど。この解釈っていかがでしょうか? 

池照:おっしゃるとおりだと思います。このスライドを作った時、私のEQのプログラムはだいたい「行動の量」で最終的に自分たちを測って、その行動の量を増減させましょうというプログラムを作ってるんですね。

斉藤:なるほど。

池照:要は「行動の量が増えたら成果にむすびつく」とか「行動の量を減らしたら成果が出ない」とかって、わかりやすいですよね。すごくわかりやすい例だと「リーダーとして自分から挨拶をする量が増えたら、みんながもっと話をしてくれるようになった」。リーダーが自分から挨拶をしないと、みんなぜんぜん話し始めませんよね。

なのでけっこう大事なのは、すごく簡単な例で言うと「リーダーが自分から挨拶をする『量』が増えるか増えないか」だったりするんですよ。でもその奥って、実は思考があって。挨拶をしないリーダーは「いやいやリーダーたるもの、挨拶なんかするべきじゃないだろう」という考えがあったりする、と。

その奥には、やっぱり「リーダーが挨拶をするということが怖い」という感情を持っている人もいれば、それに嫌な思いを持ってる人もいるんで。ここってけっこう、千差万別なんですよ。

思考になるとみんな“べき論”で考えてしまう

池照:なので、見えにくい感情のところというのは、さっきの「感情の数は2,185ある」というイメージをしていただければいいんですが。2,185という多様なものがあるのに、思考になるとみんな“べき論”で考えません? 

「リーダーなんだからこうする“べき”」とか「うちの会社のこのポジションだったらこうする“べき”でしょう」とか。その“べき論”の掛け合わせが「斉藤さん。トップでリーダーなのになんでこういうことしないの? おかしいでしょ」っていう(笑)。

斉藤:(笑)。

池照:そこの掛け合わせが違ったりすると、行動が違ってきて、そこに対して非難が出たりするんですよね。なので、斉藤さんという人を、私がもしすごく理解したいとしたら。

「今、斉藤さんは自分から挨拶してくれたけど、これってもともとなんか考えがあったの?」とか。「いや、意図的なんですよ、池照さん」「なんでなんで? それってもともとどういうことがあったの?」って、きっかけを聞くと「小さい頃に実はこういうリーダーとか先生がいて、それがクラスにとってすごくいい雰囲気だったんだ」という、一人ひとりのエピソードが聞けたりするんですよ。

なので、私が感情に着目するというのは本当に、その人1人を理解する。個を理解するということにもつながっている、と確信をしているからなんです。

斉藤:まさにチャットの中でも「感情の前に経験がありますかね?」みたいな鋭い質問を投げてくれている方もいらっしゃるんですけど、本当にそのとおりだと思いますね。インプットがあって経験があって、自分のなしているものがあるから、インプットがあった時に反射的に感情が生まれて。

感情に気づかずに行動している例とかも、たぶんありますよね。「指示もらったらやります」というのもあるんですけど。指示をもらってやるのってなんでなんだろう? っていえば「それが当たり前だと思っているから」。つまり、これも感情だし。

ないしは「そこを外してしまうと怒られるから」。これも1つの感情かもしれないし。「外してしまうと全体の価値提供をそこなってしまって、僕のプライドが傷つくから」。これも1つの感情かもしれないし、というものなので。すべてのインプットには、条件反射的にたぶん感情が生まれていて。

そこから思考なのか行動が生まれていく、というプロセスで。これも感情に気づき、それがうまく回っていない時にどう扱うか。ないし、それを人と共有しあうか、というところがEQ(感情知性)が発揮できているか発揮できていないか、というところの差なのかななんて考えてましたね。

Googleでリーダーの育成時に活用される、ムードメーター

池照:そうですよね。例えば私たちはリーダーで「これやっといてね」と言ったら、部下はやってくれますよね。でもその奥には「私はこういうことをすごくやりたかったんです!」ってワクワクしている人もいれば「なんで私がこんなことやらなきゃいけないのよ」という人もいて、けっこう違ったりするんですよね。

もしその違いを私がわかっていたら、そのやりたいと思う動機のところをきちんと見て、やりたいと思う人にはそれにストレッチした目標を与えることによって、組織は活性しますよね。

やりたくないと思っている人にとっては、その理由を聞き出して、やりたくない原因とか障害になっていることを一緒に解決していくことによって、もう少し彼・彼女が仕事に向かいやすくなるという「個に対するマネジメントの違い」というのを今、目指している企業さんがすごく多い中で、感情をないがしろにする必要はまったくないと思うんです。

逆にそこに着目をして、感情について一瞬聞いてみるとか、一瞬着目するというのは、すごく大事だと思っています。

斉藤:例えば感情に気づいた時に、僕はよく起こるのが「この人、ぜんぜんワクワクしてないな」って思うことがあるわけですよ。(スライドを指して)さっきの図でいうと左下。エネルギーも低く、フィーリング・気持ちとしてもちょっと落ちている状態でいる人がいた時に、この人たちにどう向きあえばいいのかな? って、けっこう悩むんです。

なまじ権限は持ってるんで、例えば「本人がやりたい方向に動かそう」というアクションも取り得るんですけど、そうすると「いや、なんか会社として本当にやるべきことに向きあえているんだっけ? うーん。そこはやっぱりがんばってほしいな」ってなるんですよね。

EQが高いリーダーシップを発揮できている人って、こういう時はどう向きあうものなんでしょうか?

池照:これも本当に難しいですよね。左下のほうにいる方々って、もしかしたらその時期だけ・その時間だけかもしれないんですよね。なんでこのムードメーターをイェール大学で開発できたかというと、あれを実際にGoogleさんとかアメリカで、リーダーの育成とか管理職の研修に必ず使っていらっしゃるそうなんです。

それで、なぜそれを使っているか? というと、うちもそうなんですが、チームメンバーの1人がシリコンバレーにいたりするんですよね。そうすると私たち、朝ミーティングするんですが、向こうは夜ですよね。

うちの会社って、ミーティングを始める時に、あのムードメーターを必ずやるんですよ。

斉藤:へー。「今どこだ?」って? 

池照:そう、そう。例えば今日の朝も「おはようございます。私は今日、エネルギーレベル7、フィーリングレベル5です」とか。「これからUniposのウェビナーがあるので不安なんですが、がんばります」といったことを言うんですね。

そうすると、私たちは朝なのですごくエネルギーレベルが高いですが、シリコンバレーにいるメンバーは、これから夜で「もう1日終わってヘトヘトです」だったりする。そういう違いもあるので、まず「その人がパフォーマンスが出せる時間なのか」。または、その人自身が「自分自身が一番パフォーマンスが出せるのはどういった状態の時か」というのを、お互いが知っておくというのがすごく重要だと思います。

朝にすごく力が出せる人もいれば、夜にすごく力が出る人もいたり。得意なことをやっている時にうれしい人もいれば、プライベートがもう気になっちゃって気になっちゃってなかなか集中できないという人もいるんですよね。

なので、一人ひとりを知ってあげるのももちろん重要なんですが、一人ひとりが自律的に「自分自身の相対性の中で、一番高いパフォーマンスが出せる時期っていつなんだろう?」とか「どういう状態の時に自分は一番力が出せるんだろう?」ということを、まず知る。

それからリーダーとしては、一人ひとりがどういう状態であると高まるのか? もしくは低くなるのか? ということを知っておく。それによって、お互いが配慮できるような問いかけができると思うんですよ。

なので、私がもし(ムードメーターの)左下の状態にいる部下・メンバーの人がいたら、目的とか目標とかやらなきゃいけないことは、もうわかっているわけですよね。まずそのビジョンをしっかりと伝えて「私たちがチームで到達したいのはこの目標なんです。その中であなたの役割はこういうところです」というのは同意してますよね。

「じゃあ、どういうふうに目標対してコミットする?」と聞きます。「今はちょっと状況が悪いんですが、例えばこれが改善できたらとか、こういうことがよくなったら」というふうに自分で言い出したら、そこを徹底的に支援するしかないかなと思ってるんですよ。もし強行型でやらないのであれば、ですね。