2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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西山圭太氏:みなさん、今日は「DX CAMP 2021 zero」にようこそおいでいただきました。今、ご紹介いただきました、東京大学で客員教授をしております、西山です。今日は「DXの核心と課題」というタイトルで、30分ほどお話をさせていただきます。
私は東京大学の客員教授と、先ほどご紹介にあった、経営共創基盤(IGPI)のシニア・エグゼクティブ・フェローをやっていますが、去年まで35年間はずっと経済産業省という職場を中心に行政官をやっていました。
その最後の2年間にデジタル政策、データ政策を担当するポジションをやっておりまして、そういう縁もあって今年4月に本を出しました。みなさん、ひょっとしたら読まれた方もおられるかもしれませんが、『DXの思考法』というタイトルです。
今日はその本に書いたことを中心にしながら、少し発展をさせて、今日のCAMPのお話に合うように、30分ほどお話をさせていただきたいと思います。まず一番初めに、先ほど申し上げた本で、私自身は何を伝えたかったかというお話をさせていただきたいと思います。
4つ書いてありますが、1つ目は経営者、ビジネスに携わる人、あるいは私もやっていました行政官でもいいのですが。その人たちが今、まさにこのCAMPのテーマになっているようなDXに取り組む上で、理解しなきゃいけないことはいったい何なのだろうか? ということです。
先ほど申し上げたとおり、実は私はもともとデジタルデータの分野のプロというわけではなかったのですが、行政官としての職業人生の最後に、データ政策、デジタル政策の責任者の一角を担ったものですから、こういう課題に直面したわけです。
つまり今、ものすごく技術が進んでいる中で、デジタルやDXについてどういうふうに理解すべきだろうか? というのが、私の課題でもあったわけです。
いろいろ考えたんですが、その時に思ったのは、私自身はプロのエンジニアになるわけではないので、エンジニアになる人が知るべきことの初歩を理解することとは、ちょっと違うんじゃないかということです。
なぜこの話を申し上げているかというと、これは言葉遣いの問題ですから、いろいろ表現できると思いますが。今はデジタル化がすごく進んでいるので、「リテラシーを身に付けなきゃいけない」ということがよく言われます。そのこと自体はもちろん私も推進していますし、賛成なんですけれども。
その時に、DXに関するサービス、プロダクトと言っても良いでしょうか。それをプロとして提供するサイドの人と、そのサービスやプロダクトを使うユーザーサイドがあるわけです。特に、DXを進めるユーザーサイドに立った時に、それは恐らくプロになる人が初日にやることを、とりあえず門前の小僧のように理解することとは違うんじゃないかというのが、実はこの本の発想の原点です。
そう考えてみると、知識の初歩を得るんじゃなくて、もう少し違う角度や取り組みが必要なんじゃないかということで、結論として「思考法」と言っているわけですけれども、基本的な視座や発想を学ぶことが大事なんじゃないかと、思ったわけです。
つまりみなさん、「自分はデジタルって苦手だな」と思う日本の方がそれなりに多いということは、裏側から言えば、ふだん自分たちが慣れ親しんでいること、あるいは慣れ親しんだ発想・思考法とちょっと違うことが、デジタルの世界、あるいはDXの世界では求められているのではないか? ということです。
「それはどんなものなのだろうか?」ということを、私なりにお伝えしたいということであります。
2番目のポイントにいきますが、DXでよく言われるのが「経営者はDXに自分ごととして取り組め」と。例えば、CEOならCIO任せにしちゃいけないとも言われるし、ちょっと古い言い方だと、DXというのは単にITシステムを改修・改善することじゃなくて、経営そのものを変えることが大事なんだと言われます。
もちろんそれは非常に正しい主張なんですが、同時に考えなければいけないのは、実は世の中でよく言われているとおり、経営そのものがデジタル技術を使うことは、いわば経営自体がソフトウェアやアルゴリズムで動くことも念頭に置かなきゃいけないということなんです。
そうすると、「単なるシステム改修じゃなくて、経営のほうに行きましょう」というのももちろん正しいんだけれども、経営を考える上で、逆にシステムのことを考えなきゃいけないという、この双方向のアプローチが必要だということになります。
3番目ですが、経営からシステムに行く、システムから経営に行くという、この双方向の“旅”をつなぐもの。ここでは「蝶番」と書いていますが、それはどんなものなのだろうかというと、私の言い方では蝶番には1つのかたちがあると思うんですね。
ちょっと難しく言うと、レイヤー構造。レイヤーって「層」ですね。地層が重なる層のことですけれども。見た目のイメージだと、お菓子にミルフィーユというのがありますが、そういう感じだと思っていただければと思います。それがシステムのかたちであり、DX・デジタルのかたちだし、これからの経営のかたちだというのが3番目のポイントです。
4番目は、実はこのミルフィーユのようなかたちになるというのは、個々の会社の経営がそういうかたちになるだけではなくて、産業そのもの、あるいはもっと広く言うと、社会そのものがミルフィーユのようなかたちになっていくんだと思っています。
したがって、「それぞれの会社のDXを進めろ」という話がありますが、その時に単に自分の会社のビジネスが変わるという視点だけではなくて、産業自体の構造が変わることで、まさにレイヤー構造のようになることを意識することが大事だと。
またカタカナで申し訳ないのですが、我々はこの本の中でそのことを「IX」、つまりインダストリアル・トランスフォーメーションと言い、産業がトランスフォームをするのだということを表現しました。
今日の構成では3つのことをお話ししたいのですが、今もうすでに半分ぐらいお話ししました。「デジタル化とは何をすることで、それはなぜレイヤー構造・ミルフィーユのかたちになるのか」というのが1点目です。
2点目は、考えてみれば、コンピューターができたのって今からもう半世紀以上前ですし、IT化の話はみんなずっとしているわけです。ところがここ1~2年になって、急にみんなが「DX、DX」と。今日もCAMPをやるぐらいですから、「(今の時代は)DXなのだ」「経営が変わらなきゃいけない」と言われているわけだけど、どうしてなんだろうかと。
「昔からやっていることなのに、今、なぜ突然言われるの?」というのは、やっぱりそのポイントも理解しておく必要があるだろうと。これが2番目です。3番目が、それら2つのことを踏まえた上で、DXそのものはどう考え、どう進めたほうが良いのかという、この3つの順番でお話をしたいと思います。
まず1番目です。デジタル化と言うけれども、それは一言で言うといったい何をすることなのか。一言で言うとこうなります。単純化すると今でもそうですが、デジタル化というのはコンピューターを使って人間のさまざまな課題を解くことです。
「それはそうだろう」となるかもしれませんが、実はコンピューターができた20世紀半ばに遡ると、コンピュータはすごく万能そうには見えるんだけれども、人間との距離が遠かったわけです。つまり、当たり前ですが、人間がコンピューターのところに近づいていって「こういうことをしてくれ」と言っても、まったく動かないわけです。
コンピューターは最終的に、0と1しか理解できません。なので、コンピューターにはコンピューターなりの理解の仕方があるので、人間の課題をコンピューターがわかるように伝えないと、思ったとおりに動いてくれないという現実があったわけです。
コンピューターができた当初は、ものすごくこの距離が遠かったので、その度にいちいち自分たちが解かなきゃいけない課題を、プログラムにまさにプログラム言語でプロが書いて。コンピューターに読み込ませて、よっこいしょと計算して、結果が出たらそれを使うということを繰り返していたわけです。
ところが、それだとものすごく面倒ですよね。コンピューターの万能性が十分使いきれていない気がするということで、それをどうにかしようとしてきた歴史が、このデジタル化の歴史そのものだと思います。
細くは省きますが、それをどうやってきたか。有名人の名前だけを上げると、コンピューターを作った、あるいはもともとの発想を思いついたアラン・チューリングという人もいれば、ビル・ゲイツもいれば、Googleを作ったような人(ラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン)もいれば、最近だとAIの開発を進めている人たちがいるわけです。
コンピューターを使う人間の課題を解かせるための仕掛けを考えて、分野と関係なく1つのある仕掛けを使ってしまうと、「いろんな課題がいっぺんに解けるぜ」ということで。それを、いわば天才のような人たちが時代ごとに思いついてきたわけです。
「こうやったらコンピューターを使ってうまくどんな課題でも解けるんじゃない?」という、先人のヒントがまさにレイヤーのように積み重なったのが、今のデジタルの姿なんです。
なので、今のデジタル化の姿というのは、先ほど申し上げたような、お菓子で言えばミルフィーユのようなかたちになっているということなんです。(スライドを指しながら)今、申し上げたものとは別の図でお示ししているのがこれです。まさにレイヤーになっています。
下から歴史の(古い)順番です。最初にコンピューターができた時、アラン・チューリングは数学・算数の問題を念頭に置いたのですが、もう数学の問題をいちいち解くんじゃなくて、数学の問題の解き方を一回解いちゃえば、コンピューターが全部やってくれるじゃないかということを思いついたのです。
チューリングかクロード・シャノンかわかりませんが、「ゼロイチ」という仕組みを使えば全部解けるぜ、ということを、その人たちが思いついたわけです。
今では、彼らが思いついたことは当たり前ですが、ビル・ゲイツの時代になると、オペレーティングシステムという仕組みを1個作ると、まさにみなさんがスマホでされているように、いろんなアプリケーションを瞬時に切り替えて、別のことがすぐできるよねと。いちいちプログラムを読み込ませて、いちいち書かなくてもできるということを、彼らは思いついたわけです。
次にインターネットの人たちが出てきて、インターネットで(システムを)作っちゃえば、世界中のデータをどこからでもアクセスをして使えるようになるということを思いつきました。最近ではいよいよ、いろんな人が人工知能に取り組んで、今は足元では「自然言語処理」と言いますけれども。
今はどんな文章を書くのも、まだ英語でしかできないのですが、例えば新聞の論説を書きたければ、論説委員が最初から最後まで原稿を書かずとも「明日書きたい論説のポイントはこの3つだな」と、ポイントだけ言っておけば、コンピューターが勝手に論説を書き上げてしまう。こういうことが、今はもう現実に起こっています。
というように、分野とあまり関係ない仕掛けを積み重ねていくと、50年前にはすごく遠かった「ゼロイチ」としかわからないコンピューターと、人間が解きたい課題がすごく近づいてきていている。まだ日本はできていないんですが、人工知能を使って日本語で話しかければ、書きたい論説の原稿ができちゃうということが、現実化しつつあるのが現代です。
ここはちょっと専門的なので飛ばさせていただきますが、一言だけ足すと、みなさん「プログラム言語」というのをよく聞かれると思います。本屋に行ってソフトウェアのコーナーに行くと、その類の本がたくさん置いてあると思いますが、これも今のレイヤー構造と関係していて。
真ん中に機械言語、アセンブリ言語、ハイレベル言語、自然言語と書いてあります。簡単に言うと、コンピュータがわかるゼロイチで表現されるものが機械言語。まさに今私が日本語でしゃべっている、これが自然言語ですね。上手かどうかは別にして(笑)。
コンピュータと僕らの距離、つまり機械言語と自然言語の距離ってけっこうあるので、それを縮めるためにいくつか言語を作ってきたんですね。
まさにレイヤーのように言語を積み重ねることで、自然言語を言えば機械言語につながる、ということが実現したところにも、「なぜデジタルがレイヤー構造・ミルフィーユみたいになるか?」ということを表していると思っています。
「レイヤー、レイヤー」と言いましたが、レイヤー構造は本当はたくさんありますし、たぶん多面的なんです。それをものすごく単純化すると、2つの大きなレイヤーにまとめられるんじゃないかと思っています。私の書いた本の表紙の写真をよく見ると、実はうっすらとウェディングケーキの写真になっていて。それはこのことを言わんとしているんです。
単純化すると、上下2段のウェディングケーキみたいなかたちになっているということなんです。今は「クラウドを使え」ってよく言われますが、クラウドサービスは基本的にこのかたちを持っています。
(スライドを指しながら)つまり、下にあるのが最も基礎的なものですね。ここでは「計算処理基盤」と言っていますが、与えられた計算をコンピュータが実際に処理し、他方、大量のデータを記憶・ストレージしておくという、この計算処理と記憶の基盤がまず根っこにあります。
それと同時に、今はまさに検索エンジンを使う場合にそうですが、何かみなさんが単語を入れると(検索)結果が出てきます。これは誰かがデータを書き込むと、アプリケーション・ソフトウェアが稼働して答えを出すという、大きなレイヤーがその上に乗っかっています。それをこの図では「データ解析」と言っています。
実は、この2段に大きく分けられるレイヤーが、本当はだんだん細かく分けられるわけですが、積み上がってきて完成してきたということが、2番目のお話。つまり、デジタル化の現在地のお話と密接に関係しています。
デジタル化の現在地、つまり「昔からコンピューターってあるけど、なんで今はこんなに大騒ぎになっているのだっけ?」というお話です。それはなぜかを一言で言うと、レイヤーが積み重なって、ミルフィーユのようなかたちになって、ソフトウェアが直接みなさんの経験をコントロールするようになったということです。
つまり、例えばスマホでみなさんが地図に「今日はどこやらに行きたい」と目的地を入れると、あなたの位置と目的地の間の経路が表示されるわけですが、その時のあなた、使いたいユーザーとデータの間には、ソフトウェアしかないわけです。
どこかに人がいて、「こいつ、こんなこと言っているな」と思って、ソフトウェアを使わなきゃいけないということはないわけです。みなさんが経験していること、まさにサービスそのものは、すべてソフトウェアによって動いています。
つまり、レイヤーがみなさんの経験と直接接したということです。これは人類史上初めて起きていることで、そういう意味である種の特異点、特別なポイント、臨界点になるのだと思います。
これは逆に、サービスを提供する側から言うと同じことです。今までみなさんがサービスを提供しようとすれば、確かにコンピュータは使ったんだけれども、常にどこかから先は人が全部やらないとできなかったと。
コンピューターの結果を使って、人が何か手を加えてサービスをしてきたわけだけども、それがもう基本的には、ソフトウェアを使えば全部できるようになってしまったというのが現代なんです。
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