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ナイトタイムトーク「最先端の経営学をキャリアに活かそう」(全3記事)

子育てとは、家庭内で「管理職としての経験」を積める研修の場 仕事と育児の「統合」を目指す、新たな理想の働き方

「仕事のマイナスになる」「制約になる」「働く時間が減る」など、子育ては仕事にマイナスな影響を与えると思われてきました。しかし最新の研究では、子育てをすることによってマルチタスクの能力が高まるなど、相乗効果を生むという見解も見られています。本記事では、「子育て」と「マネジメント」の類似点を上げ、育児が仕事に良い影響を与える理由を解説しています。

「チーム育児」は、リーダーシップ行動の研修の場

赤坂美保氏(以下、赤坂):次のページに行きましょうか、リーダーシップ。

奥野明子氏(以下、奥野):職場体制をうまく作るというのは、人を巻き込んでゴールを達成すること。これがリーダーシップ行動、リーダーシップの定義です。この研究では、育児休業中の育児行動と育休取得前後のリーダーシップ行動の変化を測定します。

その結果、育児の体制づくりの中で「共働の計画と実践」と「家庭外との連携」が有意であることがわかりました。この2つの育児行動をよくしている人は、​​復職後、リーダーシップ行動を頻繁にとるようになることがわかっています。

リーダーシップ行動とは、例えばチームの目標を決め、その達成に向けて計画を立てるとか、メンバーに配慮したコミュニケーションを取る行動です。

赤坂:なるほど。リーダーシップってたぶん、決めて・やることだと思うんですけど。毎日必要とされますし、なんとなくは思っていたんですが、それをちゃんと行動の要素に分解して研究されても証明されたことはすごいことですね。

奥野:チーム育児の場って、リーダーシップ行動を促す行動を取れるような研修の場になっていると考えられるんですよね。

赤坂:まさにリーダーシップ研修ですね。

奥野:まさにそうですね。だから、(育休は)休みじゃない。

赤坂:(笑)。

育児が仕事の能力を高めることは、脳科学でも実証されている

奥野:最近読みましたが、脳と心の動きの関係を調べる研究の中でも、育児をすることが脳の作りを変えて、それが仕事能力を高めることにつながることが証明されているようです。

赤坂:脳科学でも証明されている。

奥野:そうです。京都大学の明和政子教授が研究されています。私はちょっと分野が違うので今日は触れませんが、「やはりそうなんだな」と思いました。明和先生は、「子育て期間は『休暇』でも『仕事競争からの脱落』でもなく、『最高の修練期間』だ」と、おっしゃっています。

赤坂:本当ですか。(子育てで)仕事の能力が上がるということが続々と本にもなっているし、研究も経営学だけじゃなくて脳科学でも証明されていると。それも具体的にいうと、マネジメントやリーダーシップって、まさに管理職や社長に求められる能力ですね。

奥野:そうですね。

育児は小さなマネジメントの積み重ね

奥野:次に、今日のトーク・タイトルにある「マネジメント」について見ていきましょうか。経営学というと、たぶんみなさん戦略論やマーケティングなどを思い浮かべるかもしれません。でも、経営学・マネジメントの一番の基礎は、自分が望んでいるように人を動かすことです。

これは一番小さいレベル(層)の経営学です。それがより上のレベル(層)になると、チームになります。さらに大きくなったら組織です。この組織が企業であれば、「どういう製品を作るのか」「どこと提携するのか」とか、マネジメントらしい大きい話になります。マネジメントの一番小さなレベルは、目の前にいる誰かに自分が望むような動きをしてもらうことなんです。

赤坂:育児は動いてもらわないと進みませんね(笑)。

奥野:ですから極端な話、自分の子どもがうまく思うように育ってくれるだとか、動いてくれるだとか、泣き止んでくれるとか、そんなことも小さなマネジメントなんですね。

今日は「チーム育児」ということが、浜屋さんと中原先生の(話の)中で出てきました。チーム育児でやっていることは、まず育児に何が必要かを考えて、今度はやるべきことを分担する。誰が何をしたらいいとか、誰かに何かをやってもらったりしながら。

そして今度は足りない点を補いながら、さらに実行して進めていくわけです。そして、やりながら問題を洗い出して、情報共有して、「どうしたらいい? どんなふうに改善していったらいい?」と改善をして、改善したことをやってみる。結局、PDCAと同じことです。これをグルグル回すのがマネジメントですよね。

「マネジメント能力のある上司」の特徴

奥野:次のスライドにあるように、育児でやっていることはマネジメントでやっていることと一緒ですよね。

赤坂:なるほど。

奥野:職場で仕事を分担して、配分を把握して、「うちの職場ってどんな仕事がどれだけあるの?」というのがマネージャーの役割ですね。上司ですから、職場の全部を見て、そして誰にどの仕事を配分するかを考えます。仕事ぶりがうまくいっていたら良いけれども、うまくいっていなかったらサポートし、それを評価して部下にフィードバックする。

そして、部下の「できる」と「したい」を把握する。特に私たちみたいな「24時間戦いますよ」という働き方ができない人には、「どんな仕事ならできるの?」「時間はどうなの?」と聞く。「できる」だけじゃなくて「したい」も必要ですね。「あなたは何をしたいの?」と、きちんと聞く。

赤坂:気持ちも汲み取ってですね。

奥野:そうですね。それを把握して、その上で「うちの職場には、これがあるからこれを配分するよ」と配分する。これが、マネジメントの能力がある優れた上司です。でも、多くの職場ではできる人に仕事が配分されますよね。

赤坂:1人の負荷が高くなったりとか。

奥野:でも、それは全体としてはすごくロスが多い。できる人だけに配分されると、本当は能力があるのにそれが見えにくい人に配分されていないかもしれない。それから、仕事を配分されなかった人の能力がこれから伸びないですね。

赤坂:成長の機会もなかなか与えられないという。

育児で得た視野の広さがマネジメントでも活きる

奥野:上司に大事なことは、職場全体の力を上げることです。みんなに適切な仕事、これは本人ができるよりもちょっとだけ難しい仕事の質と量のことですが、これを配分することができれば職場の能力が全体的に上がります。これはけっこう難しい。

でも、いろんな人が働くようになると、こういったマネジメントが大事になる。育児をする私たちは、その視点はすごく持っているはずなんですね。

赤坂:ちょっと言葉を入れ替えただけで、マネジメントになるという。

奥野:日々、私たちはマネジメントしているはずなんです。すごく訓練されている(笑)。

赤坂:さらに最近、先生がおっしゃったような、これまでは専業主婦に支えられて「いつでも仕事に打ち込めます」という方が標準になっていた職場が、介護も出てくるし、私たちみたいな子育て中もいますけれども。逆に、いろんな人が活躍しないと回らないと言いますか。

いろんな人が活躍することで、最初におっしゃった「同質性の高い組織」より、いろんなことを変化をしていける組織ってマネジメントが大変になりますもんね。そうすると、やはりこれまでのように配分するよりは、ここの能力がすごく必要になると思います。

奥野:ええ。これから必要になってくる、本当のマネジメント能力です。

家庭内で「管理職としての経験」を習得している

赤坂:そう思うと、リーダーシップ、マネジメント力。組織の中の管理職としての経験を、すでにふだんから家庭内で練習している。(笑)。

奥野:そうです。

赤坂:リーダーシップって、なかなか会社の中で決める上司は少ないなと思うんですが、意思決定も日々やりまくっているので、もしかして起業もできるかもしれないという感じかも(笑)。

もちろんプロジェクトマネージャーとか、意思決定もできる上司みたいなかたちで、単に能力が上がったというよりも、どんどん会社や組織を変えられる能力が、実は身に付いているんじゃないかと、先生のお話から思うようになりました。

奥野:本当にそうですね。

赤坂:ありがとうございます。

奥野:今、言っていたみたいに、私たちは日々(子育てで)マネジメント能力を身に付けているから。特にダイバーシティマネジメントが必要なこれからの組織では、きっと私たちの力は求められているはずです。

赤坂:きちんとデータのある話をしていただいて、ありがとうございます。

奥野:ちょっと読んでみたいな、もう少し詳しく知りたいなという方は、ぜひお読みいただければと思います。

赤坂:「視点が広くなる」「変わる」とおっしゃいましたが、子育てを経験した私たちだからこその視点で、世の中をどんどん変えていく人が生まれたら良いなと思って、活動をし続けていこうと思います。ありがとうございます。

奥野:ありがとうございました。

どちらかを辞めるのではなく、仕事と家庭の統合を目指す

赤坂:最後に質問が2つ来ているんですが、先生からメッセージをいただければと思います。

まず1つ目が、「働き続けたい気持ちはありますが、来年子どもが3歳になり育児短時間が終わるため、働き続けられるのか、自分の気持ちや子どもの体力は耐えられるのか、不安が募る日々です。一度辞めるとなかなか社会復帰できないのではないかという思いもあります」というコメントをいただいています。ぜひ(子育ての)大先輩の先生から(笑)。

奥野:「続けるか、辞めるか」でお悩みだと思います。私がすごく覚えている言葉は、「辞めるかどうかで悩まないで、どうやって続けられるかで悩んで考えて」です。同じように考えるんだったら、どうやったら続けられるかを考えてほしいなと思います。

赤坂:統合を目指すという(笑)。片方にするのは簡単かもしれないけれども、できればエンリッチメントを目指していただけるとすごくうれしいなと思います。

質問者1:わかりました、ありがとうございます。解決の糸口になりました。

赤坂:でも、無理しない感じで(笑)。先生、ありがとうございます。

子育て世代が働きやすい=みんなが働きやすい

赤坂:もう1つ質問が来ておりますので読みます。

「第1子の育休復帰を目前としており、漠然とした不安があります。チーム育児の場合は自分が中心となっていて、実際に手を一番動かしているのも私なので、みなが協力的でした。しかし、いざ職場に戻ってリーダーシップ、マネジメントに取り組む場合、自分自身は時短勤務や急に休んだりする立場になるので、メンバーのモチベーションを下げてしまうのではないかと心配です。口だけだと思われてしまわないか」というご質問が来ています。

先生、何かメッセージをいただけるとありがたいです。

奥野:そうですね。心配はあると思うんですが、急に休んだり、短時間(勤務)をしちゃダメというのを、働く場の標準にしたくないと思うんですよね。つまり逆に、そういう人がいても良い職場を作りたい。

理想だと言ったらそうかもしれないんですが、もしここでご質問下さった方が時短勤務をしたり、休んだりしたことが職場メンバーのモチベーションを下げるとなっちゃうと、今後は他の人もそういったことができなくなっちゃうじゃないですか。

でも、育児をしたり介護をしたりしながら働くこと。そういう働き方もあるんだよということを、むしろ標準にしていくような動きや考え方とかが本当はすごく理想なんだと思うんですね。

赤坂:わかります(笑)。まさに「そんなの理想だよ」と言われることがすごく多いかもしれないんですが、ある外資系企業から来られた方から、「育児しながら働いている人が働きやすい環境は、別に育児している人だけが働きやすいわけじゃなくて、普通の社員もみんなが働きやすい環境なんだよ」と言われて。

やはり、みんなが24時間働けるチームというのは、それはそれで強いかもしれないんですけれども。それをずっとこの先みんな続けていけるのかというと、きっとそうじゃない時代にきているんじゃないかと思います。

子育て経験を活かした理想の働き方

赤坂:そういうわけで、たぶん切り替えの時期だから、「こんなの理想だよ」と言われる会社だったり、逆にまったくこれを言われない会社も出てきていると思うんですが。切り替えだからつらいところはあるかもしれないんですけど。

ここに出させていただいたとおり、子育てを経験している私たちだからこその視点を入れるのが、絶対に私たちの責務じゃないかなと思っていまして。

そんなことをして、体を壊したりしない程度になんですが、そういう当たり前を変えることを念頭に(置いて)。ぜひみなさん、理想と言われるかもしれませんが、ご活躍いただくことを祈っております(笑)。

奥野:そう。私たちの強みは柔軟性と包容力なんだから。

赤坂:(笑)。

奥野:「なんでも来なさい!」という強み。上手に・柔軟に、でも「目指したい方向はこっちだよ」というメッセージをどうやって伝えて実現させていくか。それができる能力を私たちは育児の中で培っていると思うので、がんばらない程度にがんばってほしいなと思います。

赤坂:(笑)。がんばらない程度に。ありがとうございます。やはり、一番変えていけるのが私たちじゃないかなと思いますので、がんばらない程度にぜひがんばってください。ありがとうございました。では、このへんでトークを終了したいと思います。

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