2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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福島智史氏(以下、福島):みなさん、こんにちは。グロービス・キャピタル・パートナーズの福島と申します。ふだんはヘルスケア領域を中心にベンチャーへの投資とお手伝いをしています。
本日は、「コロナを機に考える医療とテクノロジーの未来」というセッションのタイトルで、3名の登壇者の方にお集まりいただいています。この1年半、昨年の頭からまさにヘルスケア・医療・健康に関する話題を聞かなかった日はないんじゃないかという、18ヶ月だったかなと思います。
本日聞いていただいているみなさんも、健康に対する意識が、従前とは少し変わってきたのかなと。そういった混乱した時代の中で、ヘルスケアに関わる多様な登壇者の方々にお越しいただいております。これから、そしてこれまでの変化を中心にうかがっていきたいなと思います。
さっそく中身に入っていきたいと思います。みなさんは、医療・ヘルスケアに関わる立場ですが、ご自身の中でまずコロナをどう捉えているのか。
そして、例えば宋先生であれば患者さん、高橋さんであればユーザーの方々、もしくは周りの研究者の方々も含めて、「どういう変化があったか?」をしっかり学んでいきたいと思います。
さっそくですが、宋先生。ふだんから対話をされていらっしゃる患者さん、もしくはメディアを通じてより広い患者さん、もしくは生活者の方々とお話をされると思うんですが、昨今の報道によると今年2021年は出生数が80万人を切ると出ていて。
確か2015年で100万人を超えていたぐらいで、まさに少子化が非常に加速している印象を受けているんですが、現場でどのようにご覧になっているのかを、ご自身の感覚も含めてお話いただけますでしょうか?
宋美玄氏(以下、宋):ありがとうございます。私は丸の内の、働く女性がすごく多い所で、働く女性を中心に産科婦人科の診療をしています。
少子化の観点でいきますと、第2次ベビーブーマー、氷河期世代、ロスジェネが生殖年齢をちょうど引退したところだったので、しばらく100万人を保ってはいたんですけど、「86万ショック」と言われても、減るのは予想されていた頃なんですよね。
その次の年が84万人でしたが、「けっこう産んでいるな」という感じで。なので、もう人口減少の側面でしたので、これがコロナのせいで試算を下回ったのかどうかという文脈がすごく重要になってくると思います。
まだデータが出揃ってはいないんですけれども、基本はもちろん減ってはいて。例えば去年の一番初めの緊急事態宣言の時は、ギャグで「家にいる時間も増えるし、ベビーが増えちゃうんじゃないの?」と言う人もいたんですけど、1月の出生数も激減りしているんですね。
その頃は生殖医療学会が「不妊治療もやめときましょう」みたいなことを言っていたんですが、みんなそんなことは言っていられないので、欲しい人は産んだりしていて。
私の中では、もちろん雇用とかの影響も大きいんですけど「コロナだからすごく減っている」というより、「まあ、もう減るよね」ぐらいの感じで思っています。
福島:なるほどね。むしろ「少し時間もできたし」という要素もあって、必ずしもコロナの影響だけで従前の流れから、めちゃめちゃ減ったわけではない感じですかね。
宋:はい。そんな感じです。
福島:なるほど。一方で、医療者と患者さんの間で、一定の情報ギャップがあるのかなとも思っていて。さっきの不妊治療の学会から、昨年の1月に「不妊治療はいったんストップを」という話もあったりというところですが、患者さんの中で、健康面を心配して「控えたほうがいいんじゃないか」といった意見や質問が来ることはあるんですか?
宋:そうですね。やっぱり我々医療者からすると、例えばテレビで「みんなアビガンを飲め」とか言っても、「そんなの飲んでも意味ないやろ」と思うし、「PCR(検査)をしまくれ」と言っても、「そんなんしまくってどうすんの?」とかあるんですけども。
一般の患者さんは、ワイドショーやネットなどのいろんな情報の何が本当か? をすごく不安に思っていて、「それを信じないほうがいいんじゃないかな」というような、あまり妥当でない情報を信じている方も多くて。ただ、子どもが欲しいという文脈からすると、みなさんの周りでもコロナ対策ってどっちかに振れている人がすごく多いと思うんですよ(笑)。
だけど、子どもを産むことに関しては、「他人任せにして産み時を逃しても、誰も責任は取ってくれないよね」と、欲しい方はバンバン妊娠されている感じで。そこにそんなにブレは感じなかったですね。
福島:なるほど。それはとてもおもしろい意見だなと思いました。同じく、ある種コンシューマーを対象にされているという意味では、高橋さんのビジネスも広くユーザーの方に問いかけるシーンがあるのかなと思います。
私自身も含めて、コロナを経て自分の健康に対する関心が昔と比べて上がってきていると感じます。そして、さっきの情報の話もそうなんですが、「見えない不安をどうにか見える化できないかな」みたいなのって、前よりも日本人や日本に住んでいる人の中で増えてきたのかなと思っています。そのあたりどうでしょう、高橋さん。事業をされる中での変化がもしあれば、おうかがいできますか。
高橋祥子氏(以下、高橋):そうですね。私はジーンクエストという会社で遺伝子解析サービスを提供しています。病気になってから治すというよりは病気になる前に、自分の疾患のリスクを知って予防していくためのサービスなんですが、コロナで明らかにこの予防に対する意識が上がっているなと思います。
特にこの緊急事態宣言中は、遺伝子キットの売上が2倍になるなど、やはり関心の高さがすごく見えていると思いますね。持病がある人、例えば持病までいかなくても肥満の人などが、ウイルスや感染症が来た時に一番危ないと気付いたということかなと思います。福島さんのおっしゃっている「見える化したい」というのも、あるとは思いますね。
先ほど宋先生がおっしゃっていたように、いろんな情報を取りにいくという関心はすごく高くなっていると思うんですが、ちゃんとした情報とデマのような情報が混同されていて、そこに対するリテラシーを高めたいというニーズも高まってきていると思いましたね。
福島:そうすると、昨今は今までお使いになっていたユーザーさんと違うターゲットの方々が使われるケースもあるんですか?
高橋:そうですね。少しずつ裾野が広がってきているかなと思っています。遺伝子解析と言うと、最初はアーリーアダプターというか、情報感度が高い、とにかく新しいものに行き着く人が多かったんですが、今は問い合わせの質問内容もけっこう変わってきていて。
福島:へー! おもしろいですね。それは具体的に聞いてみたいかも。
高橋:すごく初歩的な内容とか、ネットリテラシーがそこまで高くない方も増えてきているかなとは思います。本当に基礎的な「ログインどうするんですか?」みたいな相談がすごく増えたりとか(笑)。「スマホを持ってないんですけど……」みたいな人からの問い合わせも増えていますね。
福島:そういう意味では世代も広がっているんですか?
高橋:広がっているとは思いますね。
福島:なるほど。宋先生はメディアにもご出演されて、情報を発信して、情報のギャップを埋めていく活動もされていらっしゃいますが、受け手、もしくは差し支えない範囲で報道側がどういうメカニズムで動いているかとか、工夫されているところとかがあれば、今の高橋さんの話と組み合わせて聞いてみたいなと思うんですが、いかがですか。
宋:もうこれは本当に難しくて。メディアと言っても、例えばテレビでも報道なのかワイドショーなのか、あとは局がどこかとか。他にもネットとかもいろいろあるんですけども。基本的にやはり報道ですね。日々いろんなジャンルの報道を撮って出さないといけないので、医療ライターや医療ジャーナリスト以外は、どこにどういう情報を求めていいのかがわからないらしくて。
これはメディアのいろんな局の人たちから聞いたんですけど、基本は本を出しているとか、他の局のテレビに出ていてちょっと有名な人とか。あとはもうそれこそ「ググって、上のほうに出てきた人」みたいな感じで。なので、我々の用語で「闇落ち」と言うんですけど(笑)、コロナでたくさんの、それなりの肩書きのドクターが「なんでこんなこと言っちゃうの?」みたいな感じで。
福島:あはは(笑)。
宋:メディア側も祭り上げて、でも「変なことを言っていても、責任は取らない」みたいなのがすごく多いんですね。なので、医師側もコロナに詳しい人とか、コロナワクチンに詳しい人とかが有志の専門家集団を作ってSNSで発信したり、有名になってテレビに出たりといった活動をしていますね。
また、最近すごくがんばっているなと思うのは、厚労省がSNSとかでめっちゃ発信しているんですよ。これは本当に、本質的なことだと思うんですね。
厚労省のツイートに、デマに侵された人たちがワーッと書いたりしているんですけど、それに対して、例えば「ワクチンでは不妊になりません!」ということを発信していて。「コロナで良い時代になったな」という面もあります。
福島:今のポイントはおもしろいですね。最近は先生がおっしゃったように、省庁が「なりません」という言い切り型をしていて。そういう断定をするのは公的機関としては珍しいと思うんですけど、非常に姿勢の変化を感じています。
今の議論の前半でおっしゃっていただいた有志のグループを作って、科学的に正しい情報を発信する。もしくは発信できる人をある種、祭り上げるというか。「しっかり神輿に担いでメディアに使ってもらう」みたいなところは、本当に今日の会の趣旨にも沿っています。みんなで正しい方向に向かうために団結するのは、1つの「惑わされない解」なのかもしれないですね。
宋:そうですね。テレビも、「誰に取材していいかわからない」みたいなので。こちらから「ここにこういう人がいますよ」と何人か用意するのはすごくいいなと思っています。
福島:そういう意味では、今や薬局業界において「新しいことはいったん、中尾さんに聞こう」ぐらいのスタンスになっているんじゃないかなと思います。その中尾さんにもうかがいたいんですが。今の宋先生と高橋さんの話と打って変わって、中尾さんがやっていらっしゃる事業は、既存の薬局さんをアップデートしていくような仕事かなと思っています。
スタートアップの中には既存のプレイヤーに打ち勝つようなプレイヤーもいますが、中尾さんはどちらかと言うとしっかりと寄り添っているような印象を受けます。既存の薬局、もしくは薬局チェーンさんに、コロナの前・後で、DXという言葉を使うと平面的かもしれないですが、何か意識・行動の変化があれば、教えていただけますか?
中尾豊氏(以下、中尾):今コメントいただきましたとおり、薬局業界は医療業界の中でも変化が激しい業界だと個人的には感じています。どういう意味合いかと言うと、オペレーション自体を変えていく状況になりつつあります。
これは要因が2つあって、オンライン化のようなコロナ禍での臨床的な対応の変化という話もあるのですが、薬局業界は、コロナによって財源が減ることに対する感度が非常に高いんです。
もともとこの業界では「患者さんに対し、薬を早く正確に準備し、的確な説明とともにお渡しすること」が重要視されてきました。しかし、社会保障費が年々増加する中、ペイ・フォー・パフォーマンスと言いますか、その価値に対してどうやって社会保障費を投資していくかという概念に変わりました。
そうなった時に、「より患者さんに付加価値を出せるオペレーションに変革しない限り、収益にならないんじゃないか」という感度の高まりがあるなと思っています。
(2点めの要因が)不安感。「コロナ禍なのでオペレーションを変えていきましょう」という文脈と、「収益構造を変えていかないといけないのかもしれない」という感度の2つがちょうど重なっているので。
そこで、薬局変革にまつわる情報発信をする会社に薬局業界の方が集まってきている。スタートアップとしては「ピンチをチャンスに」じゃないですが、正しい情報をいかに発信できるかを非常に意識しています。
さっき宋先生もおっしゃっていましたが、薬剤師でも整理が難しいことや、骨太戦略がどうなっているか、財務省が財源をどう考えているか等の資料が、厚労省や内閣から次々と公開されています。
6月や7月が特にそうなんですが、そういった資料をまとめてみなさんに発信するだけで、経営者・薬剤師が私たちのウェビナーに集まるような状況になっているので、今回の事例によって、歪みが起きている業界かなとも感じていますね。
福島:なるほど。もともとお薬を渡すだけの場所から、ちゃんとコミュニケーションをする場所に変えようねという話は昔からあったが、コロナを機に財源の観点からも、そこが加速するぞと。そして既存のプレイヤーが非常に危機感を持ち始めたと。そこに対する適切な情報発信が、まさにアップデートのチャンスになるというお話ですかね。
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