バブル世代の金銭感覚

長倉顕太氏(以下、長倉):(視聴者のコメントで)「バブルはバブルで楽しかった。体験できてよかったと思います」。

甘糟りり子氏(以下、甘糟):私もそう思います。竜宮城に行ってきたような感じですよね。

長倉:(視聴者のコメントで)「若い時のバブル期はよかった」「50代の私たちは良いとこ取りしていますね」。

甘糟:良いとこ取りのまま終えられるのかどうか、わからないですけどね。

長倉:僕は20年、30年はいくと思うんですよね。だから、今生まれた子どもたちとかは、海外に行けなきゃかわいそうかなというイメージですね。

簡単に言うと、「人の金を何だと思って使うんだ」みたいな。結局、オリンピックとかも何兆円とかかったわけじゃないですか。それはバブルの時の感覚かなと思って。会社の金を使いまくるとか、税金を使いまくるとか、役所でもタクシー券をばらまいていたぐらいなので。

意外と人の金を楽勝で使えるという感覚を、未だにバブルの人とかバブル前の人たちは持っているなと。経費を使う感覚が。

甘糟:耳が痛い(笑)。今日はなんでバブル世代が嫌われるかにツッコんでもらおうと思って来たけれど、そこなんですね。

長倉:「人の金を何だと思っているんだ」的なのが、たぶんあるんじゃないかなと思っていて。上級国民という言葉があるけど、そのへんの人たちがまだ、その感覚を持っているんだと思っているんですよ。世の中の決定権を持っている人たちが、自分たちの良いように金を使えるという気持ちで政治をやられちゃっているかなと思いますね。

「個人のせい」ではなく「時代のせい」

長倉:結局、経済は富の再配分というか。どこに再配分するかなんですが、お金が未だにバブル以前のおじさんたちに再配分されていくということですよね。だから、医療費とかも含めてなんですが、そこを真剣に考えなきゃいけないかなと思っています。ある意味、いろんな意味で得している世代ではあるんですよね。

甘糟:だから今になって、殊勝な気持ちになっています。

長倉:ただ、それが個人のせいではないじゃないですか。時代のせいなので、そこがけっこう重要だなと思っています。「バブル時代は今では考えられないことが多いですね。いろいろ経験されているぶん、視野が広い方が多い」。それはそう思います。

甘糟:優しい(笑)。

長倉:僕はいつも言っているんですが、70歳以上の編集者とかはマジでおもしろいので。

甘糟:そうなんですよね。「おもしろいこと」と「正しいこと」……難しいですよね。

長倉:誰とは言えないですが、70歳以上で「伝説の編集者」みたいな人の話とかは、めちゃくちゃおもしろい。

甘糟:極端(な事例)をご存じの方が多いですからね。

長倉:それは本当に羨ましいなと思います。僕より上ぐらいの出版業界の人は意外とつまらないというか、こぢんまりしている人が多いなという。

甘糟:そのおもしろいお話も、会社のお金でおもしろい体験を経験しているからなんでしょうね。それが別に悪いことでもなかったし。

「日本全国がブラック企業」バブル時代の働き方

甘糟:(視聴者のコメントで)「バブル時代はいいところもあったけど、仕事でのノルマや上司は殺されるかと思うぐらい厳しかった」。日本全国がブラック企業みたいな感じですからね。

長倉:「24時間働けますか」というコピーが許されるわけですから(笑)。「長倉さん・甘糟さんは、時代に合わせて順応、変化されて来たかと思います。成功されてもなお、それを壊して柔軟に新しい価値観や若い人のやり方を取り入れられる、凝り固まらない考え方を持てる秘訣は何でしょうか?」ということなんですが。

甘糟:私は自分が成功しているとぜんぜん思っていないので、そこがまたバブルっぽい? 「もっともっと」みたいな。何をもって成功かはわからないですが、まだこの歳になってもひよっこ気分なんですよ。良いのか悪いのかわからないですけど。

長倉:僕も「成功している」という感覚はないですね。

甘糟:成功しているというか、何をもって成功なのか? というのもあると思うんですけど、自分があがりだと思わないほうが楽しいのかなと思います。

長倉:あと僕が意識しているのは、若い子たちと仕事するとか、けっこう年下の人たちと仕事をするのは意識していたりしますね。

甘糟:自分と違う世代の人と接するのは、下も上も大事かな。大事というか、無理してすることはないけれども、世代だけじゃなくて自分と違う局面の人と接するのは楽しいし、それを楽しいと思えたほうが良いと思います。

広告費で雑誌が作られていた時代

甘糟:(視聴者のコメントで)「バブル時代は広告費で雑誌が作られていたので、売上を気にせずおしゃれな紙面がありましたね」。

長倉:そうですね。今のファッション誌は薄いじゃないですか、昔は広告がいっぱい入っていたので分厚かったんですが、今は相当薄くなっていると思います。

甘糟:長倉さんもわかると思うけど、どこかおしゃれなところでロケして、モデルさんを使って、ヘアメイクとカメラマンの人に来てもらってと、ものすごいお金がかかっていますよ。

長倉:毎回、撮影の度にシャンパンを開けていたみたいですよ。

甘糟:お金もかかるから、クライアントがいないと作れなかったのかな。(視聴者のコメントで)「私も若い頃は年上と多く遊んで学びましたが、今は若い方から学ぶことが多いです」。でも「年上の人からもまだまだ学んでやるぞ」と思っていますけど、こういうガツガツしたところがバブルっぽいのかな(笑)。

長倉:バブルっぽくはないんじゃないですか(笑)。未だにバブルっぽい人はあまりいない気がするんですけどね。

現代社会のバブルは「YouTube」上で起きている?

長倉:逆に僕が思うのは、今、YouTubeとかインターネットで稼いで……。

甘糟:高いものを買ったとか、ドンペリのお風呂に入ったとか、そういう方たち。

長倉:今、それなりの高級ホテルのラウンジとかにいるような人たちのほうが、バブルっぽい感じがしますよね。GUCCIみたいな服を着ている人たちのほうが、僕はバブル感を感じましたね。ちょっと前に大阪のコンラッドに行った時に、ここにいるのが恥ずかしくなって。ギラギラしたやつしかいなくて、こっ恥ずかしくなるぐらい……。

甘糟:その方たちは20代とか?

長倉:20代とか30代とかです。

甘糟:じゃあ、バブルは繰り返すものなんですね。

長倉:常にバブルな場所があって、バブルな人たちもいるんですよ。

甘糟:常にいるんだ。

長倉:僕が新宿の伊勢丹に久々に行った時に、服装が10年前と変わった感じがありましたね。若いYouTuberなのかわからないですけど。

甘糟:バブルな人たちは大多数になるか少数かだけど、必ずどこかにいるんですよね。

長倉:時代全体がバブルだったか、今だったらYouTubeでバブルなのか、みたいなところなのかなと思います。

「雑誌」があらゆるものの情報源だった

長倉:でも、雑誌は本当に変わったと思います。雑誌は基本的に広告で成り立っていると思うんですが、広告がなくなっていて。

前にファッション誌をやっている人に聞いたら、『VOGUE』とかはもともとハイブランドが広告を出すと決まっているから、それなりの分厚さだけど、他の日本のファッション誌とかはどんどん薄っぺらくなっていくと言っていました。

甘糟:雑誌世代として悲しい気がする。でも、しょうがないんでしょうね。

長倉:映画を見るのに『ぴあ』とかを買わないとわからなかったので。

甘糟:そうですよね。懐かしい単語が最後になっていきなり出てきた(笑)。

長倉:だって『ぴあ』とかがなければ、映画なんてどこで何がやっているかわからないじゃないですか。

甘糟:検索できないからそうですよね。ライブとかもね。

長倉:ライブとかも、いつどこでやるのかもぜんぜんわからないので、その感覚は今のインターネットの世代はわからないと思います。

甘糟:情報はガツガツ取りにいかないと手に入らない感じでしたものね。

長倉:海外旅行だって『エイビーロード』とか、ああいう雑誌で見て、航空券とかを代理店に買いに行かなきゃいけない感じでしたよね。雑誌を買って、そこから電話して店に行く世界だったので、本当に今の若い子たちはその感覚がわからないと思います。

甘糟:その代わりに、今はみんなスマホに時間を割かなきゃいけないから、しょうがないのかなと思いますけど。

バブル期と現在の大きなギャップ

長倉:(視聴者からのコメントで)「バブル時代の同じ時期を過ごした人たちとは、わかりあえるものがあるから、話していて楽しいです」。

甘糟:よかったです。

長倉:ということでそろそろ時間なので、何か最後に……。

甘糟:写真をぜんぜん使わなかったですね。

長倉:そうですね。写真を使いましょうか。当時の写真がいろいろあるので。

甘糟:バブルっぽい空気を思い出していただくのにどれがいいかな。これは麻布十番のマハラジャ(ディスコ)ですね。「1985年」と書いてありますね。

長倉:マハラジャは今もありますよね。

甘糟:麻布十番のマハラジャは1997年に1回なくなって、いつだったか六本木に違う経営者で、ブランドやロゴを引き継いで何年前にできたみたいなんです。

私は新しいマハラジャに行ったことがないんですが、この間、車でマハラジャがあったとされるビルの前を通ったら、お店の看板が半分ぐらい白かったです。3分の2ぐらいお店が抜けちゃっていて、去年から特殊な時代ですが。

長倉:この写真は?

甘糟:これはハワイに旅行行った時に借りた日産の車なんですよね。カマロみたいですけど、すごく良い気になっていますね。調子に乗っている感じの。

長倉:これは大学生の時ですか?

甘糟:大学の卒業旅行だったと思います。

長倉:すごいですね、大学の卒業旅行で。

甘糟:あの頃の大学の卒業旅行は、みんなハワイとかだったんですよね。

長倉:これもスキーかな?

甘糟:それは志賀高原かな?

長倉:バブルの本とかを読むと、苗場のプリンスのスキー場に行くのが流行っていたのが「バブルの象徴」みたいな。

甘糟:信じられないんですけど、金曜に渋滞するんですよ、私、本当に恥ずかしいんですけど、その時代にカマロに乗っていたことがあって、それで苗場に行きましたからね。危ないですよね、もちろんチェーンは付けましたけど。

もしも今、バブル時代にタイムスリップするならどこへ行く?

長倉:今回始まる前に話していたのが、西武グループ、渋谷パルコ、西武百貨店、ホテル西洋、プリンス。僕は六本木プリンスホテルはぜんぜん記憶にないんですが、それも当時あって。

甘糟:プリンスグループは弟のほうで、ホテル西洋とかセゾンとか六本木WAVEとかはお兄さんの堤清二さんのほうなんですよ。

長倉:僕は音楽が好きだから……。

甘糟:六本木WAVEはよかったですよね。

長倉:WAVEってもうどこにもないんですかね? いろんな店があったと思うんですよ。当時、輸入レコードを買おうと思ったらタワレコかWAVEだったんですよね。

甘糟:私は六本木のWAVEしか行ったことがないのでわからないんですが、「今、もし1日だけタイムスリップするとしたら?」とこの本を書いたらよく聞かれるけど、レストランとかディスコとかじゃなくて、WAVEに行きたいかも。1階がレインツリーというカフェバーで、そこでみんな待ち合わせしていましたけどね。

長倉:僕が大学生の時は「渋谷系」みたいなのが流行っていたので、どちらかというと渋谷のHMVとか、タワレコとか。久々にこの前タワレコに行って、ぜんぜん違ってびっくりしましたね。

甘糟:音楽も(実店舗に)行かないと手に入らなかったじゃないですか、その感覚は今はないですよね。

長倉:逆に今、すごいなと思っているのが、音楽の本とかが好きで買うじゃないですか。曲がその場で聞けるんですよ。(当時は)手に入るまで、下手すれば何ヶ月かかる。

甘糟:輸入レコードを待ったりとかしていたから。

長倉:昔、菓子レコード屋に行って編集してテープを作るのが、僕の編集者の原点なんですよね。未だにプレイリストを作るのが人生で一番の喜びなので。

甘糟:人の本棚を見るのと人のプレイリストを見るのって、その人がわかりやすいですものね。最近出ている電子書籍では、全部Amazonで曲が聴けるようになっているのがあるんですよ。リンクが曲につながって、100曲紹介しているやつもありました。

甘糟:すごい。SFみたいですね。それは知らなかったです。

長倉:だから、その話を読みながら曲が聴けるのが快感でしたね。

長倉:ということで、時間になったので終わりにしたいなと思いますが、最後に甘糟さんから本の宣伝とかも含めて……。

甘糟:(『バブル、盆に返らず』は、)もちろんバブル時代の方に懐かしんで読んでもらうのはとってもうれしいんですが、バブルを知らない時代の方にも別の時代の話だと思って、もう1つの幕末みたいに思って呼んでいただければと思います。渋沢栄一さんは出てこないですけどね。

長倉:ということで、僕らの話は終わりにしたいなと思います。甘糟さん、どうもありがとうございました。

甘糟:どうもありがとうございました。みなさんもありがとうございました。