2024.11.26
セキュリティ担当者への「現状把握」と「積極的諦め」のススメ “サイバーリスク=経営リスク”の時代の処方箋
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坂本建一郎氏(以下、坂本):植松社長、いかがですか? 今の(工藤校長の)話題で何か関連してお感じになられたことはありましたか?
植松努氏(以下、植松):小さい頃から一人ぼっちが大好きだった自分にとっては、孤立という状態は普通な状態なので困ったことがなかったなと思いながら、「なんて答えればいいんだろう」と困っていたところだったんですよ(笑)。
坂本:なるほど(笑)。
植松:おそらく性質だと思います。僕と似たような性質の人は他にもいっぱいいると思うんですけど、さらに僕にとって力になっているのは、明らかにタイガーマスクとかデビルマンとか、一人ぼっちに負けない人たちでしたから。まあ、彼らも苦悩していますけどね。
坂本:(笑)。
植松:でも、その苦悩する姿がちっちゃい頃にインプットされたことが、また僕の強さになったのかなとか。『宇宙海賊キャプテンハーロック』とかも仲間はいるけど一人ぼっちですからね。「自分を捨てた地球を守るのはなぜだ」のような、すばらしいせりふが出てくるんですけれども、そういうのも大事だったかなと思います。
僕は一人ぼっちが平気なので大丈夫なんですけれども、おそらく「依存」をすると、一人ぼっちがつらくなるのかなという気がするんですよね。
坂本:頼っちゃうとそれはそれで逆につらくなることもある、ということでしょうか。
植松:僕はあちこちに講演に呼ばれるんですけれども、そこに持って行くリュックサックにはまずプロジェクターが入っています。それで、D-SubとHDMIのケーブルとブースターと分配器と予備電源、全部を詰め込んでいるんですけれども、なぜかといえば、行った先の学校で準備がされていないことがあったりとか、装置が壊れていることがあるんですよ。
坂本:PCとプロジェクターがつながらないとか、よくありますよね。
植松:そこで怒ってもしょうがないんですよね。怒っても解決しないものね。やりたいことは、子どもに思いを伝えることですから、「じゃあ自分で全部準備しよう」と思っているんです。例えもう「何も準備していませんでした」みたいな学校があっても、別に気にならない。
坂本:なにがあっても大丈夫だよ、と。
植松:淡々としゃべって帰ってくるので問題ないんですね。おそらく寄っかかっていると、何か寄っかかるものがないとつらくなっちゃう。だから自分で立つだけの準備は、必要かなという気はします。
植松:あと、うちの会社の子たちには「仲良くなるのもいいけど、仲良くならなくてもいいよ」「嫌な人いるからね」「どうしても相性合わん人いるでしょ?」「ただ、優しくしようね」と話しています。
嫌な人であっても、その人が困っていたら助ければいいし、あと「自分の心地良いとか不愉快だという感情でもって、仕事をするな」「ミッションはミッションです」「好き嫌いで判断するんじゃない」「すべきことをしましょう」とも話しています。
「仲良くしなくていいけど、優しくしようね」と言っていると、なんとなく、みんないい距離感で仲良くなっている感じがすごくするんですよね。うちの会社は27名ですけども、バンドが5つあります。掛け持ちしてバンドやっていますけれどもね(笑)。みんなその時は楽しそうです。でも(5つのバンドが合わさって)そこで1つのオーケストラにならないのは、やっぱり対立しているからなんですよ(笑)。
坂本:(笑)。
植松:微妙なバランスを取りたがるのが、5つのチームなんですよね。おもしろいなと思うんですけど。だから、無理に仲良くならんでいいし、寄っかからんでいいしと思います。
植松:いろんな学校を見ていてちょっと感じるのは、いじめと同じ構図が先生の中で起きていることがよくあるなという気がします。声がでかい人間がわあーっとやっていて、それを嫌な顔をして見ている先生も何人もいるのに、その大きな声の先生には誰も何も言わないというね。
その結果、高圧的な、管理的な学校・クラスになっちゃっていることがよくある。そりゃ子どもたちのいじめもなくならんわな、という気がしますよね。先生たちに人間関係の構築の仕方がわかっていない人がすごく多いというか、「学生のままで来ちゃったんだろうな」「もっとプロ意識ちゃんと持ったほうがいいよ」というのは、すごく思います。
坂本:ありがとうございます。山田先生、いかがですか? 「理想を掲げて、そこと比較して、勝手に不幸にならないほうがいいよ」「もっとプロ意識を持った方がいい」といった、そういう話かなと私は受け止めたんですけど。
植松:(笑)。
山田洋一氏(以下、山田):え、そういう話だった?
坂本:あれ、違うの?
(一同笑)
山田:いや、耳が痛かったです。
坂本:痛いでしょ? なんか耳を押さえているなと思って見ていましたもの(笑)。
山田:(笑)。それでもやっぱり聞かなきゃいけない話だなと思って。
坂本:そうそう、がんばってくださいね。
山田:がんばります(笑)。
坂本:(笑)。チャット欄に書いてくださった方がいますが、僕自身工藤校長の言葉から学んだことはたくさんあるんですけど、確かにここで書いてくださった「言葉の選び方ってとても大切」というのも1つあって。
言葉の選び方と並べ方。これについて何かエピソードというか、対話の技術で「こうしたらいいんだ」ということがもしあればお伺いしたいです。工藤校長、言葉の使い方の大切さとか、配列のことで今、ここに参加してくださっている方に伝えたいことってありますか?
工藤勇一氏(以下、工藤):でもこれは常にじゃないですか? 今日は教員系の方が多いと言ったので、少し直接的にお話をしています。
坂本:そうですよね。かなり熱を込めてお話をしてくださっていると感じています。
工藤:今日はふだんより直球で話をしていますけど、ふだん講演をする時には、必ず最初にこういう枕詞を付けているんです。僕の話って、教員にとってけっこう苦しい話が多いんですよ。「自分が良かれと思って、すばらしい教員を目指してやっていたことが、実は真逆のことだった。実は、今の日本社会を作っているのは、自分がやってきたことそのものだった」ということに気が付いていくわけだから、これはすごく苦しいことなんですね。
だから、僕は枕詞として最初にその話を言うんです。植松さんの話もいつもとても温かい言葉から始まりますよね。たぶん日頃からすごく気を付けているんだと思うんですけど、「自分の使った言葉が、相手にどう伝わっているか」から言葉を選んでいる人や、「自分の使った言葉で、相手にどう聞いてほしいか」と思っている人では、言葉の選択の仕方が違うんです。
工藤:例えば僕が講演をして、一番最後に「今日の話はとても苦しい話だったでしょう」って言いますよね。この言葉を一番最後に持ってくるのと、一番最初に持ってくるのでは、話の聞かれ方が違ってくるのがわかりますよね。
一番最初に「苦しいですよ」って断りを入れておけば、僕の話がどんなに耳の痛い嫌な話であっても、聞こうとしてくれるじゃないですか。でも、もしいきなり攻撃的な話をずっとして、最後に言い訳のように「僕の話、苦しかったでしょう」って言っても、その前にすでに聞かれていないことが多いんですよね。「もう、こんな話は聞かない」「もう工藤の話なんか聞くか」って思われても当然だと思います。
それと同じことを、教室内や職員室の日常でみんなやっているんですよ。だから例えば校長室に掛け合いにいくといった時に、「ああ、この校長はきっとわかってくれないな」と思ったら、「じゃあこれは直接的にぶつけないほうがいいのかな」とか、そういう戦略って出てくるでしょう? 人との会話は、やっぱりどの言葉を選ぶか、どうやって声掛けをするかといった第一声がすごく大事です。
何か感想を求められた時に、言いたいことがいっぱいあって、本当は嫌なことがいっぱいだったんだけど、「いや、よくがんばりましたね」とか「すてきでしたよ」とか言って、その言葉の次に課題を言われるんだったらおそらく多くの人はその話を聞きます。でもいきなり課題から言う人の話って、もう聞きたくなくなるじゃないですか。僕だって「工藤さんの話を聞いてどうでしたか?」って言われて、いきなり課題から言われたら、「せっかく話してあげたのに」って思う。
やっぱり人間というのは、どうしても感情をコントロールするのが難しい生き物だということですよね。そのことを自覚しておくことが、とても大事です。言葉を選択する時には、聞いてくれる人がどう聞いてくれているのかをイメージして言葉を選ぶとよいと思うし、それをどの順番で話すかも、聞いてくれる人、それから目的のために何を選ぶかが大事です。
工藤:常に「目的は何か?」「何が大事か?」と考えておくと、感情をコントロールできるようになるんですよ。例えばA先生とB先生がぶつかったとしますよね。それで「この人はもう感情的に絶対に許せない」となったとします。
坂本:それは誰でも日常的にあると思います(笑)。
工藤:おそらくA先生もB先生も頭にきて、「暴言でも吐きたい」と思うでしょう? それでもそうしないのは、「でも暴言を吐いたら、きっともうこの関係は終わっちゃうな」ということだけじゃなくて、学校のためにどうしても実現したい目的があった時にどうするかなんです。
この今の感情を優先するか、目的のために自分の今の感情とは異なるけれども、いまはぐっとこらえて別の行動や発言を取るかって選んだ時に、その時の自分の思いをそのまま出すことを優先させるのではなく、それよりも、目的を実現するほうが自分にとっては優先事項だと思ったら、そっちを取れる人間になれるんですよ。
これができる人間にならないと目的は実現できないということを、大人になったらみんな覚えていかなきゃいけないんです。これが社会人だと思うんです。「本当の目的のために、どう自分を修正する?」という話だからです。
これは、本当は子どもの頃から教えられるんです。小学校時代から、子ども同士がけんかをした時から、ずっとそうやって教えられるはずのに、日本の教室では「仲直りをしなさい」と教えちゃうからだめなんです。
坂本:「反省しろ」とかもよく指導されますね。
工藤:本当はそこで経験しないといけない学びのプロセスを教員や大人が全部奪い取っているんですよね。本当は子ども自身に、そのプロセスを感じさせる支援をしなきゃいけないんですよ。
坂本:おっしゃるとおりですよね。子どもたちのトラブルについて大人がどう関わるかという話と同じだなと思って聞いていました。
工藤:そうですね。保護者の方とトラブルになった時もそうですよ。今の学校ってAくんとBくんがトラブルになると、すぐに教員は保護者の顔を思い浮かべて、「Aくんが加害者だったりするとトラブルになるんじゃないかな」とすぐ思うわけですよ。それで、「クレームを言われるんじゃないか」「学校の対応が悪いって言われるんじゃないかな」と考えて、臆病になることがあるんです。でも本当は、臆病になる必要はぜんぜんない。
坂本:ないですよね。
工藤:AくんとBくんがトラブるなんてことは日常的な話だし、その時に学びに変えてあげるのが僕らの仕事だから、「間に入ってあげますよ」って言って、「先生、間に入ってくれてありがとう」と言われるような対応をすればいいわけじゃないですか。でもそう言われないようになってしまっているのは、サービス産業のようなことを自分たちがやっているから。よかれと思ってしているのに逆恨みされるような構図は、実は教員たちが作っているんですよね。
それを理解してもらうためには、AくんとBくんの親にも初めから言っておけばいいんです。「学校は学ぶところですよ」「だからけんかが起こったら、僕らのやることは仲直りさせることではありません」って最初から話せばいいですよね。「仲直りさせることが大事なんじゃなくて、AくんもBくんもこういう場合が起こった時、または同じようなことが現実で起こった時に、どういう行動を取ればいいかを判断できる子になることです」と。
工藤:感情的には「どうしてもあいつ許せない」という気持ちになっても、「明日から平和になるためにはどうするかは、人が作ってくれるものじゃなくて、自分たちが作るんでしょう?」って話さないといけない。依存心の強い子ども、依存心の強い親が育ってしまうと、そのうちに学校を裁判官のように、ジャッジをする人にしたがるんですよ。
坂本:自分たちで考えて結論を出さず、「決めてくれ」ということですね。
工藤:それで挙げ句の果てには「平和な世の中を作ってください」みたいなことを要求されちゃうんです。そもそも最上位の目標が合意できていないから、それをきちんと保護者に説明していないから、その具体的な指導方法や支援方法まで説明していないから、そういう真逆の対応を求められてしまうことになる。
子どもが謝りたいか謝りたくないかは自分で決めればいいし、「それを決めた場合のリスクは自分で負わなきゃいけないよ」と教えていかなきゃいけない。そうすると学校の先生たちが教えなきゃいけないのは、「よりみんなが幸せに暮らすためには、どうすればいいか」ということを、子どもたち自身が自分で選べるようになることですよね。そこがわかるように支援していけばいいわけでしょう?
さっき植松さんが言ったように、「誰だって嫌いな人間がいるのよ」「僕だっているよ」「でも、その嫌いな人に嫌なことをしちゃだめでしょう?」「だって、そうしたら世の中成り立たないじゃない?」みたいなことを、子どもたちが学んでいけばいいですよね。
同じように「人は差別しちゃう心を持ってしまうことがあるんだよ」「でも差別してしまうことの意味を知ったら、差別しないようにすることも誰でもできるよ」「だから差別をしない人間になろうね」と教えることができる。「差別する心をなくせ」とは言えないですよね。
坂本:自分ですら完全に制御できることができない心そのものの動きを変えるというのは、相当に難しいことですよね。
坂本:山田先生、いかがですか? 「とはいえ」と反論したくなるところがあるのかなと思いながらうかがっていましたけれども。納得されました?
山田:そうね。あまり個別の事例に入っても仕方がないんだよね。だから工藤校長とか植松社長のお話を聞いて、「でも、こういう親もいるでしょう」みたいなことを言っても、しょうがないわけで、あまり意味がないことですね。
ただ、今のお話を聞いていて思ったのは、やっぱり「目的」なんだよね。その場で腹が立ったり、「こいつ嫌なやつだな」とか「この校長、どうせわかんねえだろうな」と思って、その場の自分の感情とかプライドが勝っちゃうのは、「目的意識」がないからなんだよね。
だから「子どもたちのために何ができるか」とか「この学校をもっと良くするにはどうしたらいいか」ということさえ考えれば、人と人との関係性なんてものは、本当はその目的の下にあるはずなんだよね。
坂本:そのとおりですね。
山田:そこで腹をくくれるかどうかだと思うんだよ。そこはやっぱり自分自身に痛みが伴うよね。孤独と戦わなきゃいけないし、答えが何かわからない中で耐えて立っていなきゃいけない。そういうことも必要だし、それが覚悟なのかなと思って、今お話をうかがっていました。
坂本:「学校は何のためにあるのか」というところもありますよね。「子どものため」という言葉もよく聞きますが、その言葉を教員が使うと、そもそもの目的が少しぶれてくるような気もしていて、「学校って何のためにあるんだろう」ということを、しっかり考える必要があるのかなと思います。
工藤:今山田さんがおっしゃったことが、学校で教えることですよ。「自分の感情を優先するんじゃなくて、目的のためにどう行動するか」ということを学べる場所が、学校でなければいけないんですよね。
心を優先にしているとどういうことが起こるかというと、例えば昔、明確に昔も今もだめなことですが、体罰を行う教員がいたでしょう? もともと学校教育法第11条に「体罰禁止」が規定されています。民主主義の国において「法律」は世の中で起こっている対立を解決するために作られたものだから、決めた法律をみんなで守らないといけないんです。
もし十分な内容ではない法律であったとしても、それを改正したり、作り直したり、理不尽なことだと思えば、みんなOKになるまで話し合って、これをだんだん育てていくのが民主主義というものなんですよ。民主主義って、終わりがないんですよね。終わりがなくて、みんなで成長させていくものが民主主義なんですけど、それを勘違いしているんですよ。
「誰かに与えてもらうのが民主主義だ」と考えている人たちが教員の中にとても多いと僕は思っている。すごく残念なことだと思うんです。だから、そんな人はいないと思いますが、もし体罰を肯定している人がいたとすれば、法律を否定して、暴力を振るっているんですよね。
坂本:(笑)。やっていることが、えらく矛盾しておりますが、体罰を振るう人は、俯瞰して見ると構造的にそういうことをやっているわけですよね。
工藤:その自己矛盾に気が付いていなかったんですよ。
工藤:かつてはそんなことすら気が付いていなかったんです。でもそれを成長させていけるのは、やっぱり学校で。だから学校の教員は「学習指導要領をどう実現させていくか」ということばかり考えていてはだめなんですよ。
その上の教育観とか民主主義とか社会というものを勉強していかないと。もっと本質的に物事を考えられる人間にならないと。それをきちんと理論として概念化されるまで積み上げなきゃいけなかったんですけど、その積み上げる努力を、今まで私たちはしていなかったということです。だから「本当の最上位目標って何なの?」という議論を、きちんとできる国に変えなきゃいけない。
それができているヨーロッパが日本よりもはるかに民主主義の度合いが高いのは、陸続きの欧州では、悲惨な戦争がかつて行われて、多くの人命が失われたからだし、「戦争」があまりにも身近だったから。フランスとドイツはかつては仲が悪い時期があったわけじゃないですか。文化も違って言葉も違って、戦争で土地を取り合ったこともあって。
でも彼らは手を結んでヨーロッパ連合(EU)を作った。今の日本にEUのような成熟した議論ができるでしょうか。「関税ゼロにしよう」とか「国境なしにしよう」とか、自分の国の利害を損なうかもしれないけど、移民・難民もみんな受け入れるわけでしょう?
もっと国際的な水準で、「教育って何のため?」と考えられるような学校教育でなきゃいけないんだろうな、と僕は思うな。
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