コロナ禍でつかんだ戦略転換のきっかけ
梅澤高明氏(以下、梅澤):じゃあ、もう1回本題に戻したいんですが、戦略転換のきっかけってどうやってつかみましたか? どなたからでもいいですが。
加藤史子氏(以下、加藤):回答になっていなくて申し訳ないのですが、戦略転換のきっかけは「きっかけ」なんて優しいものじゃなくて。4月には、インバウンド市場がゼロになってしまい、今すぐ戦略転換し目先のキャッシュを稼がないと、数ヶ月後には資金ショートしてしまう危機が迫っていた状況だったので……(笑)。
梅澤:昨年の春頃ですね。
加藤:はい。なのでそれがきっかけって感じです(笑)。すいません。
梅澤:なるほど(笑)。山野さん、どうぞ。
山野智久氏(以下、山野):僕はやることがなくなっちゃった時に、お客さんのインサイトを見にいくことできっかけをつかんだんです。
結局、レジャー施設に対してのチケッティングシステムを提供したのも、営業再開になったあとに「レピュテーションリスクが怖い」という施設からの声から発想を得て、じゃあそうならないようにするために何をすればいいのか? という手段として、電子チケットのシステムがあったっていう話なんですよね。
あとは消費者向けには、「おうち体験キット」みたいな、新しいプロダクトも用意したんです。それはやっぱり、お子さま連れのご家庭ってNetflixだけだと飽きて、「子どもに良い影響があるのかわからない」みたいな悩みが、僕のSNSからもけっこう見て取れたので。
「これは良質な学びにつながる体験に需要があるだろう」と思って、そういうプロダクトをやりました。なので僕は、顧客のインサイトからヒントを得ました。
ベンチャーと大企業の創業経営者の違い
梅澤:そういう緊急事態の中でも、顧客のインサイトをちゃんと見つめに行けるっていうのは、なかなかないことだと思うんですが、山野さんはどうしてできたんですかね?
山野:大企業と違ってベンチャーって、まだ創業経営者の目が黒いというか。僕自身は顧客の声からサービスを作り出している人間なので、マーケティング部門が数字だけで分析をして、数字が独り歩きしてプロダクトを出しているというフェーズではなくて。
必ず、自分自身がプロダクトに顧客のインサイトの中からニーズがあるのかを見に行っているのが、会社の中に浸透していて。自分自身もその陣頭指揮を取っているので、できたんじゃないかなと思います。
梅澤:ずっと山野さんが自ら率先してやってきたから、環境が変わった時にもやり続けることができたと。そんな感じですかね。
山野:そうですね。それがカルチャーにもなってるので、メンバーからもアイデアがいっぱい出てきましたし。
梅澤:なるほど、わかりました。ありがとうございます。
父親も祖父も起業家、家系で身についた「先読み力」
梅澤:角井さん、コロナの前の話でいいんですが、今まで何度か戦略転換してこられてると思うんですけど、そのきっかけってどうやってつかんでますか?
角井亮一氏(以下、角井):自分の生まれみたいな話もしたいと思うんですが……。
梅澤:すいません、あんまり時間がないのでポイント絞ってお願いしたいです(笑)。
角井:そうですか(笑)。自分はおじいちゃんも父親も起業家なんですよ。父親のところはもうずいぶん見ていて、同じ物流(事業)なんですが、たぶん父親も4回事業転換してると思うんですよね。そういう姿を見ていて、やっぱり先読みはけっこう大事だね、とは思ってます。
なのでさっきの逆境のタイミングの時で言うと、「この事業はやばい」「この事業はチャンスだ」というところが肌でわかっていた。あとは決めで「じゃあ行くぞ」というところですかね。
梅澤:いつも先読みの訓練をしているというか、それを社長自らがやり続けているから、そういう意味では環境が変わった時にはやっぱり対応が早いということですか。
角井:そうですね。イー・ロジットができる前も、実は「漫画喫茶やろう」とか。楠本さんには笑われるかもわからないですが、今のブルーボトルコーヒーみたいなことを1999年にやろうとしてたので。その時にいろいろ見てると、やっぱりタイミングが大事なんだ、ということはすごく学んでました。
梅澤:なるほど、わかりました。ありがとうございます。
「エモーション」は人間にしか生み出せない
梅澤:そろそろいくつかいただいてる質問の中から、特に多くの方が感じてるものをどなたかに拾っていただきたいです。みなさん共通して「従業員を守る」っていう選択をされてますよね。一番多かった質問は、「その理由はどこからくるんでしょうか?」と。
山野:じゃあ、僕いきます。「従業員を守る」って人件費だけの話じゃなくて、採用コスト、あとはカルチャーを醸成するコストはかなりかかってるんですよ。むしろみなさんもそうだと思うんですが、テクノロジーの会社も飲食店も、結局コアコンピタンスって「人」です。
人がサービスを生み出す業態なので、企業としてはそこが一番重要な資産なんですよね。なのでPL・BSベースで、「人件費」という項目だけで見ると人件費なんですが、「企業の競争優位性は何ですか?」って言われると、人だったりするんですよ。
それは「ミッションに共感した人」ですね。ここが企業の競争優位性になり、ここがあるからGoogleにも勝てるかもしれないんですよね。これは人件費だけで見られないから、人がコアコンピタンスになり得る業態の人はたぶん、「従業員を必ず守る」っていうのを持ってくるんじゃないかなと思ってます。
梅澤:なるほど。
楠本修二郎氏(以下、楠本):「文化やライフスタイルを作っていく」ということで考えると、これはもう人でしかできないわけですよ。今、AIでスイーツを作る実験をやっていて、うまくいきそうなんです。そうすると大量生産もできるし、安定した味の供給もできるんだけれども、そうじゃなくて「エモーション」ですね。
だから、僕らがNTTドコモさんとご一緒している事業でのEコマースも「エモーション・コマース」と言ってるのですが、「顧客感情価値をどうやって増幅させるか」ということは……僕が考えているアイデアを、ものすごく共感して拾ってくれるのはやっぱり社員なので、そこがなくなったらもうスッカスカです。僕なんかもう辞めちゃったほうが良いかもなっていう(笑)。
コロナ禍を「生き延びる」だけでは、上を目指せない
加藤:私も前職がリクルートで、18年勤めてたんですが、あの会社はやっぱり「人が価値の源泉」ということを叩き込んでくるので(笑)。自分の考え方としてもうそれが刷り込まれてしまっていました。
あと、投資家とか社員に向けて「インバウンド需要は必ず回復するから」ってずっと言い続けてたんですね。「ピボットしないんですか?」って言ってくるほかの人や投資家もいましたけど、「しません」と。旅行需要、訪日外国人需要は必ず戻るし、中長期的には成長産業であり続ける、って言っていたので。
それを回すのに最低100名以上は要るということに対して、もし自分がここで従業員を解雇してしまったら「必ず市場は戻るし再成長する」ということに対する矛盾になるんですよね。なので、単純に100人採用するのって時間もかかりますし、もう一度やるのは嫌だったっていうのもありますけど(笑)。
やっぱりみなさんと同じで、生き残るだけではしょうがないと。コロナ禍を生き延びるだけでは、たぶん「良い地方中小企業」で終わりなので。スタートアップでやっていく限りは人がいないと果たせない、需要回復期に(目指す目的を)果たせないって思ってましたね。
逆境とは「社会が変わるチャンス」
梅澤:ありがとうございます。少なくとも楠本さん・山野さん・加藤さんは、直近1年で本当に大変な状況を乗り越えてきてると思うんですが、もう1つ多くの方が感じてるのは、「何がみなさんを支えてますか?」という質問です。
楠本:逆境って「社会が変わる」っていうポイントなので、絶対にチャンスではあるのです。無理矢理ですよ、これ。ある意味やせ我慢で言ってはいるんですが(笑)。でも、やせ我慢でも空元気でも何でもいいから、チャンスだと信じて元気を出せるってことは絶対大事です。
逆境って変化のタイミングだから。変化にワクワクする人生を選ぶのか、それとも「どうしよう、どうしよう」って思うのか。それは僕の人生の自由だし、社員の自由なんですよ。だとすると、逆境でワクワクできる人生を選んだほうが絶対に楽しいに決まってるので、そうするって決めてるだけの話です(笑)。
梅澤:すごい(笑)。山野さん、さっき「リーダーは絶対折れちゃいけない」って言ってましたけど。やっぱりその使命感ですか?
山野:そうですね。使命感と、あとは実現したい未来があるということで起業してるので、そこに対しての継続的な思いがある。ここにお集まりのみなさんも創造と変革の志士だと思いますが、意志の部分ですよね。それが責任感に転化するっていうことだと思います。
楠本:さっき角井さんがおっしゃったことに、僕は大賛成です。やっぱり、未来をある程度妄想しておくほうがいいと思うんですよ。
そしたら逆境が来た時には、「これってあの妄想の変化の現れかもしれない」と勝手に感じて、新しいアクションが生まれるんじゃないかなと思うので。事前のトレーニングはやっぱりやっておいたほうがいいなって、今回つくづく思いましたね。
梅澤:突然宣伝しますけど、今日のナイトセッションで「シナリオプランニングのセッションをやれ」という指令が来てまして。まさにそれが今の話そのものです。宣伝でした(笑)。
楠本:(笑)。
経営者4人が答える「逆境における経営者に一番大事なこと」
梅澤:最後にみなさんにお伺いします。一言でお願いしたいんですが、「逆境における経営者に一番大事なことは何ですか?」。
加藤:「明るくいること」ですかね。
梅澤:角井さん、どうぞ。
角井:やっぱりポジティブでないといけないと思うんですね。それに尽きると思います。
山野:「やることを決める」ってことですね。悩んでいると何も始まらないので、具体的に何をやるか決めることだと思います。
梅澤:なるほど。
楠本:僕は「いいこと考えた」って毎日アイデアを言って、社員に無視されたりしてます(笑)。「でも、お前らに負けねえぞ」という気概でやっている感じです(笑)。だからポジティブさも大事だし、やっぱり「発案して、実行する」という、もうそれしかないんじゃないですかね。
梅澤:なるほど、わかりました。ありがとうございます。……と言ってるうちに、もう時間が来てしまいました(笑)。
安易な人件費削減は、中長期的に見ればマイナスにも
梅澤:まとめる必要もないぐらいクリアなメッセージを、4人のパネリストの方からいただいたように思います。5人目の逆境にいる経営者でもある私として、今日のラーニングを申し上げると……。
1つ目はやっぱり「明確にモードを変える」。これ、加藤さんの話がすごくわかりやすかったですが、キャッシュ・イズ・キングだし、資金調達できればするし、それから新しい収入源があればとにかくやるという話ですね。多かれ少なかれ、みなさんそれをやってきた1年だったように思いました。
それから2つ目。これも全員の方に共通している話だと思いますが、「企業の競争優位性は何だ?」って考える。それが人であったり、あるいは企業文化であるならば、ちゃんとそれに基づいたかたちでのリストラクチャリング、あるいはリポジショニングをしなければいけませんよと。
安易に人件費を切りやすいから切るというのが、中長期で考えると正解でないケースは多いので。もちろんそれが正解のケースもあると思いますが、それは本当に自分の会社の立ち位置、あるいは強みを考えて(決めたほうがいい)。それから、将来到達したいゴールを考えた上で意思決定をしてください、というのが2つ目だったと思います。
それから3つ目。もう4人共通してですが、やっぱりポジティブですよね。楠本さんは「やせ我慢」って言ってたけど、ただのやせ我慢の人にこれだけ未来の話はできないので。半分やせ我慢だけど、半分は本当にポジティブに、未来の「to be」を考えつつ。
そこに「今までと違う道筋でどう行ったらいいだろう?」という思考訓練もしつつ、いろんなかたちで社員を巻き込んで、社員からも未来に向けての活力を引き出すようなことを、みなさんそれぞれされてきてるのかなと感じました。
パネリストのみなさん、本当に貴重なお話をありがとうございました。参加者のみなさんもありがとうございました、大きな拍手をお願いします。