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著者が解説|「70歳まで第一線で働き続ける」最強のキャリア資本術『プロティアン』(全1記事)

ビジネスパーソンは「現状維持型」と「変革型」に分かれる 想定外の状況に対応できる人の習慣

キャリア論、組織論を専門とする法政大学教授の田中研之輔氏が、自著『「70歳まで第一線で働き続ける」最強のキャリア資本術【プロティアン】』をテーマに、最新のキャリア理論「プロティアンキャリア」(変化に対応しながら主体的に形成するキャリア)について語っています。好きなことが見つからない、ライフイベントで思うようなキャリアを描けないといった状況でも、自らのキャリアを主体的に切り拓けるとアドバイスしました。

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「変化に対応できるキャリア」を築くための考え方

田中研之輔氏:私は今、市ヶ谷にある法政大学キャリアデザイン学部の教員をやっています。あとは2020年3月に立ち上げた一般社団法人プロティアンキャリア協会の代表理事をしています。その傍らこれまで25社ほど企業顧問をやらせていただき、今は10数社の顧問をやっています。

このキャリアに至る前に、目指したのは研究者でした。国内の大学院を出て、メルボルン大学とUCバークレーの客員研究員になり、2008年にアメリカから戻って法政大学に着任し、キャリアをスタートしました。

プロティアンは、英語で「Protean」と書くんですが、「変幻自在」という意味で、キャリア論では「変化に対応する」という意味で使われています。

なぜ今、このプロティアンに注目しているか。人生100年時代となり、働き方や生き方が大きく変わると言われています。誰も予想していなかったコロナパンデミックがきて、「今のままでいいのかな」とか「これからどういうふうに生きていこう」と、みんなが考えていると思うんですよ。

「プロティアン」は、そういった「目の前の変化に対して自分は何ができるのか」とか「何をしていこうかな」という時のキャリア論の1つの知見です。その最新理論を「プロティアンキャリア」と言います。変化に対応するキャリアですね。「自ら主体的にキャリアを形成していこう」という思いが込められています。

「人生100年時代の生き方と働き方の処方せん」

もともと私はキャリア論を専門にしているので、文献もけっこう読んできたんですが、いつもこの「Protean」というワードが出てきたんですね。一番最先端の理論でもあるし、これは何なのかと調べていくと……実は1976年にアメリカのボストン大学のダグラス・ホール教授が打ち立てた理論で、当時では早すぎて。今の日本のこのタイミングで誰も紹介していなかったので、私自身が日経さんからまとめて紹介しようと思ったんです。

その経緯には働き方改革と、経済界による日本型雇用制度の転換があります。トヨタ自動車の豊田(章男)さんとか経団連のトップを務めた日立の中西(宏明)会長がよく言っていた「これまでの終身雇用って維持できないよね」とか「これからの日本型雇用はもう少しハイブリッドに変えていかなきゃいけないよね」という時代状況があって、書き始めました。

本ができあがってみなさんに届き始めたフェーズで、コロナがきました。僕は今「3つの歴史的モーメントの交差点」と言ってるんですが、「政界による働き方改革」と「経済界による日本型雇用制度の歴史的転換」、そして「コロナパンデミック」ですね。この3つの歴史的モーメントが合わさって、「やっぱり我々はこれまでの生き方を捉え直して、これからを考えていかなきゃいけないかな」と考えるようになったタイミングでこの本をまとめました。

僕がこの本に書いたメッセージは「人生100年時代の生き方と働き方の処方せん」です。お医者さんが薬を処方するのと同じように、僕自身はキャリアの専門家として、この1冊の中に「お薬を入れた」と思ってるんですね。

なので読んで、味わっていただくと、「生き方や働き方を変えてみよう」「今日から変えられるんだ」「今日からアップデートできる」「バージョンアップできる」などと思っていただきたいなと考えています。

「キャリアは自分のために築く」アメリカ、「転職は悪」の日本

思い出すのは、アメリカのバークレーにいた時の友人のことなんですよ。その時、彼は23歳ぐらいで、学部を卒業して働き始めますよね。働き始めて10ヶ月ぐらいで2社目に行って、その半年後ぐらいにまた転職したんですよね。その彼が「キャリアは自分のために築くものだ」と言ったんですよ。それがまず原初体験としてありまして。

それで日本に帰ってきて、いざ周りを見てみると「転職は悪いものだ」とか、主体的にキャリアを形成することを「そんなこと組織の中でありえないだろう」みたいな雰囲気があって。この2つのギャップって何だろうというのが、僕の中でものすごく大きなエネルギーになりました。

別に「アメリカ型を導入しましょう」って話じゃないんです。ただ、アメリカの友人のようなケースもあるのに、日本では1つの社会の中で、1つの企業の中で、自分のポテンシャルをちょっと抑制するようなかたちで、我慢しながら働き続けてる人が多い。これは何かおかしいんじゃないのかなと。

先ほど「処方せん」とお伝えしように、1つの組織の中で自分のポテンシャルを我慢して働く、つまり「『つまらない』『やりたくない』と思いながら、我慢して働く生き方なんて古いよ」と伝えたくて、まとめました。

やりたいことがなくても、没頭できるものがあればいい

僕は、今(やりたい)ことがない人が、それを見つけるのは難しいと思っています。だけど、一瞬一瞬の「没入」と僕は呼んでるんですけど、フロー……要は「没頭する経験を積み重ねる」というのはすごくポイントだと思ってて。そして、それには法則性があります。

『プロティアン』にも書いたんですけど、自分がこれまで蓄積してきたスキルと、目の前のチャレンジ。この相関関係を取っていって、これが見事に当たるときに人は没頭できるんですね。みなさん趣味とかやりたいことをやってる時って、「時間を忘れる」とか言うじゃないですか。「本当に楽しくてあっという間に過ぎた」と言うんだけど。

仕事やビジネスに関して、そういう感覚になる人が少なすぎるんですよね。だから目の前のスキルに対して、チャレンジを自分で明確に定めて、この「ゾーン体験」を作っていくようにするんです。そういう意識でやっていると、その先にやりたいことが結果的についてくるし、見えてくる。

悩んでると、何か遠いものを探そうとするじゃないですか。そうすると絶対見えてこないんです。だから、「やりたいことを見つけるためには、まず目の前のフロー経験を積み重ねましょう」と意識するようにしてます。

トレーニング次第で、誰もが変化に対応できるようになる

「アイデンティティ」と「アダプタビリティ」の掛け算を意識してほしいと思っていて。アイデンティティはわかりやすいと思うんですよ。みなさん自身、みなさんらしさだよね。「自分らしさ」。働いている上で自分らしくあることとか、自分らしくやりがいを感じられることを大切にしましょうということと、「変化」というのが1つのテーマで。「アダプタビリティ」って概念は、変化に対応する力、アダプトする力なんです。

この「アイデンティティ(自分らしさ)と「アダプタビリティ(適合していく力)」。この両方を大切にして、具体的にどういうメソッドで、人生100年時代の生き方と働き方をより良くしていけるかをこの本に書いたので。そのあたりを読んでほしいなと思っています。

変化に対応するというのは、トレーニングだと僕は思っていて。例えばふだん右手でメモをとてるんだったら、その日は午前中だけは左手でやるとかね。右手で歯磨きをしてるんだったら、左手でやるとか。

これって自分の中で起こせる変化なんですよね。例えば同じ最寄り駅から同じ経路で帰るんじゃなくて、少し違う経路で帰ってみるとか、1つ前(の駅)から帰ってみるという。これって全部、自分でできる訓練なんです。

そうすると、変化に慣れてくるんですよ。そして、次に何が起きるかっていうと、今度は変化が欲しくなる。キャリア論で「スティミュレーション」と言うんですけど、だんだん自分でそういう変化や「刺激」が欲しくなるんです。そうなってくると、目の前に予想もしなかった変化がきた時に「あ、また1つの変化なのか」と思って、行動に移せるような人材になっていくから。何か日頃のルーティンを1つ変えてみるというのがポイントかなと思います。

ビジネスパーソンは「現状維持型」と「変革型」に分かれる

例えば「DX」と言われているように、今は加速度的に、これまでやってきたことが通用しなくなっています。そうすると、ビジネスパーソンが2つに分かれる。

僕は「現状維持型」と言ってるんですけど、通用しなくなったことに、不満や文句が出ちゃう人(が1つ)。もう1つは「変革型」。(これまで)できなかったんだけど、今はできるよね、と。例えばテレワークで「ZoomやTeamsで(オンラインでコミュニケーションが)できるようになったよね」と捉える人か、「通常の対面のコミュニケーションが取れなくなったよね」という理解をしちゃう人か。それによって目の前の出来事が真逆に見える。

この見方ってすごく大切で、僕は変化に対してすべてネガティブに捉えるんじゃなくて、変化に対して一歩を踏み込んでいける、アダプトしていけるような人になってほしいと思っているんですよね。

ここだけの話、私はこの本でけっこう痛恨のミスを1つ犯したんです(笑)。それは何かというと、「70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術」という副題です。考え抜いて決めたんですけどね。

本が読まれるようになってきて、あとがきに「なんでもご意見ください、メールください」と書いているので、メールがきました。「なんで70歳までなんですか」と。「僕は当てはまらないんじゃないですか。僕は77歳なんですけど、なんで『70歳まで』と言ってるんですか」って。

僕はそこをすごく反省していて。『LIFE SHIFT』という、人生100年時代に向けた本が日本でもけっこう読まれたんですけど、『プロティアン』はあの本のパスを受けたかたちで出そう、と考えたんです。

その時に僕が想定したのは、ビジネスパーソンの方たちがより主体的に働いていけるという本だから、60歳定年、65歳定年、少し雇用延長されて70歳ぐらいまでかな、という意味での線を引いたんです。僕自身が1つの罠に囚われていたなと。つまり「100歳まで」と付けてもよかったんじゃないかな、というのが1つの裏話ですね。

この本は、比較的わかりやすい文章で書いているので、高校2年生ぐらいから、メールできている78歳とか、80歳って方も読まれていて。そういう意味では、すごくポテンシャルを感じますね。

いつから、どこから、何歳からでもキャリアは切り拓ける

それから、僕は想定していなかったんですけど、お子さんを育てられている「ママ」っているじゃないですか。女性には「キャリアが止まる」という思いがあって。

大学を出て、働いて、お子さんが産まれて、産休・育休ってなるじゃないですか。そうして、第一線でいたキャリアが止まっちゃったんだと。

そのあとアルバイトをしてなんとかキャリアを形成している人たちがたくさんいて、自分のことを「めちゃめちゃなキャリアだ」と理解している人が多くて。一貫性のないキャリアを「歩んでしまった」と思っていたんですね。

ただこの『プロティアン』には、「それでいい」と書いているんです。それはめちゃめちゃなキャリアじゃなくて、変化に適合しながら進化し続けている。ある時はママだし、ある時は業務委託を受けている人だし、と経験を積み重ねている。

キャリア資本で捉えると、いかなる経験も変幻自在に積み重なっていくと考えるので。『プロティアン』という括りを届けた時に「私のキャリアは否定されなかったんだ」というメールがくるようになって、そこはすごく嬉しいなと思いますね。

我々は今、歴史的転換期を迎えています。コロナでテレワークになったり、目の前の変化っていろいろあるんだけども。その一つひとつに対して、自分たちは「いつから、どこからでも、何歳からでもキャリア開発はできるんだよ」ってことを、伝えたいなと思います。

1つの組織の中にいて、我慢していたり、悩んでいたり、「キャリアってわかんない」って人たちがたくさんいると思うんですけども。この『プロティアン』をヒントにしていただいて、「今日から一歩。明日に向けて自分の力で、自ら主体的に人生を創っていくんだ」と考えていただければなと思います。どうも、今日はありがとうございました。

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