2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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岩田松雄氏:よろしくお願いします。今回は、2時間分ぐらいの内容を「10分でしゃべってください」と言われてるので(笑)。一番大事なところだけお話ししますね。
「ミッション」を語る前に、そもそも「ミッション」とは「何のためにその企業は存在するのか?」ということです。一般的にビジネススクールとか日本の経営学の授業では「企業の目的は利益の最大化」「経営者の使命=株主価値の最大化」と教えられるわけです。法律的にもそうなってるのかな? 議論はありますけれども、私はそれは違うと思うんですね。
あくまでも企業というのは、自社の事業である商品やサービスを通じて「世の中をよくするため」にある。そういった会社の存在理由としてのミッションがあって、ミッション実現のために企業は存在する。そしてそのための手段として、利益が必要なんですね。
あくまでも利益は手段にすぎない。つまり、企業というのは存続しないといけない。まず最初にゴーイングコンサーン(企業継続の前提)が必要なわけです。利益があがらなければ、企業は存続できないわけですね。そのために利益が必要だということです。
これはドラッカーも、マーケティングのコトラーも同じことを言っています。あくまでも企業それぞれの存在理由、つまりミッションがあって、そのミッション実現のために企業は存在し、そのための手段として利益が必要。その「利益とミッションの位置関係」を間違ってる人は、利益を目的にしてしまっている。
私は利益をまったく否定しません。利益は必要だと思うし、ある意味では「売上」というのは自分たちのミッションの達成度合いの指標だと思います。利益はその効率性の指標だと思います。そういう意味の指標としては大事だと思うんだけれども、それを目的にして失敗した企業の実例もあります。
ですから、あくまでも企業というのは、自分たちの事業としての商品やサービスを通じて「世の中をよくするためにある」と私は思っています。
一般的に経営者やリーダーにとって必要なものは「ミッション」「ビジョン」「パッション」だと、よく言われます。これは本当に大切だと思います。3つとも大切で、なに1つ欠けちゃいけないんだけれども、やっぱり「ミッション」、つまり「使命感」ですね。「何のためにこの事業をやってるのか?」という使命感があればこそ、将来に対して「ビジョン」が描けるし、熱い「パッション」が持てると思います。
(スライドを指して)ある人は、こんなふうにミッションについて定義しています。ミッションとは「与えられた人生において、己のためだけでなく、多くの人々のために、そして世の中のために、大切ななにかを成し遂げようとする決意」と、このように定義してます。
一般的に、経営理念とか「ミッション」とか「ビジョン」とか「バリュー」という言葉があります。あるいは「パーパス」(目的)という言葉も最近では出てきています。『ハーバード・ビジネス・レビュー』のパーパスの特集記事を読んだら、これはミッションとまったく同じだと。
私が今から言おうとしてることと同じことを『ハーバード・ビジネス・レビュー』では「パーパス」と言っていて。そのほうがより具体的になるし、ミッションってなんとなく宗教的な色合いを感じてしまうからだと思います。
ではまず、一般的な定義を説明します。「ミッション」とは、企業の使命や存在意義、何を達成したいのか? を意味します。「ビジョン」とは「ビジュアル」からきてますが「目指すべき方向性」「こうありたい」という姿。「あるべき」姿っていうんですかね。
「バリュー」は、本当に難しい英語ですが、一般的には「行動指針」ですね。あるいは「ガイディング・プリンシプル(Guiding Principles)」という言葉を、外資系なんかでは使ってますけれども、企業の価値観。つまり「ミッション」「ビジョン」をどのように、何を大切にしながら達成していくのか? という「行動の判断基準」を意味します。
僕がここで一番お伝えしたいことは、それぞれの定義を覚えるというよりも、言葉自体の定義をしっかりしてください、ということです。自分たちの会社での呼び名が「パーパス」でもなんでもいいんです。例えば、稲盛(和夫)さんは「フィロソフィ」とおっしゃってますね。京セラの経営理念だったかな。「経営理念」と言っている日本の企業に多いですね。
だから、一番大切なことは、それら言葉自体の定義をしっかりしてくださいと。私も興味があって何百社という会社を調べましたけど、けっこうみんな、この定義と違った使い方をしてるんです。私はそれを「間違ってる」とは思わないです。経営理念や社是など、それぞれの言葉の定義をしないでその言葉を使ってることに問題があるんですね。
定義がしっかりしてないから「ある人は『ミッション』のつもりでしゃべってるけど、聞いた人は『ビジョン』のつもりで聞いている」ということがあるわけです。例えば、トヨタさんグループのホームページ見ると「当社の経営理念はこう定義します」「トヨタの経営理念はこうです」「トヨタの行動指針はこう定義をします」と、そんなふうにちゃんと定義をして使っていますね。
ですから、それぞれの言葉の定義。こういった抽象的な言葉を使う時には、必ずその定義をし、まずはみんなで理解を一致した上で議論をしないと、ぜんぜん伝わらないし浸透しないわけです。
みなさんも今日、その言葉を使っておられますけど、チャットを見ていても「ちょっと違うかな」という答えもあるわけですね。それは別に間違ってるとは言わないです。それぞれの人の定義が違うからです。
一般的な定義をここに書きましたが、非常に難しい言葉なので登山家の例をとって説明します。登山家の「ミッション」は、山に登ることですね。つまり、登山家が登山家である限り、山に登り続けないといけない。これは終わりがないわけです。「やーめた!」って言うと、もう登山家じゃなくなるわけですね。もし「山に登るの飽きたから、海に潜るんだ」と言えば、その人は潜水夫になって。そのミッションは海に潜ることなんです。そういうこともありうるわけですね。
「ビジョン」というのは、「ビジュアル」からきますね。つまり「5年後、10年後ににこうなりたい」という姿。「富士山に5合目から上がっていって、ちょうど夜明けのご来光に手を合わせて涙を流している」という、自分が富士山に登った姿ってイメージできますよね。
その「ビジョン」を達成すると、また次の「ビジョン」が出てきます。例えば10年後にエベレストに登ろうといった時に「ベースキャンプから登っていって、最後は吹雪の中、日の丸の旗を立てて涙を流している」。これもまたイメージできるじゃないですか。このようになりたい姿をイメージできるのが「ビジョン」なんです。
その山の登り方が、いわゆる「バリュー」「行動指針」ですね。つまり「みんなで手をつないで登ろう」は「仲よくやっていきましょう」「歌を歌いながら」は楽しくやっていこう」「行ける人がどんどん登りましょう」これは実力主義。あるいは、栗城(史多)さんみたいに「無酸素で登る」。こういった山の登り方が「行動指針」、あるいは「バリュー」なんですね。
ですから、この「ミッション」「ビジョン」「バリュー」というのは非常に難しい、抽象的な言葉です。わからなくなったらこれを例にとって、理解していただければ良いと思います。あるいは人に説明する時に、この例えを使っていただいたらいいかなって思います。
じゃあ、なんでミッションが大切か? ということですけれども、(左上を指して)世の中どんどん変化しますね。日本だってわずか30年前の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」があっという間に地盤沈下して。円高になったり円安になったり、GDPで中国に抜かれたり。
よく「5ヶ年計画」を立てる会社ありますけど、私はあんまり意味がないと思いますね。長くても3年です。環境の変化に応じて、戦略・戦術をどんどん変えて行くべきだと思うんですね。でも変わっちゃいけないものが、自分たちの存在理由。つまりミッションですね。自分たちの「ミッション」を実現する手段が、戦略とか戦術ですよね。それは環境の変化に応じてどんどん変えていくものです。私は、ミッションだって10年20年単位で変わっていいと思うんですね。当然、大きな環境の変化によってミッションそのものを見直す必要があります。
(スライドを指して)右上ですけども、企業・組織にはいろんな価値観を持った人が入ってきます。だけども、その企業・組織にいる間だけでいいから、これを大事にしてほしいですね。例えば「お客さま第一だ」って言ってるのに「俺はお客さんより金儲けが大事だ!」って言われても困ってしまいますね。つまり、価値観が違う人が集まってる組織だからこそ、共通のゴール・旗印・北極星が必要なんです。
(スライドを指して)それから左下ですけども、ミッションを高く掲げれば、それに共鳴した人が入ってきやすくなる。つまり「この指とまれ」「この旗の下に集まれ」というのは、ミッションだと思うんです。もちろん、理念教育・ミッション教育はしっかりやらないといけないけれども、あまりにも価値観が違う人が入ってきたら、お互いに不幸ですね。
例えば「人のためになにかしてあげたい」と思わない人は、やっぱりサービス業に向いてないですね。そういう人は、パソコンをパタパタと打ったり、研究したり。つまり「この指とまれ」「この旗印の下に集まれ」というのが、私はミッションだと思います。
それから、ミッションというのは通常“崇高なもの”です。「世のため、人のため」。ボディショップでもスターバックスでも、いい意味で愛社精神が強かったです。特にスターバックスには約3万人のスタッフがいますけれども、ほとんどがアルバイトです。なのにあんなにすばらしい接客をしてるのは、心からスターバックスのミッションを理解し、共鳴し、実現したいって思ってくれてるからなんです。
決して給与が高いわけじゃありません。私が社長をやってた時に、こんな話を経営会議でしたことを覚えてます。エリアマネージャーというのがだいたい10店舗に1人、つまり100人ぐらいいます。このエリアマネージャー100人が、3年間で3人しか辞めなかった。「居心地が良すぎるのではないか」「これは問題だ!」って議論したのを覚えてます。
つまり、スターバックスは「人が辞めないこと」が問題なんですね。ご存知のように小売って、人がどんどん辞めていきます。離職率3割とか4割とか言われてます。ですから、4〜5年経てばほとんど人が入れ替わっちゃうんです。だけども、スターバックスはほとんど人が辞めない。人が辞めないから、アルバイトにまで70〜80時間かけてトレーニングできるんですね。
人がどんどん辞めていったら、そんな教育投資できないです。70〜80時間のトレーニングの中で、ミッション教育・理念教育をしっかりやりますから、心からスターバックスのミッションを理解し、共鳴し、実現したいと思ってくれる。だから辞めない。辞めないから、また教育投資ができる。教育投資するから辞めない。いい循環がグルグル回りだすわけです。
『ビジョナリー・カンパニー』という本があります。ぜひ、みなさんも読まれたらいいと思います。とてもいい本です。今は1〜4まで出てますね。特に1、2はいい本で、僕は7回とか10回とかそれくらいの単位で読み返しています。
その中に「ハリネズミの理論」というのが書いてあるんです。それは何か? というと「事業戦略の中心に何を据えたらいいのか?」ということのヒントなんですね。「情熱を持って取り組めること」「世界一になれること」「経済的原動力になるもの」、この3つの輪の真ん中を事業戦略の中心に据えなさいと書いてあるんです。
なるほどなあと。これは僕がボディショップの時に読んだんですけれども「世界一になれること」って、けっこうハードルが高いんですよね。例えば、売上で世界一になろうと思うと、化粧品業界では7兆円ぐらいの売上がないといけない。当時のボディショップジャパンの売上は70億円。どう考えても無理です。
その時に思ったのは「『量的な一番』は無理かもしれないけれども『質的な一番』」。例えば「日本一尊敬される化粧品会社」とか、あるいは「従業員満足度1位」とか。質的な面だったら日本一、あるいは世界一を目指せると思ったわけですね。
「企業にとってミッションが大切だ」という話が今日のテーマですけれども、僕は「個人にとってもミッションを持つことが大切だ」と思っています。みなさんはみなさんの人生において、間違いなく“経営者”です。私は人生においてもミッションを持つべきだと思うんですね。
企業の場合は、その企業の存在理由がミッションですね。個人の場合のミッションは「自分がこの世に生かされてる理由」って定義してるんです。私は、もうこうやって60年余り生きてきました。もちろん病気やけがをしてましたけど、こうやって生きてることって本当にありがたきことです。
みなさんはご両親が巡り会わなければ皆さんはここに存在しないわけです。みなさんのご両親のご両親、つまりおじいさん・おばあちゃんが巡り会わなければ、みなさんはここにいないわけです。もっと言えば、138億年前にビッグバンが起こらなきゃ我々ここにいないですからね。そういうことを思うと、本当にありがたきことなんです。
「ミッション」の日本語は「使命」ですね。使命っていうのは「命をどう使うか」って書きます。せっかくいただいた命ですから、私は自分が生きてるっていうより、なにか大きな力によって「生かされてる」という感じをもっています。別に宗教的な意味じゃないんです。「サムシング・グレート」って感じで。
その命を、自分のため・家族のためにもちろん使ってもらえばいい。でもその命を、できれば世の中のためにも使ってもらいたいと思うわけです。仕事っていうのは、一般的に「仕える事」って書きますよね。僕はそうじゃなくって、仕事っていうのは「志を遂げること」。自分の仕事を通じて、自分のミッション、つまり志を遂げること。そういうものが志事であるべきと思っています。
本当はもうちょっとこの話したいんだけれども、今日これ以上はお話ししません。あらためて、会社・企業にとってのミッション。その企業は何のために存在するのか? ということと合わせて「自分は何のためにこの会社に勤めてるのか?」。もっと言えば「なんで自分はこの命をいただいてるのか?」ということを考えていただくようなきっかけになったら、非常にうれしいです。
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