TVの規制が強くなっていっても、「時代」のひと括りで諦めてはいけない

井上彩子氏(以下、井上氏):時間がどんどん迫ってきているので次にいくと、「理想とするメディアは?」という質問です。どう思います?

マッコイ斉藤氏(以下、マッコイ氏):やっぱりTVで育った人間ですから、TVにもっとがんばってほしいなという気持ちはありますよ。

井上:規制がどんどん強くなっているとおっしゃっていましたけど。

マッコイ:しょうがないでしょうね。でもそれを「時代だ」のひと括りでやめるんじゃなくて、もっとおもしろいものをつくりたいですよね。でも最近は、コント番組が増えてきたりしてちょっと変わってきていますよね。なんでこんなにコント番組が多くなったかというと、やっぱりYouTubeに若い層が取られているから、TVは今取り戻そうとはしていますよね。

2、3年前から、おじいちゃんおばあちゃんたちが観ているのはデータで出ているけど、それではだめだと、「コア層を取り戻そう」と言ってやっているわけですから。でもそういった番組は「お笑い」を百戦錬磨でやっていないスタッフさんが撮っている感じがしますね。

井上:観ていてわかっちゃうんですね。

マッコイ:わかります。笑いって難しいんですよ。

井上:笑うことって生きる上で絶対に必要ですけどね。

マッコイ:若いスタッフじゃまだ早いだろうという感じのものもあります。弄り倒してでも根底に愛情があるコントと、「これはなにがしたいの?」というただ薄っぺらいコントじゃ、そういうのは人に伝わりますよね。芸人さんはおもしろいんだから、スタッフがもっとがんばらなきゃだめですよ。

井上:そうですね。

マッコイ:スタッフがそのレベルに達していないのが悲しいところですよね。だから芸人さんも歯痒いんじゃないですか?

自分の演出人生は「映画」で終えたい

井上:1つの番組を作る時に、芸人さんの「こういうことをしたい」とか、そういった作り方のアプローチはあるんですか?

マッコイ:もちろん一緒に作っていくこともあると思います。ただ、総合演出がそういう意見も取り入れながら自分の色にしていかないといけない。番組は演者さんのものでもありますけど、やっぱり総合演出のものという見え方じゃないと。だからいい番組は、総合演出の名前が目立ちますよね。顔は見えないけど、名前が目立つんですよ。

井上:映画とかドラマとか絵画とか音楽とか、いろんなエンタメがあるじゃないですか。そこから何かをもらってバライティに活かすこともあるんですか?

マッコイ:ありますよ。僕は映画を撮りたいんです。最終的には映画を撮って、自分の演出人生を終わりたいと思っているので。だからこの歳でも、映画を撮るために常に勉強はしていますね。

井上:脚本もご自身で?

マッコイ:いや、脚本は脚本のプロに任せればいいんですよ。演出家というのは、それを読めば絵が見えてくるので。読んだ時に「これはもっとこうしたほうがいい」と言いながらブラッシュアップしていけばいいわけです。自分は、絵の撮り方とか演出の仕方とか、「こういった場所でこんな感じで登場したらかっこいいな」とか、そういった細かいところを見るようになりましたね。

今までずっとバライティをやってきたからこそ撮りたい「笑いなしの映画」

井上:「映画を撮りたい」というのは、昔からの夢というか、今までやってきた中で思たことなんですか?

マッコイ:実は僕はすでに映画を3本ぐらい撮っているんですけど、全部外しているんですよ。ひどかったです。映画の助監督の経験もないので、ノリでバーンと撮ったんですけど。

井上:ノリでバーンと撮れるんですね。

マッコイ:ノリでバーンと撮れます、勢いだけで。

(一同笑)

マッコイ:だって自分で金を出せば、「明日から僕、映画撮ります」とできちゃうんですから。制作費200万円で、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』みたいな超低予算映画が撮れちゃうんじゃないですか。

小さなハンディカメラを持って山に行って、「おばけ出た」と言ってワーッと逃げれば。それも演出の仕方によっては大ヒットを生むわけです。あの映画は確か200万円で撮って、200億円の興行収入を得たというとんでもない映画だったんですけど、それはアイデア次第ですよね。

井上:今考えているものはあるんですか?

マッコイ:映画はいろいろ考えたんですよね。原作がある商業的な映画も撮ってみたいなと思いますし。絵の撮り方とか技術力とか、ディレクターの最高峰は映画だと思っているので、ぜひどんな映画でもいいから撮りたいなと思っていますね。

あとは今までずっとバライティをやってきたからこそ、笑いなしの映画を撮りたいですよね。お笑いの中で感じた悲しさだったり情けなさだったりが一番の人間味なので。

井上:そうですね。そこに心がグッとなりますよね。

マッコイ:笑いは1個の照れ隠しの要素が入っていたりするので、映画を撮るのであればまったく笑いのない映画を撮ってみたいです。

若い人が自分の真似をしだすと、自分がどんどん「ダサい人」になってくる

井上:マッコイさんがいろいろ活動していく中で、「ああいうことがしたい、こういうことがしたい」と、ご自身の夢ややりたいことはどんどん広がっていると思うんですけど、逆に人に夢を与えた経験というか、自分の活動が第三者にとってなにかプラスになったと感じたことはありますか?

マッコイ:いや、僕は自分の好きなことをがむしゃらにやっているだけなので、人に夢を与えているのかなと考えたことがないんですよ。だから例えば20代、30代のディレクターで「マッコイさんみたいになりたいです」という子がいるのであれば、「やめなさい」って言いますね。

井上:そこは「やめなさい」なんですね(笑)。

マッコイ:よく言われるんですよ。この間、久しぶりにテレビ朝日に撮影というか、軽いロケをしに行ったんですけど、その時に廊下ですれ違った30代のディレクターから「マッコイさんに憧れてバイクを買いました」と言われて、「あっやばい」と。

僕はただ好きでずっと乗っているので、自分でYouTubeではバイク好きに届けばいいなと思ってやっているだけなんです。それをディレクターの子たちが真似しだしていると思うと、「僕はどんどんダサい人になってくるな」と思いましたね。

井上:でもディレクターじゃないところを目指している方からでも、例えば「この番組で元気をもらいました」といったコメントとかはありますよね?

マッコイ:YouTubeをやるとコメントがバーッときますよね。「マッコイさん、いつもありがとうございます」とか、「マッコイさんの男気にいつも感動しています」とか言われますけど、僕は当たり前のことをしているだけです。

貴さんともやっていますし、清原さんともやっていますし。別に僕は特別なことはしていないんです。

一番くだらないのは、「人に感動を与えよう」「人に好かれよう」とすること

マッコイ:石橋貴明さんは僕の恩人ですし、たけしさんととんねるずさんは、僕が東北にいる時からずっと笑わせてもらった東京のお笑いの「核」みたいな人なので、その人と仕事ができていることだけでも奇跡というか、ありがたいです。だからこれからもそういった人たちと裏切らないで、好きな人とただ笑い合っているだけなんです。

野球が好きで、清原さんも大好きで。いろいろありましたけど関係なく、好きな人と好きな動画を撮っているということだけですから、みなさんも好きな人と好きな動画を撮って楽しんでくださいよ。

人に感動を与えようとか好かれようとか、そんなことが一番くだらないです。そうするとどんどんつまらなくなっていくので、人に好かれようとか慕われようとか、そういうことよりも「人に嫌われよう」と生きたほうが素直だったりするんですよ。

井上:絶対に嫌われなさそうなんですけど。

マッコイ:いや、男しか寄ってこないですよ。僕は音声さんみたいな人と仲良くなるタイプなので、そうしてきたほうが楽ですよね。だから動画でも言うんです、「お前の顔嫌いだな」とか、「冗談じゃないよお前は」「つまんないな」とか。そういうことは好かれようと思ったら言わないじゃないですか。

井上:でもなんかまったく嫌じゃない、逆に嬉しくなります。私がおかしいかもしれないですけど。

マッコイ:仲良くなった人には言えるんですよ。それだけ喧嘩したり悔しい思いをしたり、一緒に泥水を飲んできた仲間とは言いやすいんですよ。だからいまだに『とんねるずのみなさんのおかげでした』のスタッフとは、どこに行っても仲がいいですし、15年間一緒に戦ってきてくれたスタッフですから、気持ちよくいつでも会えるというね。

いいものをつくるための「総合演出は嫌われろ」という理念

マッコイ:番組を作る上ではそういう環境も大事です。みんなと仲良くしろとは言わないですけど、いい意味で喧嘩して言い合えるような仲で番組を制作してくれれば、あまり気を使わずに、いいものができるんじゃないですか。「総合演出は嫌われろ」というのが僕の理念ですので、「ばーか」と言っていいんですよ。「撮り直してこい」と言っていますよ僕は、たぶん。

井上:そこで噛み付いてくる若手とかはいないんですか?

マッコイ:いませんでしたね。僕はボクシングやっているので強いですから。

井上:いや、怖い怖い(笑)。

(一同笑)

マッコイ:殴りはしませんが、「編集やり直し」と言って、ずっとやっていました。でも好かれようとしたらそういうことが言えなくて、VTRがつまらないのに放送しちゃうじゃないですか。怒られると面白くするので、放送できるじゃないですか。ということは、やっぱり嫌われ者はいないといけないんです。強く言えないとだめなんです。その子に好かれようとしちゃうと、優しくなっちゃうんです。

井上:結局、マッコイさんの指示とか人柄とか思いを、みんなは感じてついてくるからこそ信頼関係も生まれるんですね。

いいものを作ったときに「いいね」と褒めることで生まれる信頼関係

マッコイ:そうですね、信頼関係ができてくると、しゃべらなくてもVTRを見ればわかるようになります。それがディレクターの本質ですね。言葉がなくてもVを見れば、「お前いいものを作ったな」と思える。放送した時に一言、「お前いいね」と言ってあげればいいんですよ。

「ナイスバッティング」と一緒で、「いいね」と言う。そうしたらディレクターは頑張れると思うんですよ。そこからいいディレクターや総合演出がどんどん生まれていくから、TVはおもしろくなったりしていく、一流のディレクターたちが育っていくんですよ。ディレクターなんて嫌われていいんですよ。

マネージャーに挟まれ、タレントに挟まれ、プロデューサーに挟まれ、作家に挟まれ。大御所の作家なんか使わなくていいんだから、自分の使いやすい作家を使って生きていってほしいな。

井上:番組作りもそうですし、1個のコンテンツ作りもそうですけど、結局人生がそうですよね。自分が「こうしたい」、「こういう人といたい」というのを確実にしていくのが一番ですよね。

マッコイ:気が合う仲間と喧嘩しながらものを作ったらいいものができますよ。

井上:途中うるっときちゃったんですけど……。

マッコイ:きていないでしょ、それ。

(一同笑)

井上:きましたよ! グッと堪えました。でも本当に楽しかったです。逆に私もYouTubeを作っている側だったので、そういった意味で心の持ち方が勉強になりました。

大切なのは、視聴回数を増やす作戦すらも「楽しむ」こと

マッコイ:視聴回数とかを気にしているとつまらなくなるから、回数を増やす作戦すらも楽しめばいいんですよ。それで悩みすぎて頭がワーッとなるよりも、楽しんでやったほうがいいんですよ。(「あやぱいチャンネル」で)「おっぱい散歩」とかやってみたらいいんですよ。

井上:「おっぱい散歩」やってみます。

マッコイ:でも「街にはおっぱいみたいなかたちが多いですよね」と言っているということは、井上さんはそんなことを考えながら生きているんですね。

井上:常に考えています。

マッコイ:ですよね。おっぱいにコンプレックスがあったから、おっぱいが気になっていて、それでおっぱいで今こうやって結果を出しているわけですよね。今日、僕ちゃんとしたことしゃべっていましたか? 質問になんも答えていないじゃないですか。

井上:いや、答えていますよ(笑)。本当にめちゃくちゃ楽しかったです。

マッコイ:いやいや、よかったです。世のディレクターたちに「がんばってください」と伝えられたのであればよかったです。

井上:今日はこれで締めさせていただきます。本当にありがとうございました。

マッコイ:大変申し訳ございませんでした。