「プロセスエコノミー」とは?
――よろしくお願いします。
尾原和啓氏(以下、尾原):お久しぶりです、よろしくお願いします。もうログミーさんの取材は毎回楽しみで、いつもありがとうございます。
――お久しぶりです、ありがとうございます。本日は尾原さんの新刊『プロセスエコノミー』(幻冬舎)について、おうかがいできればと思います。
尾原:ちょうどいいタイミングで。発売前にすでに重版かかっていたんですけど、発売して3営業日目にして第三刷りで決まりました。
――すごいですね! おめでとうございます。
尾原:うれしいことに、めちゃくちゃペースが早いです。まだ販売して集計3日とかしか経っていないのに、渋谷の啓文堂で週間ランキング1位です。
――そんな『プロセスエコノミー』についてですが。最初に「プロセスエコノミーとは?」について。それはいったいどういう考えで、過去のものとはここが違うということを、ご説明いただけますでしょうか。
尾原:ものすごく凝縮して言ってしまうと、今の時代って完成品である「アウトプット」よりも、制作過程である「プロセス」に価値が移り始めているので、極端な話としては「完成品じゃなく制作過程を売るほうがいいんだよ」ということです。
それはなんでか? というと、インターネットで情報が高速に共有できるようになっちゃったが故に、どんないいものでもすぐにコピられて。いいものが高いレベルで均質化しちゃったから差別化できなくて、値段のヘトヘト競争になりやすくなっているんですよね。
そうすると、いいモノだけでは稼げないようになってきている。じゃあむしろ、モノで稼ぐよりかは、そのモノ・サービスに至る過程であるプロセスのほうが、一期一会。なによりも制作者の想いとか、トライアンドエラーみたいなところが重なってきてプロセスに価値が宿るので。プロセスに軸足を置いて経済を考えていったほうがいいよ、というのがプロセスエコノミーなんですよね。
「小さき人」の持続的な冒険を助けてくれる?
――プロセスエコノミーという考え方は、製品をつくっている企業だけではなく、個人にとっても重要なんでしょうか?
尾原:そうですね。めちゃくちゃ大事ですね。というのは、さっき言った「いいモノはすぐにパクられるから、差別化できなくなって競争になってヘトヘトになる」というのは、最近はスマホとかも、どこのメーカーでも同じようになってきちゃっているじゃないですか。そういった感じで、モノづくりにおいてもそうなんだけれども。
例えば、YouTubeを見てください。誰かが「読書の解説フォーマットがいい!」とか「切り抜き動画がいい!」みたいなことを配信すると、すぐに同じテンプレートがあふれて、個人が突き抜けるということがなかなかできなくなっていますよね。
やはり企業のモノやサービスだけじゃなくて、個人にとっても機能や完成品だけだと埋没化してしまうので。むしろ個人のほうが物語に共感する人、仲間を作っていけるし。もっと大事なことは「小さき人」ですよね。
大手の方じゃない「小さき人」でもプロセスの中で仲間を作っていけば、その人が持続的な冒険をすることができるというのが、プロセスエコノミーの特徴だと思っています。
“意味”がかけがえのないつながりを生む
――なるほど。それはつまり、大きなコミュニティに所属していない「小さき人」が、自分のコミュニティを作っていくという発想なんでしょうか?
尾原:コミュニティって正確には2種類あるので、気を付けなきゃと思っているんですね。コミュニティって「集っている仲間同士がやり取りすることで力を持つ」パターンと、「誰かのストーリーがいいな」「誰かのファッションがいいな」と言って、「中心に人が集ってくる」パターンがあります。
どっちかというと後者の集まってくる人のことを「ファン」というケースが多いですけど、必ずしもファン同士がやり取りをする必要はないわけです。けれどもさっき言ったように、もう「いいモノ」では選べないわけですよ。あっちもこっちも同じくらい高品質になっちゃっているから。
だとすると「お前の作っている商品を選びたいんだ!」という方。要は“指名買い”をどうやって増やしていくか? ということが根幹として大事で。その先に結局「お前がええんや!」というところの最上価値。機能では売れなくてもそこに意味を感じることで、モノ・サービスが選ばれる。人が選ばれる時代になるんですけど。
やはり「あそこのおかげで俺はかけがえのない友人に出会った」みたいなのって、やはりその場所とかにものすごく特別な意味が宿るじゃないですか。
――たしかに、そうですね。
尾原:そういう意味で必ずしも必要じゃないんだけれども、コミュニティというものがあると、場であったりサービスであったり、人に意味が生じやすくなる。
「役に立つ」では選ぶことができないぐらいに、高止まりで差別化ができなくなっちゃっているから「お前が提供してくれるものを伝えたいんや!」という“意味”を感じてくれるユーザーをどれだけ増やしていくか? というのが大事で。
その先に、ユーザー同士が「意味を与えてくれるもののおかげで出会ったから」となると、かけがえのないものに変わっていくという感じなんですよね。
プロセスエコノミーは、手段として“絶対”ではない
――ありがとうございます。商品やサービス提供している企業側だけでなく、個人にとっても大切な考え、というお話でした。
では例えば、まだプロとしてなにも作れていない個人のクリエイターは、どの段階でどのように自分の制作過程・プロセスを売っていけばいいのでしょうか? アイデアを思いついた段階でツイートするのがいいのか、ある程度の準備が整ってからMakuakeなどで応援を募るのがいいのか。
尾原:それは結論からいうといろいろあるんですよ。ただ大事なことは、プロセスエコノミーというのは、アウトプットの完成品よりも、プロセスの中に想いとか自分の努力みたいなことが練り込まれるから。そこのプロセスの中でファンを作りやすくて、そのファンが自分を指名で買ってくれるようになります、ということが大事で。手段として絶対じゃないんです。
――なるほど。
尾原:だから「Makuakeでやれば勝てる」とか、そういうわけじゃないですよね。一番大事なことはなにかというと「自分が想いを持ってやっていることに、共感してくれる人が1人でもいるのか?」ということですよね。自分だけが見えていること・やりたいことに、1人でも「いいな」と言ってくれる人が現れたら、その方を大事にしながら広げていくことが大事。
仲間は”2人目”が連れてくる
尾原:それでいうと、デレク・シヴァーズという方が「社会運動ってどうやって起きるの?」というのを解説した、たった3分間の動画があるんですよね。
(動画を流しながら)要は小さき人も、最初こうやってアホな踊りをしている。周りからすれば「なんなんあいつ?」と。この奇妙な奴が1人で踊ってるだけだったら「なんやねん」なんですけど、2人目が踊り始めると「これ、なんかの新しいムーブメントなん?」となるわけですよ。
だから、実は大事なことって「1人目が奇妙なダンスをすること」じゃなくて「2人目の方を大事にする」ということなんですね。
たいがい仲間というのは、最初に踊り出した1人目が連れてくるんじゃなくて、2人目に踊ってくれている人が「こっちでおもしろいことやっているから来てみ!」と言ってくれるわけですよね。
だからイノベーションって、どうしても最初の起業家を大事にしがちなんですけど、本当に大事なのは2人目の人が踊ってくれることで。それが集団に変わってくるんですよね。
2人目が踊ると、(動画を指して)こうやって3人目も踊り始める。しかも、3人目って2人目を真似しながら踊ることが多いんですよ。
――1人目じゃなくて、2人目を真似する?
尾原:そう。だって1人目に踊った人って、もう時代を突き抜けるぐらい変わったことをしているから理解が追いつかないケースが多くて。だから2人目なんですよ。そしてもっと大事なことは、こうやって3人踊っていると周りもどんどん踊り始めるんですよ。
さらにもっともっと大事なことは。この状態になると「あれ? 今だったらみんなが踊っていない中で、俺たちが最初に踊った人間になれる」と思って、多くの人がダッシュするし。その状態が次に行くと、今度は踊っていないと「時代遅れの恥ずかしい人間」になるから、みんな踊り始めるんですよ。
「2人目に踊ってくれる存在」がいてくれるのかどうか。そして「2人目に踊ってくれた人を尊敬しながら一緒に踊りましょう」ということが大事なんですね。
『プロセスエコノミー』を読んだ人は、「自分が1人目で踊りたい人」であるとは限らず、「1人でバカ踊りをしている人間をサポートしたい」という人も多いはずなので。2人目として勇気を持って「最初に一緒に踊る」ということもやっていると、小さき人同士のバカ踊りが、時代のバカ踊りに変わるんですね。
尾原氏が実践する“ひとりめ”以外の役割
――ありがとうございます。ちなみに「個人のプロセスエコノミー」でいうと、私は尾原さんがどういうやり方をしているか? というのが気になっていて。
尾原:はい。
――尾原さんのファンの作り方って、けっこう独特だなと思っています。例えば、西野亮廣さんやけんすう(古川健介)さんみたいに、わかりやすく目立った感じとか、サロンで大量のファンを集めてリードしていくみたいな感じとは、違ったイメージがあるんです。
尾原:はい、その通りですね。
――どちらかというと、集団をまとめたりするのは苦手なタイプなんじゃないかなと(笑)。
尾原:そうですね(笑)。そこは、箕輪(厚介)さんってすごいと思うんですよ。さっきみたいに1人目に踊る人間って、裸踊りし続ける覚悟がなきゃいけないし、2人目が来てくれるまで孤独だし。
もっというと、1人目に踊るということは、ずっと先陣を切らなきゃいけないので、先陣を切り続ける覚悟も必要なんですよね。
だけど、僕ってどっちかというと、先陣を切るというよりかは「僕が置いた言葉がムーブメントになること」が大事で。僕自身はどっちかというとあまり人の前に出たくないタイプなんですよ。
――はい(笑)。
プロセスエコノミーの弊害
尾原:もっというと、1人目に踊る人って時代の象徴になるから、踊り続けなきゃいけない義務も発生するんですよ。
そうすると本でも「プロセスエコノミーの弊害」として書いてあるんですけど、やはり周りから「尾原は踊ってくれるよな?」「箕輪はこういうことしてくれるよな?」「けんすうだったらこうだよな?」と期待を背負わされると、やはり「期待に応えなきゃ」というふうに動いてしまいがちに、人間ってなるんですよね。
そうすると、最初は自分の楽しさの中で踊っていたはずなのに「周りの期待のために踊らなきゃ」と変わってしまって。そうすると人によっては、周りの期待に応えなきゃいけないから、例えばYouTuberだったらイタズラが激しくなっちゃうとか、自分の度を超えて周りの期待に応えたいがためにキャラが暴走して。結果的に双方不幸になっちゃうみたいなところがあって。
やはり、箕輪さんにしてもけんすうさんにしてもすごいのは、周りの期待に対して「自分のやりたいこと」という“自分のものさし”を、絶対に他人に渡さないんですよ。常に自分にとって何が楽しいかという軸がブレることなく、彼らは歩み続けられるんですけど。
僕って、わりと周りの情報を見て「周りにとって何が新しくておもしろいか?」というものを渡したいタイプだから、基本が「他人ものさし思考」なんですよ。なので、僕が前に出て踊っちゃうと、つい自分の周りにいる人のものさしを見て、相手にものさしを渡しがちになっちゃうので。
「3年後には当たり前になるような新しい言葉」を、いま伝えたい
尾原:僕はどっちかというと「3年後には当たり前になるような新しい言葉」を、今のタイミングでみなさんにわかる言葉でお伝えしたいということで。どんどん「次、次」と、また新しい言葉に行く。新しい言葉を今の人でも分かる言葉に変えるというのが、なによりも自分の魂のご馳走だし。
あともう1個は、自分が見えている未来を同じように見ている人。例えばログミーさんが「全文を公開することによって誤解がない、情報がちゃんと伝わる社会を作りたい」といって事業を起こした時に「じゃあ、そういうコンテンツに合わせたものを僕も語るよ」みたいなことで、時代を創る人に言葉というキラーパスを渡すというのが、大好きなんですよ。
――なるほど。
尾原:要は「僕は表に出ない」という話。
――(笑)。
尾原:今回は箕輪さんが踊ってくれるし、けんすうも踊ってくれるし。なによりも、もともとプロセスエコノミーって西野さんが6年前からやってたことなので、もうパスの出しまくりですね。
市川海老蔵さんがブワーッと来てくださるし。この前も『ABEMA Prime』でけんすうがしゃべったら、EXITの兼近(大樹)さんもプロセスエコノミーを始めてくださるし。そうやって1回ハブとなって言葉をギュッとまとめて、いろんな方にキラーパスが出せる状態が、僕にとっての快楽なんですよね。
――本を書いていらっしゃるから表に出ている感じはしますが、でもやはり尾原さん自身にすごくファンがついているというよりは、助けに行っている感覚が強いですよね。
尾原:そう、そう。それが好きなんです。だからなにが大事かというと、やはり「自分がどういう瞬間に楽しいか?」。そこに忠実でいないと、さっき言ったように、プロセスを開示すればするほど周りの期待が集まって。周りの期待に応えなきゃとやっていると、いつの間にか「Want」が「Must」に変わっちゃうんですよ。
「やりたい」がいつの間にか「やらねば」に変わっちゃって。すると、周りの期待に「応えねばならない」となって、いつの間にか他人の評価軸で生きるようになるので。そうするとやはりプロセスも内燃性から外発性に変わっちゃうから、本当に輝かないですよね。それが本当に大事。
“2番目に踊る人の2番目に踊りたい人”が増える?
尾原:だから例えば、CEOって難しいですよ。経営者って途中で降りられないから。降りるというか、うまくバトンタッチする方はたくさん最近増えてきて、いい流れだなと個人的には思っているんですけど。
――自分が1人目にならなくても、プロセスエコノミーの形成に関わったりとか、そっちが向いている人は、むしろそういう関わり方をしたほうがいいということですよね。
尾原:そう、そう。1番目に踊るのが得意な人、2番目に踊るのが得意な人、3番目に踊って周りにワーッと来させるのがうまい人、いろんなタイプがいるわけですから。アウトプットでは勝負できなくなる時代の中で、プロセスに軸が移るからといって、全員が1人目に踊る人にならなくてもいいんですよ。
しかもおもしろいのが、2番目に踊っていると「2番目の踊り方最高ですね」というファンも集まるので。
――(笑)。
尾原:これがすごいのが、身内贔屓になり過ぎるとよくないなと思って、本には書いていないんですけど。『田村Pのココだけの話』というサロンがあって、これが最高でね。西野さんのマネージャーの方のサロンなんですが、ここに1,000円払う人が2,000人とかいるわけですよ。
――へえ!
尾原:なんでかというと、みんな西野さんにはなれないわけですよ。彼は時代が追いつかないくらいの天才で、プロセスエコノミーも6年前とかからやっちゃってたわけですよ。彼は時代の先を行き過ぎて、みんなが追いつけないから批判もされるし。
だけど、その西野さんをずっと支えて「こういうところを大事にせなあかんで」みたいな感じで、ファンの方を鼓舞しながら、西野さんの無茶なプロジェクトをきっちりかたちにし続けているのが田村さんなんですよね。僕はこれを「ガードレール力」と呼んでいるんですけど。
――(笑)。
尾原:そういった2番目に踊る人に「2番目に踊る方が格好ええな」という美学とか矜持が見えてくると“2番目に踊る人の2番目に踊りたい人”が増えてくるわけですよ。
――連鎖していくんですね。
尾原:すると今度は田村さんと一緒にやっているインターンの子が「学生やのにいろんな努力しながら、がんばってついて行ってるわ」みたいな物語で、またその学生にファンが生まれ始めたりして。こういう冒険の数珠連鎖。
僕は「意味のお裾分け」とか「暖簾分け」呼んでいるんですけど。天才の作る意味は真似できないけど、それを追いかける人の意味は暖簾分けしていけるんで。
それで、さっきの質問に戻るんですけど。小さき人が物語を作っていく時に、自分の2人目に踊ってくれる人を見つけるというのもあるけど。誰かの大きい意味の中で、その誰かの美学みたいなものをきっちり守りながら。でもその人が自分ではできないことをやっていると、そこで意味の暖簾分けが行われて育っていく、みたいなこともあるから。だから2つが大事ということなんですよね。
僕はどっちかというと、この「いやぁ、お前は時代が追いつけへんくらいの天才やな! お前の天才性を輝かせたい!」という、2番目に踊るプロというスタイルが好きなので。
だからプロセスエコノミーに限らず、僕の中ではそういうことを最初にやったのが、この『アフターデジタル』という本で。
この本で藤井(保文)さんという、中国で未来見えている人がいて。「ヤバい! 藤井さんを輝かせたい!」といって『アフターデジタル』を書いたら、元経産大臣の世耕(弘成)さんから「日本が進めるべきデジタル化の『道しるべ』や!」みたいな言葉をいただいたりとか。
あとは『ディープテック』のリバネスの丸(幸弘)ちゃんが見えている世界がすごいから、これとか2ヶ月で無理やり作りましたからね。果ては東芝のデジタル最高統括の島田(太郎)さんが見ている世界がヤバいからといって『スケールフリーネットワーク』書いたりとか。というふうに、1人目に踊る方がバンバン踊れるように、いろんな方の2番目に踊るということ。