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田畑栄一先生に「教育漫才」を学ぼう(全3記事)

学校の授業に「漫才」を導入、仕掛け人はある小学校の校長 大きな転機となったのは、1人の不登校児との出会い

「教育漫才」の発案者・田畑栄一氏

田畑栄一氏:こんにちは。埼玉県越谷市立新方小学校で校長をしております、田畑栄一です。今回はみなさんと「教育漫才を学ぼう」というテーマの下、今まで積み重ねてきた「教育漫才」の取組過程と、教育漫才の実践から見えてきた効果、それから今、「教育漫才」にどう取り組んでいるかということ。

そして、笑いの価値を多くの方にお伝えして、「教育漫才」で自殺・不登校・いじめのない学校を1つでも多く作れたらと思っています。今日は、以上のことを中心にお話させていただきます。

私に与えられたサブテーマが、「ダイバーシティ」と「インクルージョン」です。「多様性と包括」という意味で捉えることができます。ここを1つの言葉にまとめると、「相互承認」という言葉に共通性を見つけることができます。

コロナ禍の1年を通して、本校の課題が明確に見えてきました。そこで、令和3年度の学校教育目標を、このコロナ禍を通して課題を解決するために変えました。具体的には、「創造してたくましく生きる・自律・相互承認・表現」です。

学校教育目標とも合致するという点で、「相互承認」の視点からも教育漫才についてお話しできればと思いますので、よろしくお願いします。

「一部の子どもの発言を中心に展開する授業」を変えたかった

私は小学校の校長をやっています。自分の学校からはまず、自殺・不登校、それからいじめをなくしていきたいという思いでいます。それは校長をやり始めた頃からずっとそうです。こだわり続けてきたものの1つです。

もう1つは、授業は一人ひとりの個性や表現が活かせないといけないと思っています。私は教育局東部教育事務所で指導主事を3年間したことがあり、さまざまな学校を回って、多くの授業を見てきました。

そこでは、ごく一部だけの子どもの発言を中心に展開する授業が、圧倒的に多かったと思います。授業はみんなで作り上げる、発表して納得するような授業を作り上げたいと、30代の頃から「学び合い」(全員思考の活用・全員発表・全員完了)を試行錯誤しながらやり続けてきて、自分なりにある程度の方向性を見つけてきました。

今は自分の学校、あるいは校内研修や講演会で呼ばれた学校などに行って、子どもたちが主体的に意見をつなげていく、学び合い授業を広げています。本日のテーマである「教育漫才」を発案して、その実践から非常に大きな教育効果が見えてきました。それを全国の多くの方に伝えたいという意味で、今は取り組んでいます。

教育漫才を解説した著書2冊の紹介

「教育漫才」の効果についてまとめたものを、2冊の本にして出版しています。『教育漫才で、子どもたちが変わる~笑う学校に福来る~』、それと今年の3月に(出版した)『クラスが笑いに包まれる! 小学校教育漫才テクニック30』

最初の本は、学校全体で取り組んだ3年間の記録です。なぜ教育漫才を始めたのか、それから子どもたちの教育漫才ネタや学校としての取り組み、私の教育理念を書かせていただきました。

今年3月に東洋館出版から、初任の先生の学級でも、あるいは学童教室でも、放課後子ども教室でも、つまりどこでも誰でもできるようなかたちのテクニック編に焦点化して、30分から1時間ぐらいで読めるフランクなものを書かせていただいて、広めていきたいと思っています。

今年2月27日には、NHK Eテレの「『SWITCHインタビュー 達人達』に出演しませんか?」というお声掛けをいただいて、そこで教育漫才についてお話をさせていただいています。

さらに、1年ちょっとカメラが入っていて、『コロナに負けない~名物校長と“笑う学校”~』というタイトルで、4月24日にNHK EテレのETV特集で全国放送されました。今もETV特集は、220円払えばオンデマンド放送で1年先までは観られるということですので、よろしければご覧ください。

教育漫才の下地というのかな。教育漫才大会ではなく、子どもたちの日常。どちらかというと、うまくいかなかったところや、苦労しながらもコミュニケーションを取り、変容していく子どもたちの成長が描かれていて、私はとても「ありがたいなぁ、すてきだなぁ」と思った番組です。もしよろしければ、観ていただけると教育漫才の概略がご理解いただけると思います。

教育漫才導入のきっかけは、学習指導要領の変更

教育漫才を導入したきっかけの1つは、学習指導要領が変わるという時代背景がありました。アクティブ・ラーニングという言葉が初めて使われ、「子どもを中心に授業をやっていこう」という視点が文科省から下りてきた頃です。これはまさに、そうあってほしいと願っていたことで、「何か新しい『伝え合う力』をやりたい」と考えていた時と合致しました。

2つ目は、本校はそれまでの2年間、算数の研究をやっていたのですが、研修主任が「27年度から、国語で『伝え合う力』をやりたい」という相談があり、そこから考え始めたものです。

3つ目として、「伝え合う力、表現活動が弱い」という保護者アンケートが多くて、ここをなんとかしたいという思いがありました。

4つ目として、子どもアンケートでは「子どもたちは授業中に手を挙げて発表しているか」という問いに関して、2年間、「手を挙げて発表している」と答えたのが69パーセント台でした。ここをなんとかしたいという思いがありました。

また、「学校が楽しいか」というアンケート結果も、「楽しい」と答えたのが85パーセントなんです。ここをなんとか90パーセント台まで持っていきたいという思いもありました。

5つ目として、「タペストリー教育」の視点があります。「タペストリー」とは、布という意味を表します。縦糸に教育過程があって、横糸が地域の教育力です。つまり、地域の教育力を導入し、連携を図ることです。地域の方、一生懸命やってくださる方、その道の専門家を招き入れて、さまざまな刺激を子どもたちに与えていきたいと思った次第です。

大きな転機となった、不登校の生徒との出会い

6つ目として、Bさんとの出会いが大きな引き金になりました。これは本の中にも書いてあります。

平成26年度、平成27年1月の頃にある家族が私を訪ねてきました。ちょうど昔の遊びでけん玉を教える時間だったのですが、お母さんが来られて「校長先生とお話をしたい」「時間を取ってもらえませんか?」ということだったので、1時間待ってもらって校長室に戻りました。

そうしたら、お父さん・お母さん・おばあちゃま、そして子どもも来ていました。大人の話なので、子どもにはちょっと席を外してもらって、他の先生に見てもらいました。お話をうかがう中で、「小1ですが、11月から不登校になっています」と話し始めました。

「大変ですね」という話をしていく中で、私の心にグサッと刺さったのが、「5月にクラスを変えられた」と言うんです。学校には学校それぞれの事情があって、なかなか立ち入ったことは聞けないし、こちらからああだこうだ言うことはないのですが、本当にそれでいいのか? と驚きました。

小学校1年生の子どもがクラスを変えられるのは、子ども自身にとっても周りの子にとっても親御さんにとっても、どのぐらいつらかったことなのかと思ったら、もう苦しくてさまざまな思いが湧き上がってきました。目の前の親御さんを見ていて、胸が苦しくなっていくのを覚えています。

その中で、「転校も視野に入れています」ということをおっしゃっていたので、すぐに、先生たちと相談して、了承を取りました。そして、「もしよかったら、明日からでもいらっしゃいませんか?」とお声掛けして、相手校、それから教育センターとも相談して、体験入学というかたちで翌週から通い始めました。

その体験を経て4月には本校に転入、素直に明るく育ち、そして卒業していったという経緯があります。

「漫才に詳しいかというと、劇場にも一度も行ったことがなかった」

この親子が目の前で涙ぐんでつらそうな表情をしていることに、教師として申し訳なさと、何とも言えない怒りを感じて、なんとか笑顔にしたいと思ったのが、漫才を始めた大きなきっかけです。

本校の研修テーマが「伝え合う力」。そして、吉本劇場が前年の7月7日に大宮にできたことが頭の中にあったので、「この親子を笑わせたい」と「伝え合う力」が結びついて、その時に「漫才」をひらめきました。

幹部を集めて「漫才をやってみたいけど、どうだい?」「Bさん家族を笑わせたい。笑顔にしたい」という話をしたら、幹部のみんなが賛成してくれて、「やりましょう!」と言ってくれたのです。

吉本興業、大宮(ラクーンよしもと劇場)に電話をして、「どうですか? 協力してもらえませんか?」と相談したら、「協力します」ということで、3人の幹部が本校を訪ねてきてくれたのです。そこで吉本興業とタッグを組んで教育漫才をやることになりました。

私が漫才に詳しいかというと、劇場にも一度も行ったことがなかったし、テレビで見る程度だったんですが、コミュニケーション文化とは何だ、伝え合う力は何かということを、国語主任から投げられてからずっと考えていました。そしたら自分の中に頭に浮かんできたのは、演劇と漫才とコントだったのです。

議論の文化は日本にはたくさんあります。ディベートであったり、シンポジウムであったり、さまざまに存在します。ところが文化と言えるものは、言葉のやりとりだと、実は漫才がピカイチなんじゃないかと思ったのです。

「叩く」「暴言」など、漫才のマイナス点への考慮

ところが漫才に関しては、マイナス点もあります。暴力、叩いたり蹴ったり、それから「死ね」「うざい」「消えろ」というマイナス言葉があるので、「これはどうかな」と思ったんですが、逆にこの2点を除去して、本当に言葉のやりとりで周りの人を笑わせたら、ものすごくすてきな価値ある文化なんじゃないか、ということに気が付いたのです。

放送作家に来ていただいて、まず教職員で漫才研修をやりました。校長講話で子どもたちに「漫才をやるよ」と話をしたのが、6月3日です。先生方の漫才研修を開催したのが6月15日で、全校で教育漫才大会をやったのが7月8日なんです。だから、1ヶ月間の中で新しいことにチャレンジできたということです。

そんなに大げさに構えなくても、(教育漫才は)先生方と共有しながらできる教育教材なんです。先生方は、この研修を通して三段オチを学びました。

これは5時間のプログラムとして作ったものです。当時は国語の研修として行いました。その後、国語と総合的な学習の時間の教科などを組み合わせて、教科等横断的授業としてカリキュラム・マネジメントの視点でプログラムを組みました。

現在本校では、総合的な学習の時間を中心に進めています。それぞれの狙いに応じて、さまざまな組み立てができると思いますので、参考にしていただければと思います。

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