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日本の社会問題に探る、サーキュラーエコノミー型ビジネス(全4記事)

家庭菜園の多い長野県白馬村で起きている、食品ロス まるで「健康診断」のような土壌調査で、地域の活性化を

気候変動、環境汚染、不平等な富の分配、労働力の搾取、フードロス、廃棄物処理など、現在我々が引き起こしているさまざまな社会問題。本イベントでは、こうした社会問題に目を向け改善の糸口を探し続けてきた実践者である、田口一成氏・安居昭博氏が対談。本記事では、食品ロスに悩まされる長野県白馬村の事例を挙げ、サステナブルな社会作りに欠かせないポイントを解説しました。

あえて効率性を下げたソーラーパネルの狙いとは?

田口一成氏(以下、田口):ボーダレスグループでやっている「ハチドリ電力」という電力サービスが、この前第1号の発電所を作ったんですよね。「ソーラーシェアリング」というもので、農地の上に太陽光パネルを置くんですよ。

柵を立てて常に3分の1だけパネルを設置してあって、残りの3分の2はすっからかんなんですよ。効率的に考えれば、農地一面に設置したほうがいいじゃないですか。ただ一面引いちゃうと、農作物に光が入らない。それでパネルを3分の1にしているんですが、それの何がいいかというと、実はそっちのほうが作物の生育がいい。

実は農作物は体温調節するために水分を蒸発させたり。エネルギー消費をしたりするので、光飽和点を越してまでずっと光を浴びていない方が良い。それで、30パーセントだけ閉じてあげると、太陽が動いて、1日の3分の1ぐらいの時間が日陰になっているんですよ。30パーセント閉じたことで、作物にとってもいいし、農家さんも作業をしやすくなった。

もちろん、全部閉じたほうがエネルギー開発としての費用対効果はいいんですが、あえて費用対効果を落として、その下で有機農業をしているんです。

ちなみに僕らが始めたのは「不耕起栽培」と言って、土の中に炭素を閉じ込めるために、耕さない栽培方法。土の中に二酸化炭素を溜めながら上では太陽光発電という、大豆の栽培を始めました。

人間が自然環境を再生するための、2つのポイント

安居昭博氏(以下、安居):人間が自然環境にポジティブなインパクトを与えて再生させていく時に、2つのことが欠かせないと思っています。1つは間違いなく、生態系。

「サステナビリティカレッジ(通称:サスカレ)」という、greenz.jpの植原正太郎さんと、株式会社SOLITの田中美咲さんが2人でマネジメントをしている講座があります。そこで以前、「リジェネラティヴビジネスを考えてみよう」というテーマで講座をやったんですよ。

そしたら必ずと言っていいほど、土や微生物や光だとか熱だとか、そういったことが議題になったんです。なのでこれからは、そういった自然との関わり合いがビジネスと絶対に欠かせなくなってくると感じています。

そうなった時に重要なのが2つ目の「科学的知見」という視点です。先ほど田口さんからあった「光の量に飽和点があって、実は作物は光を浴び過ぎていた」というお話のように、そういった科学的な知見や科学者や分析の注目度は、もっともっと絶対に上がってくるなと思います。

実際に関わっているコンポストプロジェクトでは、立命館大学の久保幹教授と一緒に取り組ませていただいています。「SOFIX」という、久保教授の土壌分析の技術を通して、私たちが作った生ごみが、どうして野菜の生育だとかうまみにつながっているかを、土壌分析をしていただいていたりもして。

確かに、60度以上に燃焼して微生物の発酵が起こってるのはわかるけど、じゃあその発酵の過程で、窒素やリンやカリウムとか、いろいろな養分がどのように推移しているのかは、科学的に分析しないと分からない。

生物多様性とか環境面などの生態系と、科学的な知見、科学者と共創することによって、リジェネラティヴビジネスを作り上げていくという動きは、これからもっともっと注目度が高まってくるなぁと感じています。

土壌調査は、人間における健康診断のようなもの

田口:コンポストで何が問題かというと、素人がやる限界ですよね。本来なら堆肥を農家さんに使ってもらえるといいんだけど、やっぱり怖さがある。

いろんな飼料メーカーさんとかに調整してもらった肥料を使い続けた農家さんが、いきなり家庭コンポストの堆肥を使うのは怖い。そこに「怖くない、科学的に証明されてます」というメカニズムがあると、やっぱり広がる。

安居:しかも、これまで僕たちが何かプロジェクトを始めようかといった時に、「じゃあ、あの科学者に分析を依頼しよう」って、けっこう距離があったと思うんですが、今は科学者との距離もすごく近づいてきてるなというのを感じていて。

例えばSOFIXはWebサイトがあるんですが、サンプルでも数万円とか土壌分析ができちゃうんですよ。そうすると、今の土壌の状態かがわかるので、僕たちにとっての健康診断と似てるところがあるなと思っていて。

土壌分析によって、「この成分が足りないので補おう」という感じで進めていけます。野菜を育てて、1年後に数値がどう推移しているかを土壌分析してみると。それってまさに、僕たちにとっての健康診断にあたりますよね。

何の栄養素が不足しているかわからないのに、1つのサプリメントを取り続けるってことは、人間だったらあまりしない。それよりも先に分析をして、「これが足りないんだ」ということがわかってから、きなこをたくさん食べちゃうとか、ニンジンをたくさん食べたりだとか、栄養素を補う。そういうことをするのと、すごく近しいところがあると思います。

これからの時代、科学者と連携したビジネスが誕生?

安居:また、科学者の方々と民間企業の方々が連携しやすくなってきているとも思っていて。先ほど紹介した「MUD Jeans」という企業も、大学との連携をすごく重視しています。

彼らは履かれなくなったジーンズを回収をして、繊維に戻して新しいジーンズを作るんですが、課題としては、リサイクルすればするほど繊維の耐久性が低下するところがあるそうで。

じゃあ、どれぐらいまでそのリサイクルを重ねると、どれくらい耐久性が落ちるのか、そこまで検証するきちんとした設備って、やっぱりどこの企業も持っているものではないので。そういった時には、大学機関と連携することによって、企業が大学の施設を使えることができますし。

また大学としては、企業や消費者の意見を反映した、より実装に近いかたちで研究ができます。大学などの研究機関にとっても企業にとっても、連携をすることがすごくメリットがあると、オランダでも捉えられはじめてきていますね。

たぶん日本でもこれから、科学的な知見を取り入れたり、科学者と連携したビジネスモデルがどんどん生まれてくるんじゃないかなという感じです。

新しいビジネスは、むやみに広げようとしないほうがいい

田口:ありがとうございます。僕から1個質問してもいいですか? 僕がソーシャルビジネスをやっている理由は、消費者が生活していく上で、よりよい社会にしたいなと思った時の、行動の選択肢を作っていくことが大切だと思っているからなんです。

つまり、より良い社会を作る人のための選択肢づくりがソーシャルビジネスだと思っていて、そうやって行動する人たちを増やしていきたい、ということにもなりますが。安居さんは今回、本を書かれて、今後どういうことをしていきたい・仕掛けていきたいとか、安居さん自身の企んでることを聞きたいです。

安居:「サーキュラーエコノミーをどのようにして広げたいですか?」というご質問をけっこういただくんですが、僕はあまり広げたいとは思っていなくて。サーキュラーエコノミーという言葉が広がれば、自分たちの望ましい世界に近づくかというと、そうでもないなと思うので。

例えば「SDGs」という言葉もすごく広まりましたが、その分だけ本当に自分たちが望むべき未来に近づいたかというと、僕は少し疑問だなと。

田口:バッジが売れただけですね。

(会場笑)

安居:言葉がむやみに広がるというよりも、本質的な理解とそれに伴う実践が広まっていくことがすごく重要だと思っていて。なのでむやみに広げようとせず、良い仕組みを作れば、ある程度自然と広がるものだと思っています。

なので自分のスタンスとしても、黒川温泉をはじめ、どこのプロジェクトでも、一つひとつ丁寧に仕組みを作っていくことで、自然とそれが広がることにつながるのかなと思っていたりします。

長野県白馬村で深刻化する雪不足

安居:その上で今、何を企んでいるかと言いますと、僕、長野県の白馬にけっこう行ってるんです。2020年から白馬が「GREEN WORK HAKUBA」というテーマで、サーキュラーエコノミーを軸に据えて、白馬をより良くしていこうというプロジェクトが始まりました。東京・名古屋・大阪などの企業や、現地の方々が参加する、3泊4日のプログラムです。

その背景としては、白馬ってこの10年間のうち、8年間が雪不足なんです。今後も雪不足が想定されるので、そうすると地域を盛り上げていくためには、「冬」という白馬のイメージを塗り替えていく必要がある。まさに、気候変動なども密接に関係しているんですが。

その中で2021年6月に、「HAKUBA Vision Design Boot Camp」が3泊4日で開催されて、参加した計50名ぐらいのうち半分が現地の方々、もう半分が僕のような外部の方々で、そこで生まれたプロジェクトが、白馬の特色の1つである「家庭菜園」に着目したものです。

白馬には、家庭菜園をやられている方が多いんです。ただ、同じ時期にズッキーニやキュウリが大量にできちゃって、お隣さんに分けようとしても「いや、私もあるから」と、結局それがフードロスになってしまっているという課題があって。

白馬って、山あいからきれいな源泉が流れた川や畑があったり、土壌がいろいろな変化に富んだ土地で、地質学マップで調べてみたら、ものすごくさまざまな地層が入り乱れてることがわかるんです。これはまだ仮説なんですが、それだけの地層に富んでいるということは、白馬の中でも土地ごとに適作の野菜が違うんじゃないかと。

土地にあった作物を作るための「適作マップ」

安居:それで今、進めているのが、まさに先ほどの土壌分析技術「SOFIX」を活用した、白馬中野の15ヶ所ほどでの地質のサンプリングです。土地に合った作物を、地図と一緒にリスティング化をしています。

さらにはそのリストの中に白馬の伝統野菜や固有種を含めていくことによって、「自分たちの土地には、こういう伝統野菜があった」「試しにこれも育ててみようか」という地域の方々の発見や実践につながるんじゃないかと思って。そのような適作マップとか、野菜のリストの仕組みづくりは、他の地域にも広められることだと思っています。

農地で単一栽培をすると、病害虫が寄ってきやすくなるじゃないですか。それって地域全体でもそうで。地域全体で同じ農作物が育てられていると、そこにバッタだとかが大量発生してしまうのも、モノカルチャーに起因しているところもあったりすると思います。

白馬に限らずですが、地域全体でいろいろな作物を育てることは、病害虫にも強い地域作りにもつなげられると思うので。その点では、他の地域にもけっこういろいろな応用が利くんじゃないかなと考えています。

田口:じゃあ今度は、そのモデルケースを白馬で作っていくんですか?

安居:そうですね。ただ今は、白馬の現地の方々にもこれから説明していく段階なので。それも含めて、現地の方々が主役になれて、僕は支えて一緒に進めていく立場でありたいなと思っています。「刺身のつま」みたいな存在ですね。

サステナブルな社会を作るためには「脱成長」から「繁栄」へ

田口:先ほどの「良いものは広めるんじゃなくて広まっていくんだ」という安居さんの意見が印象的でした。本の最後のほうでも書かれている、「脱成長よりも繁栄」という言葉は、安居さんらしいなとすごく勉強になりました。「北風と太陽」でいったら安居さんは太陽で、僕は北風なので。

安居:そうですか? どういった意味です? 

田口:地球温暖化が深刻だからって、僕が言うのは「みんな、電気を変えよう!」なんです。例えば電気代が安くならなくても、「CO2を出さない電気を使おう」ということを言いたいタイプなんですね。

そういった正義とか、真実は真実、ファクトはファクトとして知ってほしいと。その上で良心に従って行動してほしいので、つまり、コートを脱がすためにぐーっと強い風で服を脱がせようとする体質なんです。でもそれでは良くないな、太陽になりたいなぁと思って、自分を矯正しているんです。

まさにそういう意味では、これからのサステナブルな社会を作るためには、「脱成長」という考えがあって。そこでひとまずやるのは、「今、そのままじゃいけないよ」っていう「北風型」じゃないですか。だけど本当にコートを脱がせたかったら、自然と「あったかくなってきたから脱ぐぞ」みたいな「太陽型」のほうが、実際は世界を動かす。

つまり、脱成長じゃなくて「繁栄」という言葉を使うことによって、みんなが前向きに向かおうとする。もちろん、私も無理やりサーキュラーエコノミーを広めようと思ってるんじゃないですよ。いいものを作れば自然と広がっていくんだという、このスタンスだと良いと思います。

安居:今の北風と太陽という発想、どっちも大切だなと思っていて。あとは、自分がどういうスタンスだと無理なく、心地よく感じるのか。太陽だけでも、ちょっとぬるく感じるところもあるかと思いますし、そういったところには北風の力も必要です。

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