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前野隆司氏 インタビュー(全1記事)

日本人のネガティブ思考は「過剰な危機回避」 幸福学の第一人者が説く、暗いニュースに振り回されない方法

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、さまざまな物議を醸しながらも、幕を閉じたオリンピック。ネガティブなニュースが飛び交う昨今、ついついネガティブな情報に引っ張られて気分が落ち込んでしまうことも。また、遺伝的にネガティブ気質になりやすいという日本人が、ポジティブになれる方法はあるのでしょうか? 「幸福学」の第一人者である前野隆司氏が、そんな“ネガティブ時代”をウェルビーイングに生き抜くためのポイントを解説しています。

オリンピック後の日本、ネガティブな情報に惑わされない方法は?

ーーオリンピックに関するいろいろな出来事や、コロナウイルスの感染拡大など、見たくなくてもネガティブな情報が見えてしまう中で、どうすれば引っ張られにくくなるのでしょうか?

前野隆司氏(以下、前野):そう言われてみると、僕はあまり引っ張られませんね。なぜ引っ張られないかというと、やっぱりロジックで理解しているからだと思うんですよ。

マスコミのニュースは、人類がネガティブな状態に陥らないために「殺人事件がありました」とか「コロナが広がりました」というふうに注意を喚起するものなので、ネガティブなほうに偏っています。「ニュースになっていることだけが世界のすべてではない」ということをロジックとして明確に理解していれば、引っ張られませんよね。

ちゃんと手を洗ってマスクをして3密を避ければ、80歳代の人だってある程度安全に外に出かけられます。つまり、「どういうふうにリスクを避けるか」をちゃんと知識として理解すれば、ネガティブになりすぎる必要はありません。

それから、極論すると、すべての人間は必ず死ぬんですよね。だから、実はみんな「死」という究極のネガティブを目指して生きているんです。生きている時間は限られた本当に大切なものです。それをネガティブに生きてもいいし、ポジティブに生きてもいいわけですよ。これはただの選択の問題です。「あなたはどちらを選択しますか?」ということなんですよね。

僕はネガティブに生きたくないので、ネガティブなニュースは「あっ、注意喚起だな」と思って、マスクをちゃんとしなきゃとか気をつけるだけで、別にネガティブにはならない。怖いと思ったりはしますけど、怖いから気をつければいいだけです。

ニュースは、「包丁を持った人がいるから気をつけなきゃ」とか「新型のウイルスが怖いから気をつけなきゃ」と思って、ポジティブに生きるための情報をもらっていると受け取ったほうがいいと思うんですよね。

——なるほど。同じ情報を見ていても、受け止め方が違うということなんですね。

幸せになりやすい人・なりにくい人の違いと特徴

——前野先生は幸せの条件を科学的に分析して「幸せの4つの因子」を挙げられていますが、日頃から幸せになりやすい人・なりにくい人には、どんな特徴や違いがあるんでしょうか。

前野:幸せを感じにくい状態は、自己肯定感が低かったり、悩んで行動しない状態ですかね。

例えば、「Aにしようか、Bにしようか」とずーっと悩んでいる人と、「よし、やってみよう」とポンとやっちゃう人がいます。行動すると、(自分の)強みとか弱みが見えたり、挫折もします。失敗したり学んだりすることで自分らしさが育ちます。しかし、悩んでいるばかりだと育ちません。

悪循環に陥っている人は、個性に自信がない。強みにも自信がない。だから行動できない。それで「自分はなんてダメなんだろう」と悩む。行動できない。これを繰り返してしまいます。悪循環です。

逆に、幸せになりやすい人は、(うまくいくかは)わからないけどとにかくやってみる。やってみると失敗して落ち込んだりもしますけど、それを乗り越えてやってみると、自分の個性がわかってきて、強みも伸びる。自信もついてきます。好循環です。

日本人特有の「ネガティブ気質」を脱却するには?

——以前、日本人は遺伝的にネガティブな性質の人が多いという話をお聞きしました。ベースとしてポジティブに生きづらい人が多いのかなと思うんです。もし、さっきの悪循環に陥ってしまったら、抜け出す方法はあるんでしょうか?

前野:これまで日本人がどうやってきたかというと、日本は「和の国」と呼ばれていたことからもわかるように、みんなで力を合わせてきたんですよね。

村を作って、村の長屋で落ち込んでいる人がいたら「どうしたの?」って話を聞いてくれる年配の人がいて、人と話すことで解決していたのに、今は日本も都市化して、そういう人と会うことがあんまりないですよね。

同世代とか、同じような均一の人だけでは解決できないことも、そういう多世代が触れ合う場所で解決できていた。本当は社会って、おばあちゃん、おじいちゃんから、若い人から、嫌な人からいい人まで、いろんな人がいるべきなんです。その中から学べますから。

だから僕は、やっぱり多様性の高いコミュニティがいいと思います。できれば多世代が共生しているコミュニティがいいですが、趣味のコミュニティでも、地域や学校のサークルでもいいんです。そんな場で、悩みや不満といったネガティブな会話もすればいい。

同じような人が集まっていると、同じような悩みになっちゃう。だから、おじいちゃん、おばあちゃん、外国の方、障害者の方など、とにかく自分とは違うタイプの人と一緒にいるコミュニティに、ちょっと勇気を出して入っていくことが極めて重要だと思いますね。

そして、やっぱり深く入ることがいいですね。1つから3つくらい、嫌々じゃなくて何かワクワクするコミュニティにじっくり入るのがいいですね。最初はどれがワクワクするかわからないかもしれませんが、ちょっとワクワクしそうかなと思ったら続ける。嫌だったらすぐ辞めればいいと思うんですよ。無理のない範囲で新しい世界を開拓する。

ネガティブ思考は「過剰な危機回避反応」

——やっぱり、悩むより行動することが大事ということですね。こういう悲観やネガティブな感情も必要性があって生まれたとは思うのですが、今の日本で何かメリットとして捉えることはできるんでしょうか。

前野:ネガティブな感情は、危機回避のためにあるんです。昔、例えば原始時代に狼が襲ってきたら、危機回避しなきゃいけない。全力で戦わなきゃいけなかったんですよ。

でも、現代社会はかなり安全で健康で衛生的なので、実はそんなに危機じゃない。なのに危機だと感じてしまっている。今の時代に上司に怒られても、普通は殺されるわけではない。だから、そんなに落ち込まなくていいはずなんですよ。

人間はかなり過剰に自分を守るようにできているのに対して、現代社会は健康面でも心の面でも、相当安心・安全な社会になってきている。日本人は、もうネガティブにならなくていい社会を一生懸命作ったんですよ。世界一安全で健康な国になっている。なのに、心は原始時代以来、進化しているわけではないですから、心配し過ぎてしまっているんですよね。

だから、多様性のある仲間と「日本人は過剰に心配してきたけど、力を合わせてもっと安心していいんじゃないの?」と言い合うことが1つ。もう1つは、今申し上げたように知識を得て「ああ、そうか。過剰に反応していたなあ」と意識することが重要ですね。

——確かに、自分が過剰反応しているという意識はなかったです。そういうところに意識を向けるのも大事ですね。

前野:そうそう。世の中のコロナ警察とか、何かに怒ったり、ネガティブなことを言っている人がいっぱいいますけど、あれはほぼ過剰反応だと感じます。もっとみんな優しく「がんばったんだからいいじゃないか」「怖い人がいたら、みんな気をつけようね」「ミスした人がいたらみんなで補おう」と、落ち着いて助け合えばいいんですよね。

「ホワイト企業大賞」を受賞する企業の特徴

ーーコロナ関連で伺いたいのですが、前野先生は「ホワイト企業大賞」の委員でもいらっしゃいます。コロナ禍は、職場の幸福度にどんな影響を与えたのでしょうか?

前野:「ホワイト企業大賞」を受賞している会社はだいたい、このコロナという危機によって、オンラインをうまく使ったり工夫をして、より良くなりましたという感じですね。

コミュニケーションの質を落としていないどころか、上げています。社長が全国の支店に行くのは大変だったけど、今はもうオンラインで対話できるから、前よりも全国の支店の人と話していますよという話も聞きました。移動時間をかけずに、今まで以上に仲良くなりました、という感じです。

逆に幸せじゃない企業はコミュニケーションが取れなくなり、リアルでもオンラインでも、コミュニケーション不足に陥っていますね。心のこもった、「最近大丈夫なのー?」という一言でもあれば違うんですけど。パーソル総研さんとやった調査でも明らかで、テレワークによって幸福度が二極化しています。より幸せになった人と、より不幸になった人。中間層が減って、幸せと不幸が増えているんですよ。

ーーなるほど。そもそも幸福度の高い会社とそうでない会社は、何が違うんでしょうか?

前野:一番大切なのは、働きがいとつながりですね。幸せな会社の社員は、自分の問題として主体的に働いている。要するにやりがいを感じています。幸せじゃない会社では、多くの社員が、やらされ感とか、やりたくないとか、やる気がないとか、「やる」に対するネガティブな状態にあります。

つまり「やる気があって、働きがいを感じていて、自分から働く」という主体性があることが1つ。2つめには、やっぱりつながりが大切なんですよ。みんなでコミュニケーションを取って、つながりが醸成されているから、やりがいも醸成されている。基本はこれですね。

逆に、不幸せな会社は「やらされ感・やりたくない・やる気がない」で、つながりもない。つながりがないから余計にやる気もないという、この両方がネガティブな悪循環に陥っている感じですね。

企業規模によって、社員の幸福度が変わる?

ーー会社の制度や男女比、従業員規模みたいな数値や制度でわかるようなものは、そんなに影響しないんでしょうか。

前野:企業の規模は影響しますね。ものすごく幸せな会社は中小企業が多いです。大きいところでは職員さんが550人ぐらいですけど、100人とか200人、あるいは何十人という、小さい会社ほど、全員がコミュニケーションを取り合っていて、社長の考えが理解できているという状態になりやすいようです。

大きい会社は、巨大な分、声が伝わりにくいシステムです。社長の声は部長から間接的に聞きましょうといった、ピラミッド組織にならざるを得ないところがありますよね。

とはいえ、大企業には無理だとは言いません。例えば、サイボウズさんなど、かなり幸せな大企業はあります。ただし、本当にものすごく幸福度の高い会社は、中小企業のほうが多いという傾向はあるんです。

ーーでは、大企業と中小企業、それぞれに「こういう施策をとったほうがいい」「こういうアプローチをしたらいい」というポイントがあれば、教えていただけないでしょうか。

前野:まず前提として、中小企業のほうが幸せな会社が多いかというと、そうじゃないんですよ。平均値で見ると、大企業のほうが幸せな傾向があります。ものすごく幸せな会社は中小企業のほうが多いですけど、「まあまあ幸せ」は大企業のほうが多いんですよ。

どういうことかというと、中小企業は、すごく幸せからすごく不幸までバラつきが大きい。一方、大企業は大きい分だけ役割分担が進み、管理が行き届いているので、ものすごく幸せにもなりにくい代わりに、ものすごく不幸にもなりにくい。安定感があるのが大企業なんですね。

だから、大企業は人事制度や休暇制度など、制度を拡充することによって安定感のある幸福度を高めようとする傾向があります。大企業がさらにやるべきことは、「心の通った関係性」の構築だと思います。制度でやるのももちろんいいんですけど、上司と部下が1on1ミーティングをしたり、本当に困っていることが何かを真摯に聞くなど、いかに人間味を足していくかが課題だと思うんですよ。

社員の幸福度を左右する「企業制度」の罠

前野:中小企業は、ものすごく幸せなところはものすごくうまくいっていますけど、逆に制度が整っていないので属人的なんですよね。社長がすごくいい人だとすごく幸せになるけど、そうでないとすごく不幸にもなる。他社のことを知らないと「会社ってこんなものなのか」って絶望しながら働くようなことになりがちです。

たとえばたった5人の会社だと、複雑な休暇制度などは作りにくい。だから、みんなで「より良い会社とは何か」ということをしっかり話し合うことが大事ですね。

ーーなるほど。制度でカバーしきれないところをどうしていくかということですね。

前野:制度が充実していないということは、結局上司の判断がすごく影響力を持ってしまうので、マインドをちゃんとしておかないと、ものすごく不幸になるリスクもあるということなんですよね。制度を作るにはコストがかかりますから、その場その場で判断した方が効率はいいので、中小企業のほうが属人的になってしまう。

一人ひとりがやっぱりちゃんと意識しなきゃいけないという意味では、難しいと言えば難しいですね。大企業のほうが、それなりにルールに従っていればなんとかなる。そのかわり先ほども言ったように大企業は「ものすごく幸せ」にはなりにくいんですよ。「まあまあ幸せ」止まりになりやすい。

ーー制度があるからこそ、その限界は越えられないということですね。

前野:そうなんですよ。まさに、枠にはまっちゃうんです。「うちは、ナントカ休暇制度をやっているから、まあいいでしょう」とか。社長が「本当に社員みんな幸せになってほしいんだ」と熱く語るようなことは、大企業ではあんまり見ないですよね。やっぱり制度だけでは限界があるということを意識して、心を込めた手を打ってほしいですね。

社会や組織を変えていく“革命”は、下から起きるもの

ーー幸福度が高い企業の中にも、あまり実感できていない社員がいるんじゃないのかなと思います。幸福度の格差がある会社が底上げしていくには、どんなアプローチが効果的でしょうか?

前野:1つは、幸福度アンケートですね。見える化です。「ホワイト企業大賞」でもアンケートをしていますし、私もパーソル総研さんと一緒に作った「はたらく人の幸せの7因子・不幸せの7因子」というアンケートや、はぴテックさんと一緒に作った「幸福度診断ウェルビーイングサークル」というアンケートを活用しています。

「ホワイト企業大賞」を受賞している会社はすごいですよ。4象限で分けると「不幸せ」の人がほとんどいなくて、本当かって驚くぐらい。

ーーすごいですね!

前野:そうなんですよ。やっぱり「ホワイト企業大賞」の受賞企業は、社長の考えが本当に浸透しています。だから、考えの浸透をいかに徹底してやるか。西精工(徳島県が本社のファスナー・小物パーツの製造業者)さんは、毎朝朝礼を1時間近くやっていますからね。毎朝1時間朝礼って、すごく業務の邪魔に思えますけど、それによって考えの浸透が徹底しているから、みんなやる気に溢れているわけですよ。

それを真似しろとは言いませんけど、社長の思いがどれくらいみんなに伝わっているか。中小企業だと社長が自ら話すのをみんなが聞けるのに対し、大企業だとアンケート制度になるかもしれません。とはいえ、社員がどう思っているかがわかれば、1つのデータとしては使えると思いますね。

ーーもし社長や上司は「幸福度が高い」と思っているけれども、現場はそうでもなくて、「変えてほしい」と思っている時は、下からのアプローチはできるんでしょうか?

前野:できなくはないですよ。上の人の考えを変えることもできます。2021年7月に平本あきおさんと共著で『幸せに生きる方法』という本を出したんです。この本には、上司の意見を聞いているふりをしながら上司をコーチングする技が載っていてお勧めです。時間はかかるかもしれませんが、この例のように下から変えていく方法はあります。

上が「やるぞー」と言ったらバーっと浸透するけども、下が「やるぞー」って言っても、なかなか広がりにくいという傾向はありますけど、でも絶対にあきらめないでほしいんですよ。

この5人のチームだけは売上も伸びているし幸せというふうにできたら、ちょっとずつ広がっていくじゃないですか。上からのほうが早いですけど、下から変えていくと強いというか、がっちり固まります。革命は下から起きるものです。明治維新だって下級武士からやっていたし、フランス革命なんて本当に平民からやっていますから。

ーーなるほど。ありがとうございます。

人口停滞期ほど、実は文化が栄える

ーー個人や組織の幸福度について伺ってきたんですけれども、日本について考えた時に、政治・財政の問題に加えて少子高齢化など、将来の明るい話が少ないなと感じています。幸福学の観点からは、それでも「ポジティブな未来の材料」は何かあるんでしょうか?

前野:歴史的に考えると、人口が増える時は「成長こそ素晴らしい」という考え方になりがちですけど、人口の停滞期には、実は文化が栄えているんですね。例えば、江戸時代前半は人口が増えていますけど、後半は人口が増えていないんですよ。でも、武士道や町人文化ーー歌舞伎、浮世絵などの文化がすごく栄えたんです。

現代とは、もう「どんどん金持ちになるぞ」ということばかりを目指すんじゃなくなってきた社会です。私たちはまだ戦後の高度成長期のやり方に慣れていて、定常期になると停滞していると思いがちですが、定常期の良さに目を向けるべきです。

江戸時代だけでなく、平安時代も前半は漢字や仏教を輸入し、後半はひらがなを作って日本の文化が花開いたわけです。要するに、定常期は、サステナブルに環境破壊も起こさずに、人類が充実した文化を作る時代だと僕は思うんですよね。

むしろ若い人のほうがわかっているように思います。「成長しなきゃ」「金持ちにならなきゃ」「競争して勝たなきゃ」というトレンドから自由になって、「別に大金持ちにならなくてもいいから幸せでいたい」という人は増えていますよね。日本の伝統芸能や伝統工芸と、いろいろな新しい文化をうまく融合して楽しめば、より人間らしく生きる時代になっていくと思います。

日本の映画が世界で注目されたり、日本食も人気がありますよね。人口が減るので国全体のGDPは減るかもしれませんが、1人あたりのGDPを少しずつ増やして文化的な国になっていくことは可能だと思いますし、それが日本の生きる道だと思います。

日本はミスを減らすための「ネガティブ教育」をやりすぎ

前野:例えば北欧は、税金をたくさん取って福祉的にしようという修正資本主義社会です。で、非常に幸福度も高いし収入も高い社会を実現しています。日本は新自由主義的な競争社会というアメリカのような方向にちょっと行き過ぎているのを、もう少し日本に合ったかたちに修正すべき時がきています。

健康と安全という面では日本は世界トップクラスになったので、それに続いて心の幸せ、ウェルビーイングな状態を目指していく。AIとかITとかインターネットとか、“最先端”と言われるものだけに踊らされずに、一人ひとりが自分がやりたいことを追求していけば、日本の未来は明るいと思っています。

ーー確かにそう考えるとポジティブな面もありますよね。ただ、「呑気」とか「能天気」という言葉があるように、なんとなく日本では楽観を少し悪く見る傾向がある気がするんです。慎重さが良しとされるような空気を変える方法はあるんでしょうか。

前野:1つは教育だと思います。幸福学の教育をいろいろなところで試みています。たとえば、楽観的な人のほうが幸せですよ、と。もの作りもおもてなしもきちんと細かくやっているのは日本人のよさで、ネガティブや心配性も悪いことではないんですが、心配し過ぎないぐらいがちょうどいいという、知識を持つことが大事だと思うんですよね。

日本人はネガティブになりやすい傾向がありますが、反面、きちんとやりぬく素晴らしさもある。ただ、やっぱりミスを減らす「ネガティブ教育」をやりすぎたと思うんですよ。それが自己肯定感の低さにつながっている一方で、真面目なもの作りにもつながっている。いい面と悪い面が表裏一体なんですよね。

「少しくらい楽観的な方が幸せになりやすい」

前野:もう1つの方法は、本当はコロナが明けたら、多くの人に海外に行ってみてほしいですね。僕もアメリカに住んでいたときに、すごいポジティブさを見てきて素晴らしいと思いました。もちろん、日本の優れた点も見えてきました。アメリカとかイタリアとかフィジーのような外国に、できれば1〜2年ぐらい住んで、日本を一度相対的に見られるといいですね。

日本よりも治安が悪かったり大変なこともあるところでも、みんな楽観的に暮らしていることが肌感覚でわかると、外国の良さが分かります。カルチャーショックです。同時に、久しぶりに日本に帰ってくると、日本はなんて素晴らしい国だと感じると思います。逆カルチャーショックです。YouTubeでロシアの人が「もう日本以外に住む気がしない」「日本が一番安全で健康で食べ物もおいしいし、いいことだらけだ」と言っていました。

日本にいると気づかないけど、1回外に出ると日本の良さがめちゃくちゃわかるということなんです。もうちょっと収入を増やさなきゃいけないなど、課題はもちろんありますけど、マインドが少し変化するだけで、ものすごく好転するポテンシャルがある国だと思います。

ーー前野先生の著書(『実践ポジティブ心理学ー幸せのサイエンスー』)にもあるように、状態が気分を作るのではなくて、気分が状態を作るということですね。

前野:そうです。幸せは結果ではなくて、原因にもなるんです。だから、最終的な幸せを目指すのではなくて、小さくても幸せな心の状態であることを目指して欲しいですね。すると、結果的に良い方向に向かうようになります。少しくらい楽観的な方が幸せになりやすいということなんです。

ーーネガティブな人ほど、結果的に不幸になってしまいやすいのかもしれないですね。主体的になること、きちんとした知識を持つこと、ネガティブな情報に過剰反応しないことが大切なんだなと思いました。お話ありがとうございます。

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