2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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金亨哲氏(以下、金):ではさっそく、対談パートに入っていきたいと思います。英治さんから、石井さんのプレゼンテーションの感想だったり、お話しを伺ってみたいことがあればと思ったんですけれども。
原田英治氏(以下、原田):まず、YouTubeの録画を見ているんじゃないかと思うような淀みないプレゼンテーションが素晴らしいなと(笑)。本当によくまとまっていて、よく講演をされているんだろうなと思いました。
その中で僕が関心を持っていたのは、心理的安全性の高い学習するチームになった時。「学習」って目的がしっかりしていないと成果が見づらいから、どうしてもそっちの方向に向かいがちじゃないですか。
だからそこからずれたというか、自分たちが進化するというか、目的外の刺激からのクリエイティビティを引き出すというところで、どういう仕掛けをしたらいいのか、なにが重要なのかなというのを、今日どこかで議論できたらいいなと思っていたんですよね。
石井遼介氏(以下、石井):「効率」って結局のところ、正解がわかっている時代感というか、正解がわかっているというパラダイムの中で「あの正解に到着するために一番効率的なのはなんだ」という話なんですよね。
まだ正解がどこかもわからない状況では、ちょうどさっきの英治さんの仰った「ちょっとケーキでも食べない?」のように「ちゃんと遊ぶ・遊びを入れる」ことって大事ですし、そのためにも「この間こんな発見があったんですけど」みたいなことをフラットにシェアできる心理的安全性のある場が、組織としての創造性の下地になるのかなと、お話を伺いながら考えていました。
原田:同時に、余白が多くなってくると管理者や経営者としては「お前いつまで遊んでいるんだ」という気持ちにもなるよね。
石井:「ちゃんとやれ」みたいなやつですよね。
原田:「お前はいつ仕事しているんだ」ってね。
石井:ちなみに英治さんはそれをどうされているんですか?
原田:僕が一番遊んでいると思うので(笑)。いい加減に仕事をしたら? というくらい、ここ数年仕事をしていないんです。でもうちの会社は「フィードバックをする仕組み」はしっかりあるなと思っているんですよね。だから、必要なフィードバックをしっかりすることが僕の仕事だと思っているので、フィードバックを求められていない時まで、僕がするような仕事はないと言ったら変だけれども。
ハーバード・ビジネス・レビューの編集長だった岩佐文夫さんが英治出版を見て、僕のリーダーシップは「逆重心のリーダーシップ」とおっしゃったんですね。
要するにみんなが右に行こうとすると「左に行かなくて大丈夫?」とか、みんなが集中している時にその集中力を拡散しようとしたりだとか、拡散してみんながなにか盛り上がっている時に「いや、集中しよう」とか。人の逆をいくのが好きなんですよね。常に天の邪鬼な性格が自分のオーセンティックなリーダーシップにあって、それで会社の中で自分の役割を果たしているのかなと思っています。
石井:今のお話を聞いていて2つ思い浮かんだことがあって、1つは、多くの会社で「遊び」の部分を社長さんが担当されていることがあると思いましたね。メンバーは「サボるわけにはいかない」と思っていますけど、社長さんはフラフラしているようで、でもたまにとんでもないような、これまでの事業の延長線上にはなかったような案件を持ってきたり、「すごいプロジェクトがきたな」みたいになったりするのもありますよね。
あともう1つは「逆側をいってみる」ってすごく補完的というか。どうしても経営はバランスを取るところがあるじゃないですか。みんなが「やばい」みたいになっている時は「いやいや、大丈夫だよ」「気楽にいこうよ」みたいに声をかけたり、逆にみんなが「もう余裕でしょ」「うちは黒字が出放題」みたいになっている時に「いやいや、気を引き締めていこうよ」という。バランスを取る役割がありますよね。
原田:経営者にとってバランスはすごく大事なんだけど、新しい仕組みを導入していく時は「先導する」のがけっこう大事なのかなと思っていて。自分自身もそんなに意識していなかったんですけど、英治出版は今コロナの時期で難しいですけど、「1年に1回は海外出張に行かなければいけない」ぐらいに言っているんですよね。
石井:制度として、ある種の「遊び」というか「探索」をしようというところですかね。
原田:先ほどのクリエイティビティのある組織の因子の1つから、「多様な刺激を受けてほしい」というのもあって、そういう意味で1年に1回ぐらいパスポート持って海外に行ってもらっています。主にはロンドンだとかフランクフルトのブックフェアに行ってもらうんですけど、そこからその後に北欧に行ったりアフリカに行ったりするような旅費も、一部英治出版で負担して行ってもらうんですよね。
石井:めちゃくちゃいいですね。
原田:それを制度として定着させるために、僕自身が最初に2010年にアフリカに行ったんです。そうしたら翌年に今の編集長の高野達成くんがインドに行って。そこで「行っていいんだ」とか「本当に行くんだ」となりました。4月に新入社員が入ってきたら、4月のブックフェアでロンドンにいきなり行くこともありました。「パスポートだけは取っておいて」と事前に伝えて、入社4日目で海外出張という人もいたぐらいですね。
石井:それは普通は恐縮しちゃいますよね、「本当にいいのかな」みたいな。まずはそれを社長やリーダー自身が先導してみせるというか、「本当にやっていいんだ」を目の前にみせるのは大事ですよね。
原田:僕自身はそこまで考えていなかったんだけど、周りの人から「英治出版では原田含めみんなが本当に行くからね」って言われたり、そこから「理解が始まる」というかね。
原田:だから心理的安全性のある場での対立する意見の話も、本当に対立する意見のディスカッションをしているところを見せることが大切なんだろうね。
石井:社長が「これからは心理的安全性が大事だ」と言いながらも、反対意見に対して「なんだその意見は」と言っていると、「あの人は本気で心理的安全性をつくりたいと思ってはいないんだ」って、行動から伝わってしまうわけですよね。「まずは範を示す」って古い言葉ですけど、すごく重要なことだと思いますね。
原田:とはいえ、「なんだその意見は」と思うじゃないですか(笑)。
石井:(笑)。
原田:「なんだその意見は」と言わないまでも、顔や態度に示しちゃったりするじゃないですか。そうすると相手は萎縮するじゃないですか。それはどうやったらリカバリーできるの?
石井:全員の前やその場では難しいかもしれませんが、その後1対1でフォローアップしたりしますね。あるいは、もうちょっと深堀りして背景を教えてもらうとか。
これはあるクライアントの会社さんがやっていて「それいいな」と思った仕組みなんですけれども、企画書のフォーマットをいい感じで整えるんです。
そうすると「単なる思いつきを持ってるくんじゃなくて、さすがにそこと、そこくらいは考えてきてよね」というのがフォーマットで押さえられているので、最低限のディスカッションのの土俵に立てるクオリティが担保された状態から、スタートできるんです。「お前のアウトプットの低いクオリティはなんだ!」と人を責めるのではなくて、仕組みで解決していこうとするのはいいですよね。
原田:なるほど。僕自身は同時に、フィードバックもそうなんだけどインフォーマルな場を大切にしていて。フォーマルにはあまり言わないというか、今オフィスにもリモートでなかなか行けないところがあるんだけど、コーヒーを淹れた帰りのついでだとか、エレベーターホールで会った時とか、ランチを食べる時とか、そういう時にフィードバックするのが頃合いかなと思っていて。
石井:大事ですね。特に社長から「明日の夕方時間ある?」とか言われるとちょっと怖いですよね。
原田:怖いよね(笑)。
石井:「そういえばついでに」ぐらいのトーンがいいトーンなんでしょうね。
原田:妻に「時間ある?」と言われたら、震え上がりますもんね。
石井:(笑)。
僕もフィードバックする時に、「すぐにやる」ことを大事にしていますね。一緒に営業の現場に出て、今の対応はあまり良くなかったかもなと思うと、「今の営業についてちょっとこの後いい?」と言ってすぐ話して、「次回からはこう準備できるともっと良さそうだよね」みたいな話をします。
原田:それは素晴らしいと思う。僕自身はそれができなくて、けっこうモヤモヤを抱えるタイプなんです。いつ言おうかなと思ってタイミングを見計らっていて、エレベーターホールで会えたらいいなと思ったらすれ違って、下に行くかなと思ったら上に行っちゃった……みたいなこともありますけどね。
石井:苦労されていますね。
原田:でも自分が思った時にすぐに言えることが、まさに心理的安全なんだよね。
石井:そうですね。でも今の原田さんのお話はすごく大事なポイントが隠れていると思います。たぶんメンバーの方は、「上の人はなんでも言い放題に言える」と思っているんじゃないでしょうか。けれども、社長であっても「今このタイミングで言っていいのかな」とか、本当はいろいろ考えて、悩んで、逡巡しているんですよね。好き放題言っているように見えてけっこう言葉を選んでいたりもするので、どの立場であれ、1回「相手の立場を見てみよう」とすること。
そうしようとしても、それで相手の立場が完全に見えるとは思わないですけど、見てみようとすることは、心理的安全性を作ったり、創造的なプロジェクトを立ち上げたりする中でも、すごく大事なことかなと思いますね。
原田:僕も経営者になって感じているし、中小企業の経営者だったうちの父親から小さい頃から聞いていたことで、「経営者っていうのは寂しいんだから、話しかけてあげれば絶対喜ぶ」と。
それをアクセンチュア時代に実行したんだよね。パートナーとか上司の人たちは絶対寂しいんだから、飲み会に誘ってあげるとか「ランチ行きませんか」とか、話しかけると絶対喜ぶって。英治出版の株主ってアクセンチュア時代の先輩が多いんだよね。
石井:なるほど(笑)。
原田:寂しがり屋さんたちがみんな集まっているっていうね。これ、聞かれたらまずいですね(笑)。
石井:じゃ、オフレコでお願いします(笑)。
金:ログミーさんが入っていますけど大丈夫ですか(笑)。
原田:寂しがり屋の人たちなので、またたっぷりお話ししてあげれば大丈夫だと思います。
石井:そういう対応をしていると絶対に可愛がられましたよね。
原田:そうそう。だからプロジェクトに呼んでもらえたりもしました。
原田:自分が経営者になってもなかなか話しかけてもらえないし、話しかけていいのかなって考えてしまいますよね。小さな会社でも、「ランチに行こう」と誘うのも迷惑な話じゃないかなと思っちゃうんですよね。
石井:わかります。「本当は休憩時間ぐらい自由にさせてあげるべきじゃないのかな」とか考えちゃうんですよね。
原田:休憩したいんだろうなと思うと、わざわざ社長とランチに行かないよねって。自分が社員だったら行かないと思うと、社長の自分から声をかけることができなくなっちゃうんですよね。だから苦肉の策で、うなぎランチの日を作ったりとかね。
石井:「うなぎなら行きたいです!」ってことですね(笑)。
原田:たぶん俺よりは魅力的だろうと思って。うなぎだとみんな行きたがるんですよね。
石井:すごい、御社のメンバーも「うなぎなら付き合います」とチャット欄にコメントをくれています。
原田:うなぎ「なら」って(笑)。違うものでも付き合わせる方法を考えなきゃいけないですね。でも月給を3,000円アップしたとして、社員はそんなに喜ばない。一瞬は喜ぶかもしれないけど、そんなの数秒で忘れますよね。でも毎月うなぎを食べさせたら、すごくいい会社に思ってもらえるもんね。
石井:確かにホームページとかでも「うなぎ制度」とかって書けそうですね(笑)。
原田:「弊社では毎月1回うなぎを食べなければいけない」とか言ってね。でもそのうなぎランチの時にできる会話がけっこういいです。
給料を上げても3,000円かもしれないし、うなぎでランチをやっても3,000円かもしれないけど、ワクワクする想像力の使い方で、みんながワクワクする時間を持てたらいいなというつもりで。だからこういうのも自分でどんどん実践して「みんなもそういうのを考えてやってよ」というのが、英治出版スタイルなんですよね。
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