創造的でワクワクする組織を作るためにリーダーは何ができるか?

金亨哲(以下、金):「創造的でワクワクする組織を作るためにリーダーは何ができるか?」ということで、お2人の登壇者をご紹介させていただこうかと思います。

まず石井遼介さんです。株式会社ZENTech取締役・チーフサイエンティストであり、心理的安全性の研究者として日本の組織・チームにおける心理的安全性の計測尺度を開発されました。日経クロストレンドEXPO登壇など多数のメディア出演をされております。心理的安全性について研究するとともに、広くその知見を社会に還元されています。よろしくお願いいたします。

石井遼介氏(以下、石井):よろしくお願いします。みなさま、あらためましてはじめまして。と言っても、参加者のみなさんのお名前を見ていると、何度もお名前を見る人もいらっしゃいますね。ありがとうございます。

はじめましての方へ自己紹介をさせて頂きます。石井遼介と申しまして、今日は「心理的安全性の人だな」と思っていただくといいかなと思います。今回は『心理的安全性のつくりかた』、それから『恐れのない組織』の2本とのコラボイベントということで、自己紹介も兼ねて、私がどんな組織づくりやチームづくりをしてきたのかから、話を始めさせていただきます。

心理的安全性のつくりかた

前例のないプロジェクトを実現させる、心理的安全性が高いチームづくり

石井:開催するかしないかもだいぶ議論になっておりましたけれども、なんとかオリンピックが開催されましたね。前職では、このオリンピック・パラリンピック史上初の「都市鉱山メダルプロジェクト」の立ち上げを民間側で主導させていただきました。

これは「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」というプロジェクトです。みなさんも携帯電話をお持ちだと思うんですけれども、今使っているものはいいんですが、1世代前とか3世代前、5世代前のものが棚に眠っていたりしますよね。

この携帯電話の中には金・銀・銅、そしてプラチナ・パラジウムなど、さまざまなレアメタルが入っているんですけれども、「(リサイクルは)環境にいいから出してください」と言われても、思い出深かったり、買った時に高かったりすると、環境にいいからといっておいそれと出してやろうとはなかなか思えないんじゃないかと。

そこで立ち上げたのが「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」です。ちょうど今日も昨日も選手のみなさんがメダルを授与されていますけれども、この瞬間に「あのメダルはわしが出した携帯から作られたやつ!」と言える。

そんなプロジェクトを民間側で立ち上げました。忘れもしない2015年のゴールデンウィークに自宅で一枚の企画書を書き、プロジェクトが正式にオリンピック・パラリンピック組織委員会に承認される2017年1月末まで、一年半以上も掛かった難産なプロジェクトでした。

当時私は、いち環境ベンチャーのシニアマネージャーの1人に過ぎませんでしたので、こういう国家的なプロジェクトを企画構想し、実現することはなかなか自分の会社だけでは難しく、本来なら携われないようなものだったんですけれども、組織の壁を越えた心理的安全なチームづくりのお陰で、まだかたちと前例のない商材を共創できました。

守秘義務もあるため、都や組織委員会の関係者の参加した議事録等で公開情報となっている範囲で申し上げると、日本環境設計株式会社、田中貴金属工業株式会社、株式会社NTTドコモの3社で企画・提案を行い、そして最終的には小型家電リサイクル法認定事業者等の50社以上が集まった大きなプロジェクトになりました。

ちょうどこのオリンピック期間中も、イギリスのBBC、カナダのCBC、それから東京2020の公式Twitterなどでも「オリンピックメダルはリサイクルした携帯電話など、小型家電からできている」ということや、CBCでは「画期的な錬金術でオリンピックメダルの価値を再定義」と、好意的に報道されました。

「心理的安全性」とは?

石井:今日は「創造的でワクワクする組織」という話なんですけれども、組織やチームが「心理的安全である」ことが、創造的でワクワクするプロジェクトを実現するために、非常に重要なポイントではないかなと思っております。

というわけで、今日はこの「効果的なチームのための『心理的安全性』」ってそもそもなんなんだろうという話と、それを作る「リーダーシップとしての『心理的柔軟性』」という話の、2つのトピックについて、お話をしていきたいと思います。

まず「心理的安全性とはなにか」ということで、我々マネージャーが現場で使える定義をこちらに示しています。心理的安全性を一言で言うと、地位や経験に関わらず、誰もが率直な意見・素朴な疑問を言うことができる組織・チームのことだと思ってください。

こう聞くと、めちゃくちゃ新しいことや難しいことを言っているわけではなくて、非常に素朴な概念だと思うんですよね。当たり前に重要で、何気ないこと。そういうことが一切できないガチガチの組織よりは、お互いにいろいろ言えたほうがいいんじゃないかと、みなさんもきっと同意してくださると思うんですよね。

そのくらい素朴で何気ないことが組織やチームの業績に貢献するんだという数々の証拠が、僕の『心理的安全性のつくりかた』もそうですし、英治出版さんから出たエイミー・C・エドモンドソン先生の『恐れのない組織』『チームが機能するとはどういうことか』にたくさん載っています。

チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ

「罰や恐れによるマネジメント」が機能しにくいことは、80年前に結論が出ている

石井:この心理的安全性について手触りを持つために、逆側について考えてみるとわかりやすいかなと思います。心理的「非」安全なチームとは、いわば「恐れのある組織」、つまり罰とか不安を与えられるチームだと思っていただくといいかなと思います。

今日はみなさんいろんなお立場から、時に代表者・役職者の方もご参加いただいているかなと思うんですけれども、例えばみなさんがいちメンバーで、上司と意見が対立すると確実に人間関係にひびが入るのがわかっていたとします。組織やチーム、会社やお客様のことを考えると「絶対にこうしたほうがいいと思いますよ」という上司の指示や意見とは異なることがあったとしても、人間関係にひびが入ってしまうかも、などと思うと、なかなか実際に言ってみるには至らなかったりしますよね。

そんなふうに「こんなことを言うとどうなっちゃうんだろう。でも本当はこうしたほうがいいのにな」と、みなさんが胸の内に秘めてしまうのが心理的「非」安全なチーム、罰と不安を与えるチームなんですね。

この「罰や恐れによるマネジメント」が機能しにくいということは、実は80年以上前に結論が出ています。エドモンドソン先生と同じハーバード大学のバラス・スキナー(B.F.Skinner)先生という、行動分析学のオリジンの方がおっしゃっているんですね。

罰あるいは恐れが持つ機能(ファンクション)があって、それは決して行動を増やすことではなく行動を減らすことだというのが、行動分析学の結論なんです。

もちろん明日怒られないために今日がんばったというようなことはみなさんもあると思うんですが、それってなかなか長続きしなかったり、あるいは「明日は怒る上司がいないから、今日はやらなくていいや」みたいになったりしますよね。そのように、怒られないために、不安を払拭するためにがんばることって、なかなか長続きしない。あるいは、離職につながりやすかったりするんですね。

ミスの報告を厳しく叱責すると、逆にミスを隠すようになる

石井:せっかくなので、ちょっとだけ行動分析学についても触れておきたいと思います。行動分析学と聞くと、すごく堅そうで難しそうじゃないですか。でも非常にシンプルなんです。「きっかけ」「行動」「みかえり」という3つの箱を使って、人々の行動を分析しましょうという、シンプルながら非常に強力な分析のフレームワークなんですね。

例えばミスが発覚したとしましょう。上司に報告しに行って、めちゃくちゃ怒られたとしましょう。そうするとアンハッピーじゃないですか。行動した直後にアンハッピーな出来事があると、次回、同じようなきっかけで、同じような行動を取る確率が下がるというのが、行動分析学が明らかにしていることなんですね。

つまりこの場合でいうと、上司は上司で「ミスを減らしてほしい」と思って怒るという行動をやっているのかもしれないですけれども、実は減るのは「報告する行動」なんですね。要はミスを減らしてほしいのに、ミスの報告を厳しく詰めると、ミスではなく報告が減る。ちょっと言い方を変えると、ミスを隠すようになることが多いんです。

心理的「非」安全な職場であったり罰と不安のマネジメントでは、特に中長期で見ると行動量が減って、必要な情報もなかなか上がってこなくなる。ワクワクとか創造性からは遠いですよね。「お前、ワクワクしているのか」「……はい。」みたいに、「……はい。」と言わされてやらされているような職場が、心理的「非」安全な職場のイメージでしょうか。

心理的安全なチームはそうではなく、生産的で良い仕事をするために健全に意見を戦わせたり、学習し成長できたりするチームのことだと思っていただくといいかなと思います。

心理的安全なチームをつくる4つのフォーカスポイント

石井:今日はそんなに詳しくは触れないつもりですけれども、心理的安全なチームをつくる4つのフォーカスポイントがあります。「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」です。

心理的安全性がある時は、「このチームは確かに話しやすいな」とか「ピンチや困った時にお互いうまく助け合えていいチームになれるな」とか。なにか新しいことに「まずは小さくリスクを取って小さく挑戦してみよう」とか。そして個性・才能を、今までの自分の組織からすると異質なものであったとしても歓迎してみよう、というような行動が取れる。これが日本の組織で私たちが感じる心理的安全性かと思っていただければと思います。

ですので、マネージャー・管理職・代表格の方に関しましては、それぞれご自身のチームをこの4つの因子をものさしとして測ってみていただくと、「うちは話し合うし助け合いもする、いい人ばかりの組織なんだけれども、なかなか挑戦はしていないかもな」のように、それぞれのチームの特徴が見えるのではないかなと思います。

というわけで「心理的安全なチーム」は、反対意見を言っても、助けを求めても、挑戦してみても、個性を発揮しても安全なチームだと思ってください。

「心理的安全性=ヌルいチーム」という誤解

石井:ここで、よくある誤解に少しだけ触れておきたいんですけれども、「心理的安全性ってヌルいチームなんじゃないの?」と。これについては、仕事の「基準」とあわせて考えていただくといいと思います。この表は、エドモンドソン先生のもともとの分類に、それぞれのカテゴリに少し特徴的な名前を付けさせていただいたものです。

我々は決してヌルい職場を目指そうとしているのではなくて、「心理的安全性」も高く、仕事の「基準」も高い、右上の「学習する職場」を目指しているんだなということを押さえておいていただくといいと思っています。

心理的安全性は決してヌルいチームなのではなくて、メンバーや上司に意見を言っても安全だからこそ、「上司はそうお考えかもしれませんけど、私はこう思います」と健全に衝突できる職場・チームのことなんですね。

このように、心理的安全性と仕事の基準の双方が高いことが、一人ひとりが本当にやりたいプロジェクトにつながったり、創造的なプロジェクトにつながって、結果として業績につながると思っていただくといいのかなと思います。

「心理的安全性」について、もちろんいろんな言い方があると思うんですけれども、意味内容としては「それ、おかしくないですか」とか「私はこうしたほうがいいと思います」、あるいは「ちょっとわからないので教えてもらえますか」みたいに、チームの誰もが率直な意見、素朴な疑問を伝え合える。そして、心理的安全だからこそ、リスクを取ってやってみることができるということです。まったく思ってもいないのに全部「いいね」と言わなきゃいけないとか、そういうことではないんです。

組織やチームの違いに対応できる「心理的柔軟なリーダーシップ」

石井:ここまでが第一部の「心理的安全性」のお話でした。これをどう作っていくのがいいのかというのが、「リーダーシップとしての『心理的柔軟性』」なんですけれども、これも3つの要素があって……と話し始めると、この後9時間ぐらい話ができてしまいます(笑)ので、もう少し手前のところからやっていきたいと思います。

心理的安全なチームを作るにもリーダーシップが大切です。なぜかというと、いま現在の組織・チームの心理的安全性の状況って、チームの「歴史を背負った結果」だからなんですね。どういうことかというと、過去にメンバーの行動や事件が起きた時に、責任者はどう対応したのか、それとも対応しなかったのか、そういった積み重ねがチームの心理的な状況・状態です。なので、それぞれの会社・組織、もっと言うとチーム一つひとつによって違うんですね。

エドモンドソン先生も、心理的安全性は組織全体よりまずはチーム単位で考えたほうがいいとおっしゃっているんですけれども、どのチームにも使える正解はなかなか少ないです。みなさんも同じ組織の中で人事異動の経験があると、「同じ名前の、同じ会社のはずなのに、前にいたチームと随分雰囲気が違うな」みたいなことを思った経験が、きっとあるんじゃないかなと思います。

一つひとつの組織・チームが違うわけですから、その「違い」に柔軟に対応できるような心のしなやかさ「心理的柔軟なリーダーシップ」が大事です。

「リーダー」と「リーダーシップ」の違い

石井:心理的柔軟なリーダーシップについて話す前に、抑えておきたいポイントが、「リーダー」と「リーダーシップ」は違うということです。

「リーダー」はポジションのこと、「リーダーシップ」は他者に影響を与える能力そのもののことです。例えば研究者によっては、ポジションに紐づく影響力、つまり「あの人は人事権を持っているから言うことを聞かなきゃ」というやつのことは「パワー」と呼んで、リーダーシップから区別する方もいらっしゃるぐらいなんですよね。ですので、今はどの立場にいようが、仮にパワーがなかったとしても、他者に影響を及ぼせるような「リーダーシップ」を磨いていくことが大事になります。

心理的安全性の話をすると、よく経営者の方から「あまりに全部を経営側の責任にされても困る」という話をいただきます。おっしゃるとおりで、いちメンバーであっても、つまり「パワー」がなくとも、リーダーシップを磨くことで周りの同僚・後輩・先輩に影響を与えられるはずですから、経営者のような「公式なリーダー」のせいにして心理的安全性な組織・チームづくりから逃れることは、本来リーダーシップの涵養(徐々に養うこと)からは遠いわけですよね。

マネジメントの時の声かけは、「心の中」ではなく「行動」に集中する

石井:「心理的柔軟なリーダーシップ」については、最後入り口だけ触れて、英治さんにお渡ししたいなと思っているんですけれども。「心理的柔軟なリーダーシップ」は本当に平たく言うと、「正論を振りかざすのはやめて役に立つことをしましょうよ」というリーダーシップだと思っていただくといいかなと思います。

みなさんもマネジメントされているチームの中で、最近プライベートで辛いことがあってパフォーマンスが出ていないメンバーがいた時に「いやいや、ちゃんと仕事とプライベートは分けるべきだろ」と声をかけたとしましょう。それは正論で、ロジックとしてはそうだと思うんですけれども、声をかけた目的である「パフォーマンスを取り戻してもらう」ことからは、実はあまり役に立たなかったりしますよね。

この心理的柔軟性の「役に立つこと」をするためのポイントが1つあって、それは「心の中」とか「性格」よりも、「行動」に集中するといいということなんですね。もっと言うと、心の中のことに集中するとけっこう役に立ちにくいんです。今回のテーマは「ワクワクする」ですけれども、じゃあ「みなさん、ワクワクしてみてください。どうぞ!」と言われても、自分の心の中ですらコントロールすることは難しいわけですよね。

いろんな行動、いろんな状況の結果としてワクワクは生まれてくるものなので、「ワクワクを作れ」ではなくて、ワクワクが結果として生まれるような具体的な「行動」がどうしたら積み重ねられるか。そのほうがポイントだったりします。

「危機感を持て」と言っても、とってほしい行動は起こしてもらえない

石井:他にも、みなさんもけっこうビジネスで使うかもしれないんですけれども、よくある意外と役に立ちにくい「心の中」のことをリストアップしてきました。例えば「危機感」とか「自信」という言葉もそうなんですけれども、全部「心の中」のことじゃないですか。

コロナの時代に「みんな危機感を持て!」と、僕自身も言いそうになるんですけれども。冷静に考えていただくと、みなさんはメンバーに「危機感」そのものを持ってほしいわけでは本来ないはずなんですね。

ちょっとみなさんに笑っていただきたくて、突飛な例を持ってきました。例えばみなさんが新卒の人たちがいるところで「危機感を持て」と言ったとしましょう。それで新卒のみなさんが真剣に危機感を持った結果、部屋の隅でガタガタ震えている……ようなことが起きるとします。確かに新卒の人たちは危機感を持ったかもしれないけれども、みなさんはガタガタ震えてほしかったわけではないですよね。

例えば「競合を調査してみよう」とか、「この状況を打破できるアイデアを考えてみました!」とか、危機感を持った時にとってほしい行動のカテゴリがきっとあるはずです。

「危機感」という心の中のことを言う時は、「どういう行動を取ると良さそうかと思っているかというと……」のように、行動カテゴリにまで分解してあげるとうまくいきやすいと思います。

心理的安全性をもたらすための「行動分析」の重要性

石井:まとめます。心理的柔軟性、つまりしなやかに役に立つことをするためにどうしたらいいか。その答えは、ぜひ「行動」にフォーカスしてください。

心理的安全性をもたらす上でも、行動にフォーカスしてあげることはすごく役に立ちます。そのためにも前半お伝えした「行動分析」。例えば、会議の場で「話しやすさ」因子に紐づく「話す」という行動を取った時に、見返りとして「意見に対してダメ出しばかりされる」というアンハッピーなことがあると、なかなか「会議で話す」という行動が増えていかないわけですよね。

行動分析を活用すると、自分や相手の行動にアプローチする方針が見えやすいです。立場に関わらず、みなさんがリーダーシップを発揮して、行動分析も活用しながら、ぜひ心理的安全で創造的な組織・チームづくりへの一歩目を踏み出していただきたいと思います。私からは以上です。ご清聴いただきありがとうございました。

:石井さんありがとうございました。みなさま、拍手をありがとうございます。