ワニの仲間の研究が、人間のドライアイ治療のヒントになる?

ハンク・グリーン氏:「悲しみ」を偽るとき「ワニの涙を流している(they are crying crocodile tears)」ということがあります。

この言葉は「ワニが食べたものを反省して涙を流す」という神話から来ていて「反省」というのは確かに神話ですが、研究者たちによって、ワニとそのいとこが食事の際に目を潤ませることが明らかになりました。

ふつう考えられるような意味での「泣き」ではありませんが、ワニが何をしているのかを理解する過程で、研究者たちは、ワニがどのようにして目の潤いを保っているのかについても研究しています。この研究で人間のドライアイを治療する方法が生み出されやすくなるかもしれません。

科学者たちは2007年の研究で調査しました。ワニは陸上では非常に攻撃的で機敏な動きをするので、その代わりとして、ワニの近親者であり、同じ顔の構造を持つ訓練されたワニとカイマンに注目しました。この爬虫類は陸上で食事をするように訓練されていて、これが重要なことです。もし動物が水中にいて、目がすでに濡れていたら、泣いたり、目が潤んだりする様子を観察することはできません。

しかし、実際にはたくさんのことがわかりました。涙目はもちろんのこと、ほとんどの動物が食事中に目から泡を出しているのが観察されました。

なぜかというと、これは厳密には通常の涙ではないからです。つまり、目の周りの腺が新しい液体を作っていたわけではないのです。むしろ、これは涙の膜が吐き出されているようなものです。涙液は、私たちの目をいつも覆っている液体で、通常は涙管に排出されます。

しかしこの爬虫類においては、ムシャムシャと食べているうちに肺からの呼気によって涙液が涙管から逆流してくるのです。「涙の泡立ち」は、涙の中に含まれるタンパク質などの物質による反応です。

爬虫類が目を潤ませるのはそれだけではありません。爬虫類の涙膜は人間よりもはるかに効率的で、例えば人間は1分間に15回まばたきをしないと涙が目に行き渡りませんが、カイマンは2時間近くもまばたきをしないでいられるのです。なぜ、このような膜が安定しているのか、完全には解明されていません。

ところが2020年に発表された論文によると、少なくともその原因の一部は、カイマンが何でできているかにあることがわかりました。研究者たちは、フィルムの乾燥に伴って形成される結晶パターンを調べることで、そもそもフィルムのなかに何が入っているのか知ることができました。このパターンというのは、タンパク質、電解質、粘液などの大量の物質によって形成されていて、これらの物質は、涙の膜に溶け込んでいますが、水分が蒸発する際に残ってしまいます。タンパク質も粘液も、液体を非常に安定させる働きがあります。水の中に長くいる動物にとっては、とてもありがたい存在です。

一方で、電解質は目の潤いを保ち、炎症から保護する働きがあると考えられます。クロコダイルの涙液をより深く理解することは、動物全体を理解するのに役立つだけでなく、人間の涙液についても研究者の理解を深めることになるでしょう。

爬虫類の非常に安定した膜の背後にある分子やメカニズムを正確に把握できれば、人間のドライアイなどに対する新しい治療法の開発につながるかもしれません。

言うまでもなく、涙とその仕組みは一般的にはよくわかっていません。涙についての知識を深めることは、研究者の知識向上にもつながるので「泣くに泣けない」のです。