「成長企業を支えるCFOのキャリアビジョン」

嶺井政人氏(以下、嶺井):次のセッションは「成長企業を支えるCFOのキャリアビジョン」というテーマで、ディスカッションを行います。

今回はランサーズの小沼CFOと、ZOZOの栁澤副社長兼CFOにご登壇いただきます。「お二人がどう考えてキャリアを築いてきたのか? そしてこれからどんなビジョンを描いているのか?」を深掘りしていきたいと思っています。よろしくお願いします。

小沼志緒氏(以下、小沼):お願いします。

栁澤孝旨氏(以下、栁澤):よろしくお願いします。

嶺井:まずこのセッションのアジェンダです。こういったことをお二人にうかがっていきたいなと思っています。ただ、時間が40分と限られたセッションなので、優先順位をつけてうかがっていきたいと思います。

日本の「クラウドソーシング」の先駆けである、ランサーズ

嶺井:ではさっそく、登壇者のご紹介をいたします。ランサーズ小沼CFO。よろしくお願いします。

小沼:お願いします。まずこの「Growth CFO Summit」には、今回で2回目の登壇になります。前回はIPOの枠で呼んでいただいて、もう二度と呼ばれないかなと思っていたので……(笑)。

(一同笑)

嶺井:いやいや(笑)。

小沼:今回、2回目の参加をさせていただいて、本当にありがたく思っています。よろしくお願いします。

嶺井:とんでもないです、今年もご登壇ありがとうございます。

小沼:まず簡単に、ランサーズのご紹介からさせてください。ランサーズは「個のエンパワーメント」をミッションに2008年に創業した会社で、13年目です。

基本的なビジネスとしては、オンライン上でクライアントの方とフリーランスの方をマッチングするプラットフォームを運営させていただいています。クライアントに対しては人件費の変動化でしたり、社内にはないリソースを社外から簡単に調達できるというメリットがあります。またフリーランスの方に対しては、副業などの余った時間、好きな時間・好きな場所でお仕事ができるというところを、ベネフィットとして提供をさせていただいています。

嶺井:ランサーズさんはいわゆる「クラウドソーシング」の先駆けですよね。

小沼:そうですね、日本ではパイオニアとしてこの事業をやらせていただいています。特徴として、(スライドを指して)この右側にあるクラウドソーシング型、オンラインでのマッチングサイトというのは比較的多くあるんですけれども。

我々ランサーズはパイオニアとしてこの事業をやらせていただく中で、やっぱり「単純な作業を外出しするようなクラウドソーシング」だと、どうしても仕事を受けられる個人が偏ってしまうという課題がありましたので、もう少しスキルだったり、経験のあるフリーランスの方にお仕事を発注していただく。そういうオンラインスタッフィング型のモデルを、より注力して伸ばしてきているのが特徴になっています。

(スライドを指して)これはよく人材派遣などと比べられるので、我々の特徴を整理しているものなんですが。みなさまにも少し宣伝がてら、我々の良さをお伝えしますと、右側の「マッチングまでのスピードが圧倒的に早い」というところが、一番良いところだと思っています。

今欲しい人材をすぐにもらえる、かつ「人月ベース」で発注する必要はなくて、あくまでも「仕事ベース」で発注できますので、とても安価に欲しい仕事が外注できるところが良さになっています。

ランサーズにおける、3つの主要なサービス

小沼:こちらがランサーズの主要なサービスになっていまして、3つございます。私が最近、事業部も責任者として兼任をさせていただいていますので、少しご紹介をさせていただければと思います。

一番上のものがマーケットプレイス事業といって、直接的にクライアントの方とフリーランスの方が相対するかたちでマッチングが成立するモデルです。2つ目がマネージドサービスといって、ランサーズがクライアントの方とフリーランスの方の間に介在させていただいているモデル。3つ目が、私が最近受け持たせていただいているんですけれども、テックエージェント事業というところで。エージェントが介在するかたちで、フリーランスの方をクライアントにご紹介するモデルになっています。

この4月から私が責任者をやらせていただく中で、改めて事業部のサービスビジョンを定めました。「フリーランス・ファースト・エージェント」をサービスの主軸において、ここから伸ばしていくということで、今やらせていただいています。よろしくお願いします。

投資銀行→リクルート→ランサーズという、小沼氏の経歴

嶺井:ありがとうございます、よろしくお願いします。自己紹介も少ししていただきましたが、ここまでのご経歴と、今の管掌領域を簡単に聞かせていただけますでしょうか。

小沼:経歴はここに記載のとおりでして、まず新卒で投資銀行に就職をいたしました。

今はなくなってしまったんですが、日興シティグループ証券という日系と外資のジョイントベンチャーの会社に就職しまして。そこで4年半ぐらいですね、馬車馬のように働きました(笑)。

嶺井:(笑)。

小沼:そのあと、ちょうどリーマンショックなどもありましたので、このまま投資銀行でキャリアを重ねるよりは、自分としてはもともとCFOになりたいというキャリアビジョンを大学の頃から持っていましたので、転職をすることにしました。

嶺井:その頃からCFOのキャリアビジョンをお持ちだったんですね。

小沼:はい。事業会社に転身をして、そこで修行していこうと思いまして、リクルートに転職いたしました。リクルートでは財務部門に所属をしていまして、リクルートのIPOだったりM&A、あとはその後のいろんな資金調達をメインでやらせていただきました。

8年ぐらいリクルートで働きまして。その間に子どもも2人産んで、非常に良い会社だったんですけれども、やっぱりリクルートが良い会社すぎて「このままだと修羅場経験がどうしても積めないな」というところに葛藤を感じたため、転職を決意しました。

嶺井:そのタイミングでもやっぱり、学生時代から思い描いてたCFOへの夢は潰えていなかったんですね。

小沼:そうですね。大変僭越ながら、リクルートの中でもCFOを育成するプログラムみたいなものがありまして、その1メンバーとして選んでいただいたりもしていたので、「リクルートでCFOになる道」も、(すごく確率は少ないんですけれども)まったくないわけではない中で、いろいろ葛藤はあったんですが。やはりリクルートという素晴らしい会社にいると「あんまりCFOとしての修羅場がないな」ということを感じまして(笑)。それで思い切って、ランサーズに転職しました。

嶺井:まだランサーズさんが未上場のタイミングですよね。

小沼:上場の2年ぐらい前ですね。そこからは2年間、IPOに向けてひたすら準備を進めまして。いろいろあったんですけれども、無事に上場を果たして今に至るという。そんな経歴になっています。

嶺井:少し事業の話も出たと思うんですけれども、どういったところが今の小沼さんの管掌領域なんでしょうか。

小沼:今、管理部門の責任者は、本来であれば後継者の方に引き継ぎたいと思ってるんですが、引き続き残留をしております。「兼任」というかたちで、先ほどご紹介した3つの部門のうちのテックエージェント事業。エージェントがクライアントの方にフリーランスを紹介する事業の、責任者をやらせていただいています。

嶺井:なるほど、ありがとうございます。後ほどさらに深掘りさせていただきますので、よろしくお願いします。

(一同拍手)

株式会社ZOZO副社長兼CFOの栁澤孝旨氏

嶺井:小沼さんは昨年もご登壇いただいたんですけれども、ZOZO・栁澤副社長は5年ぶりのご登壇となります。

栁澤:もう5年前でしたっけ。

嶺井:はい。第2回の時ですね。また今年もご登壇いただき、ありがとうございます。

栁澤:こちらこそ、ありがとうございます。

嶺井:ZOZOさんのことは多くのみなさんがご存知だと思うので、栁澤さんの自己紹介を中心にお話を聞かせていただけますでしょうか。

栁澤:はい、よろしくお願いいたします。ちょっと油断して、会社の紹介を何も作ってきてないんですけれども(笑)。簡単にお話しさせていただきますと、株式会社ZOZOにて「ZOZOTOWN」というファッションECサイトの運営と、「WEAR」というファッションのコーディネートアプリの運営をしております。

昨今は経営戦略として「MORE FASHION×FASHION TECH」を掲げ、ファッションだけではなくてファッションテックにも力を入れていこうということで。ちょっと前ですけど「ZOZOSUIT」という体型計測のものから、そこから派生して昨年は「ZOZOMAT」という足の計測の技術提供。で、今年は「ZOZOGLASS」という肌の色を計測するグラスを作って、運営しております。

今年はZOZOTOWN上のコスメ専門モールという形で「ZOZOCOSME」をローンチするなどコスメのマーケットにも参入をしていて、つい先日CHANELさんがオープンして。その前にはDIORさんがオープンして。こうした人気ブランドさんにご出店いただきながら、今コスメにも力を入れています。

ZOZOCOSMEでは「ZOZOGLASS」で肌の色を計測していただくと、その方の肌の色に合うファンデーションを見つけていただくことができます。これからもっと商品ラインナップを増やしていきたいと。そんなふうに考えています。

上場準備をしていたZOZOに、2006年2月に入社

栁澤:大した経歴ではございませんが、ちょっと私の経歴をお話しさせていただきます。

キャリアのスタートは1995年で、今は無き富士銀行。現みずほ銀行ですね。富士銀行に入行しまして、4年間、馬車馬のように働き。

(一同笑)

支店の営業と、実は国際資金為替部というディーリングルームに1年間いました。そのあとNTTデータグループの経営コンサルティング子会社に転職いたしまして、そこで6年間経営コンサルティングをやっておりました。実はここの会社出身者、今の前澤(友作)さんの後を継いだ現社長の澤田(宏太郎)が当時の同僚でして、同じ会社にいました。なのでもう澤田とは、うちの奥さんよりも長い付き合いですね。

嶺井:そうなんですね。

栁澤:その後、NTTデータ経営研究所から、今度はみずほ証券に転職しています。実は僕も、NTTデータ経営研究所で経営コンサルティングをやってるタイミングで「いずれベンチャー企業に入ってCFOになって、上場を経験してみたいな」と思って。

であれば、いったん証券会社を経験したほうがいいだろうと思って。たまたま古巣の銀行時代の先輩からお誘いいただいて、証券会社に入っています。いわゆる事業法人のところに入って、1年間いました。本当はもっと長くいようと思っていたんですけど、たまたま2006年2月に「ZOZOが実は上場準備をしています」ということでお誘いをいただいて。当時、常勤監査役として入りました。

嶺井:最初、監査役なんですね。

栁澤:そうなんですよ、常勤監査役で入ってます。2007年の12月にマザーズに上場し、その後2008年6月からいわゆるCFOとしてずっとやっております。経営管理本部長からCFOになり、副社長にもなりということで、一貫して管理部門の領域をずっと管掌していて。一時期、海外事業を管掌していたこともあるんですけど、あんまり積極的に海外事業はやってなかったので、ほぼほぼ管理部門の管掌をしています。

今期から実は新しくファッションテックの部分で、計測技術を海外にライセンス販売していこうという話をしておりまして。そこの領域は自分が管掌していく予定です。

嶺井:なるほど、ありがとうございます。今日はよろしくお願いします。

栁澤:こちらこそ、よろしくお願いします。

(一同拍手)

グロース・キャピタル代表の嶺井政人氏

嶺井:それでは簡単に、私の自己紹介もさせていただきます。改めまして、グロース・キャピタル代表をしております、嶺井です。私は新卒がモルガン・スタンレー証券で、4年ほどいまして。そのあと、前職のマイネットという会社にCFOとして入社。そこで資金調達やM&A、そして上場を経験して、6年ほど在籍しておりました。

その6年で、未上場から上場後も経験する中で「日本のベンチャーって、上場後にすごく大きな伸びしろがあるんじゃないか?」と、考えるに至りました。未上場のスタートアップはスポットライトも当たるし、VCをはじめとして多くの支援者がいるのですが、上場後は途端に「一大人の企業」として扱われて、支援も手薄になるし、スポットライトも浴びづらい状況になってしまうんです。

日本から、GAFAのような世界で戦える会社を生もうと思ったら当然、上場後のベンチャーも注目されて、人も資金も集まり、非連続な成長をし続ける。これがマストな中で、そこの支援が手薄になってスポットライトもなかなか当たりづらい状況になってしまっている。「これって課題だし、大きな伸びしろだな」……そういうふうに思い、じゃあその課題に向きあうため作ったのが、このグロース・キャピタルという会社です。

会社としては上場ベンチャーの資金調達と、調達後の戦略の実行支援を通じて、上場ベンチャーの非連続な成長を実現していくことをミッションに掲げています。足元ではAimingというスマートフォンゲーム企業の、21.2億の資金調達と調達後のマーケティング支援を、今まさに行っています。

どういった思いで、二度の転身を決意した?

嶺井:それではさっそく、セッションの本題に入っていこうと思います。今日はよろしくお願いします。最初に小沼さんにお話をうかがえればと思うんですけれども。証券会社からリクルート、ランサーズと各転身をされていく中で、その時々どんなことを思ってその会社を選ばれたんでしょうか。

小沼:まず1つ目に入ったのが投資銀行だったんですけれども、さっき申し上げたとおり「CFOになりたい」というもともとのキャリアビジョンがあったので「どうしたらCFOになれるかな?」っていうのを考えて。自分はずっとスポーツをしていたので、スポーツでいう「筋トレ」をするにはどこが一番いいかな? という思想で投資銀行を選びました。

やっぱり投資銀行って、今はたぶん違うと思うんですけど「24時間働く」っていうイメージが、当時はすごくありまして。そういう激務の環境で新卒で働くと、きっとそのあとなんでもできるんじゃないかな、ということで選びました。

嶺井:しかもファイナンスを学べるということで、なるほど。そこから、数多の会社がある中でどういう経緯でリクルートを選ばれたんですか? 

小沼:リクルートには、本当にたまたま入ったみたいなところが実際ではあるんですけれども(笑)。やっぱり事業会社に入りたいなと当時は思いまして。自分でアドバイザーとして、いろんな意思決定をサポートする経験はそれまでもやっていたんですけれども、結局、アドバイザーってサポートでしかない。その結果に対する責任は負わない、ということをすごく感じていたので。事業会社で意思決定する側になりたいと思って、たまたまカルチャー的に合うなと思ってリクルートを選んだかたちです。

今も活きる、リクルート時代に得た「圧倒的な当事者意識」

嶺井:なるほどですね。そういう中でさっき教えていただいたように、もっと修羅場も経験したいと思われて、ランサーズに移られた。今回、小沼さんに経歴を遡っていただく自己紹介スライドをお願いしたところ、自分史ハイライトも作ってくださいました。

全部で7つのポイントを挙げていただいていますが、特に「やっぱりここが私にとってのハイライトだった」というポイントはどこだと、今振り返って思われますでしょうか。

「幼少期」「日興シティ時代」「サンフランシスコ&ニューヨークライフ」「リクルート」。ページをめくると「ランサーズ入社」「IPO」。そして今の「テックエージェント事業の責任者」。この7つの中で、ハイライトを1つか2つ、挙げていただくとしたらどの辺りでしょう。

小沼:リクルート時代に得たものは、すごく今につながっているなと思ってます。特に「圧倒的な当事者意識」という、すごく有名なカルチャー・スタンスがあるんですけれども。それを事業会社で学べたのは、すごく得がたい経験だったなと思っています。

それはなぜかというと、やっぱり「圧倒的な当事者意識」というのは「お前はどうしたい?」ということを四六時中、上司や同僚から問われる。それを通じて、結局、どんな立場であっても自分がやらないといけないことに対する解を自分が責任者だったらどうするか?という視点で考えて、答えを出し、それを周囲にちゃんとわかりやすく説得して伝えてという事が求められます。

もしかしたら最後、経営者の意思決定によって違うことになるかもしれないけれども、そこで決まったことそのものに対しても当事者意識を持って、きっちり最後まで実行しきるという。そういうスタンスをこのリクルートで得られたのは、本当にベンチャーに転職してからも活きている経験だと思っています。

嶺井:めちゃくちゃ活きますよね。確かにCFOとそれ以外の立場の大きな違いって、やっぱり当事者意識。経営全体に対して当事者意識を持たないといけないのがCFOだったりするじゃないですか。なのでそこはリクルート時代のご経験が、すごく活きてるってことなんですね。

IPOの過程で得たスタンス

嶺井:もう1つ挙げるとしたら、いかがでしょうか。

小沼:もう1つ挙げるとしたら、IPOに向けていろいろ大変だった時期を乗り越えた時に得られたスタンスかなと思っています。嶺井さんもたぶんご経験されたと思うんですけれども、IPOに向けてやらないといけないことって、むちゃくちゃたくさんあって。

それまで会社がまったくやってなかったようなことを、なんとかして解決しないといけないと。ものすごい勢いで課題解決を日々していくことの連続を、どう乗り越えていくか? という感じだなと思っていて。それをやっていく中で、自分がこれまでなかったような、例えば「みんなに嫌われてでも、やるべきことをきっちりと会社を巻き込んでやりきる」とか。

なかなか結果が出ない時に「自分はこう思う」みたいな、自分の思いに対するこだわりを捨てて。「社長がやりたいと思っているゴールに向けて、会社として何をやればいいのか?」ということを考えて、それを優先してやるみたいな。そういうスタンスを身に着けたことです……本当に死にそうだったんで(笑)。

(一同笑)

嶺井:IPOは本当に大変ですよね(笑)。

小沼:死にそうになりながら学んでいったっていうのが(笑)、このIPOの過程で得たスタンスだったなと思います。

嶺井:なるほど、そこはじゃあ1つのハイライトなんですね。

「女性のCFO」だからこその、いい面と大変な面

嶺井:そういう中で、今回、小沼さんにご登壇をお願いした1つの大きな理由でもあるんですけども「女性のCFO」って、まだ少ないと思うんですね。私はもっともっと増えてしかるべきだと思うし、増えてほしいと思っています。女性のCFOだからこそのいい面や大変な面があれば、ぜひ教えていただけないでしょうか。

小沼:まず女性がCFOでいいかどうか? っていうところで言うと、ちょっと客観的なファクトとして、昔、キャリアカウンセラーの方に教えていただいたんですけれども。海外なども含めて周りを見渡した時に「女性役員のポジションとしてはCFOかCHROが多い」というのは言われたことがあります。なのでおそらく、CFOは女性に向いてるんだろうと(笑)。というのが客観的なファクトとしてあるのが1つと。

あとは実感値として思っているところでいうと、投資家やアナリストの方、あとは上場をしている過程でいろいろお話しさせていただく審査の方とかを含めて、やっぱり女性って珍しいので。それだけですごく認知してくださるというか。「おっ!」みたいな感じですね(笑)。

嶺井:まず覚えてもらいやすいですよね。

小沼:受け止めてくださるので、それってすごくラッキーだなとは思います。

嶺井:じゃあ今度、ランサーズに入られる前にご出産をされていたという話なんですけど。CFOってすごく重責で、簡単な仕事ではないじゃないですか。ライフイベントとの兼ね合いの大変さというのは、実際はいかがですか。

小沼:むちゃくちゃありますね。性差は私はそこまで言いたくないんですけれども、やはり子育てにおける性差はどうしてもあると思っていて。男性のほうが枷になるものが少ないので、圧倒的に仕事に費やせる時間が違うと思ってます。なので女性のCFOの方は、子どもがいてもいなくてもやっぱり、家庭をなんとかやりくりしないといけないので。その分だけ、どうしても仕事ができないという制約がある中で、結果を出すのが非常にハードだと思ってるので、それを楽しめるかっていう(笑)。そこが大事かなと。

嶺井:なるほど。小沼さんがそのハードな環境を乗り越えてこられている、その秘訣は何でしょうか?

小沼:秘訣はやっぱり、家庭のマネジメントも仕事のマネジメントも同じだと思って捉えることだと思うんですよ。家庭がうまくいってないと仕事もうまくいかないので。ちゃんと家庭に対しても「自分は何をしたい」というビジョンを共有して、そこに向けてやらないといけないToDoがあったらそれもシェアしながら、ちゃんと関係者を巻き込んでですね。協力体制を作って、チームワークでなんとか乗り切る。それを家庭でかなり実践してまして。本当に仕事でそのスキルを得て良かったなと(笑)。

嶺井:なるほど、そこが活きてるんですね(笑)。じゃあそれは旦那さまかもしれないですしお子さんかもしれないですけど、ご家族みんなで一緒に「こういうことを目指していこう」というビジョンを共有して。「そのためにはこういうことをやっていかないといけなくて、ここはこう分担していこう」というのがみんなで共有できてるから、乗り越えられていると。そういうことなんですね。

小沼:はい。あと女性にすごくいいところで言うと、家庭とか家事とか育児が、すごく仕事の息抜きになるんですよね。なのでIPOの時とかむちゃくちゃ過酷で、基本は仕事しかしてなかったんですけど。どうしてもやらないといけない義務としての家事・育児が、すごく自分にとっては自分を取り戻す「いい息抜き」になったので。これは発見だなと思いました(笑)。

嶺井:なるほど、ありがとうございます。ここから、より女性のCFOが増えていくためにどんな取り組みを……それはCFOを目指す女性の方自身かもしれないですし、我々のいるこのスタートアップ業界全体かもしれないですし。どういう取り組みをしていけば、より女性のCFOって増えていくと思われますか?

小沼:これも統計からすると(笑)、女性の方のほうが特徴として「ぜひあなたにやってほしい」って言われたい人が多いらしいんですね。私自身もわりとそういうタイプなので、皆様の周りにいる優秀な女性で「この人だったらできるんじゃないかな」という方に対して、ぜひみなさん積極的に「やってみようよ」という声をかけていただきたいなと思います。

女性は声をかけられる、求められるとなにか応えたくなる方が多いので。そうするだけでも、一歩踏み出すきっかけになるんじゃないかなと。

嶺井:なるほど、ありがとうございました。すごく学びがありました。

ZOZOから「次のキャリア」へ移ろうと考える瞬間はなかった?

嶺井:では次に、栁澤さんのお話を深掘りさせていただければと思います。栁澤さんがみずほ証券からZOZOに移られたのは、もともとみずほ証券の手前でCFOをキャリアのビジョンとして描かれた中でのご転身だった、ということを先ほどうかがいました。実際そこから、もう15年ですね。

栁澤:そうですね(笑)。

嶺井:みなさんもご存知のとおり、前澤社長は本当に稀代の天才創業社長で、二人三脚でやっていかれることの大変さもあったでしょうし。最近のヤフーへのグループ入りで社長交代っていうタイミングも、大きな変化だと思うんです。その中で「次のキャリア」を考えられる瞬間はなかったものですか?

栁澤:それで言うと、やはり「前澤さんの退任」「Zホールディングスのグループに入る」というタイミングでは考えましたね。

嶺井:でも留まられたのは、どうしてなんですか?

栁澤:これは実は、先ほどもありましたけれども、今の後任の社長の澤田が旧知の仲なので。やはり彼が社長になると決まったタイミングで「これは彼をサポートしないといかんな」と。これは勝手に思っただけで、向こうはどう思ってるかわからないですけれども(笑)。

嶺井:(笑)。

栁澤:やはりそこはサポートしていこうと決めました。

多くのCFOが思い悩む「創業社長との関係」

嶺井:なるほど。私、こういったイベントをやってるのもあって、多くのCFOの方と話したり飲んだりすることが多いんですけど。CFOの方の一番多い悩みって「創業社長との関係」なんですね。それでなかなかうまくいかない、という相談をいただくことが多いんですけど。栁澤さん自身はいかがでしたか? 創業社長との関係で悩まれたこととか、壁になったことってなかったですか?

栁澤:これはたぶん、その創業社長の性格とか、CFO本人の性格とか、いろいろなタイプによって変わるとは思うんですけども。私は幸いにして、前提として年齢でいうとまず私が上で、前澤さんが下でした。で、前澤さんってやっぱりすごく……ああ見えてちゃんとした人で(笑)。

(一同笑)

嶺井:すみません、笑ってしまいました(笑)。

栁澤:入った最初から、すごく敬ってもらえるんですね。年上ということもあって、ずっと「栁澤さん、栁澤さん」というかたちで接してもらえたというのと。あとは、ほどよい距離感はずっと作ってました。

嶺井:そこが良かったんですね。

栁澤:これはお互いだと思うんですけど……わかんないですよ。お互い、もしかしたら好きじゃなかったのかもしれないですけども(笑)。

(一同笑)

嶺井:ほどよい距離感を保ってた。

栁澤:実は2人でご飯食べにいったとか、2人で飲みにいったとかって、1回もないんですよ。

嶺井:ほぉ!

小沼:えぇー、そうなんだ(笑)。

栁澤:退任されてからも……2回ぐらいしか会ってないですね。

嶺井:でも一応は会われている。それはプライベートで2人で会って?

栁澤:違います。

嶺井:「ではなく」ですね(笑)。

(一同笑)

ほどよい距離感ですね(笑)。

栁澤:(笑)。「必要なので会った」というだけですね。でも誕生日とかには「おめでとうございます」ってLINEはしたりするんですけど。

嶺井:あぁー、そういうことなんですね。じゃあその、ほどよい距離感があったからこそ。やっぱり創業社長ってよく「太陽のような存在」といわれるじゃないですか。「近づきすぎると火傷する。でもすごく周りを照らしてくれる」みたいな。そう言われる創業社長との関係としては、ほどよい距離感がすごく良かったんですね。

栁澤:良かったかな、というのと。あとはやっぱり、言いたいことは言ってました。それは創業社長の性格にもよると思うんですけども、彼はそれを受け入れてくれてたので。僕もどっちかっていうと、彼がやりたいことに対してあまりNOは言わなかったんですけれども「これだけは絶対やめてくれ」っていうものは言ってたんですね。

なのでそこの自分としての線引きと、向こうが線を引いてくれるであろうポイントの折り合いを、CFOとしてうまく見つけながら接していくことがやっぱり大事なのかなと思いますけどね。

嶺井:実際、NOってどれくらいのペースであったんですか?

栁澤:たぶん年1、年2ぐらいじゃないですか。

嶺井:じゃあ定期的にはあったんですね。

栁澤:ありました、ありました。

小沼:例えばどういうものを……(笑)。

嶺井:聞きたい、聞きたい(笑)。

栁澤:(笑)。あるあるとしては、お金の使い方とか。

嶺井:「そこはギリギリのラインじゃないですか?」みたいな。

栁澤:そのギリギリを……度合いでいうと「軽いギリギリ」ぐらいはそれまで許してたけど、ここはちょっとやりすぎだろうというところは「それはちょっとヤバいんでやめてください」って言うとか。「ここにこれだけお金を突っ込んじゃったらまずいでしょう。なのでやめましょう」とか、そういう感じですね。

Zホールディングス傘下になって、どんな変化があった?

嶺井:なるほど。じゃあ今度は前澤さんの退任があって、Zホールディングスのグループ入りをされたと思うんですけど。そこでの栁澤さんの変化って、どんな変化がありましたか?

栁澤:実はあんまり変化はないかなと思っていて。良くも悪くも、自分の性格はすごくドライだと思ってます。なので、前澤さんがいなくてもやることは変わらないし「社長を支える」という意味では、今までやってきたことですし。もっというと、今まで意見を言ってた相手が前澤さんじゃなくて、Zホールディングスになるっていうだけで(笑)。

嶺井:なるほどですね(笑)。「これはNO」って言う相手が。

栁澤:すごく無責任な発言に聞こえちゃうかもしれないんですけれども。例えば親会社から「あなたもういりません」って言われても「別にいいです」って感じ。

嶺井:そこはドライに。

栁澤:それはもう、傘下に入る時にいったんキャリアを考え直したので。だけど澤田(現社長)をフォローしようと思って入ってきてるので、自分にとってというか、会社にとって意見が違うことがあったら、それはいくらでも意見は言えるかなと思ってるので。自分はやっぱり、そういう立場でずっと居続けようとは思っています。

ZOZOとしての良さを、幸いにして今のZホールディングスグループはすごくわかってくれていて、あんまりそういう“いざこざ”みたいなのはないんですけれども。もしなにかそういうことがあったら「いつでもはっきり言うよ」っていう(笑)。

(一同笑)

オーラを出し続けることが大事かなと思ってます。

嶺井:なるほどですね。変に会社に依存してないからこそ「NO」ということはちゃんと言えるってことですね。

栁澤:そうですね。もしかしたら、このセッションZホールディングスの方が誰か聞いてるかもしれないですけど(笑)。

(一同笑)

嶺井:大丈夫かな(笑)。これから、大企業のグループ入りするCFOも多く出てくると思うんですね、業界再編もどんどん起きてますので。そういったCFOが、大企業のグループ入り後も活躍するための秘訣って、何かあるでしょうか?

栁澤:これもすごく難しいと思っていて。幸いにして、当社の場合は上場を維持してるので、やっぱりCFOが必要なんですよね。なので私はここに残れてるのかもしれないですけども、例えば100パーセント買収って話になれば違うかもしれない。実は今回もし100パーセント買収だったら、もしかしたら私は辞めていたかもしれないと思ってるので、そこは非常に難しいと思います。

ただ、CFOって事業をきちんとわかっている前提ですけれども、やっぱり会社の裏方の“血液の部分”もきちんと理解してる人なので。少なからず、買収後も絶対に必要だと思うんですね。なので買収後に、買収された会社のPMI(経営統合・業務統合・意識統合からなる、M&A成立後の統合プロセス)をうまくいかすためには、やっぱりもともといた会社のCFOがきちんと協力してあげないとならない。そこのつなぎ役っていうところが、非常に重要になるんじゃないかなと思いますね。

嶺井:なるほど、ありがとうございます。勉強になります。

組織の成長に合わせて、CFOはどう変化していくべき?

嶺井:ではこのセッションにあたって、参加者のみなさんからいただいた質問にも触れてみたいと思います。

「成長するにつれて社員数も増加し、組織としても大きくなると思いますが、その中でCFOの立ち位置と持つべきマインドをどう変化させていけばいいか。ご意見をおうかがいしたいです」という質問をいただいてます。

まさにお二方とも組織もどんどん拡大していきましたし、環境も変わってきた中で。会社の成長についていけるように、自分自身のスキルセットやマインドセットをどんなふうに変えていかれたかについて、聞かせていただけますか。では小沼さんから。

小沼:うちの会社、そんなに規模は変わってないので……(笑)。

嶺井:じゃあ、この質問は栁澤さんに(笑)。

栁澤:そうですね、マインドセット……。

嶺井:先ほどの「ドライ」っていうのは、一貫して維持されてたと思うんですけど。変化はありましたか?

栁澤:当然、会社のステージが上がってくると、お付き合いする相手が変わってきますよね。特にCFOですと、金融機関、マーケット。もちろん事業面でも一部関わってくる人は変わってくる、広がってくると思うんですけれども。

やっぱりそこで、きちんと会話をするというか。「相手の要望」「こちらの要望」をきちんと噛み砕く上では、それなりに自分も成長していかないと、なかなかついていけないと思いますので。そこは常にアンテナを張って、スキル……なんですかね、磨いていくことが大事なのかなとは思いますね。

嶺井:組織の成長を、自分自身もドライブできるようにアンテナを張って、学んでいく。

栁澤:そうですね。あとは社内で言うと、いかに人に任せられるかかなと思います。“丸投げ大臣”なんで、私(笑)。

(一同笑)

嶺井:「丸投げ」って、今すごくシンプルに表現いただきましたけど。でも、任せることに困ってる人もいると思うんですけど。任せる秘訣ってありますか?

栁澤:これはたぶん、どこの業界でも一緒かなと思うんですけれども。当然、任せる上では「それがだいたい、自分だったらどれくらいの時間があればできるのか?」っていうのを思い描いて任せないとダメだと思います。要は「1日前になってできてなかったら、自分が回収して仕上げられる」というつもりを持たないと、任せられないと思いますので。丸投げとはいえ、そこはきちんと考えた上で丸投げするっていう感じですかね。

嶺井:バックアッププランも考えながら。

栁澤:それで経験値を上げていってもらうことが大事なんじゃないかと思います。

嶺井:なるほど、ありがとうございます。

CFOから役割を広げていく場合の、未経験領域のキャッチアップ

嶺井:では2つ目の質問です。これは小沼さんにぜひうかがいたいんですけども。「CFOから役割を広げていくにあたって、未経験領域へどのようにキャッチアップしていけばよいでしょうか。ファイナンスのみではなく、採用広報、マーケティングなど」と質問いただいています。

小沼さんがまさに事業の管掌も増やされているので、この質問への回答をいただきたいなと思うんですけど。どのように事業の管掌もされていったんでしょうか。

小沼:私は4月から事業を任されたばかりなので、まだ人に語れるほどではないといえばないんですが(笑)。ただ事業へのチャレンジをしたいなと思った理由としては、やっぱりIPOの時に自分が得意だったファイナンス領域をかなり飛び越えて、いろんな課題を解決していった、解決せざるを得なかったという経験があったので。

それをやっていく中で、私はアントニオ猪木さんの言葉(「元気があればなんでもできる」)になぞらえて「やる気があればなんでもできる」ってよく言ってるんですけど(笑)。

嶺井:あの有名な言葉ですね(笑)。

小沼:「やる気さえあればだいたいのことはなんとかなる」と思っているので、そのマインドでやっています。具体的な「how」でいうと、やっぱりそれぞれのやりたいことに対して、知見者っていらっしゃるので。その知見者にコンタクトをさせていただいて、まず教えを乞うと。で、本とかネットとかにいろんな情報が載ってるので、それを調べるのを同時でやっていくと、だいたい大枠って見えてきます。

その大枠をもとにちょっと仮説を立てながら、7~8割ぐらいの完成度で前に進めていくんですね。それをもう1回、知見者にフィードバックしていただくと、もうちょっと完成度が上がってくるので。それで見よう見まねですけどやっていくと、徐々に「あっ、やり方が見えてきたな」みたいな感じで習得できるので。それをとにかく繰り返してます。

嶺井:なるほど。具体的なアドバイスありがとうございます。

“CFO仲間”へのメッセージ

嶺井:実はですね、もう残り2分となってしまいまして(笑)。

(一同笑)

あっという間の40分間でした。多くのCFOがこのセッションに参加くださってますので。最後に“CFO仲間”として、みなさんへのメッセージをいただいて締められればと思います。では小沼さん、お願いします。

小沼:今回呼んでいただいた理由として、女性のCFOを増やしたいというところがありましたので、女性のCFO候補みたいな方に向けて話せればと思います。

私はシェリル・サンドバーグさんの『LEAN IN』という本がすごく大好きで、あれを読んですごく勇気づけられたんですけれども。やっぱり女性の方ってなにか挑戦する時に「いろんな環境がそろってないと怖いんでできない」というジャッジをすることが多いんですけれども、そうではなくて。

とにかく「やりたい!」という思いがあったら、一歩前に出るんだと。そこから環境が変わったら、その時に柔軟に対応すればいいんだってことをメッセージとして書かれていて。私自身も今までかなり保守的だったんですが、それを読んで、一歩前に出てランサーズのCFOに挑戦しました。結果、まだまだ未熟なんですけれども、少しずつ世界が広がっている感じがあるので。

ぜひみなさまも、自分が「できないかもしれない」と思っていても、やりたいんだったら一歩前に出るというところで、挑戦していただければなと思います。今日はありがとうございます。

(一同拍手)

嶺井:ありがとうございます、素敵なメッセージありがとうございました。では栁澤さん、お願いします。

栁澤:みなさん、今日は聞いていただいてありがとうございました。いろんな創業社長と向き合われているCFOの方々がいっぱい聞いてらっしゃるんだろうなと思いながら、話させていただきましたけれども。どんなに変な創業社長でも、どんなに変態な創業社長でも(笑)、そこで壁打ちするとたぶん、そこの先にみなさんの鍛えられた姿が必ずあるはずなので。めげずに、ぜひそういう方々についていって、自分磨きをしていっていただければいいなと思います。そうすると、こういうふうに黒くなっちゃうかもしれないですけども。

(一同笑)

ぜひがんばってください。

(一同拍手)

嶺井:栁澤さん、ありがとうございます。それでは本セッションは以上で終了致します。大変貴重な話を聞かせていただきありがとうございました。