自分の発言の真意が伝わっているか、「引きで見る」ことが大事

中川諒氏(以下、中川):次の質問です。「恥をかくのがどうしても怖くて、間違ったことを言ったらどうしよう、自分の発言が人を傷つけてしまったらと考えると行動ができません。どうしたらいいですか?」

これもまさに人前に出てお話をするということですね。

笹川友里氏(以下、笹川):でもラジオとかだと、自分が何かを発言する時に、例えば「この間、2万円のシャツを買ったんです」と言うのも最初はすごく怖くて。やはり金銭感覚って人によって違いますし、ラジオってテレビよりも本当にいろんな方が聞いてくださっている媒体だと自分では思っているので。

でも例えば、「2万円で買ったんですよ」と一言だけ言うんじゃなくて、「この間、自分の一張羅と思って、3年着るつもりで2万円の服を1枚買ったんです」というような、自分の本当の心の内情を説明したら、傷付けることも減るし、勘違いされることも減るかなと思っているので。

自分の発言をする時に、「本当に自分の真意としての言葉になっているのかな」というのを、引きで見るのはすごく大事だと思っています。「そういう意味で言ったんじゃないのに」って、けっこうあるじゃないですか。

しゃべった瞬間に自分を引きで見て、「あ、やばい。これは違う方向に行っているぞ」となったら、「ごめんなさい。なんかさっきから言っているんですけど、ぜんぜん違うことになっちゃってて」と言う。

中川:伝わりきっていない。

笹川:「そうじゃない。ちょっと30秒待ってください」とか言っても、別にいいと思っているので。大切なのは「引きで見る」ということですかね。

人の目を意識せざるを得ない、恥を書きにくい時代

中川:確かにね。そう思ったのは、なにかきっかけがあった?

笹川:新人の頃からずっと、4~5年間、日曜朝のラジオの生放送で1人しゃべりを4時間やらせてもらったんですよ。「笹川友里のプレシャスサンデー」というタイトルだったんですけど(笑)。

AMのTBSラジオ。そこでやはり、最初に「リスナーとの距離が縮まらないな」という思いがあったんですよ。「若いお姉ちゃんがしゃべってるぞ」というか。そうなった時に、ディレクターさんとかに、「今日の発言で、ちょっと気になったこととかありました?」と聞くと。

例えば、ラジオあるあるですよ。「八百屋」じゃなくて「八百屋さん」と言うとか、「家具屋」じゃなくて「家具屋さん」と言うとか、「いろんな人が聞いてくれているんだと意識してしゃべるのが大事だよ」と言われて。それがラッキーだったことに新人の頃でしたから、そこからずっと立場がいろいろあるのだということをすごく意識していましたね。

中川:なるほどね。特に今は、恥をかきにくい時代かなと思ってて。SNSで全部人の目が可視化されちゃったじゃない。それによって生まれる新しいチャンスもあるけど、やはりどうしても人の目を意識せざるを得なくなっちゃった。「なにか変なことを言ったら炎上しちゃうんじゃないか」とか。

例えば芸能人がなにか言って、それを関係ない人たちが袋叩きにするのも、やはり自分の発言が怖くなる原因の1つかなと思うんだよね。特に人前で話すというのは、本当に難しい時代だよね。

「自分の思っている部分」も話すと、誠実さは伝わりやすい

笹川:そうですね。ちょっと前の「保育園落ちた日本死ね」問題もそうですけど、有名な方限定じゃなくて、誰かがネットでポロッと書いたことが社会問題になる時代なので。確かに匿名で書けちゃうからこそ、言葉に責任を持ちたい世の中ではあるんですよね。言葉を生業にしているナカリョウさんなら特にですよね。

中川:言葉は難しいよ。

笹川:クリエイティブな領域では余計難しいですよね。広告でも炎上ってけっこうあるじゃないですか。

中川:そう。もちろん広告を作っている人たちもそうだし、広告を発信しているクライアントも、誰かを傷付けようと思って作っている広告なんて、1つもないはずなわけで。

それでも炎上しちゃうのは、どこかでなにか意識しなきゃいけなかった部分が欠けているのかもしれないけど、やはり難しい時代に突入していると思う。

笹川:自由な時代だけど、自由すぎて1周回って、なんでもバレちゃうからきつい感じですかね。

中川:なんだろうね。「誠実に生きる」ということなのかなと思うけど。嘘つかないというか、人前で話す時だけじゃなくて、なるべく私生活とかでも、誠実にいれば誠実な部分が人にも伝わるし。もうちょっと「自分の思っている部分」を話すのは、けっこう大事かなとは思うよね。

笹川:そうですね。自分の世代から、その下の20代の世代にかけて、この本をプレゼントしたいです。

中川:ぜひぜひ。『いくつになっても恥をかける人になる』です。

「恥」に対して一番臆病だった20代の自分に向けて書いた本

笹川:もっと早く、20代で読みたかったなと思いました。だから早く書いてください(笑)。

中川:(笑)。でも、20代の僕にはこれ書けなかったと思う。僕自身が恥に対して一番臆病で、恐怖心が強かったから。それをなんとか乗り越えるためにはどうしたらいいかとずっと考えていて。そういう「恥」に対する恐怖心が強かった過去の自分に向けて書いたという側面もある。

笹川:20代はある程度格好つけていたというか、とがっていたんですか?

中川:たぶん超とがっていたと思う。

笹川:そうなんですね。尖ってた10年間は、会っていなかったから。

中川:そうだよね(笑)。今はもう丸々の、角取れ取れの。

笹川:丸々のつるつるの。そうなんですね。それはより説得力がありますね。

中川:そういう人にぜひ手に取ってもらいたいなと思いますね。

笹川:今聞いてくださっている方は、買ってくださっている方が多いんですかね。改めて宣伝をします。

中川:ありがとうございます(笑)。

笹川:『いくつになっても恥をかける人になる』、中川諒さんが書きました。ディスカヴァー・トゥエンティワンから出ております。Amazonでも買えますか?

中川:Amazonでも買えます。書店でも買えます。

恥にまみれて苦しんでいる人が1人でも救われるように

笹川:書店に自分で作った本が並んでいるってどうなんですか?

中川:実感が湧かなくて、20店舗くらい周ったんだけど、あの本の海の中でみつけてもらうってすごいことだなと思って。だからSNSもがんばって更新しているんだけど。

せっかく書いたからには、やはりいろんな人に手に取ってもらいたいし、自分みたいな恥にまみれて苦しんでいる人が、1人でも救われるといいなと思っていて。

出版社の方々を目の前にして言うのもあれですけど......書くのが本当につらくて。

笹川:(笑)。

中川:「やる」と自分から言ったけど、もうつらすぎて。「自分のために本って書けないんだな」と、書いてみて思いました。自分が名を成したいとか、目立ちたいとかだけの気持ちでは絶対に書けない。誰かこれを読んで救われる人がいるはずだとか、これをあの人に届けたいという気持ちで書かないと、本って書けないんだなと。

笹川:届けたい思いでこの本ができました。『いくつになっても恥をかける人になる』。よろしくお願いします。

中川:ありがとうございます。

笹川:(笑)。

言いたいことにたどり着けない、日本語の難しさ

中川:今いただいている質問がいくつかあるかな。「話し方が上手な方、そうでない方がいると思いますが、言葉をうまく人に伝えられるようになる方法を教えていただきたいです」。

笹川:練習というか、意識してうまくなりたいと思ってしゃべっていると、必然とそれが練習になると思うんです。アナウンサーになる時の研修を思い出すと、私は本当にしゃべるのが下手で。

その場をなんとなく取り繕うのはできるんですけど、言いたいことが最後まで伝わらないというか。英語って楽じゃないですか。最初に結果を言っちゃうから、なんとなくその後が適当になっても、「この人はこっち派なんだ」みたいに、なんとなく言いたいことわかるんですけど。日本語って最後に結果を持ってこなきゃいけないので、グダグダになると収集がつかない。

中川:「あれー、最後までたどりつかないよー!」みたいなね。

笹川:そうなんですよ。なんとなくコンパクトにしゃべる練習をすると、意外とできるようになりますね。それも「慣れ」な気がしますけど。ごめんなさい、私よりもっと話のうまいアナウンサーさんはいっぱいいるので、私なんぞ......。

中川:自分の出た放送って見るタイプの人?

笹川:見ますね。「わけわかんないな」と。

中川:「なんかここ、うまくいかなかったな」みたいなことも、反省しているの?

笹川:しています。だいたいその時は、伝えなければいけない事実を把握しきれていない時なので。きちんと理解して、きちんと自分がこういう言葉で伝えたいんだとキーワードをいくつか立てて、こういう流れでいくんだと練習しきった時に、伝わらなかったことはない気がします。

自分の怠けが、人に伝わらないことにつながっているんですけど、でも、話すことが仕事じゃない場合はそんなことまったくなくて、意識次第というか練習次第ですね。

伝わらないときに意識すべきは「どう言うか」より「なにを言うか」

笹川:「キーワードを2つだけ伝えるんだ」と。「私はこう思います」という意見を先に持ってきちゃって、「なぜなら」の部分にもう1個キーワードがあって、理由と結果が2つだけあれば、みたいなトレーニングをするだけで、なんとなく伝わらないことがなくなるのかなと思います。

中川:確かに。広告にも「What to say」と「How to say」という言い方があって。「What to say」は「なにを言うか」で、「How to say」は「どう言うか」なんだけど、けっこう企画する時に、How to sayから考えちゃいがちなんです。

さっきの「何を言わなきゃいけないかがわかってなかった」というはまさにそういうことで、本でいうとタイトル案とかをいっぱい書くけど、「本当に大事なことってなんなんだ」というのを自分が一番わかってなかったりするんです。

笹川:なるほど。

中川:話すコツというよりかは、「なにを言うか」をちゃんとわかるようにすることは、けっこう大事なのかなと思いますね。

人と話す時に緊張しなくなるコツは、「尊敬」より「尊重」

中川:次の質問は、「有名な人と話す時、どのようにしたらリラックスして話せますか?」。

笹川:これ、私はすごく共感するんですけど。ADからアナウンサーになった時に、この間まで谷原章介さんに毎日お茶を出していた自分が、急に谷原章介さんの脇の椅子に座って、オンエアで4時間やり取りをするとなって。私は最後まで慣れなかったです。局アナは辞めたんですけど、最後まで「顔を知っている人」としゃべるのがすごく苦手でした。

特に自分が小さい頃から見ていたような類の人に、「すごい人だ」と思っちゃうと、けっこう緊張しちゃうタイプで。どうしたらいいんですか?

中川:ええー! でも、僕が今思っているのは、「すごい人っていない」というか。さっきの「尊敬」にも関わってくるんだけど、尊敬されようとするのも、尊敬をするのも、僕は止めたほうがいいんじゃないかと思っていて。

「尊敬」よりも「尊重」。尊敬だと、人のあいだで縦の関係ができるから、どうしてもその人に評価されたいとか、この人の思っている自分でありたいと思っちゃうけど、「尊重」だと、イーブンというか平等だから。そういう尊重する気持ちに持っていけるようにしていくと、緊張しなくなるんじゃないかなと思っている。

「緊張するときは相手をカボチャと思え」は、本質的な解決策ではない

笹川:確かに。よく「緊張する時は相手をかぼちゃと思え」って言うじゃないですか。それって本質的じゃないなと思って。

中川:かぼちゃと話さないからね(笑)。 

笹川:そうなんです。問題の解決になっていないといつも思っていて(笑)。だからといって革命的な答えがあるわけじゃないんですけど。

質問者の方は接客をされている方なんですけれども、例えば1回その場をしのげても、また別の芸能人の人が来店したら、また同じチャンスはやってくるので、そのたび毎回同じ失敗をしてもあれなので。

慣れようとすること。どうしたら自分が一番リラックスした状態でいられるのかという分析は、けっこう大事ですよね。

例えば、話すのをゆっくりしてみるとか、いっぱい呼吸をしながらしゃべるとか、そういう物理的な、身体的なリラックスをしながらしゃべると、意外と伝えたいことが伝わるという結果につながると思うので。分析と練習ですかね。

中川:確かに、自分をどうリラックスさせるかを考えるというのはあるかもね。

会社からの評価軸とは別に、自分の評価軸を作る

中川:次の質問です。「期待していた、努力し達成した成果に対して、納得できる評価が得られない時に、モチベーションが下がってしまいました。前向きにモチベーションを上げるにはどうしたらいいと思いますか?」

笹川:どうなんですか?

中川:前向きにモチベーションを上げる。僕の場合、特に広告の仕事って毎回やったことない商品とかやったことないブランドをやることがあって。その時に「興味ない」と思うんじゃなくて、商品を買ってみるとかして、自分から好きなところを見つけるようにしています。

さっきのバイクを買ったのもそうなんだけど、自分の好きな部分がないと、なかなかモチベーションが上がらないと知っているから。そういう自分の特性を理解して、そこに自分を無理やり持っていくということかなと思いますね。

笹川:会社からの評価以外に、なにか自分の評価軸を作るということですね。会社からの評価ってなかなか数字でも上がらなければ、人からの評価も難しいですもんね。

中川:会社で若い時に先輩に言われて心に残っているのが、「組織のためじゃなくて、世の中のためになる人になりなさい」と言われて。

確かに「会社のためにこうしなきゃ」と思うといろいろ悩んじゃうけど、「これは世の中のために、人のためになるんだろうか」と思えると、もうちょっと視野が広がったり、別に方法は1つじゃなかったりするから、そういう気持ちの作り方もあるのかなと思いますね。 

「いつかやりたい」は、いつまで経ってもやらない

笹川:いっぱいご質問いただいてありがとうございます。

中川:次、事前にいただいている質問に戻りますね。「お互いの将来の夢を教えて下さい」。やってみたいこと、さっき話したね。

笹川:そうですね。今2歳の娘がいるんですけど、30代でもう1人、2人は子どもを産む予定で。今、仕事もカツカツで、子ども1人でいっぱいいっぱい過ぎて、どうしようと思っているんですけど、絶対兄弟姉妹は作りたいなと思っているので、子どもは産む。

あとは自社で作るプロダクトをきちんと世の中に出すというのは目標にしていて。この間「30代後半でやり始めます」みたいに同世代の起業家の方に言ったら、「ふざけたこと言っているんじゃなくて、早く明日からやりなさい」と言われて。

中川:(笑)

「それを先延ばしにしていいことってないでしょう。君は年を取っていくんだから。何歳まで生きられるのかわかんないし」と言われた時に、本当にそうだなと思って。「いついつにやる」と設定しているものは、繰り上げ繰り上げでやっていかないといけないんだなと思っている次第ですね。

中川:確かにね。いつかやりたいと言っていることって、いつまで経ってもやらないというのはあるよね。

笹川:そうですね(笑)。そんな気がします。

広告の「中の人」がもっと世の中に発信できる時代に

笹川:『いくつになっても恥をかける人になる2』も出るんですか? 

中川:恥2(笑)。広告って黒子の仕事だから、よく言われるのは「表にあまり出ない人が多い」というか。それはある意味正しいけど、僕は今そういうもんでもないんじゃないかなと思って。

笹川:時代がね。

中川:広告の中で働いている人たちが、どういうことを考えているかとか、中の人の発信を増やしていくのはけっこう大事かなと思っていて。そういう活動は続けていきたいなと思っています。

笹川:特に今の時代、クリエイティブってみんな興味があって、私も興味はあるけどまったくできないタイプなので、作る人たちに対する尊敬ってどんどん上がっていると思っています。どういう思いで作っているかとか、どういう手法で作っているのかって、みんなが興味ある気がします。

中川:広告業界だけじゃなくて、クリエーターと呼ばれる人たちは、それをこれまでブラックボックスにすることで、ちょっと格好つけたかったんだと思うんだよね。そのほうが「特殊なもの」「魔法」みたいに見えるから、そこをもうちょっと開いて、世の中に伝えていくことも大事なのかなと思っています。

笹川:いろんな発信を楽しみにしています。

「恥」に悩む人に読んでほしい

中川:ありがとうございます。最後の質問かな。「この本をどんな人に読んでもらいたいですか?」。

僕がさっきお伝えしたように、僕自身が若い頃、すごく「恥」に対する恐怖心が強くて、それをどう乗り越えていったらいいかをずっと考えてきてたから、そういう同じ悩みを抱えている人。それは若い人だけじゃなくて、先輩でもきっと同じような悩み抱えている人が多いだろうから、そういう人にぜひ手に取ってもらいたいなと思っています。

笹川:お願いします。

中川:ありがとうございます。今日は笹川友里さんにお越しいただきました。

笹川:お邪魔しました。

中川:楽しいお話しをいっぱい聞けました。

笹川:またお茶でも。

中川:ぜひぜひ。最後に告知したいことはありますか?

笹川:そうですね。TBSラジオ、東京FMでラジオ番組をやっているので、ぜひお聞きいただければと思います。

中川:ありがとうございました。みなさん、またどこかでお会いしましょう。