クリエイティブ職になりたくてもなれなかった、7年間の苦しみ

中川諒氏(以下、中川):僕の場合の「一番苦しめられた恥」。やはりずっと広告のクリエイティブやりたいと思っていたけどなれなくて、でも日々の仕事が忙しくて、時間と忙しさに押しつぶされそうになるみたいな、その気持ちにずっと苦しめられていました。

笹川友里氏(以下、笹川):7、8年間のキャリアの中で、周りに「クリエイティブやりたいです」って言っていたんですか?

中川:言ってた。

笹川:それを言うのも、意外と勇気いりますよね。

中川:そういう意味で言うと、ずっと拗ねちゃってて、目の前の仕事をあまりがんばれなくなっちゃって。

笹川:ああ、つらいな。

中川:「俺はこの仕事をするためにこの会社に入ったんじゃない」と思っちゃってた自分がいましたね。

笹川:なるほど。拗ねですね。

中川:どこかでスイッチが切り替わった瞬間に、もうちょっとポジティブに仕事に向き合えるようになりました。

中川:例えば、営業時代にホンダのバイクを担当していた時期があって、でもバイクに触ったこともないし、興味も1ミリもなくて。

笹川:えー! そうなんですか。

中川:だから打ち合わせも全部つまんなかったんだけど、「これは趣味にしちゃえ」と思って、免許を取りに行ってバイクを買って乗ったら、めっちゃハマって。

笹川:今となってはナカリョウさんのInstagramを見たら……。

中川:バイクの情報ばかり(笑)。そう変わっていきました。

笹川:仕事を好きになってしまったほうがいいと思います。私もキャリア相談の連絡をInstagramのメッセージでいただくんですけど、「仕事がつらいです。どうしたらいいですか?」となった時に、私もつらいことは好きになってしまった者勝ちと思うタイプで。

バイクに興味を持つって、自分にとってもスポンサーにとってもプラスだし、一番いい方法ですよね。なるほど。

自分を苦しめたのは、「知らない」と言えなかったこと

笹川:本職というか憧れの職種になるまでの思いが、一番苦しかった恥ですか?

中川:僕はそうです。笹川さんの場合、なにかありますか?

笹川:アナウンサーになってからありましたね。アナウンサーって「え、これは知りません」ってオンエア中に言うことがあまりないじゃないですか。

ただ、知らないことを適当に言ってしまうほどのリスクはないんですよね。例えば。モリカケ(森友・加計)問題とか。安倍総理が辞任する前というか、いろいろ昭恵さんとあったじゃないですか。

その時代に「ひるおび!」で、30分自分で解説するというコーナーの担当をしていたんですよ。司会の恵俊彰さんとか誰よりも詳しいし、専門家の方もたくさんいらっしゃって。

自分でプレゼンしたんですけど、そのあとすごく細かい部分をスタジオで揉んで、そして「どうなの? 笹川」と返された時に、私は「知らない」と言う勇気がなかったんですよ。でもそれでうやむやにしたことで、自分の首をもっと苦しめたんですが。

おそらくそこで、「すみません、調べます」とか「勉強不足です」と一言言ってしまったほうが話はスムーズだったというのを、それこそ恥を産み落としてから思うようになったんですが。26~7の当時は、やはりみなさんが見ている前で「知らない」って言えなかった。けっこうその恥には苦しめられました。

中川:1つの出来事が、ずっと心の中でしこりとして残ったんだね。

恥をかくことから自分を妨げる「尊敬されようとする気持ち」

笹川:ラジオとかでもけっこうあって。ラジオのリスナーさんってすごく耳も知識も肥えているので、「笹川アナ、こんなこと知らないんだ」ってけっこうメッセージで来るんです。「このあたりの勉強をがんばったほうがいいですよ」とか。それは愛なんですけど、けっこう心が折れちゃったりしてたんです。

今となっては「ありがとうございます!」と思えるのに、やはり20代半ばって仕事持っていると、女性も男性もそうかもしれないですけど、舐められたくないって思う時もあって。

「リスナーに信頼されていないな」とか思ったりしてたけど、それもオンエアで「こんなメッセージが来ました。ありがとうございます!」と言っちゃったほうがよかったのに。自分で抱えてずっと落ち込んでたりしましたね。

中川:その「尊敬されようとする気持ち」というのが、恥をかくことから自分を妨げていると思っています。僕もクライアントとかお客さんに、なにか企画を提案した時、不意な質問をされて、ぜんぜん考えていなかったのにちょっとがんばって答えようとして、だいたいうまくいかなくて。

笹川:(笑)。わかります。

中川:明らかにちょっと失敗しているし、なんなら先方も不信感が顔に出ているようなことってどうしてもあって。そういう時はなるべく「さっき僕はああ答えたんですけど、実はちゃんと考えられてなかったんで、1回持ち帰ってまた話させてください」と素直に言うようにすると、向こうも「ああ、そうだよね」となるから(笑)。

その「知らない」と言うのが恥ずかしい気持ちって、人間だからどうしてもつい生まれちゃうんだけど、それを1回客観的に見られるようになると強いよね。

恥をかくことは、成長に必要なプロセスである

笹川:恥専門家であるナカリョウさんに聞きたいんですけど。20代の時に感じてしまう恥って、しょうがなかったんじゃないかなと思って。20代というか、若い頃から恥を捨てて悟りの境地に至るのはなかなか難しいことで。

でも、その恥があったからこそ、今は「ごめんなさい。わからないです」と言えるようになったと思っているんですけど。専門家としては、恥を通るのはしょうがないことなんですか?

中川:僕も同じ疑問を持っていた時期があって、この本(『いくつになっても恥をかける人になる』)を書く時にカウンセラーの人に話を聞きに行ったのね。その時言われたことで、まったく恥を感じずに「このままでいいんだ」と思っている人たちのことを、心理学上で「早期完了」という言い方をして。その人は、成長のプロセスにおいては、成長できなくなっちゃう人なんだって。

要するに、「僕はこのままでいいんです」というのは最強無敵状態に思えるんだけど、学び得ることができなくなっちゃうと。でも、逆に恥を感じて周りの人と比較したりとか、そういうことは自分を成長させるのに必要なプロセスなんだと言われて、「えぇ、優しいカウンセラー」って感動して(笑)。

笹川:カウンセリングされている(笑)。

中川:そうそう。ヒヤリングするつもりだったのに、いつの間にかカウンセリングされてた感じになって。

笹川:じゃあ、恥を通ることはいいことなわけですね。いいこと聞きました。

自己肯定感が下がったときは素直に「褒めて」と言う

中川:そうなんです。事前にいただいている質問でもけっこうあったんですけど、「自己肯定感がなかなか高められなくて、どうしたらいいですか?」という話。笹川さんは自己肯定感が低くなっていた時、意識していることってありますか?

笹川:私、けっこう20代後半の仕事がきつくて。私じゃないとできない仕事もあるって信じてはいたんですけど、それでもTBSのアナウンサーって60人在局しているんですよね。よく世の中でも言われるけど、椅子取りゲームは椅子取りゲームだなと思って。同世代の女性の担当する番組はこの辺だ、とか。

なるべくそういうのを感じないようにしていたし、あまり他人と比較して地に落ちるというタイプではなかったんですけど、それでも少なからずは感じていて。やはり自己肯定感って、周りを見ちゃって「あっちのほうがいい。自分駄目なんだ。ガーン」となることじゃないですか。周りを見ないのも難しいんですけれども。

中川:難しいよね。

笹川:そういう時は、自分を好きでいてくれた母親とか、姉とか、親友とかに「なんかさぁ、最近自分のことが信頼できなくなっちゃって、きついんだよね」と素直に言う。「褒めて」って。

(一同笑)

笹川:部屋を暗くしてジブリを見るとか、自分の薬はいくつかあるんですけど。

中川:それを適宜適宜打っていくみたいな。

笹川:注射していく(笑)。

自己肯定感を無理に高める必要は無い

笹川:ちゃんと言葉で認めてもらうというのは、おそらく自分が思っているよりもカウンセリング力が高いんじゃないかなと思っているんですけど、専門家としてどうですか? 

中川:僕は、自己肯定感が低い時に無理に高めようとしないほうがいいと思っていて。

そもそも「恥」というのが、「理想の自分」と「今の自分」のギャップが生む感情だと思っているから、自己肯定感を無理にあげようとするとギャップがより広がっちゃう。

「今の自分はうまくできていないな」という時に、無理やり自己肯定感を上げようとすると、ギャップが逆に広がっちゃって、逆に動けなくなっちゃうと思っていて。

だから、無理に高める必要はなくて、今の自分を受け入れる。「自己受容」じゃないけど、肯定よりも受け入れる。1回飲み込む。さっきの「褒めて」と一緒だと思うんだけど、それがけっこう大事かなと思って。

笹川:どうやって受け入れるんですか。

中川:全部言うってことじゃないかな。例えば今日こうやって配信するのも、考えたら考えた分だけ固まっちゃうというか。「ちゃんとしなきゃ。話のプロの笹川と話す。先輩だけどドキドキする」みたいになると、たぶん全身ニキビだらけになっちゃうけど。

笹川:(笑)。

中川:「今は今の自分を話すことしかできないから」と、もう1回自分で飲み込むことのほうが、けっこう大事かなと。

「なんとかなる、大丈夫」と思い込んで癖を付ける

笹川:どうにかなるだろうと思うことって、けっこう難しいんですけど、私は意外と癖付けだと思っていて。「明日はプレゼンだ。不安で不安で寝られない。どうしよう」というタイプの方は、そういうタイプだからしょうがないですよね。先天性なものもあると思う。

でも、一方で緊張してても爆睡できる人もいるし、「どうにかなるかも」という希望を持つ癖付けはわりとできる気がしていて。

毎日生放送のオンエアがあるとか、けっこう新人の時はワーッと仕事詰まっていて「私3ヶ月前までADやってたんだけど、なんでこんなに人前で話しているの?」とか。それでも癖付けしていくと意外とできるもので、私は最初の1年くらいで会得したんですよ。

中川:どうやって癖付けするんですか?

笹川:思い込む。

中川:ああ。

笹川:「大丈夫、大丈夫」「すごく勉強したし練習したから、明日は絶対、自分は大丈夫」と思い込んで、大丈夫と思って翌日がまんまと大丈夫だったら、「ほら、大丈夫だったでしょ」と思い聞かせるんです。また同じことをやって、「きっと大丈夫。またほら大丈夫だった。大丈夫っぽいじゃん」というのを、何度も何度も言い聞かせていくと、意外と慣れる気がします。

中川:自分で自分を認めてあげるということだよね。褒めてあげるというか。「よし、がんばった自分」みたいな(笑)。

笹川:意外と口で言っちゃってもいいですよね。

「恥」をかくためのマイルール

中川:大事だよね。今の話に通じる部分もあると思うんですけど、「恥」をかくためのマイルールってこの本の中でも書いているんです。今まで話したような「恥」を体系化して、分析して。

得体の知れないものって人間怖いから、恥ずかしいという気持ちになっちゃうけど、もうちょっと分解していくと、自分の中の恥が理解できたり。あとは人の恥も理解できるようになると、「先輩、なんでこんなこと言っているんだろう」とか、「お客さん、なんでこんなこと言っているんだろう」とかもわかるようになって、もうちょっと自分にも人にも優しくなれるかなと思っていて。

本の最後には、「恥」を克服するための工夫をいくつか入れているんだけど、その辺をちょっとお話したいなと思って。

笹川:ぜひ。気になります。

中川:僕がやっているのは、「挨拶は無視されそうでも自分からする」。例えばさっき言っていたように営業に配属されて、でもクリエイティブに行きたいと思っていることはみんなが知っている。

みんな本当はスーツを着なきゃいけないんだけど、僕だけ私服で出社してて。自分の意思表明なんだけど、周りからはたぶん「おもしろくない」と思われているだろうなと、自分は思っていた。

だから、一番ピシッとスーツを着ている人に、なるべく名前を呼んで「○○さん、おはようございます」と毎朝言うんです。

そうしていくと、最初は「俺のこと嫌っているかも」と思ってたけど、意外と最後はすごく応援してくれるようになったりとか、「コピーライターのテストどうだった?」みたいに、逆に聞いてくるようになったりとか。

相手の気持ちを想像しているのは自分だから、「この人、私のことあまり好きじゃないかもな」とかは、自分から変えていくようにしています。

名前を呼んで挨拶をすると、アウェーな場がホームな場になる

笹川:私もけっこう同じことやっていて。「たぶん、この人にあまりはまっていないな」とか、「ああ、ちょっとよく思っていないだろうな」という人には、必ず自分から行きます(笑)。

中川:そっちのほうが自分の気持ちが楽だもんね。

笹川:こっちから堂々と懐くと、あまり無碍にできないというのが、人間の性なので(笑)。

中川:確かに。

笹川:ピュアに行っちゃったほうがいいです。自分も、苦手意識を持っている人が同じコミュニティにずっといるのはきついので

中川:そうですよね。それに関する部分かもしれないけど、「意識して相手の名前を呼んでみる」という。

さっきの自分のことを苦手かもと思っている人もそうだし、例えばアナウンサーの仕事なりモデルの仕事をする時もそうだと思うんだけど、その場でしかなかなか会えない人もいるじゃない? そういう人にもなるべくちゃんと名前を呼んでご挨拶するようにしていて。

それは自分のためでもあって。もちろん人を尊重する意味で、ちゃんと名前を呼ぶというのは最低限、第一歩だと思っているんだけど、そうすることで、自分も思い切った発言ができたり、自分をアットホームな気持ちにさせたりするのに、相手のことをきちんと名前で認識するのは、けっこう大事かなと思っていて。

笹川:確かに。急に全員の名前を言えるようになると、アウェーがホームになるというか。アウェーだなと思っている現場で、自分をいかに居心地よくするかって、けっこうパフォーマンスにつながりますね。

中川:大事だよね。そこの心構えというか。

笹川:ある気がしますね。「名前を覚える」ね。

話すなら成功した話よりも、失敗した話をする

中川:あとは、「話すなら成功した話よりも、失敗した話をする」というのは。最近意識していて。先輩で成功した話をいっぱいする人たちがいるじゃないですか。なんか聞いててあまりおもしろくないというか(笑)。

笹川:お酒の場とかで話す武勇伝みたいな。

中川:それよりかは、失敗した話のほうがその人のチャームポイントが現れますよね。例えばさっきもレジでカゴを持っていたけどお財布なかった話も、「ああ、笹川さんってかわいらしい人だな」とか。

結局、成功した話よりも失敗した話のほうが、その人のキャラクターが現れたりとか、自分自身もそれを話すことでアットホーム感が作れたりとか、そういうのがあるかなと思って。

笹川:確かに。失敗したネタ帳を作ったほうがいいですね。

中川:そうね(笑)。

笹川:人ってすぐ忘れるじゃないですか。私も本当に覚えていられないタイプで。ラジオとかポットキャストとかでしゃべったらいいかなというネタも、翌日には全部忘れているんです。そっか、失敗した話、いいですね。

勝手に自分をプロジェクトリーダーだと思いこむ

中川:あとは、「勝手に自分をプロジェクトリーダーだと思いこむ」と本に書いているんですけど。これは営業にいた時に、雑用と思える仕事をやっていた時期があって。この間記事でも書いたんですけど、「この世に雑用はない」と思うようにしたんです。用を雑に済ませるから雑用になると。

その時にやったのは、例えば資料を取りまとめて印刷してホチキス止めするとか、会議室予約するとか。そういうのも雑用だと思ってやっていると、本当に自分が雑用係になっちゃうけど、自分をプロジェクトリーダーだと勝手に思い込むのは、タダじゃないですか。

思い込むと、そのプロジェクトをいい進め方にするために、資料はこう見えていたほうがみんなが気持ちよく仕事できるとか、会議室はこれぐらいの人数でこういう場所のほうがいいとか。

自分の思い込みを変えるだけで、やる作業とか目の前のことが違って見えてくるから、いいなと思ってて。

例えば、今日のこういうオンラインイベントの場を、いろいろお願いしてセッティングしてもらう時にも、「自分がプロジェクトをリードするんだ」と思ってやるのと、やらされていると思ってやるのかではぜんぜんアプローチも変わるし、姿勢も変わるかなと思っています。

笹川:思い出したのが、AD時代にあるディレクターさんとずっと仕事していたんですけど、厳しいことで有名な人で、指令がバーッと、いっぱい来るんです。ToDoが毎日。

それを最初は「またToDoが増えたよ」と思っていたんですけど、ある日、急に負けん気が出ちゃって。絶対に指示される前に「これ済みました」と言うという一週間をやったら、ちょっと認めてくれて。「最近言われる前にやってくれるようになったね」って。

そうやって自分の中でゲーム化するというか。ノルマを設定したり、本当に意識1つで変わりますもんね。成長できたし、「自分、得じゃん」と転換できたら、けっこういいですよね。

中川:人なんかみんな怠惰だから、自分も含めて、できればみんな楽をしたい。それを自分で気持ちを変えるためのやり方かなと思ったりします。

一番のマイルールは「迷ったら恥ずかしいほうを選んでみる」

中川:これが最後です。この本全体にも通じる部分ではあるんだけど、「迷ったら恥ずかしいほうを選んでみる」というのを、なるべく自分の一番マイルールにしていて。

そうすると、全部ポジティブなほうに転ぶというか。例えばこのTシャツも、今日は普通に青いシャツを着てくるかTシャツを着るか、どっちかで迷った時に、恥ずかしい方を選ぶと決めているから、これを着られるんです。

そういう小さいことでも、なにか選択する時に「恥ずかしいな」と思うほうを選ぶと、だいたいいいことが起こると思っています。

笹川:それ、けっこう難しいかもしれないですね。

中川:本の全体のテーマでもある「恥」というのを、もうちょっとポジティブに捉え直すことができたら、もうちょっとハッピーになれるんじゃないかと思っていて。

例えば今「恥ずかしい」と感じているとしたら、それはなにか新しいことにチャレンジできている瞬間かもしれないし。もっと言うと、恥はチャンスの目印になるかもしれないと。

みんなが避けたい恥の行動を選べるとしたら、そこにチャンスが眠っているかもしれないと捉え直そうと思ったのが、この本のテーマなんだけど。

日々の生活の中でも、ちょっと一瞬迷った時に、恥ずかしいほうを選べるようになるといいかなと思っています。

笹川:恥ずかしいほうね、選んでみよう。