我々にかけられた「人に迷惑かけちゃいけない」という“呪い”

尾原和啓氏(以下、尾原):『「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない』っていうこの本、マジでちょっと共感しまして。今日、実は坪田さんとは初対面なんですけれども、お時間いただきまして本当にありがとうございます。

「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない (SB新書)

坪田信貴氏(以下、坪田):なんか尾原さん、めっちゃメディア慣れされてますよね(笑)。

尾原:(笑)。アレなんですよ、YouTubeで最初の30秒がめっちゃ重要なんですね。「最初の30秒で、どれだけ離脱させないか」っていうことに命を懸けたしゃべり方をしてて。

そんな中で『「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない』について。たぶん僕らの世代って、特に周りから「人に迷惑かけちゃいけないよ」って言われて育ってきてるから。この「呪い」をかけられて育った人間なので、やっぱりこの本のタイトル見たらドキッてするし。一方で下の帯にある「ちゃんとしなさい」「やればできるよ」「言うこと聞きなさい」とか、全部言っちゃってる言葉じゃないですか。

坪田:はい、そうですね(笑)。

尾原:ここまでだったら単なる解説本なんですけど。やっぱり坪田さんがすごいのは、誰でもできる言い方にしてて。「1個1個をちゃんとこう言い換えれば、子どもが自分で考えて自分で走る」っていう「自走型人材にどう変わっていくか?」。

特に今って変化の時代だから、決められた正解を速く解く世代っていうのは「おとなしくやりきる人材」が強かったけど、変化の時代って「自分で考えて自分で動ける自走型人材」にならないと生き残りにくくて。そのために、たった28個言い換えるだけで、子どもが実は自走型になれるっていうところを。

でもあえて、見るとドキッとする『「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない』っていうタイトルにする、この坪田さんのセンス含めて「ヤバい!」って思って、今日はお話しをさせていただければなんですけど。

「新しいアイデアを出せ!」→「そんなの前例がないから無理」

尾原:坪田さんは『ビリギャル』などでもう本当に有名な方ですけど。

学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話

どんなきっかけで、あえてこのタイトルでこの内容の本を書かれたのかな? ってところから、お聞きしたいんですけれども。

坪田:ありがとうございます。おっしゃるとおり、そこに響いてくださってるところと、それを解説してくださってるところが、やっぱり尾原さんすごいなって。そこを感動してるんですけど。

尾原:いやいやいや。

坪田:世の中がどんどん、ちょっとのミスも許さなくなってきてると思っていて。全部それって正論なんですよね。「不倫しちゃいけない」とか「嘘ついちゃいけない」とか。だけど、炎上はあまりにも激しいし、それこそ自分とは関係ないところで盛り上がっちゃってて、あんまり生産的じゃないなと思っていて。それってどこから来てるんだろう? って思った時に、究極は同調圧力なんだろうなと。

尾原:そうですね。「みんなと一緒でなければいけない」という、日本人特有の圧力。

坪田:本当に日本人特有じゃないですか。

尾原:ほんまそうですよ。だって「個性を伸ばしなさい」って言ってるくせに、みんなと同じじゃないと「んん?」みたいな感じになるって、不思議な国ですからね、この国は。

坪田:そうなんですよね。だから「新規の、今まで聞いたこともないようなアイデアっていうのを考えろ」と。これから変化の時代だし、今のビジネスモデルが続くかどうかがわかんないから、若い人に「今までにないアイデアを考えろ」っていうお題が来て。それを一生懸命考えたら「いや、前例がないからそんなことできない」みたいなこと言われるじゃないですか(笑)。

尾原:(笑)。「いや、なにを言ってるんですか?」と。「新しいことをやるって、前例がないことをやることです」みたいな感じですもんね。

カリキュラム至上主義で、宿題さえも指定される日本の教育

坪田:あとやっぱり日本の教育って、難しいところなんですけど、いいところも悪いところも当然あるんですが。あえて「ここはちょっと微妙だな」って思うのが、カリキュラム至上主義なんですよね。例えば「中学1年生の1学期は正負の数をやって、文字式やって」と。めちゃくちゃ数学が得意な子にとってみれば「なんでわざわざそこでやらないといけないの?」みたいな。もっと前の段階ですでにやってるのに、それをみんなと一緒に受けないといけない。

逆に遅れてる子にとってみれば、わかってようがわかってまいが進まないと。みんなに合わせて行かないといけない、みたいな。あと、例えば「国語の時間は国語をやる、数学の時間は数学をやる」。

尾原:そうですね。きっちりカリキュラムごとに達成していかなければならないっていうふうに、いつの間にかなってますよね、日本の教育って。

坪田:それだったらまだしも、宿題も指定されるじゃないですか。

尾原:「これを明日までにここまでやりましょう」って。

坪田:せめて家にいる時ぐらいは、自分で何を学ぶかってことは考えさせればいいのにって、僕はずっと思ってたんです。僕自身も宿題を正直、今まで1回もやったことがなくて。

尾原:えっ!? そうなんですか?

坪田:怒られまくってたんですよ。「なんで宿題やらないの?」みたいな。でも、僕はそこで「なんで家でやることまであんたらに指示されないといけないんだ」って言って、ずっと反発してて。

尾原:かっこいい!

社会人になった途端に「お前は指示待ちだ!」

坪田:いやいや(笑)。だからめっちゃ嫌われたりとかもしてたんですけど。ここがポイントで、それを小中高、なんだったら大学生になってからもそういう状態で。それなのに大人になってからなんて言われるかというと「自分で考えろ」って言われるんですよ。

尾原:そうですよね。矛盾やっちゅうの!(笑)。

坪田:矛盾なんですよ! この「カリキュラムどおりに行きなさい」「言われたこと、指示とおりのことをやりなさい」っていうのをずーっと習慣化されてるにも関わらず、社会人になったら「お前は指示待ちだ!」とか。

尾原:あんたらが指示待ちになるように学校で教育したんじゃないかと(笑)。

坪田:そうなんですよ。大人がそうしてきたんじゃないの? っていう。そこを急に変えるって言うんだったら、じゃあ教育だってそうするべきなはずですよね。自分で考えるように指導するべきだし。

質問されると、まず親の顔を見る子どもたち

坪田:だけど、その「人に迷惑をかけるな」ってことって本当に言われてて。例えば、僕はこの本を出して、Twitterで「人に迷惑をかけるな」って検索したら、5分に1回くらい「人に迷惑かけちゃだめだ」みたいなことが書かれてて。

尾原:特にTwitterはなんだろう……「自粛警察」みたいな言い方をしたりするように、勝手に警察になって咎めはるみたいな。先ほど言った同調圧力の塊みたいなエンジンに、ちょっとだけなってますよね。

坪田:そうなんですよね。「人に迷惑をかけるな」って言って。その「人」っていう主語があまりにもデカすぎて、なにしていいかわかんないというか。「これやっていいのかな?」ってなるよな、っていうのが。

子どもたちを見ててすごく思うのが、僕が一番「これ、親御さんも本人も望んでないんだろうな」って思うことがあって。面談してて、例えば子どもに「好きなアイドルとかっているの?」って聞くと、普通そのまま「BTSです」とか「ジャニーズのなんとかです」って言いそうなものですけど、半分ぐらい子どもたちはまず親の顔を見るんですよ。

尾原:「誰を言うのが正解かな?」みたいに見てしまうわけですね。うわー悲しい! つらっ。そうすると、親の顔見て「尊敬しているのは、僕のお父さんです」って言わなきゃいけない世代なんですよね(笑)。

坪田:「僕のお父さんです」っていうところまで言ってくれたら、逆に「すげーこの子、空気読むな」ってなるんですけど(笑)。親御さんが「いや、BTSでしょ。あんたいつも聴いてるじゃない」みたいに言うんですよ。これって本当に会社にだとか社会人になった時に、ずーっと使われ続けるというか。たぶん主体的には動けないよねと。

「サラリーマンになるな。ビジネスマンになりなさい」

坪田:「坪田塾」のそれこそ教室に、僕が言葉として書いてることがあるんですね。「サラリーマンになるな。ビジネスマンになりなさい」って書いてるんです。サラリーマンっていうのは、自分の時間とかをお金で買われて。

尾原:言われたことをやってお給料をもらう存在です、と。

坪田:ビジネスマンっていうのは、形態としてはサラリーマンかもしれないけれども、社会の課題だとか人の課題だとか、会社の課題っていうのを自分で見つけて、新しく作っていく人っていうのがビジネスマンなんだよ。その課題を解決していくのがビジネスマンだから「サラリーマンにはなるな、ビジネスマンになりなさい」って書いてる文章を貼ってるんですけど。

親から育てられてる、つまりお金を出してもらってる、いわば「スポンサー」の顔色をまず見て、正解を言ってもらって、それに「そうです」って言うのって、サラリーマンとビジネスマンっていう対比で考えたら、どう考えてもサラリーマンのほうだよなって思うんですよね。

ものづくり大国の人を生産するために最適化された、日本の学校

尾原:それめっちゃわかって。最近すごく売れてる『DXの思考法』っていう、冨山和彦さんと西山(圭太)さんが書かれた本があるんですけど。

DXの思考法 日本経済復活への最強戦略

お二人と対談した時に、なんでそうなるかっていうと、冨山さんいわく「日本は失敗しないやつが上司になっていく会社だ」と。日本はものづくり大国だったから、ものづくり大国って何かというと、安くて品質がいいものを早くお届けするっていうことが、ビジネスの成功ルールだから。

そうすると、できるだけ失敗を減らしたほうが安くなるし、失敗を減らしたほうが早く届けられるし。だから、失敗をできるだけ減らすと、それが「成功だ!」となって上司になっていく。

さらに言うと、ものづくりって個性がいらないわけですよね。だって「できるだけこのものを、いいものを作ってくれ」って言って、全員がパーツになって個を殺して、みんな小っちゃい改善を繰り返しながら研いでいったら、むちゃくちゃいいものになったっていうのが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」なので。

実は会社自体が「失敗を許さないもの」でできあがっていて、それのために学校ってあるから。学校も、ものづくり大国の人を生産するために最適化されているみたいなところがあって。

「最短最速70パーセント」という発想

坪田:いろんな企業にコンサルティング……っていうか、中に入って経営課題を解決したりとかすることが多いんですけど。僕はいつも「最短最速70パーセント」って言ってるんですよね。

尾原:70パーセントなんだ。

坪田:そう。「70パーセントでとりあえずいいから、もう出そう」みたいな。完璧なものっていうのを作ろうとせずに、とりあえず70パーセントで市場にいったん出してみて。反応で変えていくってふうにすればいいけど、まずとりあえずはそうやろうと。

それで失敗とかうまくいかないことはあっても、例えば「Windows」とかだって週に1回ぐらいアップデートするわけじゃないですか。アップデートってすごいいい言い方なんですけど、僕は好きなんですけどね、要は「不完全だった」ってことじゃないですか。

尾原:「どっかが不完全なところを新しく出しましたよ」ってことですもんね、アップデートって。

坪田:そうなんです(笑)。セキュリティとかのホールがあって、それにパッチを作りましたみたいな、それでアップデートって言うのって、これ僕はめちゃくちゃいい言い換えだなって。

尾原:確かにね。ポジティブな言い方してるけど、それってネガティブなものがあったってことやんかい! っていう話ですよね。

坪田:「不良品を出してた」ってことじゃないですか。でも基本は今、あらゆるプロダクトってそうなってるよなっていう。