信頼のないリーダーの言葉は、記憶に残らない

岩崎一郎氏(以下、岩崎):先ほどのネガティブなループがグルグル回っている状態では、脳の中で何が起こっているか? という研究をご紹介します。

信頼関係のないリーダーの発するネガティブな言葉を受けた時の部下の脳機能を調べてみると、まず「側頭葉」の活性が落ちます。「側頭葉」は、言葉の理解や記憶に関係している脳の領域です。この活性が落ちるということは、信頼関係のないリーダーの言葉は耳にしていても理解できてない、記憶に残らないということです。

それから、エラー検出に関係にしている「前全帯状回」と、危険回避に関係している「後帯状回」の活性も落ちます。つまり、そもそもミスが起こっても気がつかない、ミスを回避できないということです。

これに対して、ポジティブなループが回っている組織はどうでしょうか? 信頼関係のあるリーダーのポジティブな言葉を受けた時、部下の脳機能の変化を見ると、言葉の理解・記憶の領域「側頭葉」の活性が高まる。だから、信頼関係のあるリーダーの言葉は理解されているし、記憶にも残りやすい。

そして、「島皮質(とうひしつ)」と呼ばれている脳の部位は、他者への共感や未来予測などに関係している、領域の活性が高まる。それから、先ほど出た「前帯状回」、エラー検出の活性も高まって、「中脳」の強化学習の活性も高まる。

つまり、ミスが起こりそうなところをあらかじめ予測して回避したり、ミスをしたとしても学びが早くなるということが、部下の脳の中で起こっていることがわかりました。

チームを動かす原動力は「信頼関係」

岩崎:(先ほど「『全員が普通のチーム』でも、『天才のチーム』に打ち勝てる 強い組織作りに欠かせない3つのポイント」で申し上げたように)リーダーシップとマネジメントは、順番が非常に重要です。(リーダーシップがあってからマネジメントという順番で)もちろん「仕組み」というのは、組織を動かしていく上で大切ですが、実は「信頼関係」がチームを動かしていく原動力になるのです。

じゃあ、どうしたらその信頼関係をふだんから築けるのか? そこで登場するのが「脳磨き」です。歯磨きをするように、ふだんから脳を少しずつ磨いていくことで、このポジティブなループを動かしていくということ。もしくは、集合知性の3つの要素を満たしていけるようになるのが、「脳磨き」です。

最後に、弊社で提供させていただいている「集合知性を発揮する脳トレ研修」のご紹介です。5つのパーツから成っています。研修というと、「集合研修」をイメージすることが多いと思いますが、弊社「脳トレ研修」は、「集合研修」だけでなく、「パーソナル・トレーニング」「習慣化プログラム」「脳トレコンパ」「復習eラーニング」の5つのパーツをグルグル回しながら、集合知性を発揮できる脳を作っていきます。

これらは「脳磨き」をベースに作られており、毎日、歯磨きをするのと同じ感覚で「脳磨き」を習慣化して、集合知性が発揮される素晴らしいチームを作ります。今日のお話が、少しでもみなさまのお役に立てていただけていたら大変嬉しく思います。ご清聴ありがとうございました。

組織に「能力が高いメンバーがいるかどうか」よりも大切なこと

斉藤知明氏(以下、斉藤):ご講演ありがとうございました。では、ここからディスカッションパートに入っていきます。

斉藤:チャット欄にたくさんコメントをいただいていたんですが、その中で最初のほうに「能力の高いメンバーがいないことは、組織として成果があげられないことの言いわけにはできないってことですね」という、ひと言ですね。端的におっしゃっていただいた方がいまして。

岩崎:そうですね。能力の高いメンバーがいたほうが、最初の立ち上がりはもちろんそういう方が活躍されるので、いいように見えるんですけど。長い目で見ると、やはり集合知性を発揮していけるほうが、組織にとっても各メンバーにとっても非常にいい状態になると思います。

斉藤:今日このディスカッションのパートの中で、脳科学的に見ていわゆる信頼関係というものがベースになっている組織、それを作り上げられるリーダーがいいチーム、まさに「集合知性を発揮できるチームを作っていくことができる」というのが、今回のど真ん中の主張だったのかなと思うんですけれど。

「集合知性」を発揮するための3つの要素

斉藤:あらためて岩崎先生。集合知性における信頼関係って、どのように定義すると、僕らは正しく捉えられるんでしょうか?

岩崎:実践することは、非常に難しいとは思うんですが、実はスライドの中にお答えがあってですね。「集合知性を発揮するための3つの要素」というスライド。

この3つの要素(①「メンバー同士がお互いを理解し、気持ちを汲み取れる」、②「全員が対等に発言できる」、③「チームに一体感がある」)をうまく満たしている状態が、信頼関係ができている状態かつ、集合知性が発揮できる状態でもあるということです。

斉藤:この①、②、③の順番が大事だと、事前のお打ち合わせでもすごくおっしゃっていただいて印象に残っています。この①「メンバーがお互いを理解し合い、気持ちを汲み取れる」。これが信頼関係の中の基礎・素地になるということなんでしょうか?

岩崎:そのとおりです。みなさん、人それぞれで脳の使い方に偏りがあって。それが「個性」だったり「才能」だったりになっていくわけです。「それぞれの境遇の違いまで含めて、お互いを理解し合う」ということがあって初めて、信頼関係を築いていけます。

それがあると、②のようにお互いに対等に発言する。本音で語り合っても、相手の立場・境遇がわかっているので、相手にとって無理難題みたいなものは突然ぶつけないという状態ですね。お互いに話し合うことで解決、ソリューションを見つけようという状態になっていくということです。

信頼できる相手だから「理解しよう」と思える

斉藤:先ほど、信頼関係の(ない)リーダーの言葉を受けた時に、理解も記憶も側頭葉の反応もネガティブに働くし、エラー検出も危機回避の反応もネガティブに働くとおっしゃっていました。これって「メンバー同士が」ということも重要なんですよね?

岩崎:もちろんです。信頼関係を築くというのは「1対1で信頼関係を築いて、それから今度はチームでも信頼関係を深めていく」という、実は2ステップです。

まずは、それぞれの人たちが信頼関係を深めていくということが大事です。もちろん相手を好きになったほうがいいんですけれど、やっぱり苦手な人はいると思うんです。そういう人であっても、相手の境遇を理解することはできると思うので、それがまずは信頼関係の入り口になります。

斉藤:脳の構造のスライドを見ながら、めっちゃ端的だなって思ったのが。岩崎さんのことを信頼していると、岩崎さんの言葉が入った時に「理解しよう」とするじゃないですか。人間って相手のことが信頼できてると、そこの「理解しよう」とするっていうのが、心持ちの問題だけではなくって、実は脳科学的にも理解するほうに反応が動くってことなんですよね?

岩崎:そのとおりです。

斉藤:メンバー同士が互いを理解し合い気持ちを汲み取れる状態があるからこそ、本音でぶつかれる環境が生まれる。結果的に発言の機会が均等になったりですとか、同じぐらいにみんなが発言します、と。

多様性を受け入れつつ、共通の目標に向かうことは可能か?

斉藤:最後の「みんなで共通の目的に向かっている」というのは、特に昨今の社会においてはけっこう難しいなって思ったんですよ。というのも「ダイバーシティとか多様性を受け入れましょう」とか「いろんな役割の人を受け入れましょう」っていう言葉も出てきています。

僕の理解が間違っていれば「間違ってる」とおっしゃっていただきたいんですけれども。個の多様性、スキルの多様性、いろんな役割の多様性とか、いろんな背景の多様性を持ってる人が集まって「同じ目的に向かいましょう」って、すごく難しいことだなと思うんです。

これって誰でもできることなのか? それとも、そういう人や力こそが特にリーダーに求められる力なのか? で言うと、どう解釈するのがいいんだろうなって悩んでいました。

岩崎:脳を鍛えていくとそういうリーダーになっていけるというのと、それから多様性ですね。「多様性があること」と「共通の目的に向かっている」ということは、二律背反ではなくて。逆に多様性があるからこそ、より高い次元からのソリューションが見つかるんです。

今までというか、昭和の時代と言ったほうがわかりやすいかもしれません。「みんなが同じことができる」とか「同じことができるようにならないと、共通の目的に向かえない」という、思い込み的なものがあったと思うんです。

実はそれぞれの人の脳の使い方の偏り、言い方を変えると才能とか性格とかを「うまく組み合わせていく」と言うと、パーツを組み合わせるみたいに聞こえてあまりよろしくないのかもしれませんが。本当にそれぞれの人のいいところがカチッとはまり合うと、すばらしいものになっていくんです。

その多様性があるからこそ、集合知性がより高い次元で発揮できる。別の言い方をすると、同じような才能の人たちが集まっても、集合知性が発揮できたとしてもみんな似たような才能を持ってるので、逆に高い次元の集合知性になっていかないという特徴があります。

「弱々しいリーダー」が持っている“強み”

斉藤:先ほどの「ぶっちぎりのチームが見つかりました」というスライドについてです。集合知性が高い状態って、いわゆる個人の能力・知性は「高さ」という意味では標準なんだけれど、別々の高さがあるのかなと思いました。

例えば、突出したなんらかのスキルの方向性だったり、考え方の指向性にバラつきがあって、かつそれで集合知性が発揮されている状態。同じ目的に対して信頼関係が築かれている状態が、一番パフォーマンスが高くなりやすい組織だし、そういうリーダーシップを発揮すべきだっていうことなんですかね?

岩崎:そうですね。そういうリーダーって、見た目は「強いリーダー」に見えないんです。稲盛和夫さん自身も「自分は弱々しいリーダーでした」って言われてるぐらいです。だから、みんなの意見を聞いたり、泣き言は言わないかもしれませんけど、自分の弱みを見せたりすると「強いリーダー」に見えないんですよね。でも、逆にそれがお互いの本音を引き出したり、相手の立場に立ちやすくなったりするということが起こります。

パフォーマンスの高いチームかどうかは、会議でわかる

斉藤:これ……すごい難しい議論ですね。まさに今「Googleの例ってどうなんでしょう?」ってチャットでもいただいていたんですけれども。Googleさんに「プロジェクト・アリストテレス」というのがありました。

これは何かというと、Googleの社員のみなさんを対象に、いわゆる働き方をデータドリブンで「パフォーマンスの高い組織ってどういう特徴があるでしょうか?」という分析をした時に「サイコロジカル・セーフティ=心理的安全性が高い組織こそが(パフォーマンスが高い)」というデータです。

「1つの会議において『できるだけ等量の発言』をしているチームほど、パフォーマンスが高い傾向にあった」と。それだけではないんですけど「心理的安全性が高い=パフォーマンスが高い傾向にあった」という結果が出たそうです。

これってすごく近しい考え方で、結果的に近い話をされてらっしゃるのかなと思ったんですけれども、ここは岩崎さんどう考えられたりしますか?

岩崎:まさにそのデータ、正しいと思います。みんなが同じくらいの量を話してるっていうのは「対等に発言ができている」ってことの、1つの指標だと思うんですよね。その時に非常に大事なのが、先ほど「3つの要素の順番が大切です」ってお話をさせていただきました。

みんなが等量発言できている、ここで言う「対等に発言できている」ということ以前に「お互いの立場に立てている」ということが大事です。それができないと、それぞれの個人の勝手な言い分をぶつけ合うことになってしまう。例えばリーダー、特に経営層と一般従業員の方たちでいうと、立場の違いがあるわけですよね。

一般従業員の人は「もっと給料くれよ」みたいな本音があるでしょうし(笑)。経営者的には「こんだけ給料払ってるんだから、もうちょっと働いてくれよ」みたいなものがあるかもしれません。

それぞれの経営状況などを見たら、どのくらいの給料を払えるのか?(いざという時のための内部留保も必要だ) とか、いろいろあると思うんですよね。その立場をお互いに理解し合わないと、対等に発言できるというのが「エゴのぶつかり合い」になって、組織がまとまっていかないわけです。

それを実際に現場で計測してみて、Googleさんから「お互いの立場に立てる組織で、対等に発言できている」というデータが出てきたんだと思います。その脳科学的な裏付けになるものが、今日お話しさせていただいたところです。

「全員が対等に発言できる」だけでは足りないもの

斉藤:結果的にそうなってるよねっていうことなんで、②「全員が対等に発言できる」だけやっても、しゃーないですと。

岩崎:そうですね。

斉藤:②だけ、例えば「今度、60分のミーティングを10人で開催するから、6分ずつタイムを計って、一人ひとりが発言しましょう」ってしても、それだけで集合知性が発揮できるってわけではなくて。発言したものを一人ひとりの強みが発揮できる、つまり理解し合える環境が生まれてるのが、集合知性が発揮できるってことなのかなって解釈をしました。

岩崎:そのとおりです。あと、例えば「一人ひとりにみんな、同じ持ち時間があります」って始めてしまうと、それはリーダーシップのないマネジメントなんですよね。仕組みだけ導入するっていう。だから、そういう意味でも本末転倒になってしまいます。