グラレコで描いたものを最後に重ね合わせたら、話の本筋が見えてくる

田中聡氏(以下、田中):あ、上田先生がなんかお話をしたそうな。

上田信行氏(以下、上田):すみません。ちょっと今日は気分的に、すべてを-ingでいきたいなと思っていて。もう名詞ではなくて動詞でいこうと。そうすると、なにかが動いていくように見えてくる。それから重ねると、先ほど言ったトランスペアレンシー(透明性)というか、全部の景色が同時に見えるんですよ。

例えば、今日のスクライビング(グラフィックレコーディング)で3つそれぞれ書かれてるのを、全部重ねてほしいなという思いが出てきますよね。

透けて見える紙(トレーシングペーパー)ってあるじゃないですか。設計図とか描く時に、どんどん重ねていけるような。僕は建築家の人と最近仕事をしているのでよく見るんですけれども、ロールの黄色いトレーシングペーパーの上にスケッチを描きますね。その上にもう一枚のトレーシングペーパーをポンと置くと、下が全部見えるんですよね。そしてその上からまた描き込んでいく。

例えば岸さんが、そういう下が透けて見える紙に描かれていって、それをバーっと合わせていくと、「こんなお話だったんじゃないですか」って、すごくジェネラティブなスクライビングの1つができるんじゃないかなと思ったんです。

それっておもしろい、生成的スクライビングですよね。後でその紙を重ねていくことによって見える景色が違ってきたり、それも見方によってどんどん変わりますよね。その紙に描かれたものだったらいつ見てもそうなんだけど、それを重ねて、なんか透けて見えるところからどういう景色が見えるかなとか。

岸さん、いかがですか。今、急にやっていただくってことではないんですけど、すごいアイデアだったと思うんですが(笑)。

岸智子氏(以下、岸):すごいアイデアでした。私の能力的にできるのかわからないんですけど(笑)、でも先生がおっしゃっていることはイメージとしてすごくわかります。特にその時に整理をしようとか「こういう話だったんだよね」とまとめようとしなくても、改めて描いたものを見返すことで、お話の筋や核が見えてくるんです。

もちろん「その日のテーマ」は最初にあるんだけれども、その場で話されていく中で、後から生成されたテーマが重なり合って、浮かび上がってくるような気がしています。そういう描き方ができるかどうか、この後いろいろ考えていきたいと思います。

テクノロジーの方向性は、シングルモードからマルチモードへ

上田:僕、グラフィックレコーディングしている方に聞いたことがあるんですけど、「初心者ってどうしたらいい」って聞いたら、「パステルカラーをうまく使ったらいい」と言われたんですよね。例えば薄いグリーンで描いて、その上に濃いグリーンで足していけば、どんどん描き直せるんだと。

消すんじゃないんですね。前に描いたものの上に描き足していくから、全て見えちゃうんですよね。アイデアを空間化できる。その人の描き直した思考のプロセスも見えるという。まさにスクライビングそのものがジェネラティブだし。

なかなかしゃべっている言葉というのは、重ね合わせるのが難しいですよね。例えば田中先生が話そうと思ったら、私か松下先生のどっちかが待たなきゃいけないですよね。

田中:(笑)。

上田:文字だったら、それが同時に出せる。そんなことも含めて、「スーパーインポーズ(重ね合わせる)」ということを聞いただけでわくわくする。このアプローチをどんどん試していこうという実験的なマインドが、プレイフル・スピリットだって思うんですよね。みなさん重ねていくことによって、自分が考えている概念が広くなっていって。重なっていくことで厚みが出てきて、なんかおもしろいなぁと感じました。

松下慶太氏(以下、松下):たぶんテクノロジーの次の方向性ってそこだと思うんですよね。Zoom会議やZoom飲み会もそうなんですけど、「ちょっとなんだかな」という違和感があるので。

今、上田先生がおっしゃるのはシングルモードというか。上田先生がしゃべっている時、僕はしゃべれないし、僕がしゃべってる時は、誰かが入ると「あ、どうぞ、どうぞ」みたいになる。常に誰か1人しかしゃべれないというところが、ちょっと違和感があるところなのかなと思っています。

これがマルチモードで、音量をうまく調整しながらしゃべれれば、上田先生がしゃべっている横で、僕と田中さんがちっちゃい声でしゃべれるとか。そうなってくると、また新しい展開が見えてくるのかなという気はしますね。

重ね合わせるときに大切な「判断を保留にする態度」

司会者1:ありがとうございます。

上田:いえいえ。すみません。こういうふうにおもしろいコミュニケーションになればなるほど、今回最初に出てきた「メタ認知能力」が必要になってくるかなと。

いろんな角度から、いろんな考え方を重ね合わせていくような、「スーパーインポーズド・メタコグニション」みたいなね。次元を変えたり階層を変えたりとか、そういうものも出てくるんじゃないだろうかな。

メタ認知もリフレクション(内省)もそうですけど、オブジェクトレベルとメタレベルを行ったりきたりするようなことが、オン・オフで切り替わっていた。それがスーパーインポーズされながら、ちょっとメタレベルにいって、またちょっと降りてきてというズーミングが同じレンズで焦点を変えることができてくる。

そういうような中で、お互いいろんなアイデアを出して、いろんなことを実験して、お互いフィードバッキングしながら、盛り上がったいく。そうやって会議が活性化するし、なにかをジェネレーションするという場には、今日3人で話させていただいたことがヒントになるかなと思うので。ぜひ最後に、みなさんからの意見なんかも聞かせていただければうれしいです。

田中:おもしろいですね。このセッションって、もっと話してもいいんですか(笑)。

司会者1:大丈夫です。田中先生。

田中:そうですか。逆にそうやって言われると話しにくいですけど(笑)。スーパーインポーズを考えていく時に、簡単に決めつけないとか、判断を留保にする態度って、改めて大事だなと思いますね。

「これまでの自分の考えでは......」という制約を、いかに飛び越えるかという時に、1回ぐっと待つんですよ。何か言いたいことがあっても、1回受け止めてみる姿勢とか態度は、けっこう技術的に大事なのかなと思ったのが1つです。

「あれかこれか」ではなく「あれもこれも」というマインド

田中:あと私が最近注目している概念に「パラドックスマインドセット」というものがあるんです。要するに一見矛盾するけど、相互依存的な二つのもの。例えば、短期的な業績と中長期的な持続可能性みたいな話です。既存事業との業績と新規事業の業績と言い換えても良い。

こういったものを「どっちがいいのか」と簡単に結論づけるんじゃなくて、まず両方を受け止める。その上で、「どっちも追求できる可能性がないか」と捉える思考、このことをパラドックスマインドセットっていうんですけど、これからのパラドックスに満ちた不確実な世界を生きる上でとても大事なマインドセットだと思うんです。

なんかその辺りと、今日の、お互いの違いを理解した上で重ねるという考え方って、通じるところがありそうだなと思いながら聞いてたんですよね。

松下:そうですね。経営の文脈でも、確かに「両利きの経営」みたいな話もあったりとか。

田中:そうですね。

松下:昔でいくとアウトヘーベンみたいな話もあったりして。わりと古くて新しい問題だなと、田中先生の話を伺ってて思いました。僕自身は、プライベートではやっぱり「あれかこれか」という二者択一ではなくて、「あれもこれも」という言い方をよくしてるんです。

そういったマインドセットってけっこう大事になってくるのかなという気はするんですよね。

「私はこういうキャラだから」という思考から抜け出すには?

松下:ちょっと話がずれるかもしれないですけれども、子どもとか若者たちに、すごく早い時期からキャリアデザインを教えるということも、実は葛藤とかジレンマにつながっているような気もしていてね。

田中:それ思いますね。今視聴者からのコメントにも「トレードオン」とあります。まさにそうです。トレードオフじゃなくて、トレードオンという発想。とても大事な考え方だと思います。

今のキャリア教育を見てて思うのが、自分の強みとか弱みとかを、かなり断定的に定義させようという雰囲気があるじゃないですか。これ結構危険なことで、1回ラベルを貼ってしまうと、やっぱりその認知からどうしても抜けられなくなる側面があると思うんですよね。

僕は、強みも弱みもその時の環境や状況に規定されるもので、本来的にはすべてはキャラクター、つまり特徴でしかないと思ってるんです。

松下:そうなんですね。やっぱりすごく興味深いですよね。例えば大学生とかもそうですし、若者たちもそうですけど、「私はそういうキャラ」みたいなことを言うんです。

社会学で伝統的に言われている「ペルソナ」からスタートして、最近の若者でいう「キャラ」とか、今おっしゃっていたような「トレードオン」とか、「重ねる」とかにつながっていく。ネガティブなものをその場でいいようにするのではなくて、ポジティブなものに変えていくというのが、ワークスタイリングの1つの出発点にはなるのかなと思っているんですよね。

たぶんチームで「自分がどういうキャラか」って考える学生がけっこう多かったなという気がしています。

田中:そうですね。

松下:「私、そんなキャラじゃないんで」みたいな(笑)。

田中:彼らにとっては、まさにキャラと一貫した行動をスタイリングしようとしますよね。周りから私はきっとこういうキャラだと認定されているから、そのように従って動かないとという。キャラによる一貫性って、どうやったらとっぱらえるんですかね(笑)。

松下:うーん。

田中:これもすごく難しいテーマですよね。逃れられないもの、呪縛みたいな気がしますけど。

一度できあがったキャラでは、新しいチャレンジができない

松下:そこでポジショントークじゃないですけど、ワーケーションの可能性ってあると思っていて。要するに転校してぜんぜん違うところにいったら、そこでデビューできるという(笑)。

田中:なるほど。

松下:そういうのにワーケーションを使うのもありなんじゃないかなという気はしますけれどね。

田中:たしかにそうですね。冒頭にご紹介した立教経営のBLPという取り組みでも、学部1年生と2年生で授業に対する関わり方やチームでの振る舞い方ってぜんぜん変わるんですよね。

2年生だとすでに1年間の授業経験があり、そこで立教経営内での自分のキャラクターが出来上がってるんです。周りからの目に敏感な学生ほど、一度出来上がったキャラに忠実に行動しようとします。これでは、新しいチャレンジはなかなかできません。だから2年生に対して僕がよく言うのは、「キャラ変しろ」と(笑)。

(一同笑)

上田:おもしろいね。キャラ変ね。

田中:はい、とにかくキャラを変えてみようよと。でも、なかなかできないんですよね。「いやぁ、昔の自分を知ってる人から見たら、なんか今の自分ってすごく違和感あると思われそうで嫌なんです」みたいな。必ずしもそのキャラに、自分は納得してないんですよ。後ろめたさを感じているんですけど、1回できたキャラなんで守らないとって必死なんです。

上田先生、どうですか?(笑)。

内面が難しくても、外見の小さな「キャラ変」はできる

上田:おもしろいですよ、キャラ変。なにか新しいことをやりたいなと思っているんですよね。どっから入ればいいんだろう、やっぱり形から入るといいかなとか。マインドセットのことをやっているとわかりますが、そういうものはすぐに変えることができないんです。

だけど、例えばメガネを変えるとか、ヘアスタイルを変えるとか。この間テレビで美容師さんがおっしゃっていたんですが、ヘアスタイルはすぐ変えられるじゃないですか。ぱっと変えてみる。長いヘアの人が急に短くしたら、もう明日からそれこそ「キャラ変」が瞬時にできる。

なかなか内面的なキャラを変えるのは難しいけど、ちょっとスタイルを変えてみるところからだったら、案外「長い髪が似合ってたけど、短いのもいいよね」とか、「メガネってかけたことなかったけど、かけてみるとなんかいいよね」とかね。

今まで思いついても、なかなかやってみようというところまでいかなかったんだけど、思い切って美容院に行ってみたり、眼鏡屋さん行ってサングラスを買ってみたりとか。私たちも、服を変えて気分を変えようとするじゃないですか。「フレッシュな感じがするかな」と思って新しいTシャツを着て臨むとか。そんなこともありましたね。

松下:SF的な感じですけど、例えばプチ整形とか整形にちょっと近いなと思っていて。遠くない将来に、例えばサプリメントを飲んだらちょっと強気になるとか、キャラ変できるような調整や整形が出てくるんじゃないかなと思っているんです。

「キャラ変できる薬」「キャラ変サプリメント」みたいに、プラシーボ効果(暗示作用)でもいいと思っていて(笑)。

田中:飲んだ瞬間に「変わった気がする」みたいなね。

松下:遺伝子とか生理的に介入するってSF的ですけど、ありえない話ではないですよね。

上田:僕は本当は、「ビタミンP」とか作りたかったんですよ。ちょっと今日は憂鬱だから、ビタミンPを飲んで元気になろうとか(笑)。実際にビタミンPが売ってるわけじゃないんですけど、たぶん気分的にはそんなことをやっているんですよね。

司会者1:すいません。

上田:はい。そろそろですね。

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