吸血するのは「メスの蚊」のみ

マイケル・アランダ氏:蚊について一番よく知られているのは「血を吸うこと」でしょう。2番目に知られているのは、デング熱、マラリア、ジカ熱、ウェストナイル脳症などの感染症を媒介することです。

こうしたことを行う犯人は、すべてメスの蚊です。オスの蚊は血を吸いませんが、メスは卵を産むために、特に栄養分に富む血液を摂取するのです。

しかし、血を吸う能力があるにも関わらず、実際には吸わない蚊の種があります。その仕組みを知ることで、こうした危険な感染症への対策を講じることができるかもしれません。

そもそも、血を吸わない蚊は珍しくはありません。これらの蚊は、吸血する蚊がさらに進化したものです。ある種の蚊は、吸血する個体群と、そうでない個体群に分かれます。pitcher plant mosquito (正式名称:Wyeomyia smithii、食虫植物の蚊)と呼ばれる蚊です。

「血を吸う蚊・吸わない蚊」の生態の違い

pitcher plant mosquitoのボウフラは、菌や微生物などをエサとして、食虫植物の葉の中で育ち、成虫になると飛び立って産卵場所を探します。

pitcher plant mosquitoのうち、アメリカ合衆国南部に生息する個体群は、高い栄養分を必要とします。幼虫から成虫へ変態する段階では卵巣が未発達なため、卵を産むために、成虫となった後でたくさんの栄養分が要るのです。

最初の産卵は、幼虫期に蓄えた栄養分があるので問題はありませんが、2回目以降の産卵では、栄養分をたくさん摂取する必要が出てきます。そのため、血を吸うようになるのです。

これは、別段珍しいことではありません。しかし不思議なことに、北部に生息する同種の個体群は、吸血することなく何度も卵を産めるのです。

実はこの個体群の卵巣は、ごく初期のライフサイクルから発達を始めます。そのため、後から卵巣の発達に大量の栄養分が必要になることはなく、高い栄養分を含む血を吸う必要もありません。ラボや自然環境下で観察している研究者たちによれば、この個体群に血を吸える環境を与えても、血には見向きもしないというのです。

研究が進めば、「吸血しない蚊」が誕生するかも?

吸血は、どうやら生理的に大きな負担のかかる習性のようです。研究によりますと、吸血の習性を持つ蚊は、吸血できる段階になる前から、体に大きな変化を起こします。血液を摂取して消化する際に出る、有害な副産物を分解する必要があるからです。さらに、エサとなる血を探すための嗅覚受容体も発達させる必要があります。

一方、吸血しない個体群にはこのような発達は不要で、そのための手間も一切必要がありません。少なくとも、仮説ではこのように唱えられています。

このような研究は単に興味深いだけではなく、人間と蚊にまつわるトラブルの解決策も提示しています。pitcher plant mosquitoは、人の危険な感染症を媒介しないだけでなく、蚊の「血への欲求」を抑制する手段を発見する助けになるかもしれません。

蚊に共通する、卵巣の発達に関する遺伝子を特定できれば、遺伝子を組み換えて蚊の吸血を抑制でき、感染症の拡大を抑えることができるようになるかもしれません。このようなアプローチは、害虫駆除のような現行の疾病対策よりも、マイルドで環境を意識したものになるでしょう。

現在、研究者たちはpitcher plant mosquitoの遺伝子の特定をしている段階です。長期的には、蚊の媒介する感染症を抑え込むカギとなるでしょう。