おもちゃとは「人の感情をプラスに動かすプロダクト」

大澤孝氏:最後、極意その3になります。

根幹的なところになるんですけども、よくワークショップで「おもちゃのアイデアを考えてください」って言うんですが「いわゆる『おもちゃ』って結局、何なんですか?」って聞かれます。これって答えがあるようで、なくて。

例えば(スライドを指して)このへんって、誰が見てもおもちゃですよね。「トミカ」とか「人生ゲーム」「リカちゃん」っておもちゃなんですが。さっき言ったので言うと、例えば「じゃあ『人生銀行』っておもちゃなのか?」とか。これ(「∞プチプチ」)っておもちゃなのか? というと、微妙ですよね。

「子どものためのものでもないし、実用品じゃないか」みたいなことがあるので。じゃあ、おもちゃって何なんだろう? みたいなことって、たまに考えます。「夢見工房」もそうですよね。「あれっておもちゃなのかな?」とかいうこともあるんですが。

これ、まったく正解はないんですけども、僕なりに23年間やってて「おもちゃって何か?」って考えたら、これかなと思ってます。実用性だけでは、なにもおもちゃじゃないと思ってます。おもちゃというのは「人の感情をプラスに動かすプロダクト」じゃないかな、と思ってます。

これはどういうことかというと、ただ単に「役に立つ」だけだと、クーラーっていうのは便利ではあるけど、感情は変わらないですよね。涼しくなるだけの話なんですが。なにかしら、自分の気持ちをポジティブなほうに動かしていくようなものは、全部おもちゃかなと。

さっきのでいくと「人生銀行」もそうです、楽しいですね。「∞プチプチ」も癒されたりしますし「夢見工房」もそうだと思います。あれは実用だけじゃなくて、ワクワクする気持ちがあるからこそだし。さっきの首を振るだけの癒しのおもちゃ(「のほほん族」)も「癒し」っていう気持ちを与えています。というふうに、なにかしら気持ちをプラスにしていくようなものがおもちゃじゃないかな、と思います。

玩具業界以外のモノ作りの基本「マイナス→プラス型アプローチ」

これってじつは、けっこう大事なことです。これも今日話したいうちの1つなんですが、普通、企画のワークショップをやると、こういうことを言います。「なにかあなたが困ってることないですか?」。「困ってることはないですか、問題はないですか? あなたの問題を解決しますよ」と、まずは課題を探します。

その課題を解決します、というのが一般的なモノ作りです。間違ってはないと思います。ただ、おもちゃはこうじゃないんですよ。だいたいモノ作りはこうやってやりますし、これを僕は「マイナス→プラス型アプローチ」と呼んでますが、マイナスなものをプラスにしていくっていうのが普通の、おもちゃ業界以外のモノ作りの基本です。ほとんどの人は、これで話をします。

ただ、これの弱点があります。まず「人の悩み」って似たり寄ったりですよね。誰に聞いたってだいたい「お金がない」とか「将来に悩んでます」とか同じようなことを言いますので、似たようなものしかできません。

そもそも今って、すごく世の中が便利になったから、課題ってあんまりないんですよね。「あなたはなにか問題を抱えていますか?」って言っても、問題ない人ってすごく多いんですよ。僕もそんなにないですよね。

なので、この「マイナス→プラス型アプローチ」をすると、大きく外れることはないんですが、結局は似たようなものが作られちゃうっていう、こういう問題点があったりしますね。なので、なかなかユニークな発想って出なかったりします。さっき出たような、例えば「てつぼうくん」ってなんにも解決しないですよね。なんの解決にもなってないんですが(笑)。あれって、課題を見つけて「回したい!」って思う人はいないですから。あのアプローチって、絶対出てこないんですよ。

21世紀の新しいモノ作りの、大きなヒント

なので、僕がいつもワークショップで話してるのは、そうじゃないです。「なにもないゼロのところから、楽しい気持ちを生み出すようなもの」っていうことを考えていくアプローチも世の中にはありますよ、と。これを僕は「ゼロ→イチ型アプローチ」と呼んでます。「マイナスをプラスに」ではなくて「ゼロをイチに」するようなアプローチ。つまり「人にプラスの感情を生み出すようなアプローチ」っていうモノ作りの仕方が、もう1つの新しいモノ作りだと思ってますし、これがたぶん今後の21世紀の新しいモノ作りの、大きなヒントになるんじゃないかなと思っています。

このヒントを使ってやると、常識を超えたようなアイデアが生まれてくる可能性があります。普通に課題解決型には出てこないようなアイデアが出てくる可能性がありますが、最初の例であったように、まったく刺さらない可能性もあります。これって本当、なんのニーズもないですから。大コケする可能性があります。

さっきの方法(「マイナス→プラス型アプローチ」)だと、大コケはしないです。なにやっても無難に当たりますが、僕の例の10個として出した商品、実はほとんどが大当たりか大外れかどっちかなんですけど(笑)。(「ゼロ→イチ型アプローチ」には)そういう可能性もある、というリスクはあります。

さらに、おもちゃというのはプラスの感情に動かすと言いましたが、プラスの感情のおもちゃはだいたいおもしろいんですけど、おもしろいだけでは(ない)。この「ベイブレード」とカードゲームのおもしろさって、けっこう違って。動的なおもしろさと静的なおもしろさみたいなもので。ポジティブな感情、おもしろさだけでいっても、けっこう動的・静的で違ったりします。

人間が持っている、6個のポジティブな感情

ということで、さっきのポジティブな感情っていうのをいろいろ整理すると、だいたい6個ぐらいにまとまると思ってます。「安心」「驚き」「興奮」「好き」「感動」「喜び」。これがだいたい、人間のポジティブな感情の6個に分かれるんじゃないかな、と思ってます。

これは別に学術的なものじゃなくて、僕がいろいろワークショップで話している中で、だいたいまとめているものなんですが。おおよそ人間には、この6個のポジティブな感情があると思ってます。で、この6個の感情を人に与えるようなことを考えれば、なにかしらすばらしいアイデアが出てくるんじゃないかな? と思います。

これ全部は書けないので、なんとなく聞いてください。「喜び」だけでいっても(スライドを指して)これだけ出てきます。例えば、映画で例えましょう。「喜び」で「映画」っていうと、コメディ映画なんかそうですよね。明るい気持ちになる、楽しい、笑える、みたいな感じて心地いい。ワクワクするようなコメディ映画みたいなのは、ここに入ると思います。

で、映画とか漫画とかって、おもちゃとけっこう近いと思うんです。このへんってなんの課題の解決にもなってないですが、映画になんにもない気持ちで行くと、最後になんらかの感情が与えられますよね。なのでおもちゃとすごく近いような、そんなのがコメディ映画です。

次は「好き」ですね。「好き」っていうのもポジティブな感情だと思います。恋愛的なのもそうだし、もっと「かわいい」とか「溺愛する」とか「ときめく」なんかもそうです。映画だと恋愛映画なんか特に、この感じに入ると思うんですけどね。こういうのもなにも(問題解決の)ニーズではないんですけども、すごく大事な感情じゃないかなと思います。なので、この「好き」をなにかしら与えるようなものも、ポジティブな感情になると思います。

「興奮」もありますね。興奮するようなもの。これも「胸がいっぱいになる」とか「熱気あふれる」とか「ワクワク・ドキドキする」。映画で言うとジャッキー・チェンの映画とか、アクション映画ですかね。アクション映画みたいなものがここに入ってくると思いますが『スパイダーマン』なんかもそうだと思いますけど、そういう映画は、すごく人を興奮させるようなすばらしいものだと思います。

「感動」もそうですね。「ジーンとする」とか。おもちゃで感動するってあんまりないんですけど、映画だったらたくさんありますよね。感動する映画ってものも、1つの大きなジャンルになると思います。これも本当に、1つの大きなポジティブな気持ちになると思いますし、大きなチャンスだと思います。

「驚き」。「びっくりする」「ドキドキする」「呼吸が狂うほどびっくりする」「絶句する」「恐怖」とかね。サスペンス映画とかホラー映画とか、これはちょっとネガティブに見えるかもしれませんが、いい意味でのドキドキですかね。お化け屋敷なんかもそうだと思うんですが、こういったものもそうですし、おもちゃで言うと、びっくり箱なんかはそうかもしれませんね。こんなようなものも、1つのポジティブだと思います。

「安心」するもの。これも1個のチャンスじゃないですかね。映画で言ったら何でしょうね。ヒーリングとか、大自然モノとかかもしれませんが。安心する気持ちになる、優しい気持ちになるようなものも、1つのジャンルだと思います。

というので、たぶん今みたいに、なにかしらの感情をプラスに動かすようなものを考えていけば、なかなか「人の課題解決・ニーズ」じゃないような、新しいアイデアが出てくるんじゃないかと思いますので。さっきの6個の感情を動かすようなアイデアを考えるっていうアプローチは、ぜひやっていただきたいと思います。

ポジティブ感情を使うようなことを考える、ワークショップ

最後に、これを使ったワークショップをよくやっているんですが、今回はワークショップじゃないので、概略だけ話します。ふだん「じゃあ、どうやってアイデア出すのよ?」っていうワークショップで、どんなことをやってるか紹介したいと思います。

ふだん僕は、さっきの「ポジティブ感情を使うようなことを考えましょう」っていうワークショップをやってます。やり方は何個かのプロセスがあって、最初はまずペルソナから入ります。

これはだいたい、写真をみんなに渡して、その写真からペルソナを考えさせたりしますが。なんでもいいです。勝手に写真を渡すので「どんな名前?」「どんな性格?」みたいなので6人ぐらいに渡します。で、だいたいその6人ぐらいのメンバーの中で、ペルソナを頭の中で固めます。これはだいたい共同作業です。

このあとの段階が重要なんですが「共感マップ」というのを作ります。そのペルソナがどんな環境を持っているか? を想像する、というテーマになってまして。そのペルソナが「見ていること」「聞いていること」「考えていること」「言っていること」「痛みを与えるもの」「得られるもの」を想像します。架空の人間なのでわからないんですが、だいたい(スライドを指して)こんな感じで付箋を付けます。

さっき作ったペルソナがふだん「どんなこと考えてるの?」とか「どんなものを見てるの?」「言ってるの? 聞いてるの?」みたいなことを考えたりとか。「つらいことって何か? 得られるものって何か?」というのを考えていって、まとめていくことをやります。機会があったらこのへんの部分もみなさんと一緒にやりたいと思ってますが、ちょっと今日はこんなのやってるっていうのを、なんとなく覚えておいてください。

ここまではよくある手法なんですが、ここから先は僕のオリジナルで「エモーションマップ」というのを作ります。今までのヒントをもとに、さっきの6個の感情ですね。「安心」「驚き」「興奮」「好き」「感動」「喜び」。この6個の感情を、さっきのペルソナがどういう時に感じるか、ということを考えてもらいます。

例えばさっきの女性が「安心するのはどんなシチュエーション? 驚くのはどんなシチュエーション? 興奮するのはどんなシチュエーション?」……みたいなことを考えていきます。で、このあとにそれを満たすようなアイデアを考えていくと、ふだんの課題解決から出てこないようなアイデアが出てきます。

最後ですね。本当に最後の最後ですが、最後のアイデア出しに僕がよくやるのは、この「Before-After(B-A)マップ」というのを作ってもらったりします。これだけで3時間ぐらいのお話になるので、今日は本当に概略だけになっちゃって申し訳ないんですが。

こんな感じのことをよくやってます。絵で描かせたりするんですけども、今日もTwitterに書いたんですけど、絵を描くとすごくイメージが伝わりやすいんですよね。(スライドを指して)こっち(Before)がゼロの状態ですね。それがこんなふうに(After)ポジティブになってるよ、というのを絵で描きます。「この人がふだん感じてるのはこういうことで、こういうのがあるとすごくその人がワクワクする」みたいな感じですね。

これは飲食店ですね。飲食店でいろんな所に行ってるんだけど「好みの店が見つからないなっていう時に、すぐ見つかるようなサービスがあると楽しい」っていうことを、ちょっと楽しくなってる絵を描いて想像しましょう、みたいなテーマになっています。

真ん中に線を引いて「Before」と「After」と書いて、最初がゼロの状態ですね。困ってるように描いてますけど、これ、別に困ってるということじゃないです。その人がふだん感じてることですね。この人(Before)がこうなる(After)っていうことをイメージしてもらって、こうなる(After)にはどうすればいいかな? っていうのを想像していくことで、先ほどの「ゼロからポジティブになっている」ということのアイデアを考えていくことをやっています。

で、セリフで書きます。この人がふだん感じてること。「なかなかいい店ないな」っていうこと(Beforeでは)を感じてる。で、こっち(After)は「自分好みの店がすぐ見つかって満足」と、喜んでいる状態であるというふうに、フキダシにセリフを書きます。

そのあとに「じゃあ、今どういう状況か?」っていうのを想像しましょう。なかなか自分の気に入る店がないっていうことで、ふだんこの人はどうやって店を探しているのか? いろんなお店に行くんだけど、例えば「ぐるなび」とか「食べログ」を見て行ったりとか、足で稼いでたりとか、友だちから聞いたりしているけど「なかなか自分の味覚と合った所がないよね……」と思ってるとしましょう。

それに対して、喜んでる時どうなるか? っていうこと考えますね。これで言うと例えば「自分と味覚が似たような人をマッチングしていって、その人の好きな店を紹介するようなサービスを作る」と。で、この類似をAIで作っていってマッチングするような。要は「自分の評価した店に同じような評価をしてる人を探していって、その人の舌に合った店を探す」みたいなサービスがあったらどうか? というのを想像していくということです。

これは例えばの例なんですけど、こんなようなことをやっていくと、先ほどの「ゼロ→イチ型」のアプローチを考えていくヒントになるということで、よくワークショップの中でやらせていただいてますので。機会があったら、またやっていきたいと思います。

「ゼロをイチに、もう1歩楽しくすることで考えていく」という発想

ということで、いよいよまとめに入りますが。極意その3が「マイナス→プラスだけではなくて、ゼロをイチに、もう1歩楽しくすることで考えていく」という発想の仕方を、ぜひ覚えてください。

二部をまとめますと、1つ目が「とにかくたくさんのアイデアを出しましょう」。まずここから始まります。2つ目は「観察がすごく大事です」と。相手をよく見る。どんなテーマかによるんですけど、どんな仕事、どんなことをやっていたとしても、まずは観察をしましょう。なんにもしゃべりかけないで見る、そこからアイデアを考えるのが大事ですよ、ということです。

最後は「課題、課題……」って見ていくと限界があるので。そうじゃなくて「その人をもっとワクワクさせるにはどうすればいいか? もっと楽しくさせるにはどうすればいいか? を考えていきましょう」ということになります。

ということで、これでもう全部話し終えて。ご清聴ありがとうございました、というかたちになるんですが(笑)。いかがでしたでしょうかね。こういうかたちで、前半と後半に分けて話させていただきました。ご清聴どうもありがとうございました。

(会場拍手)

今思ってることから観察してやるのが“玩具流”

ということで、もし質問があればなんですけども、ざっくばらんに。あとはもう、雑談コーナーみたいな感じで。なにか飛ばしちゃったところとか、わかんなかったところとかあったら、気軽に質問いただけたらなと思います。なんでもいいんですよ、難しい話じゃなくて。

(会場挙手)

質問者:時代背景と共におもちゃが変遷していったと思うんですけれども「今こういった状況で売れやすい」というのがあって「ミャウエバー」という商品が出ていると。で、これからこの状況が収束されたあとに、どういった状況になってくると予測されるでしょうか?

大澤孝氏:そうですよね、難しいですよね(笑)。それをまさに、今ちょうど話しているところなんですが……我々はどっちかというと本当に、楽しいものを作るから……。なかなか本当に、解決するようなことは我々の力じゃできないんですけども、少しでも今の状況を楽しくできたらいいなとは思っているんですが。逆に私も聞きたいですね。どうなると思います?(笑)。

質問者:抑圧された感じは絶対にあると思うので、そこが爆発するような状況は数年続くのかなっていう気はします。

大澤孝氏:そうですね、確かに。玩具で言うと1つ特徴があるのは、すごくサイクルが速いんですよね。ほかの業界ってたぶん、3年先のものを作ったりしますけど、玩具って半年とか3ヶ月とかで作っちゃったりして。カードゲームとかって、本当に3ヶ月とかで出せちゃうので、わりと未来予測はしてるようでしてないですね。今の状況からアイデアを考えてますかね。正直、先のことを考えさせたらシンクタンクとか、すごいところいっぱいあるので(笑)。そこには敵わないですから。

やっぱり情報は仕入れてますけど、そこよりは今思ってることから観察してやるっていうのが“玩具流”かなと思いますね。ぜんぜんそれがいいことだと思わないです、僕。たまたま玩具だとそうですけど、予測できたらすげぇなと思います(笑)。なのでそのへんは逆に聞きたいですし。もしかしたら、今、Twitterやり始めてますけど、そういうのがヒントになるかなと思っているので。むしろそういうのを集めるための手段として、今後いろいろTwitterを活用していけたらいいかなと思ってます。ぜひそのへん、これからも情報をください。

質問者:ありがとうございました。

大澤孝氏:という感じで、後半はワークショップとかの話をしましたけど、また機会があればぜひ。そのワークショップとかもやってますので、ご参加いただけるとうれしいなと思ってます。今日は本当、来ていただいて感謝ですし、貴重な機会をいただいたサンクチュアリ出版さんには感謝してますので、また機会があったらぜひお声がけいただきたいと思ってます。

では本日は以上になります、どうもありがとうございました。

(会場拍手)