2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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盛田哲平氏(以下、盛田):ありがとうございます。それでは最後になりますが、質疑応答に入らせていただきたいと思います。今、チャット欄にご質問をいただいていますが、僭越ながらこちらで選ばせていただいたものを、代読させていただきます。
それではお一人目。「アイデアに行き詰まった時の打開策として、どんなことをしていますか?」というご質問ですが、高岡さんいかがでしょうか。
高岡浩三氏(以下、高岡):道場でも言ってるんですけど「新しい現実を見るしかない」と。新しい現実というのは、例えば今起こっているコロナみたいなものも、一見すると新しい現実のように思うかもわからないんですけど。この今の状況って、あと1年2年経ったらどうなるか? って、まだわからないじゃないですか。それを僕は「新しい現実」とは、まだ言ってなくて。まぁ10年ぐらいのスパンで、誰が見てももうこれは変わりようのないことを「新しい現実だな」と。
なぜかというと、この新しい現実というものが時代と共にできてくると、必ず副作用的に「新しい現実から来る問題」というのが、必ず出てくるんです。例えば15~20年前から高齢化社会と言われているんだけど、僕が若い時、今から40年前に「老老介護」という言葉はなかったんです。
退職して、自分の親がそんなに長いこと生きているという前提がなかったのでね。ところが親が80~90才まで生きるようになると「退職して自分も年金生活なのに、まだ親の面倒まで見なきゃいけない」とか。「それで経済的に苦しい」とか「肉体的にも大変だ」とか。これって、新しい現実からくる新しい問題じゃないですか。
あるいは、さっきアイデアの中にあったような鳩時計(「OQTA」)じゃないですけれども。僕の世代から、長男が結婚して親と同居しなくなりましたよね。だから今のみなさんの世代から言うと、ありえない話なんですけど。僕らが若い頃のテレビドラマって、ほぼほぼ嫁と姑のドラマですから。それが、新しい現実だと、もうみんなバラバラ。
そうすると、僕もそうなんですけど。年を取った夫婦は、子どもが出ていって残されて。そのうちどっちかが死んで1人になったら、今度はそこで倒れたら誰も助けてくれないんで、そのまま死んでいくという、高齢化社会の新しい問題が出てくる。そうしたら、離れている息子とか娘はちょっと心配だと。
だからああいう、さっき言っていた鳩時計だっけ? スマホと連結したようなものが出てくるし。
高岡:僕も現役時代に「バリスタ」という、ネスカフェのマシンありますよね。あれをIoTでつないで。自分の家と子どもの世帯と親の世帯を、IoTでつないじゃったんですよ。親がボタンを押してコーヒーを飲んだら、その通知がLINEで届くと。そうすると安否確認になるじゃないですか。あるいは、それがメッセージまで送れるみたいに。
そしたら、1ヶ月で30万台ぐらい売れるんですよ。だいたい1人が2台買うんです。親が2台買って子どもに与えるか、子どもが2台買って1台親に与える。そんなふうに、コーヒーの味とかクオリティとかとなんの関係もないんだけど、そういう高齢化社会からくる「新しい問題」を考えようと思ったら、そういうアイデアで実際にコーヒーのマシンがたくさん売れて。結果、うちの商品のネスカフェがめちゃくちゃ売れると。
だから新しい現実というのを見ると、実はそこにイノベーションの種が出てくる。例えば、ずいぶん昔にできあがった車。今、車社会で一番の問題点はなにか? といったら、日本だけでもそうだけども、1万人ぐらいの人が事故で死んでて。その加害者。それから被害者。その家族も入れたら、ものすごい人が不幸になったよね、と。毎年毎年。世界中ならもっとですよ。
僕は自動運転みたいなものがイノベーションになるとは、じつは思っていなくてね。人が運転する車と自動運転車とが同じ道路を走ったら、やっぱり事故は起こる。一番起こらないのは、空飛ぶ車です。
もう今、アメリカでも日本でもスタートアップがやっていますけど。これから本当に「車の次はなにか?」と言われたら、ドローンみたいな空飛ぶ車ですよ。それをIoTとAIでつなげば、100パーセント事故はなくなりますから。それだけのディレギュレーションを日本の政府ができるかどうか? というのはまた別問題としてあるけれどもね。
ほかに例えば「デジタルで便利になった」と。だけどハッカーという問題が出てきて。いまや企業が毎日、ハッカーに重要な会社の情報を盗まれているわけですよね。これ、インターネットが出てくる前はなかったんですよ。だから新しい現実を見ると、必ず新しい問題が出てきて。またそれを解決しようとするところに、新しいイノベーションが出てくる。
ですから、その「行き詰まる」ということは、僕の中ではないんです。その新しい現実を常に見ていって、どんな問題が起こっているのかな? という。これはぜひぜひ、やっていただきたいなと。
盛田:ありがとうございます。大変参考になります。続いてのご質問ですが「ネスレさんは、一消費者として順調に良い商品を作っているように見えますが、先ほどおっしゃっていた『社内で良いと思ったけど売れなかった』失敗例と、その理由を差し支えなければ教えてください」ということです。
高岡:いっぱいあるなぁ。僕が入社して初めて手がけた商品は『ネスカフェアメリカーナ』。これはアメリカンコーヒーですね。でも日本で当時、アメリカンコーヒーってみんな知ってるけど、誰も飲んでなくて。アメリカンって「なんか薄い」っていうイメージがあって。「そんなもの売れるはずないじゃないか」と思ったんですけど、やっぱり1年で終わりましたね。
盛田:なるほど。
高岡:他にも2年か3年でなくなった商品って、いっぱいありますけれど。基本的に、だからもうどうしてかなぁ? と思ってたんですよね。自分もそれから20年くらいたって、そこそこのポジションになってキットカットを任されて。いろんなことをやっていった時に、それから本当にいろんな成功をしていく中で「成功していたのはどうしてかな?」ということを思うと、常にそういうお客さんの問題解決があると。
それまでは本当に、ほぼほぼ全部が失敗ですね。だいたいネスレといえども世界的なヒット商品、自社で作ったヒット商品って、じつは35年前のネスプレッソしかないんです。35年前ですよ。日本でもネスプレッソは今でこそ売れてますけど、35年前からあるんです。
(これが当時は)売れなかった。なぜ売れないかというと、日本の主流はそれまで、ドリップ型のコーヒーメーカーだったんですね。なぜかというと、日本は欧米と違って大家族だったんですよ。さっきも言ったように、長男が親と同居していた。おじいちゃん、おばあちゃんも、孫まで一緒だった。そしたら家族が大きいから、1杯ずつコーヒーを飲まないんですよ。だからコーヒーメーカーというのは、新興国時代の名残なんですね。
それが「新しい現実」で1人2人世帯が増えたわけですよ。おじいちゃん、おばあちゃんも1人2人世帯。子どもも独立して1人2人世帯。今、全世帯数5,500万ぐらいありますけど、そのうちの3分の2は1人2人世帯。そうするとコーヒーって、家族一緒に飲まないです。1杯ずつバラバラ。
そうするとドリップ型のコーヒーメーカーって、1杯あたりの単価は安いけど、じつは不便なんです。比べて、カプセルって高いですよね。ところがカプセルのマシンは、年率20パーセント、二桁成長。ずっと。
一方で、ドリップ型のコーヒー。豆もコーヒーマシンもマイナス成長。それは、新しい現実からくる新しい問題。「コーヒーは、家族でいっぺんに飲まない。1人ずつ飲む」という新しい問題に対応できていないから。それに一番先に目を付けた我々が独り勝ちしたんですよ。
だからそんなふうにすべては、さっき言ったように新しい現実からくる新しい問題を見つけた者が勝っていく。それまでネスレも、ぜんぜんそんなことをやってこなかったので。まぁ、みんなが「いいね」とか、スイスのほうから「これうまくいくよ」とかといったものは、僕の中では100パーセント失敗しています。
だから僕が社長をする前の17~18年、20年近くは右肩下がりです。公表してませんでしたけど。
盛田:ありがとうございます。あと少し時間がありますので、もう1問だけ。「世の中にある商品の中で、良いアイデアだと思ったものは何ですか?」。なかなか抽象的な質問ではありますけど、もしよろしければ高岡さんにお答えいただけますでしょうか。
高岡:最近のもので、やっぱりヒットしているものはみんなそうなんですよね。メルカリなんかいいなと思うし。僕自身は使っていないけど、うちの娘なんか「今着てる服は、ほとんどメルカリ」と言っています。
婦人服って百貨店に行ったら、今でも紳士服の何倍もあるじゃないですか。人口の比率は1対1なのに。あれ、どうしてかわかります? それは「流行り廃りがある」ということです。紳士ものには、ないじゃないですか。
盛田:そうですね。わりと。
高岡:20世紀は、女性はみんな「今年買いました」「流行っているからこれ欲しい」といって買った型が「来年になったら流行が変わっていて、恥ずかしくて着られない」ということがいっぱいあったと。これはタンスに眠るわけですよ。これってもったいなくないですか?
実はこの問題、もうメルカリが解消しちゃったんですよ。
なんというか「欲しい物があったら、もうメルカリでいいんじゃない」と。だから自分が着た物もクリーニングして売って、また中古の物を買って。僕、孫がもう5人いるんだけど孫の服もそうなりますよね。だってもったいなくないですか? 3ヶ月でもう着られなくなるとか。
盛田:確かに。
高岡:それもメルカリでやってる。だからなんでもそうなんですけど、世の中でヒットしているものは全部、すごく合理的な理由があるんですよ。例えばeコマースなんかでも「なんでアリババとAmazon、アメリカと中国なんだ?」っていったら、国土が広くて、品揃えがよくてなんでもあるような店が、日本みたいにその辺にはないんですよ。100キロメートル走らないといけない、みたいなところがいっぱいあるから。
だから広い国で人口密度が低いところで、eコマースは生まれた。
だから今でも、世界のeコマースの売り上げの半分はアメリカと中国なんです。たった2ヶ国です。そんなふうに、これいいなと思うものは、だいたいヒットします。
盛田:(笑)。ありがとうございます。それでは、お時間になりましたので、そろそろ終了とさせていただきます。
最後になりますが、今後もアイデアステーションを盛り上げていきたいと思いますし、また定期的にオンラインセミナーも開催しますので、ぜひご参加・ご登録いただければと思います。
それでは本日はみなさん、どうもありがとうございました。高岡さん、本日はどうもありがとうございました。
高岡:ありがとうございました。
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