“ナンセンスを承知のうえ”での、男女に分けた議論

斉藤知明氏(以下、斉藤):ではQ&Aに移っていきます!。

沢渡あまね氏(以下、沢渡):Q&Aの前に1つよろしいですか? チャット欄に「男性・女性で分けて考えるのは、もう古い」というコメントがいくつかあったんですけども、そのとおりだと思います。私も男性・女性に分けた議論をするのが、本当に嫌で。あのスライドを作るのも断腸の思いだったんですね。

ただ、このウェビナーに参加されるリベラルの人は違うんですけれども、一方でまだ世の中は、霞ヶ関も含めて古い考えの人が多い。そう考えた時に、やっぱり彼ら彼女たちの関心・興味に合わせるためには、1回「男性・女性」という見せ方をして、そこから本質の組織論に展開していくほうが確実に話を聞いてもらえるんです。そのための“敢えて”の戦略的な表現とご理解いただけるとうれしいです。

斉藤:さっさと「古い!」って鼻で笑えるぐらい、変わりたいです(笑)。

沢渡:そうなんですよ。1回、彼ら彼女らの頭とか関心ごとに寄り添って、そこから「そうじゃねえよ!」という論理展開です。「女性の管理職が何パーセント」って目標もね、僕も古いと思うんですけれども。

ただ、言うても組織の関心が「女性活躍推進」だったりしますから。まずはそこに寄り添う。本当にもどかしいですけどもね。書いてて嫌になるんですけどね。

斉藤:あると思いますよ。ブルーカラー、ホワイトカラーみたいな対比もありますし。

沢渡:Hさんもコメントくださっているとおり、一方で女性特有のものもあるので、そこはきちんとやっぱり分けて考える必要はあると思うんですよね。寄り添って考える必要は、お互いある。間違いない。その“ナンセンスを承知のうえ”なんです。もう、もどかしい。

斉藤:いやぁでも、今日は550人ぐらい来ていただいていたので、そういう志を持っていらっしゃるみなさんと集まれたというのは、ありがたいなぁと思います。

ある大手通信機器メーカーの研究部門の話

沢渡:はい! ではQ&Aいきますか。

斉藤:ありがとうございます。そこは僕もすごい気になっていたんで、ご回答いただいてありがとうございました。

斉藤:少しまとめながらお話を伺っていきたいと思うんですが。「本来価値創出を考える際に、多様な価値観が必要ということですか?」というこのスライドが、沢渡さんが一番振りかぶりでお話しいただいたんですけれども。

「本来価値というのは、そもそもどういうものなんだっけ?」「それを創出するために『価値観が必要だ』ということで、理解は合ってますでしょうか?」というご質問が届いております。

沢渡:合ってます。具体的な話をしましょう。私が支援した、ある大手通信機器メーカーの研究部門の話なんですけれども。そこの部長は、こういう悩みを抱えていたんです。

「うちは研究の部門だ。しかしながら研究ができていない」と言うんですよ。なぜですか? って聞いたら「社内説明ばかりに追われていて、研究活動に時間がとれない」と。そうするとなにが起こるかというと、社内で「うちの研究部門には期待できないよ。研究してないからさ」と言われてしまうんです。

その結果、社内から協力が得られない。お客さまの提案にも連れてってもらえない。当然、まともに予算もつけてもらえないという、負のスパイラルに陥っていたんですね。で、この図の右にいくんですけど、研究部員は成長実感を持てないからエンゲージメントを下げて、辞めていくんですよ。あるいは、物言わぬおとなしい人に変わっていくんです。不幸です。当然、いい人材も採用できなくなります。

「営業の本来の価値」って、夜討ち・朝駆け、テレアポすること?

沢渡:だからこの部門長は「まず研究できる部署になる。そのためには、例えば研究する時間を1人あたり週2時間は設けよう」みたいな目標を立てて、そこから業務改善を進めていったんです。でも、業務改善の仕方がわからないもんで、改善のための育成学習にまず投資したのです。その一環で、私も呼ばれました。

そこから時間を作っていって「ではなにを研究するか? AIか」と。AIといった時に「AIについて知ってるやつおる? おらんよね」と。だから外の人材を取り入れてAIの知見を高めていったり、あるいは、AIに関する研究会にお金を出して参加するようにしたり。これを回し始めたら、社内での評価が変わってきた。研究員も「研究員として成長できそうかな」というエンゲージメントを高め、一体感が生まれていったのです。

非常に泥臭い“半径5メートル以内の現場の話”をしましたけれども、そういう機会を作って、議論を進めていくことかなと思います。

だからスライドの中の「営業からインサイドセールス、ブランディング、カスタマーサクセスにアップデートした」という話も「営業の本来の価値ってなんだろう?」って問いなんですよね。営業の本来の価値って、夜討ち・朝駆け、テレアポをすることなのか? って話なんですよ。

沢渡:「新たな顧客を開拓する、新たなファンを生んでいくこと」と考えた時に、やり方を含めて変えていく。マーケティング、ブランディング、インサイドセールス。ここで、「カタカナ用語はわからない」なんて言う部門長クラスは、もう「お前帰れ!」って話です。

それを勉強して「そうか」と。こういうやり方に変わっていったら、男性・女性関係なく価値を発揮できる人が、正しく活躍できるようになる。正しく組織に貢献できる。利益貢献できるようになる。組織もハッピー、個人もハッピーという話です。こういう問いを、まず半径5メートル以内から立ててほしいなと思います。

「自分たちが変わる」「外を入れる」「潰れる」の三択

斉藤:ありがとうございました。「本来価値」。結局、何を生み出しているんだっけ? から、目の前の行動を見返すことができますよね、というのが……。

沢渡:そうすると、今までの人材ではできない可能性がありますね。だからなにをするか? というと、まず育成に投資をするということと、育成に投資しても変わらなければ、もうそれは他の人を入れるしかないですよね。それこそ越境。外の人を採用するでもいいですし、部分的に副業人材を登用するでもいいですし。

答えって「自分たちが変わるか」「外を入れるか」しかないじゃないですか。あるいは「潰れるか」ですよね(笑)。

斉藤:(笑)。それも1つの答えですよね。

沢渡:そこを支援するのが、私は人事部門の役割だと思うんですよ。1つに、ITの投資と環境整備。やっぱりITを使わないと“垣根”って下がらないですから。例えば、育休を終えた時短勤務の人の活躍機会を増やすためには、ITに投資してコミュニケーションをおこなうための垣根を下げる必要がある。副業人材が正しく活用できるようにするためにも、同じことが言えます。

あるいはその地域に答えを持っている人材、能力を持っている人材がいなければ、フルリモートで採用するしかないわけですよね。ここでもやはりITが必要になる。IT投資と環境整備。そして、ITを使って、社内外の人たちと滑らかにつながって仕事をする経験を社員に積んでもらう。

DXは、まず「デジタルエクスペリエンス」

沢渡:私は「DXはまず『デジタルエクスペリエンス』」という話をしているんですけれども。ITを使って、つながる垣根を低くする。その経験のない人たちが「ITを使って、何をどうトランスフォーメーションし得るか?」なんて、想像すら出来る訳がない。まずITに投資し、ITを使って組織の中や外の人たちとつながる経験をする。そのための社員育成だと思って、IT環境に投資するのも大事です。

2つめ。ITとアナログを組み合わせて、正しく成果を出していくためのマネージャーのマインドやスキル育成、担当者のマインドやスキル育成。とにかく育成に投資してください。

3つめが、外を入れる。越境していく機会を作っていく。あるいは日本マイクロソフトさんが取り組まれているように、コラボレーションできる人材を評価する。あるいは、そのために外の人材を入れていくということですね。

4つめが、繰り返しになりますけれども、人事制度の改訂。コラボレーションをする人が正しく評価される。あるいは、チームでパフォーマンスを出せる人が、正しく評価される。あるいは、それらを潰すマネージャーは冷遇する。

「ITわかんねぇ」って言ってる人たちには「ごめんなさい。では、あなたは降格です」ぐらいやってもいい。人事評価も厳しくしていく。その代わり、スキルアップのチャンスは提供する。この両輪を回していくのも、私はこれからの人事部門の大切な役割だと思っています。

斉藤:なるほど。ファシリテーターみたいな役割になるんですかね。

沢渡:そう。私は「ファシリーダー」という言い方を最近しているんですけれども、ファシリテーションする。「メンバーの力を引き出す」「傾聴する」。加えて、「上のビジョンを噛み砕く」など。そういったファシリテーションをしながら、メンバーを1つの方向に、ゴールに向かって率いていく。

ファシリテーター+リーダーの役割が、これからのマネージャーの役割だと思うんですね。「ファシリーダー」という言い方を、私は最近、勝手にしていますけど。