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マーケター えとみほさんに学ぶ、人生を切り開くための「手放す力」(全3記事)

社長→社員への転職で、初めて気づいた“部下の本音” 「給料」「休日の多さ」だけでは満たされなかったもの

『7つの習慣』出版社公式コミュニティ 7SALONが主催する、対話型オープンイベント「7SALONナイト」。今回のゲストは、Microsoft本社勤務、フリーランスのライター、起業などのキャリアを経て、Jリーグ栃木SCのマーケティング戦略部長として活躍する、「えとみほ」こと江藤美帆氏。江藤氏が歩んできた多彩なキャリアから、人生を切り開くための「手放す力」を学びます。本記事では、社員・中間管理職・社長というさまざまなポジションを経て、江藤氏が気づいた、仕事における“本当に大切なポイント”を語っています。

「社員」と「社長」の両方の経験から気がついたこと

西村創一朗氏(以下、西村):実際に社員という雇われる立場になってみて、気づいたこととかありますか? 

江藤美帆氏(以下、江藤):本当にめちゃくちゃありましたね。社員の気持ちとか、自分の中ではわかってるつもりだったんですよ。でもなんて言うんですかね、「いやそうじゃないんだよ」みたいな。社長に対して求めているものは、単純に待遇とかだけではないですし。

社長をやっていた時は、やっぱり「みんないい給料が欲しいだろう」「休みもたくさん欲しいだろう」とか、世間でいろいろ言われているような高待遇の会社を作ろうと思って、がんばっていたんですけど。たぶん、そうじゃないんだなと思って。

実際に社員をやってみて、もちろんお金も休みとかも大事ですけど、それよりも自分の能力をちゃんと正しく発揮して社会に貢献するとか、会社の売り上げに貢献するとか、もっと大きなインパクトのある仕事をするとか。そういったやりがいの部分のほうが、もしかしたら大きいのかなと、その時に思いました。

西村:なるほど、そうだったんですね。それをただ本で読んで頭で理解するのと、実際に自分が雇われる立場を体験して、腹落ちしてちゃんと理解するのとは、ぜんぜん違いますよね。

江藤:そうですね。両方の立場を経験するのは、わりと私はおすすめだなと思います。

中間管理職は、上層部の“代弁者”

西村:さらにその後Googleさんを経て、オプトさんにジョインされて。当初はそこで編集長になるつもりはなかったものの、2人の若手が半年経ってもローンチする気配がないので、ピンチヒッター的に入られたということで。

ある意味、中間管理職として雇われる立場でありながら、マネジメントする立場になるという。中間管理職を経験されて、得られた学びや気付きもありましたか?

江藤:もう、めちゃくちゃありました(笑)。これまた同じ立場の方々がいらっしゃったら、よくわかってもらえると思うんですけど。トップでも部下の一番下でもない真ん中は、違う難しさがあるなと思いましたね。

西村:具体的に、例えば「これが難しかったな」とかありますか?

江藤:一番あったのが、上の人が言っていることに100パーセントアグリーじゃなくても、“代弁者”でないといけない場合がけっこうあって。なるべく解決するようにはするんですが、それでもやっぱり同じ人間じゃないので。

そういう時にどの立場を取ればいいのかとか、けっこう悩みました。基本的には会社の全責任を負うのは社長なので、今はもう「社長の意向を一番尊重する」と割り切っていますが。

西村:そうなんですね。そういう意味ではスナップマートの起業を経て、今は二度目の中間管理職なわけですが、前回とはまた違ったマインドセットで望まれているんですかね?

江藤:マネジメントは……今もずっと苦手で(笑)。

西村:未だにそうなんですね(笑)。

江藤:本当に、未だに得意じゃないんですけど。ただいろんな立場を経験したことで、致命的な失敗はしないでいられている、というくらいですかね(笑)。

西村:そうなんですね。

決定的な変化は「人のせいにしなくなったこと」

西村:一番初めに起業された時はマネジメントに苦労されて、結果、事業を手放すという決断をされた。その後中間管理職を経て、またスナップマートで二度目の起業になると思うんですが。

二度目の起業では「未だにマネジメントが苦手」とおっしゃったものの、一度目の起業と、実際に雇われる立場をいろいろ経験する中で、従業員目線や中間管理職目線を得たことで「前回に比べてだいぶよくできたな」と振り返られていますか?

江藤:そうですね。前と今のけっこう大きな決定的な違いは、人のせいにしなくなったことです(笑)。たぶん1発目の(起業の)時は、本当に「なんで社員はこんなよくわからないことを言うんだ」とか、部下がミスをした時も「なんでこんなあり得ない失敗をするんだろう」ということを思って、腹が立ったりしていたんです。

だけど今はもういろんな立場を経験して、最終的に全部の責任はトップにあるというのはもちろんそうですし、マネジメントしている自分に(責任が)あると考えているので。“失敗をしない仕組み”を作れなかった自分がよくないんだな、とか。基本的には今はもう、起こったことは全部自分のせいだと、素直に考えられるようになりましたよ。

西村:「なんでわかってくれないの」「なんでこんなこともできないんだ」ではなく、「できないのは自分の伝え方が悪いのかもしれない」という、すべて自責というか。

江藤:そうですね。

西村:自分にベクトルを向けて考えられるようになった、ということなんですかね。

江藤:そうですね。でも実はそっちのほうが、圧倒的に気持ちも楽なんですよね。コントロールできないものに対して憤っていても、言っても人は変わらないし。「だったらこっちの中で変えられるものを探して変えていこう」「改善していこう」というほうが、精神的にもやっぱり楽です。

西村:まさに7つの習慣でいう、第5の習慣です。「まず理解に徹し、そして理解される」という言葉がありますが、(相手に)理解してもらうことは自分ではコントロールできないことだから、「なんで理解してくれないんだ」「理解して! 理解して!」となると、苦しくなってしまう。

けれども、まず自分から理解に徹することは、自分でコントロールできることなので、一周回って楽になるところはあるかもしれないですね。いやぁ、すばらしいですね。理解に徹することの大事さは、実際に従業員目線を経験したからこそ、できることだと思うので。

今の自分を形成したのは、幼い頃の「母の言葉」

西村:改めてそうやって、一旦ゼロになれる。ずっと起業家であり続けたら、もしかしたらそういうマインドを一生得られないまま、今に至っているかもしれないので。それを経験できたのはすごいなと思うんですが、だからこそ改めて思うのが、えとみほさんの「ゼロになれる力」というか。

スナップマートを起業されて、その事業がピクスタさんに譲渡されて、いわゆるシリアルアントレプレナー(連続起業家)みたいな感じで、また起業されたり。あるいはどこかの顧問をやったりとか。

ある種、“わらしべ長者の終着地点”みたいな感じで(キャリアを)上がってしまう人が多い中、(自分のキャリアを)手放して、まったく違う畑で雇われる働き方をしている。今は栃木SCのマーケティング戦略部長としてお仕事されていらっしゃると思うんですが。

なぜえとみほさんは、そうも簡単に執着せずに手放して、ゼロになることができるのか。これを最後にお聞きして締めくくっていきたいなと思うんですが、いかがでしょうか?

江藤:これ、なんでですかね(笑)。本人はなかなか理解していないですけど。「好奇心」というか、迷ったらおもしろそうなほうを選ぶのは、自分の中でずっと意識してやっています。あとは基本的に、自分がすごく大事だと思っているものって、目に見えるものや財産とかじゃないんですよ。

小さい時に自分の母親が言ってくれたことが、たぶん未だに私の中の価値観を形成していると思うんです。私が小学生の時に、ものをなくしちゃったか落としちゃったかで、すごく泣いて。わーって泣いていたら、母親が「例えば火事とかになったとしても、なくならないものが本当に大事なものなんだ」みたいなことを言ったんですよね。

西村:めちゃくちゃ深いことを言いますね(笑)。子どもに理解できるのかって。

江藤:そうですよね(笑)。その時になんでか知らないけど「あ、なるほど」と思って。それからずっと、自分がお金を投資して得るものは「もの」ではなくて、「自分の身に付くもの」や「自分の中に残るもの」というところに、ずっとリソースを特化してきたというのがあります。

肩書きや今の貯金や年収とか、あまりそういうものを自分の中で重要視していなくて。大事なのは、火事でもなくならない、いろんな経験や知識とかを自分の中にどんどん蓄積していくことだと思っているので。

年収が下がっても、転職を決めた理由

江藤:サッカー業界はまったくの素人でしたが、そういう意味では栃木SCに来たのも、少なくとも自分の中にまったく違う業種で新しい経験が蓄積されるので。たぶん年収は下がるかもしれないけど、「自分にとって損にはならないだろうな」と思って転職しました。基本的に、ずっとそんな感じで来ています。

西村:いやぁ、おもしろいですね。小さい頃にお母さんからいただいた言葉が、その後の人生の道標になっている。肩書きや資産やお金とか、そういう目に見える物質的なもの以上に、ある種の“無形資産”と言ったらあれですが。

自分の中で蓄積されていく経験資産みたいなものがあれば、何回リセットしたって生きていけるし、人生を楽しめると思っていらっしゃるということなんですかね。

江藤:そうですね。最後はみんな死んじゃうので(笑)。お金を持って死ねないと思いますし、死んじゃったらどうせ終わりなので。だったらこの人生をフルフルで楽しめればいいなと思って生きています。

西村:そうなんですね。えとみほさんの哲学や思想が垣間見れて、僕自身もさっきの言葉をメモろうと思ったぐらいなんですけど、今日みなさん本当一番の持ち帰りたい言葉かもしれないですね。

異業種への転職で感じたやりがい

西村:ちなみに、いろんなところでえとみほさんが「私、飽きっぽいんですよ」「飽きたら遠慮なく手放せるんです」ということをおっしゃっていたのが、すごく印象的です。今、栃木SCに来られてちょうど3年ぐらいになられるんですかね。

江藤:そうですね。

西村:今の仕事は、3年経ってもぜんぜん飽きないですか?

江藤:そうですね(笑)。いろんなことに慣れたは慣れたと思います。慣れましたけど、飽きたとはまだ思えないですね。まだまだたくさん大変なことがあるので。

西村:そうですよね。「今はここを目指してます」みたいなことってあるんですか? 今、何に一番ワクワクされているのかなと思って。

江藤:栃木SCのお客さん、ファン、サポーターを増やすことが、私の一番のミッションです。やっぱり今はコロナで、大々的に活動したりとか、自分たちができないこととかも制限があったりはするんですけれども。一方で、例えばサッカークラブってすごくアナログな世界で。

スクールの申し込みとか、FAXで送られてくるようなところだったんですけど(笑)。今のコロナ禍によって、みなさん周りの方々のITリテラシーがすごく高まっていて。いろんなものを「じゃあこれを全部スマホでやりましょう」「チケットの発券もスマホでやりましょう」といったようなことが、できるようになっています。

今、かなり劇的にDXが進められるんですよね。わりと自分の得意領域というところもあって、今はそれをガツガツ進めるのがすごく楽しいなと思ってやっています。

西村:これまでは本当に「暖簾に腕押し」というか、いくら「やろうやろう」と言ってもなかなか進まなかったところが、一気に進むようになったのは気持ちいいですね。

江藤:本当にそうですね。

西村:ありがとうございます。栃木SCに参画されてからの3年間のお話とか、もっと時を巻き戻して「禁煙セラピー」の版権を買いに行った時の話とか(笑)。もっともっとお聞きしたいことがいっぱいあるんですが、そろそろお時間が迫ってきました。えとみほさん、ありがとうございました。

江藤:ありがとうございました。

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