ゴリラ研究の第一人者・山極寿一氏

有冬典子氏(以下、有冬):今日の進行を務めさせていただきます、有冬と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

スタート前に1つだけお詫びがあります。昨日の夜からどうもWi-Fiの調子が悪くて、途切れてしまったり、いきなり電源が落ちたりする現象に見舞われております。万一、私が復活しなかった場合を踏まえまして、今回共催で企画協力いただいた、株式会社eumoの岩波さんに急遽バトンタッチするかもしれないです(笑)。

岩波さんは、私以上に発達理論やリーダーシップに関して知識も豊富な方なので、私の代わりというのは申し訳ないぐらいなんですが、もし私が沈没したらバトンタッチすることになると思います(笑)。その点、ご了承いただければと思います。

岩波直樹氏(以下、岩波):みなさん、よろしくお願いします。ありのりさん(有冬氏の愛称)が落ちた時だけ、私がお話しします。それまでは我慢します(笑)。

(一同笑)

岩波:落ちないことを願っていますので、よろしくお願いします。

有冬:本当にありがとうございます。さっそくなんですが、山極先生のご紹介と駒野さんと私の自己紹介。そして、万一のための岩波さんの自己紹介をしていただきます(笑)。その後、私たちから山極先生のインタビューに入らせていただこうと思います。

ではさっそくですが、山極先生のご紹介です。山極先生は昭和27年東京生まれで、京都大学および大学院で霊長類学を学ばれて、研究者としてアフリカのジャングルなどの野外で、主にゴリラを研究されていました。コロナに見舞われてアフリカに行けなくなって、山極先生は残念がっていらっしゃるんじゃないかなと思うんですけれども。

山極寿一氏(以下、山極):おっしゃるとおりです。

有冬:ですよね。日本から出られないって、もう本当にこんなに苦しいことなのかと、私も思っております。

そして山極先生が京都大学総長に就任の際に、山極先生を慕うすごく多くの研究者の方が「山極先生が研究の第一線から離れると、日本の霊長類学の研究が停滞してしまう」ということで、多くの反対の声が上がったぐらい、余人をもって代えがたい存在の先生でいらっしゃいます。

先日、京都大学をご退官されまして、今は総合地球環境学研究所所長にご就任されていらっしゃいます。

現代社会がどうなっているかを「ゴリラから学ぶ」

有冬:山極先生曰く、凶暴なイメージがあるゴリラなんですが、実は平和主義で上品な生き物なんですよね。その点もすごく興味深いと思います。「もしかしたら、人間よりずっと賢いんじゃないか」なんてこともおっしゃっていました。

なので、これからの時代のリーダーシップについて、そんなゴリラから学ぶことはとても多いんじゃないかなと思って、今日はお話を伺うことを大変楽しみにしております。では駒野先生、お願いします。

駒野宏人氏(以下、駒野):今日はどうもありがとうございます。よろしくお願いします。私自身は認知症の研究が専門で、今は北大(北海道大学)の大学院で、客員教授として研究を進めています。

だけど研究分野はざっくり言うと、生命科学・生物学の分野なんですよ。その研究をしていると、生物から学ぶことってすごく多いんです。

昔は「薬を作る」「資源のために」という研究だったんですが、よくよくわかってくると、生き方や人間のあり方を非常に振り返らせる。「こうあったほうがいい」ということを考えさせるような、すごくおもしろいことがいっぱいあります。

そういった矢先に、実は有冬さんがFacebookで、山極先生の「サルとゴリラのリーダーに違いについて」を書いていて。これを読んで、「これおもしろい!」と言ったのがきっかけです。

ネットで山極先生が「今の社会がどうなっているのかを、ゴリラから学ぶ」というメッセージを発しているのも見て、ぜひ話を伺いたいなと思って今日を迎えたわけです。本当に今日は楽しみにしていますので、どうぞよろしくお願いいたします。

“人間性を失いつつある社会”の中での、未来への展望

有冬:よろしくお願いします。じゃあ、ピンチヒッターになるかもしれない岩波さん、お願いします。

岩波:みなさんこんにちは。岩波と申します。eumoでは「共感資本社会」を掲げていて、新しい社会をどう創造していくのかという活動をしています。今日もeumo経由(でイベント視聴)の方もいらっしゃると思います。

GIFTというところでは、大企業の方々と一緒に、新しいこれからの時代の人と組織がどうあるべきかというところで、一緒に活動していただいています。今日はGIFT経由で来た方もいらっしゃると思います(笑)。

簡単に言うと、人間が人間性を失いつつあるこの社会の中で、次の社会をどう一緒に創造していくのか。自分のフィールドの中で、なにかできることを一緒にやっていきましょう、という活動しております。

私も山極先生の『ゴリラからの警告』という本を読ませていただいて、共感やユーモアとか、ゴリラに学ぶことがすごくあるんじゃないかなと思いまして。今日のイベントを、私も後ろで一緒に企画させていただいたんですが、もしものために一応、自己紹介だけさせていただきました(笑)。みなさま、どうぞよろしくお願いいたします。

有冬:よろしくお願いします。最後に私なんですが、株式会社Coreleadの有冬典子と申します。(山極氏と)村上春樹さんとのラジオを聴いて、リーダーシップ育成などをしている関係から「これはぜひお話を伺いたい」ということで、今回の企画につながったわけなんです。

でも、どうせ後半でいろいろしゃべりたくなると思いますので、そんな仕事をしているということだけお伝えしておこうかなと思います(笑)。後半では山極先生のお話を踏まえたうえで、駒野先生と2人でリーダーシップやこれからの生き方について語らせていただければと思っております。

サルは「腕力」、ゴリラは「愛嬌」でリーダーが決まる

有冬:では、山極先生。さっそくなんですけど、私がラジオで一番初めに聞いてハッとしたことなんですが、「サルのリーダーは腕力で勝ち取って、ゴリラのリーダーは仲間からの推薦で決まる」「サルと同じくゴリラのリーダーも腕力が必要だけど、ユーモアや愛嬌がないと女や子どもがついてこない。リーダーとして失脚する」というお話でしたが。

まずは、なぜ(ゴリラが)そんな生態なのか、その辺りからお聞かせいただければと思います。

山極:それは簡単なことで、ゴリラのメスは集団や群れから出ていくことができます。日本ザルの集団は、メスが出ていけないんです。おばあちゃん、お母ちゃん、娘というメスの家系で固まっていて、それは一生涯離れない集団なんです。そこにオスが出たり入ったりするから、オス間の力関係でリーダーが決まっちゃうわけです。

ところがゴリラの群れは「このオスはだめだね」とメスが思ったら、メスはさっさとそのオスを捨てて、他のオスのところに行っちゃうわけですよ。だからオスは、メスに一生懸命気を遣わなくちゃいけない。

ゴリラって、オスがメスの2倍ぐらいの大きさなので、オスは人間よりも力がぜんぜん強いんですよ。だけど下手に力を行使すると、メスに嫌がられてメスが去ってしまう。だから一生懸命気を遣って、みんなの期待するように振る舞う。それがリーダーになっているわけです。

有冬:なるほどね。それだけメスの影響力が強いのは、なにか意味があるんですか?

山極:それは意味があるよ。だって群れを構えるには、メスに来てもらわなくちゃいけないから、オスだけじゃだめなわけです。カッコよくリーダーらしいところを見せなくちゃいけないし、メスに気に入られようと思ったら、子育てをする能力も見せなくちゃいけないわけだよ。

「発情時」と「子育て時」に違いがないのは人間だけ

山極:しかもゴリラの社会は、メスはおっぱいをやっている時だけ子どもと一緒にいるんだけど、乳離れをしたら今度はもう、オスに任せっきりになるんだよね。

有冬:ほう。

山極:しばらくした後は、オスが子育てを引き受ける。だからそういう能力がなければ、メスが去ってしまうわけよ。

有冬:へー! オスに子どもを預けて、メスは何をしているんですか?

山極:メスは勝手にいろいろ歩き回って、ややもすると他のオスの元に走ってしまう。

有冬:そうなんですね(笑)。

山極:子どもを置いてね。だから「お母さん」というのは「子育てをしている時だけ」なんだよね。なぜかというと、人間以外の動物はみんな、発情している時と子育てをしている時はぜんぜん違うんです。

おっぱいをやっている時は、だいたい発情しないんですね。おっぱいをやっていると、プロラクチンというホルモンが出て排卵を抑制するから、発情するにはエストロゲンとプロゲステロンという発情ホルモンを増やさないといけないわけです。エストロゲンが増して排卵がきて、プロゲステロンが増してという、ホルモンの変動があるわけです。

発情はそれに影響されるんですよ。でも、サルや類人サルと同じようにそれは人間にもあるんだけど、人間は発情がわからない。あるいは発情しない。どっちかわからないんだけど、すごく曖昧なので、そこが人間の摩訶不思議なんです。

人間に近い類人サルは、ゴリラもチンパンジーもみんな、メスにもオスにも発情をするのがわかるんです。だからこの時は、メスは“発情メス”になる。でも、子どもが生まれておっぱいをやり始めると発情しないから、お母さんになるんですね。おっぱいをやらなくなると、また“発情メス”になるんです。

有冬:子どもをオスに預けて、また子どもを作りにいったほうが、種の繁栄のためにはいいということですね。

山極:同じオスと一緒に子どもを作り続けるメスもいれば、そのオスを捨てて他のオスのもとへ走るメスもいる、ということですね。

有冬:なるほど。