本の装丁デザインを最初に見たとき、「えっ?」と思った
柳瀬博一氏(以下、柳瀬):この(見つける)話だけであと2時間くらいは軽く消えるんですけど、残り時間がだんだんなくなってきたので、「発表」にいきたいと思います。もう「発表」されているんですけど、本がせっかくあるので、本の話で「発表」を。このかたち、ブックデザインですね。
柿内芳文氏(以下、柿内):はい。
柳瀬:実は、かなり冒険的なデザインだと思うんですけど。
柿内:パンクですよね。
柳瀬:よくOK出しましたね。
柿内:そうですね。古賀さんもよく。
古賀史健氏(以下、古賀):これがね(笑)。
柳瀬:このかたちじゃないですか。最初にデザインが来た時、どう思いました?
柿内:最初はメールで、装幀家の水戸部功さんから。僕と同世代で、僕もずっと存じ上げていて、いつか一度仕事したいなと思っていて。
柳瀬:ブックデザイナーではトップですよね。
柿内:今さら僕が、みたいな感じはありましたが、やはり『取材・執筆・推敲』というタイトルに正式に決まって、もうこれは水戸部さんにお願いしたいと古賀さんと一緒に考えるようになりましたね。
柳瀬:そういう時は、最初から満塁ホームランを打ってもらうために行くわけですよね。
柿内:そうですね。いろいろ打ち合わせをして、締切に案が挙がってくるんですけど、他の本もすべてそうですけど、毎回この本になったかたちで見るわけではないじゃないですか。
柳瀬:本来はブツですからね。
柿内:そうそう。印刷所で刷って、箔も加工も入っているわけです。デザイナーさんの頭の中では、立体的で手触りもある「本」があるんですよね。だけど、メールの添付で画像で来るので、僕らは画像がファーストインプレッションになる。
柳瀬:二次元の。
柿内:そうなんですよ。これが画像で来た時をみなさんも想像してほしいんですけど、今はこれがめちゃくちゃ素晴らしくて、これ以外ないんです。これ以外のかたちが1ミリも想像できないんですけど、ぶっちゃけ話をすると、正直、メール添付で来た時は「え?」って。
(一同笑)
柿内:夜、一人でオフィスにいた時だったと思うんですよ。「おえ?」みたいな。
柳瀬:おえ(笑)。
(一同笑)
デザインのオーダーは「100年後も残る本」
柿内:これ、かなりリアルな話なんですよね。ごまかしてもしょうがないんで。最初、いいのか悪いのかが瞬間的に判断できないですよね。
柳瀬:ああ。
柿内:なぜなら、全く見たことがないから。でも、見たことがないものを見たいんですよ。蔦屋の書店に行ったらこういう感じの本10冊はあるよね、みたいなものが見たいわけではない。そもそも「100年後に残る」というすごく難易度の高いオーダーを出したんですよね。
柳瀬:100年後も残る。
柿内:100年後の人に読まれているかたち。で、今から100年前って何かというと、1920年、21年。
柳瀬:関東大震災の2年前。
柿内:アドルフ・ヒトラーの『我が闘争』とかですよ。
(会場笑)
柳瀬:これを最初見た時は、ぜひみなさん、コピーをして、ペラ1枚で添付してみてください。
古賀:(笑)。
柳瀬:これだけ見ると「これでいいのか」って思うんですよ。
古賀:うん。そうですね(笑)。
装丁そのものが、本の「結論」を表している
柿内:時代を超えて残るものなので、すべての「あざとさ」をすべてとっぱらってやってみると、結果として基本のゴシック書体になりますよね。
柳瀬:そうですね。
柿内:明朝体と、この2つの書体は100年後も絶対にある。
柳瀬:一番シンプルな書体ですよね。これね。
柿内:一番王道の書体の中で、なるべく「あざとさ」は排除して、教科書として手に馴染んで、棚にあっても変に周りを邪魔せずに馴染む。読んで血肉になっていく。何度も何度も読んで格闘する。
何度も言いたいんですけど、何度も何度も読んで、ずっと脇に携える本として、このかたちが理想なんですよ。
古賀:うん。
柿内:馴染むまでに3日かかったんですね。
柳瀬:ああ!
柿内:3日間、僕はずっとこれを膝に抱え、手の中、バッグの中、本屋に持っていって。最初はこのかたちではなくてキンコーズに行ってプリントして切って巻いた、ダミーのものなんですけどね。
ありとあらゆるシチュエーションで、眠い時に見てみたり、起き抜けに見てみたり。そうやっていくと、どんどん馴染んできて、「これだ!」となってきて。そして実際印刷した時に、なるほど水戸部さんの意図していたところは、本当にこの本の結論みたいな装丁だったんだって。
「結論」というのは、ぜひ『取材・執筆・推敲』を最後まで読んでいただきたいんですけど、本を読み終わった後にこの本の装丁を見ると、まさに同じ結論なわけですよ。
柳瀬:このブックデザインそのものが、ある種の結論なわけですね。
古賀:うん。うん。
紙や加工、手触りにもこだわった本のつくり
柳瀬:色も含めて、紙がまたおもしろいですよね。
柿内:そうですね。白ではない。
柳瀬:白じゃない、微妙な青みがかったグレーというか。
柿内:そうですね。紫陽花(あじさい)なんですね。色上質紙の紫陽花という紙なんです。
柳瀬:へえ! 初めて知った。
柿内:僕も最初に造本プランが来た時、「色上質紫陽花」ってなんぞや? という。
柳瀬:かわいい名前ですね。
古賀:(笑)。
柿内:中の黄色い紙も一緒なんですよね。
柳瀬:あ、こちらも。
柿内:色上質紙で、また違う色です。実はこれ、もともとは同じ紙ですね。加工を入れているんでこうなっているだけであって。
柳瀬:ちょっとなめらかな加工が。
柿内:厚さが違うだけであって、実はこれも同じ紙です。
柳瀬:ワークの漫画編も。
柿内:そうです。薄さとかが違うだけで。
柳瀬:はあ! じゃあものすごく紙の情報も絞っているんですね。
柿内:そうですね。やはりおもしろいのは、カバーを取ったところの表紙にも、普通は絶対に入れない加工が入っているんですね。このベルベットPPという。
柳瀬:ベルベットな。
柿内:この気持ちいい。
柳瀬:ナデナデしたいような。
手垢まみれになったクタクタの教科書が、本当に格闘した証
柿内:これまたダイヤモンド社さんには申し訳ないんだけど、汚れがけっこう付く時は付くと思うんです。でもこれがこの本なんですよ。
柳瀬:ちょっと汚してほしい。
柿内:みんなの手垢が付いて、手垢まみれになったのが自分の教科書なんですよ。だって使っていない学校の教科書って、新品同様じゃないですか。
柳瀬:ですねえ。
柿内:でも本当に格闘した教科書は、例えば受験が終わって合格した後って、これが自分の戦ってきた道みたいな感じで、捨てる時ってけっこう勇気いりません?
柳瀬:思い出した。ちゃんと勉強した教科書は、クタクタですよね。時々腹立てて投げたりして。つまんないとここ(角)にパラパラ漫画描いたり。
(一同笑)
柿内:捨てるの難しいと思うんですよ。
柳瀬:教科書のリアリティは、あのクタクタになるまで。
柿内:このままバッグに入れたり、そういうすべてが設計され尽くして、結論としてここまでシンプルに。究極に、極限的にシンプルですよね。最初は拒絶反応が一瞬あるんだけど、シンプル過ぎて過去に見たことがないからビビっただけであって、それが故に馴染んだ時の感動はすごいですね。
編集者として「教科書」というお題をどう実感するか
柳瀬:水戸部さんにどのように。2人で頼んだんですか?
古賀:いやいや。
柿内:僕が行きました。古賀さんはその過程では1回も会っていないですね。
柳瀬:水戸部さんにはどんな本を頼んだんですか? このかたちに至るまでのプレゼンテーションは。
柿内:古賀さんがなぜこれをやっているかという話をずっとしたと思いますね。
柳瀬:むしろ。
柿内:なぜ教科書なのか。なぜ今、古賀さんが教科書を書くのか。それに対して僕はどう思っているのかという話だけですね。
柳瀬:「こうして」とは言わないわけですよね。
柿内:イメージしか伝えないですね。その「100年後の教科書」。水戸部さんにも話したと思うんですけど、僕がずっと話していたのは、「教科書」っていうお題を古賀さんからもらうわけですね。
編集者としてどうあるべきか、どう売るか、どういうふうに編集していくかという基準点を考える時に、この「教科書」という言葉とか、さっき言った「カリキュラム」という言葉をずっと考えていたんです。
古賀さんのこの原稿は、もちろんものすごくコミットするので理解できるんですけど、自分はこの本のターゲットである若手のライターではないから、本当の意味では理解しきれない。理解したフリはしたくないから、じゃあどうすれば本当の意味で「実感」できるのか。考えていくわけですよね。
柳瀬:うん。
人生を救われた教科書『英文解釈教室』
柿内:そこで、自分の人生の中で、似た経験、似た感覚、類似するものはなんだろうなと思った時に、高校生1~2年の時に本当に自分が教科書として読み込んだ本があるんですよ。それを思い出して。
柳瀬:へえ!
柿内:それが、もう亡くなられているんですけど伊藤和夫さんという方の『英文解釈教室』という。
柳瀬:あれですね。駿台講師の方。
柿内:そうです。受験のバイブルです。世代的には僕より上なんですけど。
柳瀬:僕も持っていました。
柿内:あ、本当ですか。学校で英語を受験勉強する時に、なんで知ったかは覚えていないんですけど、受験英語のバイブルらしいと。著者は亡くなっているんだけど、ずっと売れ続けてずっと新装版として出ていたと。
町田の高原書店で手に入れたんですよ。お金ないのでなるべく安く済ませたいじゃないですか。
柳瀬:古本で。
柿内:そう。古本でたまたまあって、ボロボロだったんですけど、新装版じゃなくて旧版だったんです。それを1回読むのに半年以上、半年から1年かかるんですよ。1日2ページくらいしか進まなくて、2ページ分の問題をやるのに2時間くらいかかるんですよね。
柳瀬:けっこうこってりしていますよね。
柿内:超悪文を解読するんですよ。それによって、英文の構文をSVOCで見れるようになるまでトレーニングするという。それを僕、2年間かけて3周やったんですね。それで英語がめちゃめちゃ伸びたんです。学年トップクラスになるくらい。それでもう大学受験はOKだったので、人生を救われた教科書だったんですね。
もう本当にグッチョグチョに汚して、捨てちゃったので原本はなかったんですけど、また買い直して。水戸部さんに『英文解釈教室』を持っていって、水戸部さんにも渡して帰りました。迷惑な話ですよね。
ずっと『英文解釈教室』の話をこうして、「置いて行きます」と言って。
教科書を読んで格闘した先にあるのは「2周目」の道
柳瀬:(笑)。この本の中にあの伊藤さんの名著、『英文解釈教室』が入っている。
柿内:ジャンルはぜんぜん違うんですけど、僕が格闘した気持ちとか、普遍的な教科書であるという感じは一緒だと思うんです。僕にとっての『英文解釈教室』と、読者にとっての、現役の若手ライターがこれを手に取ってやる行為は、まったく同じだと思うんですよね。
柳瀬:3周、4周してほしいわけですね。
柿内:そうです。『英文解釈教室』のあとがきが、これまた素晴らしいんですよ! 2ページぐらいしかないんですけど、すごく時間がかかって問題を解き終わって、最後に「諸君。お疲れさまである」みたいに書いてあるんですね。
「君たちがこれからたどる道は2つある。1つは英文問題の原書にあたる道だ。もう1つは、この本の1ページ目に戻る道だ。つまり、2周目に行け」と。思い出したんです。僕は高校の時、そのままやったんですよね。素直だったんだなと思って。
伊藤さんは、読んで格闘してやっと最後までいったら「もう1周やれ」と書いてるんです。そう書いてあるのでもう1周したら、また「もう1周やれ」と書いてあるんです。もう1周したんです。だから絶対に、みんな騙されたと思って3周やってください。
柳瀬:だそうです。わかりました? これ(『取材・執筆・推敲』)、3周ですよ。
古賀:(笑)。
柳瀬:僕はちなみに、3周じゃなくて2冊。
(一同笑)
柳瀬:ある事情で1冊買って、こうやって付箋をつけて。僕はまだそういう意味でいうと……あ、僕も3周したな。3周じゃなくて、4周したいと思います。
古賀:ありがとうございます。
編集者が本の帯を書くことが、この本にとっての正解だった
柿内:この僕の不遜な帯のコピーより……僕が帯に自分の名前を入れるってたぶん一生に1回だけなんですけど、これは半分、『英文解釈教室』の帯コピーを書いている感覚もあって。
この『取材・執筆・推敲』に対する古賀さんの熱とか思いとかを、本当にリアルにつかまないといけない。そのためには、『英文解釈教室』のことを思い起こして、本当に実感として書いて。
なのでこのコピー、ふかしているように見えるじゃないですか。「この一冊だけでいい。100年後にも残る文章本の決定版を作りました」って。ふかしやがってこの馬鹿野郎みたいな。でもこれ、僕の本音なんですよね。
柳瀬:ここ(帯のコメント)にはわりとメジャーな方を、入れようと思ったら入れられるじゃないですか。
古賀:はいはい。
柳瀬:これは古賀さんも、柿内さんでいこうと。
古賀:そうです。僕が書いている中で、けっこう早い段階で。僕が本をつくる時にいつも考えることなんですけど、さっきの映画のポスターじゃないけど、先に帯を考えるんですよ。帯にこの本の推薦文が入るとして、誰が推薦してくれるんだろうと考えるんですよ。
この人がこういう読者に向けて、こういう言葉で推薦してくれるのが理想かなとかと思ったら、自分の中で1つ、この本が進むべき道が見えてきて、原稿もそこを目指してつくっていけばいいとなって。
でもこの本は、もし帯の推薦文を誰かにお願いするとしたら誰なんだろうと考えて、本当に浮かばなかったんですよね。
柳瀬:ああ。
古賀:作家の方とかライターの方とか、いろんな人たちが候補には挙がるんだけど、なんかちょっと違う気がする。最終的に浮かんだのが、カッキーだったんです。
柳瀬:担当編集者が。
古賀:カッキーにお願いして、カッキーが、カッキーの言葉で、僕はわからないけどこれを自分の言葉で推薦して欲しい。編集者って裏側に回って、自分の名前を出したり、自分の言葉でなにかを言うのは、基本的にしない職業じゃないですか。
柳瀬:そうですね。
古賀:でも、表に出てきて自分の責任の言葉でカッキーが勧める。ある意味、自分の職業人としてのなにかをかけてしゃべってくれる。それがたぶんこの本にとっての一番の正解なんだろうな。俺はカッキーが全力でお勧めするものをつくればいいんだとなって、原稿の進む道が見えた感じだったので。書き始めて1年目くらいの時に、もう依頼していました。
昨日より今日、今日より明日好きになる1冊
柿内:その時僕は、「いやいやいや、勘弁してください」と。
柳瀬:最初はいやいやだったんですか?「おーし!」じゃなかったんですね。
柿内:だけど、やはりだんだんとカバー周りとか考えていって、いろんな可能性を考えていく中で、古賀さんがそれを最初に言ったことを思い出してきて。最初は「いやいや、ちょっとそれはさすがに」みたいな感じだったんですけど、それもありなのかもしれないと思ってきて。他になにか、いわゆるキャッチコピーとか付けても、馴染まないんですよね。
柳瀬:これ(「この一冊だけでいい」というコピー)、どストレートですよね。
柿内:そう。まさに変な「あざとさ」を消して、究極の。今見ていても素晴らしい装丁だなと思って。昨日より今日、今日より明日好きになるみたいな。
柳瀬:どんどん好きになっちゃう。
柿内:化け物みたいな装丁だなと、今改めて思ったんですけど。タイトルが決まる前はいろんなコピーもあったんですけど、タイトルが「取材・執筆・推敲」になって、シンプルじゃないですか。
柳瀬:うん。
古賀:うん。
柿内:装丁もこうなってくる中で、なおのこと、いよいよ帯だと。どうしようかなと思った時に、なにを入れても、すべてが嘘っぽくなっちゃうんですよね。
その時に、古賀さんが言っていたことを思い出して。自分の気持ちに本音があったら、他の人がどう思うか知らないですけど、それだけは自分の中では嘘ではないんです。『英文解釈教室』のことも考えて、僕の中で本当の嘘がないものは、この帯なんですよ。
僕の中では「あざとさ」を消したんですけど、周りから見るとひょっとしたら、あざとく見えるのかもしれない。それは知ったこっちゃないという話です。
編集者が前に出ることは、「悔いなきすごいものを作った」という表明
柳瀬:このように本が「発表」されるわけですね。
柿内:「発表」ですね。
柳瀬:まさに工場長が「いいものつくりました」と言っているわけですよね。
柿内:そうですね。
古賀:そういうことですね。
柿内:でも、それが本筋ですよね。
柳瀬:編集者のポジションからいうと、これができるかどうかって、けっこう自分が試されますよね。
柿内:相当試されますよ。だから最後の最後まで、ここに自分の名前を出すことがいいのかどうか、ギリギリまで悩みましたよ。
柳瀬:ああ。でも古賀さん、編集者の柿内さんが出てくれるということは、もう「悔いなきすごいものをつくったぜ」って言ってくれているわけですよね。
古賀:そうですね。僕としても、彼が嘘をついていないのがわかるので、それだけのものができたんだなという気持ちになりますね。
試行錯誤の中から生まれた、シンプルなタイトル
柳瀬:ありがとうございます。これでプレの部分の「依頼」と「発表」が聞けました。時間もけっこう過ぎちゃったんですけど、質問がいくつか来ているので、ちょっとお答えいただきたいと思います。
まず、本にかかる部分ですね。「古賀さん、コンテンツのタイトルを考える時に、どうやって決めていますか?」
古賀:タイトルは、柿内さんとやる時は彼に任せます。
柳瀬:今回はどうされたんですか?
古賀:これも、彼が。
柳瀬:柿内さんがつくったタイトルなんですか?
柿内:タイトルをつくったというか、そのまんまですけどね(笑)。『取材・執筆・推敲』。
古賀:(笑)。
柳瀬:デザインに負けず劣らず、球が逸れたじゃないですか。
柿内:でも、シンプルなところにたどり着くのって本当に大変で。
柳瀬:その決定前も試行錯誤がありましたか?
柿内:めちゃめちゃあって、古賀さんからも「うーん」という感じで。
古賀:(笑)。
柿内:そういうのはいつもあるので。
柳瀬:せっかくなので、ボツ案を1つ聞かせてください。
柿内:なんだったっけ。「100万人に伝える文章講義」みたいなのがありましたね。古賀さんに見せてないものもたくさんあるんですけど。
柳瀬:(笑)。
タイトルのイメージは「岩波新書みたいな本」
柿内:どれもピンとこなくても時間切れだから、1回見せなきゃ始まらないところがあって。『嫌われる勇気』よりはましかな。『嫌われる勇気』の決定前のタイトルはもっと悲惨だったんで。
柳瀬:なるほど(笑)。
柿内:「無意味な人生に意味を与えよ」って。哲学書っぽい。
柳瀬:でも、最初にそれがあると、「そっちでもいいじゃん」と思っちゃうタイトルってあるじゃないですか。
柿内:ありますよね。最低限は成り立つとは思います。だいたい良いタイトルにたどり着く前には、後から振り返ると「本当、あれにしなきゃよかったな」というところを絶対に通るので。
柳瀬:うーん。
柿内:だからタイトルは、決めるまで半年以上かかっていますね。
柳瀬:古賀さんはこのタイトルがきた時、これだと思ったんですか?
古賀:それしかないと思いましたね。LINEで言われたんですけど、秒で返しました。
柳瀬:あ、LINEで来たんだ。
古賀:はい。
柿内:LINEじゃないと思いますけど……(笑)。
古賀:LINEだったよ。
柿内:あれ、LINEでしたっけ?
古賀:なんかの打ち合わせでダメ出しをして、僕が彼にイメージとして「岩波新書みたいなイメージにしたい」と言ったんですよね。岩波新書に並んでいても不自然じゃないタイトルにしたくて、さっき彼が言った100万人に伝えるどうのこうのとかというのは岩波じゃないよねと。僕はこの本を岩波みたいにしたいんだと話をして、帰り道に彼がLINEでタイトル案を投げてきて。
柿内:でも、けっこうそこからは早かったですね。じゃあLINEだったかもしれないですね。
古賀:LINE、LINE。
柿内:うーん、そうだったっけなあ(笑)。「早めに返さないと」と思ったのかもしれない。
タイトルが決まった瞬間には、目撃者がいた
柳瀬:歩いている時とか、どのシチュエーションで思い浮かんだんですか? 覚えています?
柿内:ああ、それはオフィスで、その瞬間を目撃されていますね。
柳瀬:お!
柿内:固有名詞は出さないですけど、ある他社の編集者が、たまたまオフィスに別の要件でいたので、即プリントアウトして「どう?」って。
(一同笑)
柿内:初めての、何も知らない人にバッと見せて。
柳瀬:おお!
柿内:「いいんじゃないですか」「これでしょう」みたいな感じになった時に、相手が「あ、今、タイトル付けの瞬間を目撃したんだな」みたいな顔になって。
柳瀬:その人は今頃「ああ!」と思っているでしょうね。
柿内:その後会った時に、「やはり、あの時のあれになったんですね」って。
柳瀬:いいですね。誕生の瞬間を目撃された方がいたんですね。