2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
『取材・執筆・推敲』(ダイヤモンド社)刊行記念トークイベント「取材・執筆・推敲、そして「発表」!! ——生きるための教科書『取材・執筆・推敲』を使いこなすために——」(全7記事)
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柳瀬博一氏(以下、柳瀬):それでは、古賀史健さんの新刊、『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』のイベントを始めます。今日お招きしているのは、この本の著者であるライターの古賀史健さん。そして、この本の編集をしました柿内芳文さん。よろしくお願いします。
古賀史健氏(以下、古賀):よろしくお願いします。
柿内芳文氏(以下、柿内):よろしくお願いいたします。
柳瀬:司会進行役は、私、柳瀬博一です。東京工業大学のリベラルアーツ研究教育院でメディア論を教えています。よろしくお願いします。さっそくですが、一番ストレートな質問です。なぜこんな本を2人で作ろうと思ったのか、改めてきっかけを伺いたいです。
古賀:そうですね。7~8年前ぐらいに『嫌われる勇気』という本を出して、たくさんの方に喜んでもらって。その後、「何やるんだろうな」って、ちょっと自分の中で目標を見失ったところがあったんですね。
あの本自体が10年ぐらいかかった企画だったので、自分でその後の目標設定ができなくて。じゃあ今度はこっちかな、あっちかなって、いろんな対象をずっと探してたんですけど、「本をつくるだけではおもしろくないな」というか。
今のこのキャリアで自分がやれることって、別にあるんじゃないかと考えるようになって、行き着いたのが「人を育てる」ことだったんですね。
柳瀬:教育ですね。
古賀:「人を育てる」という時に、学校みたいなものを作ればいいのかなと思ったんですけど。今、いろんなライター向けのスクールとか講座があるじゃないですか。僕もいくつか講義を持ってたんですけど、自分でやりながら「これ、本当に役に立ってるのかな」って、疑問があったんですよ。
柳瀬:実際そういったところで教えたりする中で、どの辺りが一番疑問に思いましたか?
古賀:スクールで言うと、たくさんの先生たちがそれぞれ1コマずつ受け持って、「こんな先生たちからこれだけのことが学べます」と言ってお客さんを集めるんですけど。
その先生たちが何を教えているか、僕ら講師側はわからないんですよ。他の先生が何を教えたのか、僕の後の授業の先生は何を教えるのかって、ぜんぜん共有されていない。カリキュラムがなくて、学校という場が編集されていないんですね。
柳瀬:編集されていない。カリキュラムがない。
古賀:ないところがほとんどで。これは思い出作りとか人脈作りにはなるけど、本当の学びは得られないんじゃないかなと思って。それで、もしカリキュラムを作るとしたら何が必要なんだろうと考えた時に、「教科書だ」という結論に至って、教科書を作りました。
柳瀬:柿内さんは編集者として、古賀さんとこの本を作ったわけですけど、どの段階で今の“古賀構想”に加わったんですか?
柿内:僕は途中からですね。『嫌われる勇気』を世界に向けて売り出してく間じゅう、古賀さんからずっと話は聞いていました。古賀さんがバトンズという会社を作ったことも、みずから教科書を作って次を育てていくと決心したことも、「すばらしいことだな」と。
僕も基本的に、次の世代に向けて出版活動をしている人間なので、次世代のライターはどういう人たちが来るんだろうとか、編集者としてもどうやって育てていけばいいんだろうとか、ずっと考えていて。
柿内:あと、僕が出版社に入った時からの素朴な疑問だったのが、例えば新潮社装幀室とか、講談社で言えば、校閲部門で入社している人間が同期でいるんです。昔から校閲とかデザイン、装丁は社員として入って、ずっと専門スキルをやっていくことになっているけど、ライティングに関してはいないんですよね。
柳瀬:確かに。
柿内:「新潮社ライター室」ってないんです。講談社がライターで人材を募集してないんですよね。基本は社員ではなくフリーの方じゃないですか。
柳瀬:そうですね。
柿内:僕もいろんなライターの方と仕事をしていく中で、もちろん関係性が深まっていく人もたくさんいますけど、いきなり1分の1、一発目の仕事でいい仕事ってなかなかできないじゃないですか。デザイナーさんもそうなんですけど、まずお互いがどういう人間なのか、どういう嗜好性で何を武器としているのかもわかりきらないし。
だけど、ライターさんにお願いする仕事には著者がいて、1分の1でうまくいかないと迷惑がかかりますよね。初めてのライターさんだったんで相性がわからなくて良い仕事ができませんでした、なんてありえないし、著者をライターを試す練習台になんてできないわけですよ。
そういった中で、なんかちょっとうまくかみ合っていないんじゃないかなと、20代の時に素朴な疑問として思ったことはありました。
柳瀬:編集の仕事を始められてわりとすぐですね。
柿内:そうですね。編集者になって、いきなり現場に放り出されて、ライターさんやデザイナーさんと仕事をするわけですけど、そもそも「ライティングってなんだろう」って。先輩たちの仕事を見ると、クレジットに「編集協力」って書いてあるけど。
柳瀬:書いてありますね。
柿内:「編集協力? え、ライティングじゃないの? どういうこと?」みたいな。
柳瀬:あれ、誰が発明したんでしょう。
柿内:この言葉、なんだろうって。
柳瀬:知らない方に申し上げますと、書籍の最後の奥付に「編集協力」という肩書きの人がいたら、その人が本の原稿を書いているんです。
古賀:その人がライターですね。
柿内:ライティングなのに「編集協力」って書いてあって、編集者から見たら「編集は俺じゃん」って思うんですよね。
柳瀬:(笑)。
柿内:「え、俺に協力? された覚えないけど」みたいになるのが、初期の素朴な疑問で。ちょっと話がつながってないかもしれないですけど、なんか変だなぁとか思うところがありました。
古賀:柿内さんが星海社新書のレーベルを立ち上げて、その編集長になった時に、今の疑問を実際に聞いていて。そういえば「外部団体でもいいけど、できれば会社の中にライターのチームを作りたいんだ」という話をしてたね。
柿内:そうですね。古賀さんがリーダーとなって束ねてくれるといいなって、ちょっとよこしまな気持ちで。
古賀:(笑)。
柳瀬:僕はもともと日経BP社という出版社にいて、最初は日経ビジネスの記者ですから、ライターですよね。その後、書籍の編集者。記者時代は、究極のOJTというか、ひたすら書いた原稿をぽいっと捨てられる、ビリビリに破られる。
(一同笑)
柳瀬:あれは教育って言うのかな?(笑)。
古賀:そうですね。わかります。
柳瀬:あの現場で学んだことはいっぱいありましたが、肝心の「コンテンツをつくるところ」そのものには、体系化されたカリキュラムはたしかにありませんでした。
柿内:完全にブラックボックスになってますよね。
柳瀬:ですよね。
古賀:やっぱり言語化が難しいところなんですよね。みんなが言語化してなくって、勘と経験と根性という、3Kでやっているのが実際のところなので。自分でもできちゃってるけど、それを言葉にして後輩たちに伝えるのはなかなかできていないところです。
古賀:ちゃんとした技術の教科書、ルールブックみたいなものが絶対に必要だと思ってたんですよね。90年代の頭に、メジャーリーガーのノーラン・ライアンという人が『ノーラン・ライアンのピッチャーズ・バイブル』という本を出して。
メジャーも日本の野球界も、そこでピッチング理論がガラッと変わったんですよね。桑田真澄さんとか伊良部秀輝さんがライアンのピッチング理論やトレーニング方法を取り入れて、かなり大きく変わりました。
それ以前のピッチング理論って「投げた後は肩を温めろ」という人もいれば、「肩を冷やせ」という人もいるし、本当に勘と経験の世界なんですよ。それをノーラン・ライアンが全部、「俺はこうやっている。なぜならこういう理由があるからだ」と理論立ててくれて。しかもライアンは当時現役だったんですよね。
柳瀬:現役投手でありながら、書いたんですね。
古賀:まぁ晩年ではありましたけど、現役時代に本を書いて。それが僕の読者としての原体験としてあったので、ああいう本を作れれば、今のコンテンツ業界の現状が大きく変わるんじゃないかなという、自分への期待がありました。
柳瀬:今日ご覧になっているみなさんの中には、すでに『取材・執筆・推敲』を買ったり、もう手にされたり、これから届くという人もいます。この本を読むとどうなるかという実例を……。
私と編集者の柿内さんの本を見てください。これ、付箋を貼りすぎて、あんまり付箋の意味がないですよね(笑)。
柿内:僕なんて、もっとですよね。なんか芸術作品みたいになってる(笑)。
柳瀬:芸術作品ですね。
柿内:現代アートですね。
柳瀬:僕のはわりと雑草みたい……。
古賀:(笑)。
柿内:僕のは綺麗に貼りすぎて、逆に嘘っぽくなるパターンですね。
柳瀬:私は芝刈りが必要になっていますけど(笑)。
柳瀬:ただ、一番付箋を貼ったところでもあるんですが、大きく3つの伺いたいことがあります。
まず1つは、この本で書いているポイントの1つで、取材の部分です。取材の部分で書いてある、古賀さんがインタビューする時に気をつけていることの話。例えば、この本に書いてないことをどうやって聞くかの話から広げたいと思うんですけど。改めて古賀さん、あれはどういう意図なんですか。
古賀:そうですね。やっぱりガイダンスのところでちょっと述べていますけど、コンテンツのおもしろさを支える一番大事な要素と言ってもいいのが、「情報の希少性」だと思うんですよね。
柳瀬:珍しい、今までにない情報ということですね。
古賀:ここでしか読めない何かを、どうやってその取材の場で聞き出すのか。そこにどう迫っていくのかを考えるためには、あらかじめ「今まで何が語られたのか」を知っていないと、わかんないんですよ。
柳瀬:なるほど。
古賀:何が書いてあるか、ここまでは書いてあるけど、これは書いてないとか。これはまだ語られていないけど、もしかしたら誰にも聞かれなかったのかもしれないし、あるいは聞かれてもそこは答えてこなかったのかもしれないとか、いろんな推論はあるんですけど。とにかく、今までにまだ語られていない話、聞かれていない話。
情報の柱がいっぱいあったとして、その中にはまだ立っていない柱が絶対あるので。このコンテンツだけの情報の柱が立ったら、それが大黒柱になって建物が成立する。他の建物にもある柱だったら建売住宅になっちゃうから、僕はオリジナルの住宅を作りたいんですよね。
柳瀬:例えば、誰かの本や作品に対するインタビューであっても、それが独立した建物になるという。
古賀:そうです、そうです。
柳瀬:一方で、柿内さん。僕も昔編集者をやっていたから思うんですけど、「この本のインタビューだったら、ここを聞いてよ」って、編集者サイドはあらかじめ思っているところがあったりするじゃないですか。
柿内:はい。
柳瀬:その意味で「裏切るインタビュー」を、編集者としてどう受け止めるんですかね。
柿内:僕も基本は、古賀さんがいま言語化したことにめちゃめちゃアグリー(賛成)です。やっぱりどっかで聞いた話だったり、なんか予想がつく話って、本にする意味あるのかなって。
僕はあまり「企画」というものが好きじゃないんですけど、「企画」って言葉がえぐいんですよ。企(くわだ)て画(えが)くって書くじゃないですか。
柳瀬:やな感じですよね。
柿内:それもまた、大学から出版社に新卒で入った時に思いました。僕はぜんぜん編集者になりたい人間じゃなかったのに、なんとなく就活を行って、面接をハックすることで出版社に潜り込んでしまったんですよね。
最初入った頃は、この業界の人って「みんな企画大好きなんだなぁ」「企画ってそんなにおもしろいのかな」と思って。でも僕は企画に憧れとかなんにもないから、「企画ってそんなに偉いのかなぁ、企画がやりたいんだったら編集者じゃなくてクリエイターになればいいじゃん」ってずっと思っていました。
柳瀬:「作れよ、さっさと」と(笑)。
柿内:編集者に大した企画力なんてないんですよ。だから自分を疑っているというか、自分に企て画く力はないので、どっちかと言うと企画とか取材というのは、著者や才能ある人たちに出会うきっかけにすぎないだけで。
事前に自分が予想してる「これぐらい聞きたいな」というのを(著者は)軽く超えてくる。なんかタケノコみたいな感じです。
柳瀬:意外なところから伸びてくると。
柿内:僕が大好きなのは、よく昔の民家とかで下から床を突き破って、タケノコが生えてきましたみたいな話。あれこそが「才能」だと思うんです。僕はただ“タケノコ”が見たいんですよ。
柳瀬:住んでる人は困るけど。
柿内:いやぁ、別にタケノコがあっても死にはしないですよね。
柳瀬:食べちゃえばいいしね(笑)。
柿内:だから“タケノコ”が見たいのに、ぜんぜん床を突き破ってこないと、僕としてはシーン……さむっ、みたいになっちゃうんですよね。僕は常に“タケノコ”を求めています。床があるから床までしか伸びません! みたいなタケノコは、もうタケノコやめて雑草にでもなればいいんですよ。あれ……なんだっけ? この話(笑)。
柳瀬:ということで、今日はちょっと“タケノコ”が生えるかどうかわからないですけど。“タケノコ”を3本ほど育てたいなと思っています。
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