「変数」が多いリモートワークでは、試行錯誤を繰り返すしかない

斉藤知明氏(以下、斉藤):ここで11時を過ぎましたが、質問にできる限りお答えしたいなと思っておりまして、引き続き、少しQ&Aを続けていければなと思っているんですけれども。

石黒卓弥氏(以下、石黒):すごくたくさんいだたいてますね、うれしい(笑)。

斉藤:そうですね(笑)。つまみながらになってしまって恐縮なんですけれども「リモートワークにおける期待の値調整って、正直、難しくなったと思います」と。対話しづらくなった。リモートワークによって、自律というよりも「期待値を伝える」とか「ネガティブフィードバックをする」といったことが、なかなかしづらくなってきているということなのかなと思うんですけれども。

「リモートワークにおける期待値調整」って、どういうポイントがありますかね。どうやって進めていくといいですかね。

石黒:リモートワーク、めちゃくちゃ難しいですよね、本当。

斉藤:やっぱり難しいですか。

石黒:難しいと思いますね。リモートワークって本当に変数が多いので。答えはないという中で、試行錯誤を繰り返すしかないかなと思います。今日の一貫した「自律」っていう単語に立ち返った時に、じゃあどんなかたちがいいのか? っていうのを、やっぱり会社側じゃなくて個人側の意見をしっかり聞いていくことかなと思うんですよね。

マネージャーは「何が必要?」って聞いちゃいけない?

石黒:これってアレンジメントのパターンが増えるという難しさはありつつも、結局、画面の向こうの生活って、上長は全部見えないわけですよね。例えば私なんかだと「今日は子どもが熱出てます」とか、そういうことは言えたりするわけですけれども、なかなか向こう(メンバーの状況)はわからないので。「どんな働き方だったらやりやすい? パフォーマンス出る中で、こっちが支援できることある?」って、マネージャー側もしくは人事だったら、どんどん聞いていくところかなと。

そこで「何がほしいのか」「何が必要?」って聞いちゃいけないと思っていて。単純に「いい椅子がほしい」とか「通勤費なくなったんで、家のWi-Fiの整備がほしい」じゃなくて。「成果を出すために何が必要?」「それってコストパフォーマンス合いそうかな、じゃあ投資してみる?」。それで「2ヶ月だけやってみる?」とか、期限を切ることとか。

ある程度は限定的なオファーをしつつ、でもやっぱりパフォーマンスを高めてほしいっていうのは、従業員も会社も同じ気持ちだと思うんですね。予算の範囲内でですけど。「何があればもっと成果出るかな?」とか「設備だとか働く時間を変えるとか、提案あったらどんどん出して。全部が通るかわからないけど、いろいろやってみようよ」っていうのは、たぶんお伝えしていくのがいい。で、やっぱり期限を切って。2ヶ月とか3ヶ月とか切って、振り返って「どうだった?」ってやらないと、なんでもかんでもやりっぱなしになるので。

なので基本的には、まずは生活を尊重する。僕がよく採用面接で候補者にお伝えすることがあるんですけど、最初は候補者の生活と健康。2番目は候補者の方の家族とパートナー。3番目が会社です。そこははっきり、僕はいつも言っていて。そのうえで判断してください、っていつもお伝えしていると。

ただその中でパフォーマンスを、当然、発揮してほしいというのは会社としての願いなので。そのためにできることを考えましょうか、と。ただ振り返らないとダメなので、期限を切って試しましょう、って言い方はよくしてますね。

斉藤:まさに自律型人材、自律型組織っていうのにあたって、聞き方ってすっごい大事だなっていうのは、今日の1日、1時間ちょっとを通して改めて感じている次第なんですけども。今のも「どうしたいと思う?」ではなくて、ミッションの実現、ないしは会社の成長、チームの達成のために。自分という個人の枠組みから、1個大きなレイヤーに持っていった時に「目的達成のためにどうすべきだと思う?」って考える習慣がついている状態が、自律に考えられている状態。

一人ひとりが自由気ままに考えているのではなくて、大きな目的に対してどうするべきか? を考えられてる状態というのが、まさに求められるべき自律組織っていうものなのかなと思いましたね。ありがとうございます。

新人からの「社長はミッションとバリュー、どう思いますか?」

斉藤:こんな質問もあります。「多くの会社で、実際にトップのコミットメントでミッション・バリューを設定しているけど、現実は自律的な組織になってなくて悩んでます」と。そうですよね。このギャップってどうやって乗り越えられるんですかね。難しい(笑)。

石黒:これは「明日、明後日に変わるものじゃないが、絶対に努力する」という強い意思を持つしか、まずはないかなと思っていて。

石黒:これ、すごく僕もご質問を受けるんですよ。新しくつくる組織は比較的簡単なんですけども、これまであったもの、つまり、これまでの方への説明責任があったうえで新しいことをやっていく。もしくはリニューアルしなきゃならないので、やっぱり「いったん見直しましょう」というのはすごく大事かなと思うんですよね。それが時代に合ってればいいけども、合ってなかったら変えることを厭わないっていうのを、まずやっていくことと。

それこそ、新入社員とかがニコニコしながら社長に質問したらいいんですよね。「社長、ミッションとバリュー、どう思いますか?」「これって何年間変わってないんですか? 最近を見て変わる必要ってあると思いますか?」って。別に社長を責めてるんじゃなくて、素直に思った疑問点をどんどん当てる、もしくは当てていくような雰囲気・空気感をつくっていけるといいんですよね。

で、やっぱり時間が経てば経つほど、なんとなく「そういうの聞くのって失礼じゃん」とか「時間もったいないじゃん」とかっていう社員が増えるんですけども(笑)。最初は良くも悪くも、外からきたら「これなんでなんですか?」とか聞いていく。やっぱり聞かれたらハッとして、もう1回考え直す機会があったりするわけで。先ほどの私の話じゃないですけども。

「忖度」っていう言葉にすると、ちょっとイヤですけど。「なんとなく気にしちゃう」みたいなやつを「ヒトには配慮しつつ、コトには配慮しない」っていう。コトに関してちゃんとフォーカスするっていうのは、ぜんぜんいいんじゃないかなと思います。「会社良くしたいんですよね。僕、ミッション大好きなんですよ。でもなんかみんな話してないのって、どういうところにあるんですかね」「有志でプロジェクトつくりますか」でもいいと思うんです。

ポイントとなる「いかにキーワードにしていけるか?」

斉藤:「メルカリさんの中でどういうことやってたんですか」みたいなの、前に石黒さんと対談した時にお話しいただいて、お聞きしたことあるなと思うんですけど。(山田)進太郎さんはすごく、全社会の時とかにバリューを口にするんですよね。

石黒:そうなんですよね。

斉藤:「全体としてこういうことがチームとしてあって、こういうチャレンジをしようと思うんだけど、これってうちで言う『Go Bold』だよね」……ってキーワードを出したりだとか。あとはさっきおっしゃっていたように、社内報とか社外のメディアに露出する時に自分のチームの、LayerXさんだと「徳」っていう言葉を使って、ミッションとバリューをベースに話していきましょう、だったりとか。

これがチームの中でも、弊社だと例えば「Dialogue」とか「Be of Service」っていうバリューがあって、「顧客と対話をしましょう、チームの中でも対話をしましょう」っていうのがある時に、目の前のミッションを切るときにも「これってDialogueをするべきだよね」っていうのをできるだけ使ったほうがいいなと思っていますし。全社会でもこの行動指針をベースにした表彰を、Uniposの中ですけどやっていたりする中で「いかにキーワードにしていけるか?」っていうのはポイントなんだろうなと思いましたね。ありがとうございます。

目的がわかったら、一歩踏み出す

斉藤:最後の質問として、2ついかせてください。1つは「環境を整えて自律型人材が生まれるという話がありましたが、現場サイドや若手人材は具体的にどのようなアクションを取れば自律人材になることができるでしょうか? もう一度まとめて教えて欲しいです」。改めていかがでしょうか。

石黒:なるほど、これもまぁ答えがないという前提にはなるんですけども(笑)。マネージャー側とか人事側がどういうアクション……具体的に現場のほうか。「自律型人材」って、今日は斉藤さんからこういった言葉を用意していただいて、議論しているわけですけども。まさに「自ら律する」とか「自ら立つ」っていうの、ちょっと言葉遊びなんだけども、ありますが。具体的なアクションとしては「なぜ? なぜ?」とか、目的がわかったら一歩踏み出すっていうことですよね。

私が「期待値を合わせる」って散々言ったうえでなんですけど、期待値をちょっと超えるみたいな行動とか、先んじて動いておく「次、これやっときました」とか、もうちょっと先の提案をするとかっていう話かと思っていて。

「自律」って言葉、すごく今日出てきましたが、要は自分の頭で考えて行動するっていうことだと思うんですよね。自分の頭で考えて行動するっていう、そもそもの営みがあって。向かう方向としてのミッションがあってズレないことと、意思決定にはバリューとか行動指針がありますよね、っていう話だと思うんです。

「上司の顔色」ではなく「ミッション」に向き合う

石黒:当たり前のことを言うんですけど、自らの頭で考えて行動するって、そんなに実行できているか? というと、じつはみんなできているわけではなかったりするので。それをすごく当たり前にまずやりましょう、ってお話かなと思ってます。

意外と「あの人こう言ってたからな」とか「上司がこう思うだろうな」とかっていうことを、考えすぎな部分もあるかなと思っていて。会社として目指す方向のために行動をする、会社の行動指針とかチームの行動指針に沿って行動する。その時にやっぱりどうしても人の顔が思い浮かぶんですが、それを「無視しろ」と私は言いたいわけではないんですけども、そこを意識しすぎないことかなと思うんです。

ある意味でケロッとした顔で、ミッションの達成のために向き合う。上司の顔色に向き合うんじゃなくて、ミッションに向き合う。これは似てるようで違う。もちろんこれがバチっとはまった組織は強いですけども、やっぱりこれがバチっと、なかなかはまりにくいのが現実かなと思うし。

コロナ禍で顔色が見えにくいとかもあります。もしくは会社の向かう方向性が、コロナという外部環境による激しい変化とかっていうのがあると思うので。その中で向かう方向に対して、自ら考えて行動をして、アクションを進めるっていうことです。「エグゼキューションがすべて」みたいな言い方をしましたが、アクションをまずしていくことかなと思います。

同じ目的に対して一人ひとりが問いを立て、それを発信しやすい組織

斉藤:ありがとうございます。もう本当に理屈じゃないですよね、最後はね。いろんな人事の方と対話させていただいて「すごく考え方が浸透してるな」だったりだとか「みなさんがイキイキ働いてらっしゃるな」っていう会社の人事さんと対話すると、最後におっしゃるのが「このへんの理屈は最初の2ヶ月です」と。

最後、5番「エグゼキューション」のところをずっとやるんだと。5番が2年、3年、4年かかるんだと。ずっと言い続けるし、一人ひとりと対話をし続けるし、対応できる場所をつくるし、個人が語れる場所をつくるし、そのワークもするし……っていうことをずっとやってると、そういう組織にどんどん近づいていく。という表現をされる方がすごく多いなと思っていまして。

なんだかんだで「銀の弾丸」ってないんだな、っていうところで落ち着けるのが心苦しくはあるんですけれども(笑)。そういうことなんだろうなというふうには、本日思いました。

改めて自律型人材というのは、ほったらかしでもなくて、トップダウンだけでもなくて。同じ目的に対して一人ひとりが問いを立て、それを自由に発信しやすい組織。これが自律型人材が育まれやすい組織なんじゃないか? というところが、今日の1つの骨子になったんじゃないかなと思います。石黒さん、最後にお一言いただいてもよろしいでしょうか。

石黒:はい。本当に今日は、私にとってもとても貴重な機会をありがとうございました。こういった時代、コミュニケーションが見えなくなってくるコロナ禍ではありますけれども。その中でなにか1つでもみなさまの、明日から、もしくは今日からの組織運営のヒントになったようであれば、めちゃくちゃ個人的にはうれしいです。

「応援される」っていうところもそうですし、手を動かすところもそうなんですけども。このへんを毎日、もしくは週に1回、月に1回見返していくことで「自分はできてるかな?」「あの時からどうなったかな?」みたいなところが、またできてくるかなと思うので。

それがいいかどうかは別として、現在地を確認しながら向かうべき方向に向かって、じゃあ次どんなアクションをするか? という。けっこう基本的なことですが、それをしっかりやっていくのが次の一歩につながるのかなと思っております。本当に今日は貴重な時間をありがとうございます。そしてたくさんご質問いただきまして、本当にうれしく思っております。ありがとうございました。

斉藤:ありがとうございました。