2024.12.24
ビジネスが急速に変化する現代は「OODAサイクル」と親和性が高い 流通卸売業界を取り巻く5つの課題と打開策
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尾原和啓氏(以下、尾原):このへんの、なんというか絶妙な。富山さんのCX(『コーポレート・トランスフォーメーション』)が出てからの、この『DXの思考法』っていう、順番含めてめちゃくちゃヤバかったわけなんですけど。このへんってどのぐらい冨山さん、意図してたんですか?
冨山和彦氏(以下、冨山):意図してないんですけど(笑)。それはたまたま、西山圭太さんの退官のほうが遅かっただけですよ。
(一同笑)
西山圭太氏:いやいや、冨山さんが意図して私の退官を去年に設定したのかも。それはちょっとわかりませんけど(笑)。
冨山:(笑)。ある意味、具象と抽象の往復作業っていうのは、自然科学においては極めて基本的な思考法なんですよね。個々の個別の事象から、その背景にある普遍的な法則というのを想定して。それを打ち立てて、その普遍的法則の通有性ってものをまた実験で検証するっていう、この繰り返しでしょ。
それはもうデカルトの時代から、これが基本的な自然科学の方法論になってるわけです。だからある意味ではそんなに変わったことを言ってるわけではなくて、ずっとあるっていうか。科学的思考方法の一番根幹的なことを、西山さんは言ってるわけなんだけど。
冨山:だから本来、社会科学も同じアプローチですね、経済学なんかも。要するに「りんごが落ちました、ちゃんちゃん」じゃなくて(笑)。「でもほかもみんな落ちるぞ」と。「ということは、それを支配してる通有的な法則があるはずだ」って考えたところから万有引力の話になるんだけど、それと結局は同じことで。
そうすると、我々のビジネスの世界は社会科学的領域なのかもしれないんだけど、それは本来すべての経済人が持ってなきゃいけない思考方法で。わりと戦後、長らくのあいだ、背景にある一般原則について、あまり疑いを持たずにやってこられたわけです。要するに抽象原理に関しては、僕に言わせるとほぼ、それこそヘンリー・フォードとか、あの時代にでき上がった仕組み。まず大量生産・大量販売のハードウェアで産業を成り立たせるっていうモデルができ上がった、その法則の中でわーっと日本は成功してきたから。
むしろ普遍化能力・抽象化能力よりも、要は具象化するところで戦ったわけですよね。それがまさに、改善だったり改良であったり現場主義であったりっていう、日本型経営の真髄はほとんどそこに収れんされているし。すり合わせっていうのは、まさに具体化のプロセスなんで。だからそこでずっと40年、50年、もっと言っちゃえば明治以降の百何十年、それで戦ってきたわけです。
欧米の教科書どおりにやるってことは、根本的な抽象的普遍原則はそこにあって、それをより良く実行しようとするわけだから。そういった意味合いで言うと、キャッチアップというのは本質的に具体化なんですよね、思考プロセスとしては。
尾原:そうですよね。
冨山:それがちょうど2つの意味で限界を迎えた。1つはキャッチアップ型の時代が終わっちゃいました、追いついちゃいました。だから実は新しい、万有引力の法則に代わる……それこそ相対性原理じゃないけど。
尾原:そうですね、量子理論だったり。
冨山:まさにそれが求められていたんだけど、あまりにもそうじゃないことを長くやりすぎちゃって(笑)。教育体系含めて、国家的組織能力として弱ってしまったという問題と。
加えてそこにデジタル化っていう、それ自体が抽象化プロセスですよね、デジタル化っていうのは。「0、1に置き換える」ってことだから。だからそういうことが起きちゃった中で、ダブルパンチでこの30年間の停滞ってことなわけです。
僕もずっとこういう仕事やってて、日本の経済人なり、いろんな経済政策を作ってる人たちと議論してる時に「そもそも背景にある、根本的な普遍的メカニズムが変遷してるからこうなってるんじゃないの?」っていうところに原因・因子を求める思考をする人って、本当いないのよ。幸い、産業再生機構で出会ったのが西山圭太さんなり、あるいは森信親さんなり、あそこに集まっていたのは、そういう思考をする人たちで。じゃないと私を使わないでしょう。だって、金融機関の“き”の字とも関係ないところで働いてきた人間なんて(笑)。
尾原:確かに(笑)。
冨山:だから不良債権問題をすり合わせ的な解決法にいっちゃったら、私はぜんぜんなにもできないんだから、具体的に金融やってないんだから(笑)。でも“そもそも論”になった時に、そもそも論をちゃんと経済や法制度の共通言語で理解できて……そもそも何が問題なのか? っていう時には、詳細な事情に詳しいことよりも抽象化力が問われる。ところが、例えば「日銀が悪い」だの「大蔵省が悪い」だの「AちゃんBちゃん、けしからん」だのっていう議論をみんなやってるわけだ、一生懸命。いや、そういう次元の問題じゃないんじゃないの? と、これ。
もうちょっと根本的に、金融の成り立ってる基本法則が変わってきてるわけだから、基本法則に立ち戻ってやんないと解決しないんじゃないの? って僕はずっと思ってたんですけど、現場で企業再生の仕事をしながら。それがちょうど(西山氏と)出会った時に、そこがシンクロしたというか。
尾原:なるほどね。
冨山:だからそれは、すべてのリーダーシップをとる立場、あるいは政策や戦略を立案する人は、実はもう30年前からそれを共通に求められていたんだけど。今の日本の会社のシステム、あるいは教育システムの中で、抽象化する能力を持ち続けて30才、40才になるのは至難の業なんですよ。
尾原:そうですよね。結局『コーポレート・トランスフォーメーション』でも書かれてましたけど、今までって「より良くする」という改善型で、日本って成功方程式が成り立ってるから。結局、上にいけば上にいくほど、失敗しない人が上にいっちゃうって、あれはものすごいわかりやすい説明。
冨山:そうそう。で、部下として抽象化の議論をするやつは面倒くさいやつなのよ。例えばテレビ事業部にいて「これからの時代はだってアンタさ……」と。基本的にはレイヤー構造になってっちゃって「そんなハードウェア、一生懸命作ったって儲かりまへんで。なんで僕たちテレビ作ってるの?」って言うやつ、部下としては面倒くさいじゃん。
尾原:(笑)。別のとこ跳ばなきゃいけないですからね。
冨山:そうそう。たぶん正しいことを言ってるんだけど、面倒くさいやつだから。だからそういった人は、基本的に偉くならないんですよ。これは教育段階からそうでしょう、基本的には入学試験っていうのは正解があるわけだから。そもそもこの問題自体「この問いがおかしいんじゃねぇの?」って言うやつは、いい点とれないわけね(笑)。答えを書き始められないから。
尾原:そうですよね。でもこの本がいいのが、それを「あなたダメですよ」っていうんじゃなくて、この本の中だと結局「実は日本がIntelになれたかもしれないようなポジションにある中で、Intelがまさにそういう思考方法をしたから、Intelにその機会を奪われてしまった」みたいな。
冨山:そうそう、新しい時代でも本来の潜在能力的には十分にやっていける場所はたくさんある。だからもっと言っちゃうと、刷り込みっていうのかな。人間としての経路依存性っていうのは、世代が下になるほどないわけです。“ジャパン・アズ・ナンバーワン”はとっくの昔にオールオーバーだから。そういう意味で言うと、世代が若い人ほどそこにとらわれてる可能性は少ないし。
尾原:そっか、確かに。だから冨山さんとか西山さんは、経路依存性の中ではもう頭おかしいぐらい異端児なんだけれども、今の若い人たちって別にそういう「失敗をしないから上に上がっていく」っていう経路依存性から離れてるから。最初からこっちの本を読めば、まったく今度はDXの思考法として進んでいけるわけですもんね。
冨山:そうそう。だからある意味で希望を持っていて。それはベースにあって、西山さんが退官するということになって「これはずっと議論してたテーマを、やっぱり西山圭太に社会に表明してもらわなくちゃいかん」と思って「本書こうぜ、本書こうぜ」と(笑)。最初はだから共著のつもりだったんだけど、ぱーっと原稿読んでたら「これ、あんまり介入する余地ないな」と思って(笑)。
尾原:いや、本当。
冨山:ただちょっと難しかったんで、(出版元の)文藝春秋もちょっと心配してたわけね(笑)。
尾原:(笑)。気持ちはわかります。
冨山:なんだけど僕は「少なくとも、かなり真摯に世の中に向き合ってる人にはウケるはずだ」と思ってたの。この本でいろんな謎が解けるから。なので、経営であろうが政策であろうが大学にいる人であろうが、真摯に世の中のいろんな問題に向き合ってる人はきっと、ある種のいい反応をすると思っていたんだけど。せっかくなら読者層をやっぱり広げたいと思ったんで、広げるためのサポート的な解説に回ることにしたと。
尾原:解説っていうか、あれは完全に煽りでしたけどね(笑)。
冨山:でもそのほうがみんなさ、煽られると「なんだこの野郎!」と思って真剣に読む人が増えるんで(笑)。
尾原:でも結果として本当に、Amazonのレビュー(が書かれる)速度が異様に早いし。日本もちゃんと「こういう歯ごたえがあるものを読もう」っていう感じにもなってるし。まさに今おっしゃられたように、若い方って実は「昭和の世代の成功方程式」の中で生まれてないから、ゼロからこれを身につければっていうところは、本当にすごく示唆深い話ですよね。
冨山:時代としては『両利きの経営』があれだけ売れたんで、やっぱり時代が変わってる。あれも難しい本なんだよ、実は。僕と入山(章栄)さんの解説以外のところは。
尾原:(笑)。
冨山:具体例はいっぱい書いてあるけど、かなり抽象度の高いことと行ったり来たりしてる本なんで。あの本を読む人があれだけの数いるってことは、たぶんそれに対するアペタイトが世の中にあるんだろうなって感じは。
尾原:そうですね。ですし、やっぱりこの『DXの思考法』もそうだし『両利きの経営』もそうだけども、『両利きの経営』も僕たちが深掘る方向は強いっていうことはアプリシエイトした上で「でも探索が弱いじゃん」だし、もっと言うと「両利きになれないじゃん」っていう。
冨山:そうそう。その感覚はまさに抽象化だからね。
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