2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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黄瀬真理氏(以下、黄瀬):みなさまからのご質問も出てきております。ここからは須東さまがファシリテートする、これまでご講演いただいた方とのパネルディスカッションに入ってまいります。須東さま、よろしくお願いいたします。
須東朋広氏(以下、須東):本日はよろしくお願いします。本日の3名の方の資料、並びに今、お話を伺っていて、いろいろと質問があると思いますので、ぜひ随時話に入れていってください。
まず最初に私の説明なんですが。才知修養学舎について「なんか変な名前の一般社団法人だな」と思う方が多いかと思いますけど、一応意味がありまして。「才知」は才能と知恵を意味し、「修養」は知識を高め知性を磨き、自己の人格形成に努めるということです。「お前が一番できていないじゃないか」と言われるんですけど、これから磨こうと思っていますので、よろしくお願いします。
私自身のプロフィールなんですが、実はタナケン先生のお話と相通じるところがありまして。もともと2003年に、神戸大学の金井新介先生と、今は学習院大学の守島基博先生と一緒に『CHO―最高人事責任者が会社を変える』という本を書きました。今までずっと、最高人事責任者の研究をやっています。
そうした中で最近は、日本CHRO協会の立ち上げにも参画したり、去年から日経さんと一緒に、人的資本に関する「Human Capital Committee」を立ち上げて。やはり投資家も「何の情報が欲しいか」といえば、コロナとかさまざまなことが起こっている中で、結局、会計は過去から現在のものでしかないわけですね。
ですけど、投資家が欲しい情報は「現在から未来に向かって、どんな人たちがそれをできるんだ」というのを見ているということです。そうした中で、アメリカのSEC(米国証券取引委員会)では、フォーチュン500社(フォーチュン誌による世界の総収益ランキング上位500社)のうち、78パーセントの企業が、人的資本に関する情報開示を義務化されて、開示し始めております。
須東:実際、世界的なグローバル企業の人事の責任者・日本の人事の責任者に聞いても、アメリカの人事戦略は、かなりそこに影響されたものが落ちてきているという話をしています。
そういう中で、人的資本経営は非常に重要なポイントです。実は先ほどもありましたが、「Human Capital Committee」は20社の人事の責任者の方々がいるんですが、人的資本経営の研究会を今年6月から始めて、そこには40社近くの方々がいます。60社の最高人事責任者の方々に、人的資本・企業価値・株式価値の高め方とか人的資本のあり方についての取り組みを、これからどんどんやってこうと思っています。
そういう話の中で、実はミドルシニアの問題って大きいんですね。「人的資本・資源の信用リスク」という言葉があるんですが、結局、企業の中で人を活かしきっていないという問題は、投資家から見ると不安なんですね。ガセの情報でも流されたり、商品の中に針でも入れられれば、株価がいっぺんに吹っ飛びますから。
そういう中で、人的資本があまり活性化していないこと自体が、そもそも信用リスクを高めてしまうことがあります。そういう観点から、これをどうしていくかを追い追い議論していき、タナケン先生ともいろいろと連携してやっていければと思っております。みなさんどうぞよろしくお願いします。
須東:今日、ぜひみなさんに伺いたいなと思うことなんですが、これはあくまでも1つの例です。ミドルシニア社員へのキャリアコンサルティングって、かなり苦戦されているという結果が出ています。先ほどタナケン先生が言っていましたが、「何がキャリアブレーキになっているか」「解決すればどうアクセルが踏めるのか」という問題について、ちょっとディスカッションしたいと思います。
それから、ミドルシニア社員って何を支援すればいいのか。また、具体的に誰が責任を持って支援をしていくのかについては、キャリア自律を高める観点からも非常に重要なポイントです。
先ほど浅井さんも浅川さんもおっしゃっていましたけど、「成長志向の組織」を作るために、人材戦略・風土醸成をどうしていけばいいのか。この3点について、ディスカッションできればと思っております。
では最初に、ミドル社員のキャリアコンサルティングがなぜ難しいのかについて。私の知見で申し訳ないんですが、私が研究した時に、ミドルシニアの社員・転職した55人にヒアリングをして出た結果があります。1つは「キャリア意識があるか・ないか」という話と、「ポータブルスキルを認識をしているか・していないか」というポイントなんですね。
「キャリア意識がある」というのは当然必要になってくるんですが、実は話を聞いていると、自分自身のポータブルスキルを認識していない。つまり、強みと弱みがわかっていないということなんですね。みんな、24時間一生懸命働いてきて、企業の中で言われたことをしっかりやってきた。しかしながら、その部分が自分の中で体系化されていないという問題が、実際に起こっています。
これはキャリア意識の問題でいくと、学習指向性やモチベーション、キャリア戦略、自己理解、ビジネス理解というところが出てきます。キャリアアドバイザーにも聞いたんですけど、市場価値を認知していない、労働マーケットを認識していない、「正社員でいたい」とか、収入といったものによって、すべて影響されている。
須東:あと、ポータブルスキル認識というところでは、変化対応力とか組織課題設定力、ビジネス構築力、業務改築力、専門性、柔軟性、育成指導力というポイントが、転職をするための前提となるポータブルスキルです。
実はこれは、私がインテリジェンスHITO総合研究所にいた時に、一般社団法人の人材サービス産業協議会というところで議論していた話なんですが、仕事のやり方と人との関わり方といったポータブルスキルを出しています。
この中で、非常に重要なポイントが「課題を明らかにする」というところ。要するに、現状把握と課題設定の2つができていないのが、キャリアを作れない理由です。
例えば、自分の扱っている商品は、だいたい経営企画や営業企画が作って、それを数字だけ落としてくるとします。その数字に関して、ただ「できた・できない」ということをやっていきますが、ほとんどのグローバル企業はそもそも「このマーケットはどうなっているのか」「競合会社はこういうことをやって売っている。じゃあうちは何ができるか」という調査をやっているわけですね。ですので、基本的にそういうところで差があります。
自分のポータブルスキルを認識する時も、現状、経営環境や自分を取り巻く環境は、どういうことが影響しているのか。そして、自分は他の人と比べて何が強いのか・弱いのか。こういう現状把握・課題設定を常にビジネスでやっていれば、自分に当てはめてキャリア構築に活かせるのです。おそらくこれが非常に大きく影響しているんじゃないかと、私の知見では思っております。
須東:ミドルシニア社員のキャリアコンサルティングがなぜ難しいのか、一応3つ書いたんですけど、この問題についてタナケン先生からお願いします。
田中研之輔氏(以下、田中):せっかくなので、浅井さんと浅川さんのご意見を聞いてみたいですね。浅井さんどうですか?
浅井公一氏(以下、浅井):シニアって、「まだ若い」と思っている人と「もう俺は歳だ」と思っている人が混在しているんですよね。だからまず「この人はどっちなのか」の判断をしていかないと、なかなか建設的な話ができないといったところが、ミドルシニア特有の問題なんじゃないかなと思っています。
先ほどポータブルスキルの話もあったんですが、「自分がどれだけポータブルスキルを持っているのか」といったところも、やっぱりわからないんですよね。そうするとなかなかアプローチしようがないんですけど、「だったら転職サイトに登録してみてください」と誘導しているんですよ。
そうすると、あなたはどれだけ「引きがあるか」とか、「このスキルがあったら、もうちょっと高い賃金で雇ってあげます」とか、いろいろ来るので。そうすると、自分のスキルはどこが足りなかったのかとかが客観的にわかります。
面談の中では「転職サイトに登録して、1回自分を客観視してみろ」という話をすると、「今の給料はもらいすぎでした」ということがわかるので、逆に若い人に対するエンゲージメントも増えたり。そういったところがありますかね。
須東:ありがとうございます。これについて、タナケン先生は意見ありますか?
田中:浅川さんのご意見も聞いてみたいですね。やっぱり、浅井さんと浅川さんの経験は本当の価値だと思うね(笑)。浅川さんどうですかね。
浅川正健氏(以下、浅川):いやぁ、もういろんなお話を伺って、20年間がぐるぐるよみがえりました。まず最初にお伝えしたいのは、「ミドルシニアをどうキャリア自律させるか」という発想が私はあまり好きじゃなくて。会社は、経営者も人事部長も新入社員も、みんなキャリア自律をしたくなるように環境を持っていってないと思うんですね。
キャリアカウンセラー・キャリアコンサルタント自身、私自身も反省しなきゃいけないんですが、「自律したほうが得だよね」と思えたらいいのに、戦後ずっと日本は「俺の言うことを聞け」「今までどおりやれ」「数字さえ出ればいい」とやってきて、キャリア自律をしていなかった。
それに気づいたから、社員のキャリアコンサルティングをやってみた。そうしたら、なぜミドルシニアがそうなったかといったら、学ぶこと・新しいことにチャレンジすることが楽しいことではない。褒められないし、「年齢じゃない」と言いながら年齢で評価されるし。それはもう、生き生きするはずがないですね。
「研修がいらない」とは言いません。研修で気づいたことを「ふんふん」って聞き流していたんだけど、「俺に置き換えて考えてみると、こんなことがあるな」と気づいた時に自律するんです。だから、評価とかいろいろ言われるけど、気づきをさしあげる・励ますということが抜けていて。
現状を「わかっている」だけじゃもう、これから70歳までいけない。「わかっているよ」で終わっていた人たちに、タナケン先生たちが言われていることを「そうだよね」って聞かせてあげる“励まし役”が会社の中にいる。それが、人事部や経営者やキャリアコンサルタントだったりするんじゃないかなと思います。
田中:ありがとうございます。非常にお二人の話が刺さるというか、勉強になります。客観的に見ていて何が起きているかというと、キャリコンが制度化した過程で、もともと持っていたキャリアコンサルティングがすごく矮小化されて、現場に落ちていったと思っているんですよ。
だから僕は、このプロティアンでそれを「違う!」と言っているんです。浅川さんと僕は考え方が近いと思って、すごく尊敬しているんですけれども、そもそも別に前提として「ミドルシニアに〜」とか限定する必要もないし。とはいえ問題になっているから、そこにスコープして入っていくんだけど。
さっき浅井さんの話にもあったように、制度化した時に何が起きたかと言うと、キャリコンの方たちが「傾聴しましょう」「寄り添って、彼らに向き合って〜」と、なんか“得体の知れない変な人”みたいな感じになっちゃう。
そうじゃなくて、僕が今、プロティアンセッションでやっているのはブーストなんですよ。「みなさん忙しいから、3日間もかけないで90分でいきますよ。でも、またもう1回会いましょう」みたいなね。そういう点と点で、そこにテクノロジーなんかが使えるわけです。
ミドルシニアのキャリア研修が違反者講習になっているのが大嫌いで。「なんでそんな扱いをするんですか」と。「黄昏研修」という言葉もあります。ビジトレにも書きましたけど、つまり社長はもう期待していない。でもそれは間違いなわけで、社長が変えていかなきゃいけないし、少なくとも、制度化していった中で矮小化したってことも1つあるし。
田中:そもそも、これからのミドルシニアの社会的役割はやっぱり高いんですよ。もっと長く働いてもらえるし、元気だし、人数も多いし。やっぱり「ポテンシャリティが極めて高いんだよ」というメッセージをどう出すかだと思うんですよね。
その時にブレーキになっているのはなにかというと、今のミドルシニアが描いていたキャリアロールモデル、つまり「20個ぐらい上の先輩たちの働き方と、みなさんが今、社会的に求められている働き方は断絶があるんだよ」ということを自覚させる必要があるんですよ。
だって、人生100年時代とか70年雇用は、今のイシューじゃないですか。でも、彼らが見ていた先輩たちは「ポストオフ(役職定年)でも窓際でよかったよね」という働き方を洗脳されている。リンダ・グラットンたちが言っている「ワーク・シフト」じゃないけど、「それは違うんですよ」「今のミドルシニアの方たちが、シフトのキードライバーになってくださいね」というメッセージは、すごく大切だと思うんですよね。
それらを踏まえたうえで、浅井さんがやっていた「全員に向き合う」というのは、半端ない事例だと思いました。「本当に変わってるんですか」「変わってないんじゃないですか」ということも踏まえた上で本にしていったんですが、そういう効果が出ているわけで。キャリアデザイン研修での行動変容率が92パーセントでしたっけ?
浅井:そうですね。
田中:やっぱり浅井さんがずっとおっしゃっているように、一人の人が長年見ているというエビデンスを突破していけば……もちろんそれは、各社に向けてフィットさせなきゃいけないんだけれども、やるべき本質はそこにあると思いますよね。
浅川:ちょっといいですか?
田中:浅川さん、どうぞ。
浅川:「資格は取りました。会社にもアピールしています。でも、ほとんど聞いてくれません」もしくは「どれぐらい成果が上がるんだ」「経費が少なくて済むのか」「どれくらいうまく辞めてくれるんだ」と。こんなことをやってるから、現場で苦しんでるキャリアコンサルタントが全国にごまんといるんですね。
ですからそういう時に、さっき浅井さんも言われましたが、今のようなお話をベースに「AかBか」「0か100か」じゃなくて、「この会社のこの部署にはこういうことが」「この年代・この職種には、こういうことがいい」というのを感じながら、キャリアコンサルタントが経営に提案するとか。
それから人事の関係者と、採用の面・異動の面・評価の面で打ち合わせをしながら、「こんなふうにやっているところがありますよ」とやっていくのも、キャリアコンサルタントが重要な役割を果たせる部分じゃないかなというのが、20年やってきて感じていることです。
田中:あと1点だけあるのは、キャリアコンサルタントが国家資格になってから何が起きたかというと、個人で戦いすぎなんですよ。個人で仕事を受注して、外の人間が中に入ろうとするからパージ(追放)される。だから僕は、それは絶対におかしいと思っています。
今、プロティアン・キャリア協会でファシリテーターを育成しているのは、もう「仕組みで入ろう」という。こういうプラットフォームで、キャリコンが国家資格になるまではよかったんだけど、その先の「資格から職業へ」というところに大きな難点を抱えているので。
だから浅井塾とかが立ち上がって、そこを出てきた方たちが入ってくる。これ、同時多発的に浅川さんのところでも出てくる。そういうふうにやっていって、個人で苦しんでいるキャリコンの方たちはここで一気に流れを変えなきゃいけないんですよ。
こういう言葉で言うとちょっと強すぎるけど、組織の中でのプレゼンス(存在感)というか、今、組織内キャリコンはみなさんちゃんと活躍されているんだけど、社外から入っていこうとするキャリアコンサルタントの人たちに対して、組織内の理解がやっぱり低い。
これをどうやってブレイクスルーするかといったら、中に入って変えていってくれたという、成功事例を作るしかないんですよ。例えば「同時に10社」とかって成功事例を作っていかなきゃいけないですよね。
浅井:名前は出せないけど、私のところに「講演をやってください」と言ってきた某金融機関で、人材開発部門の部門長とキャリアデザイン室長と部下数人が来て話をしたんですね。そしたら1ヶ月後、「浅井さん、もう1回同じことやってください」って来たんです。
「なんでかなぁ」と思ったら、そこの担当者が組織の常務取締役と人事部長を引き連れて、「同じ話を聞かせてください」と。そのキャリコンが、常務の首を捕まえて来たという行動を取ったということで、「あ、この企業はたぶんうまくいくんだな」と思ったんです。そういった行動をするところが、どんどん増えていくといいかなと思っていますね。
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