2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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黄瀬真理氏(以下、黄瀬):では次は、浅川さまからのご講演になります。浅川さま、お願いできますでしょうか。
浅川正健氏(以下、浅川):よろしくお願いします。みなさんこんばんは、浅川でございます。サブタイトルとして「『組織と個』現場を大事にするキャリアコンサルティングとは何か?」と書いておきました。企業内キャリアコンサルティングについて、20年以上前からの現場での経験、そして悩みや工夫、一人でも多くの方の幸せを追求してきた情熱などをお伝えして、パネルに向かいたいと思います。
少し自己紹介を。私は歴史的なオイルショックの1973年に、総合商社伊藤忠商事のエネルギー本部に入りました。労働組合や海外駐在を含めて17年間、人事部に異動して25年間、合計42年間も一つの会社に勤務という、今の時代では“化石”のような人間です。
ただ、同じ会社でもさまざまに違う経験をしたあと、「キャリアカウンセリング」が日本に入ってくる……当時はキャリアコンサルティングのことをそう言っていたわけですが、1999年1月4日の日本経済新聞の記事で、私の人生は大きく変わります。
企業内キャリアコンサルティングという視点から、ご依頼の中高年社員に焦点を当てつつお話ができればと思っています。私がすでに本に書いたことに少し触れさせていただくことを、お許しください。この10分だけではなくて、パネルディスカッションも合わせて「こんなお話がしたいな」と思って、この席に参りました。
浅川:今日参加されている方は、企業・大学・自治体などで「中からや外から組織を良くしたい」「自らも生き生き・キラキラ・ハッピーで、充実した人生を送りたい」と思っておられる方が多いと確信しております。
20年以上キャリアの世界にいますので、私自身は大変古い人間ですが、一方で、日々若い方々から学ぶ姿勢については人一倍あります。要はタナケン先生(田中研之輔氏)が言われたとおり、70歳を越えてもプロティアンキャリアをワークにもライフにも体現しているとお伝えしたいんですね。そんなことを、このスライドに込めておきました。
最後に少し、リンダ・グラットンについてお伝えしたいです。みなさん、2016年の『ライフ・シフト』に目がいっていると思いますが……彼女が最初に書いたのは2011年で、2012年から翻訳本、そのあとに『未来企業』と三部作になるんですが、最初の『ワーク・シフト』をぜひ読んでください。
社会の変化に気づき、「このままではアカン」と言っているところがポイントです。『ライフ・シフト』になって、年金だなんだってお得意の「数字の話」で不安を持つのは違っています。「時代はこんなに変わっている」というところを、ぜひ見ていただきたいと思います。
浅川:この20年の歴史も少し触れたいんですが、2001年の衆議院の本会議の議事録に、一度目を通していただくとうれしいですね。この頃、すでに「キャリアカウンセリング」という言葉で、国会で大臣と質疑がなされているんですね。
その後、厚生労働省の研究会などで検討が進んで、令和3年度から7年度までの第11次職業能力開発基本計画が、3月29日に出ました。これもまた読んでいただけたらと思います。こういうものが5年ごとに出されるたびに、内容が深まっていくんですね。
キャリア健診、技能検定、セルフ・キャリアドック、国家資格等々、みなさんがご存知の体制・制度が決まってきた20年です。そして「キャリアカウンセリング」「キャリアコンサルティング」など、その言葉も定義も実際の活動も、さまざまに議論されてきたわけです。
言いにくいことを言っちゃいますが、企業の中では「転職支援」と「うつ対策」という文脈でしか理解されなかった……今もちょっとはあるかもしれませんが、不遇をかこつキャリアコンサルタントが大勢いたわけです。今も全国にいます。
しかし、一度でもキャリアの相談に行った社員が、徐々に徐々に「なにか違うな」「これなら相談にいきたい」と変化していく。ここがポイントです。
私がいた伊藤忠でいうならば、当時の社長の丹羽宇一郎さんの理解によって、経営からの支援が始まる。「個と組織のどちらが大切か」なんてアホな質問があふれていたのが、個・社員を大事にすると組織が魅力的になるということが、徐々に徐々に見えてくる。徐々にじゃなくて、一気にかもしれません。
こんなことが社内外で、学会、中央職業能力開発協会、中央労働災害防止協会、経団連、生産性本部、企業、大学でも話題になって、法律にもなってきた。制度として、組織として進んできた20年間だとご理解ください。
浅川:事例なんですが、時間がとても足りませんので、流れだけイメージしてください。中高年社員が相談に来ました。何を聞いて差し上げればいいでしょうか? 実は、山ほどあるんです。
「人事部になんか話したくないよ」と言っている人が、信頼して徐々に本音で話すようになると、「どんな内容でも話していいんだ」と、話してるうちに自ら気づいていきます。それなしでどのような素晴らしい研修をしても、身が入りません。これはもう、目・背中・部屋から出ていく姿を見たら、はっきりわかります。
実は、シニアは「やりたいことをやらせてもらえる新しい知識がない」とか、「経験してきたことやコミュニケーションスタイルが古すぎる」とかが見えてくると、本当に生き生きとされます。
夢、金、地位、周囲からの評価。一体、何を大事にしたいと考えておられるんでしょうか? 「シニア社員が気づかない。動かない。研修で何をしたらいいですか」という企業の人事部の方々の質問は、20年前から今日に至るまで必ずあります。
でも、これまで会社は、少々固まってきたシニア社員が前向きになるような扱いをしてきたでしょうか? 具体的にはパネルのところで、もしくは恐縮ですが本に具体例をいっぱい書いておきましたので、読んでいただければありがたいと思います。
浅川:20年間、大企業・中小企業、首都圏・地方、さまざまな企業からキャリア相談の部屋を作るための相談を受けていますが、ここに書いたようなポイントを押さえているかどうかを、いつも伺ってきました。作りたいのは、一体誰のための機能・組織なのか。会社のため、社員のため、どちらかのためでしょうか? 実は多くの企業が検討して導入して、挫折したりしてきたんですね。
制度・組織作りの前に、ぜひ考えてください。経営・人事部・キャリアコンサルタントは、会社をどうしたいんでしょうか。次の6つの機能を検討していただくと参考になるかもしれません。短い時間では語りきれませんが、触りを少しだけ。
信頼されて本音で話してくれるようになると、なにかが見えてくる。そんな「アンテナ機能」があります。情報収集という目的だけだと把握できないことが、人事にはたくさんあります。
「相談機能」は当たり前なんですが、「人事部は、社員が相談したくなる“聞くことの専門家集団”であろうか?」と、いつも人事部の中にいて自省をしていました。
「問題解決機能」。これも「解決してあげる」という上から目線ではだめです。数多くの問題を解決しながら、二度と同じような問題が起きない・起こさないように、組織も個もそこに焦点を置いて、相談に応じてきたということです。なにかを教えたり、「こうしなければならぬ」という指導をしたのでは、まったくありません。
「連携機能」。次第に求められて、守秘義務に気をつけながらも関係者との連携ができるようになっていきます。
「人材育成機能」。決して、研修の企画から講師をやったりレビューをするという場だけではありません。上司への気づきをもたらすことによって、部下、そして上司も社員ですから、上司自身の行動変容にもつながるケースをたくさん見てきました。キャリアコンサルタントの大きな役割ではないかと思います。
そして最後の「提案機能」。提案しても相手にされず、もだえているキャリアコンサルタントが全国にたくさんいます。私の仕事は、その方々を励ますだけかもしれません。現場に密着していて、社員から信頼されていると、必ず関係部署から提案を求められるようになっていきます。
こうしたご説明は、2017年からで、ダイヤモンド・オンラインの毎年の連載企画何度も具体的にお伝えをしてきました。「でも、どこかにこうした機能を発揮できる部署があるなら、キャリア相談の部屋はいりません」と言いながら。
こういう企画を提案した時に、社長からの質問に「この部屋を作る目的は、この部屋をなくすことです」と答えたことには、ちょっと触れておきたいです。
浅川:ここからは時間の関係で、ポイントだけ問題提起しておきます。キャリアコンサルティング導入のスタート前に、どういう効果があるかとか、成果・目標を数値で求められるんですね。やったこともないのに、それを求められても無理ですね。「他の人事制度ならできてますか」「後でレビューしてますか」という嫌味を言いながら「見てください」と。
そういう中では、この6つの機能の視点で成果を確認したり信頼が増えていくと、そこの部署のみんなの目が輝いてきます。トラブルが起こったら、みんなですぐに対応します。リモートだなんて騒ぐ前に、ふだんそれができていたかどうかが大事だと思っています。最後に(注)のところ、「最新の脳科学やポジティブ心理学を大切に」に、ちょっとだけ触れさせてください。
私の話では迫力がなくても、偉い方々の情報なら真剣に聞いてもらえる、ということもあるんですね。それをうまく使っていただきたいという意味で書きました。脳科学やポジティブ心理学では、笑顔や幸せや健康だとか、MRIの画像を16万枚もご覧になっている瀧靖之先生の『生涯健康脳』という本では、もういろんなことが見えてきている。
フロー体験を勉強しながら続けていくことが、キャリアコンサルタント・人事部には求められている。実は、経営や人事部長にも求められていると、私は思っています。ですからそういうことに全部つながっていく、タナケン先生(田中研之輔氏)、中村英泰さん、水藤麻美さんのWoman’sプロティアンとかも、みんな私にとっては日々勉強になる話です。
後で話題になるでしょうから、ここはもう完全に大事なポイントです。キャリア自律風土の醸成に向けて、キャリアコンサルタントは何ができるか。相談を受ける・指導をするんじゃなくて、聞いているうちに本人が気づいて自立していくということについて、話題がもっと広まるといいなと思っています。
浅川:これからの課題ということで、私の本でもまとめたことと重なります。ただ、ぜひご理解いただきたいのは、時代はがんがん変化しますよね。COVID-19もそうですし、先月から施行された高年齢者雇用安定法の改正もあります。それからもう、嫌っていうほどご存知でしょうが、職業能力開発促進法第三条で、労働者自身が自立するよう求められています。
一方で第十条の三で、事業主はキャリアコンサルティングを求められたら、支援しなきゃいけないと言われているわけですね。でも、罰則規定がなければやらないで済んじゃっている。それって、社員や学生から見捨てられますよ。どんな大企業やピカピカ企業でも、そこに目を向けていただければと。個・組織は、そういう意味で同じだと思っています。
パネルの前に何をお伝えしたいかなんですが、キャリアコンサルティング機能が本当に大事だとわかってほしい・導入してほしい。ただ命じて下に導入させるのではなくて、導入したくなるという視点が必要だから、経営からの発信も必ず実施してほしいです。
そして、中高年社員・ミドル・シニア、今日の話題です。多様化推進の時を思い出してください。「女性が〜」とか「障がい者が〜」とか、「ふざけんな」と思います。全員が“多様化した存在”です。一人ひとりが、異なる人に対して真剣かどうか。それをキャリアコンサルティングで丁寧に聞いていると、明らかに見えてきます。
そして「変幻自在の生き様、人生が楽しいということ」「中高年に求める前に職場がどうあれば生き生きするのか」。こんな話が話題になっていくといいなと思います。
人生100年時代、私も71歳になりましたから、負けない。楽しくしっかり仕事をしながら、みなさんや5歳の子どもさんにも頭を下げて、教わりながら進めていく。それでみんなで生き生きと進んでいければいいなと思っております。ご清聴どうもありがとうございました。
黄瀬:浅川さま、ありがとうございます。
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