ネガティブな意見が出てこない、ブラックサンダーの強み

田中安人氏(以下、田中):あと、ファンの方って、無理に作ってもできないんですけど。私も経験があるんですが、ファンの方が企業を守ってくださる時代なんですよね。

インターネットにある書き込みは消せないじゃないですか。でも、ファンの方が本当にファンでいてくれると、ディフェンシブになる。PRまで担ってくれるぐらいの方々になる時代になっているというのは、意識されるべきだと思います。

河合辰信氏(以下、河合):社内でもよく「不思議だね」という意見として出るんですけど、おそらくSNSとかを探していただいても、ブラックサンダーに対するネガティブな意見ってほとんど出てこないんですよ。

みなさん、活動についても商品についても好意的に言ってくれていて。それって、これまで積み上げてきたPRの活動の成果なのかなと。ブラックサンダーに対して、みなさんがなんとなく好意的に思っていただいている。これがすごく重要なのかなと思っています。

田中:ありがとうございます。PRドリブンというのは、商品開発の中からちゃんと世の中に取り上げられるようなネタが仕込まれていること。そうなると広告を打たなくてもよくなるから、コミュニケーションコストが下がるんですね。

「そんなこと言ったってできないでしょ」とみんな言うかもしれないんですけど、河合社長はもともとやっていらっしゃる。僕ももともと広告代理店を経営していて、今はCMOをやっているんですが、売る側にも作る側にもいる立場からすると、これが一番効率がいいんですよね。

違和感のある“真面目な商品”を作れ

田中:聴衆のみなさんにお土産を渡したいんですが、そうなった時のはじめの一歩は何からやったらいいんですかね?

河合:これは非常に難しい。我々の場合って、最初から商品を真面目に作っていたら、結果的に口コミが広がっていったという背景があるので。「最初に何をやればいいか」って、あまり私の意見は参考にならないかもしれないんですが。

もしかしたらちょっと話がズレちゃうのかもしれないですが、マーケティングに関してもPRに関しても、常に私が意識しているのは、自分がファンや消費者になりきって、その商品やブランドに対して何を求めるのか。「どうしてほしいのか」ということは、常に意識して考えて決めていくようにしているんですね。

たぶん、もともとブラックサンダーもスタートはそうで、お菓子として中身はものすごく真面目に作られているんですけど、外側はそもそも名前が変ですし。普通に考えたら「ブラックサンダー」なんて名前を付けないですしね。パッケージを黒と金の稲妻にして、どっちかというと危険色なので「手を出してくれるな」という感じになっているんですけど(笑)。

有楽製菓 ブラックサンダー1本×20個

棚の中では目立つような存在にして、かつ、そこに違和感のあるキャッチコピーを入れて、物としての違和感を出しながら、商品としては真面目にやっているという。

消費者にとって、お菓子を食べ物としてだけじゃなくて、プラスのコミュニケーションツールとしてお客さんは楽しんでいるということを意識した上で、お菓子に商品の価値プラスアルファの「コミュニケーション価値」を乗っけて物にしていく。

だからこそ口コミで広がっていって、今のブラックサンダーというブランドのPRの元のネタになっているとは思っています。

やはり消費者が、自分たちの商品に対して何を求めているのか・何が本質かを考えた上で、それを常に準備しておく。今の時代でいうなら、我々も最近SNSでお客さんと対話する「アンバサダー」みたいなことを始めましたけど、お客さんの声を吸い上げてみることにトライしていくのがいいのかなと思います。

マーケターがやりがちな、“自分の趣味嗜好”に走った企画

田中:ありがとうございます。先ほど名前が出ていた足立光さんもそうですが、最近「P&Gマフィア」と言われる方が、すごく成果を出していらっしゃいますよね。改めてP&Gのビジョンを研究すると、消費者に寄り添うことがけっこう明確になっているんですよね。彼らはお客さまの自宅まで行って、ちゃんと顧客インサイトを探りますよね。

最近、デジタル上で成功されていらっしゃる社長と話していますと、ちゃんと自分たちの商品を使うし、お客さまの生活シーンまで入り込まれています。当たり前の言葉のようですけど、やはり「お客さま視点になる」ということが実は一番大事です。マーケターのみなさまには、街に出てほしいんですよね。

東京で企画していて「これヤバいな」と思うことあるんですが、例えば九州に行った時に、「こういう商品って本当に考えるのか」とか。ネーミングを付ける時に、例えば僕は英語やカタカナを付けたがるんですけど、「ターゲットがシニアの方の場合は(商品名が)読めるのか」だったり。

すごく本質的なことなんですが、みなさんの趣味嗜好に流れているケースが多い。やはり、お客さまに寄り添うことがはじめの一歩であると僕は思うし、河合社長が今、その本質を言ってらっしゃったかなと思います。

30円のお菓子で、どうやってお腹も「心」も満たすのか?

田中:最後にみなさんにお土産を渡したいなと思っています。これ、私がタイアップやPRドリブンや企画を考える時に、常に考えるフォーマットなんですが。要するに、社会課題やサプライズ、PRドリブンになるかの時に、ターゲット。ビジョン、バリュー・パーセプション。一番大事なのが、タイミングとスピードだと思っています。

今回、河合社長と対談する時に、有楽製菓さんのビジョンをけっこう深く勉強してみたんです。

河合:ありがとうございます。

田中:今日、お話を伺っていると、やはりビジョンも設定の中にワクワクするものを組み込んであったり。一時期「お菓子のブラックサンダーからブランドのブラックサンダー」という、ブランドチェンジをされていらっしゃるんですよね。

それって、お菓子屋からお菓子じゃない人格を作る領域に広げていらっしゃるから、同時に売り上げが上がっているんだと思うんですよね。「ワクワクする」というワードがあったり、ビジョンの未来がカラーになるまで明確になった時に、初めて成功すると言われているんですね。

この辺に河合社長の成功要因があると思うんですけど、自覚されていらっしゃいますか?

河合:自覚はしていないというか、そんなおこがましいんですが。我々、ホームページにもいろいろ文章で書かせていただいているんです。今、社内で言っているビジョンって、表にあまり出してはないんですけど「日本一ワクワクする菓子屋を目指そう」と言っています。

そうすることで、どうすればお客さんがワクワクするか、社内の働いているみんながワクワクするか、関係しているすべてのステークホルダーがワクワクするんだ? ということをまずは考えながら仕事をしていく。そういう土壌ができるのはすごく大事だと思いますし。

リブランディングについては、どうしても菓子屋ってお菓子をお客さんに提供するのが仕事だと思ってしまいがちなんですけど、さっきも少し触れた通り、お客さんはお菓子を食べたいというより、お腹を満たしたいし心も満たしたいはずなんですよね。

だとするならお菓子だけを追求するんじゃなくて、あくまで30円のお菓子のブラックサンダーで、心と腹の両方をどうやって満たしていくのかをブランドとして考えるのが、我々の努めなんじゃないかということを、ずっと社内でも言っています。

組織の状況とブランドに対する認識を、うまく少しずつ擦り合わせていくことで、マーケティングメンバーも他のメンバーたちも、我々はどういうものを世の中に提供すればいいのかが、以前より明確に見やすくなってきているのかなとは思っています。

表面上だけのアイデアは、消費者に見透かされる

田中:素晴らしい。じゃあ、お時間もそろそろ迫ってきたので、河合社長から視聴者のみなさんに、なにか最後にひと言お願いします。

河合:そうですね。私の話が少しでもなにか役に立てばありがたいなと思っているんですけれども、最後に1つ。先ほども少し触れましたが、私は消費者やファンを自分に憑依させて、「自分がファン・消費者だったらどう考えるか」を常に意識しながら、マーケティング活動を行っています。

先ほど田中さんおっしゃったように、それをリアリティを持って考えられるよう、街に出ていろんな情報を自分の中にインプットする。手に触れてインプットすることをやっていく必要があるかなと思っています。

これはやはりすごく重要ですし、それをやらずに表面上だけで語っていると、お客さんに見透かされると思うんですよね。ここはすごく意識されたほうがいいのかなと。私も意識していますし、それで少しでも成功確率が上がればいいなと思いますので、もし可能でしたらみなさんも実践していただければと思います。

田中:ありがとうございます。今日、河合社長にいろいろお話を聞いて、私から最後にひと言。マーケターとしていろんな組織でビジョンを作っている私からすると、河合社長が成功されている要因だなと思ったのはリーダーシップと、心理的安全を作っていらっしゃること。それと、消費者に寄り添っている。

これ、本当に当たり前のように聞こえますけど、これを真摯にしている人しかマーケティングで結果を出せていません。今日、より具体的な話が聞けたので、みなさまも明日からまず街に出て実践していただきたいなと思っております。これが唯一のプレゼントかなと思います。どうも今日はありがとうございました。

河合:ありがとうございました。