“ケンカ好き”な同級生が、訴訟専門弁護士になった理由

朝山あつこ氏(以下、朝山):企業で働いている方々も、「俺の仕事、これでいいのかな?」とかって悩み始めるわけですよ。

例えば法務部で働いている人が、契約書を作ったり法律のお仕事とかをされていて、仕事が嫌いじゃないんだけど、自分のわくわくエンジンが「妄想すること」だとわかったんですよ。「そういえば、僕は子どもの頃から恐竜が大好きだった」「この恐竜の時代は、どうだったのかな」と妄想するんですって。

山口周氏(以下、山口):それは楽しそうだね。

朝山:そう。ふと考えてみたら、「あれ。僕、妄想しながら契約書作っている」と思ったらしい(笑)。

山口:「こういうことが起こったら」とかね。なるほどね。

朝山:「だからこの仕事が好きだったんだ」と気付いたから、このまま堂々と子どもたちに自分自身を語ろうと。

山口:おもしろい。この間、中学の同窓生と話をしていて「あ、そういうことか」と思って。彼は弁護士ですごく活躍しているんですけど、とにかくケンカがすごく多かったんですよ。

朝山:誰とケンカするの?(笑)。

山口:中学の頃から、周りの人と。彼はケンカするためにケンカしているんですね。

朝山:ケンカが好きなのね。

山口:ケンカが好きだとするとボクサーとか格闘家なんですが、今は訴訟専門の弁護士になっていて、すごく強い。

(会場笑)

山口:やっぱり、訴訟って“ケンカ”なんですって。

朝山:確かに。そうですよね。

山口:向こうが正しいとか正しくないとかはどうでもよくて、「ケンカになっちゃいました、助けてください」と言われたら、「よっしゃ!」となって、ポキポキってやる。

向こうがどうやって攻めてくるかを考えて、どう防御するかを考えているのが、楽しくて楽しくてしょうがなくて。いよいよ準備万端で臨む法廷の第1回討論ってなると、もうわくわくして眠れないんだって。

朝山:わくわくエンジン働きまくりですね。いい弁護士になっています。稼いでいますね。

山口:「いやぁ、くわばらくわばら」というか。敵に回したくないな、という感じなんですけど。

朝山:本当ですね(笑)。

山口:「弁護士って、お前は法律とかどうだったの?」と聞いたら、「俺ね、気が付いたんだ。ケンカが大好きな俺には訴訟弁護士だ」と言って。

朝山:ある日気付いちゃったんですね。気付いたところが素晴らしいじゃないですか。

山口:気付いた。法廷ではパンチはしないわけですから、いわゆる口喧嘩をするわけですね。

朝山:口喧嘩ね。「戦うぞ」って。

山口:「口喧嘩でコテンパンにして、もう足腰が立たないようにしてやる」ということを考えると、楽しくてしょうがないって。

朝山:ディベートとか大好きだったんじゃないですか。

山口:ディベートも向いてたでしょうけど、ディベートだけでは食えないですからね。

朝山:そうだね。弁護士なのは、いい仕事を見つけましたね。

山口:弁護士なんかはいいと思うんですよね。

山口氏が提唱する「高原社会」

朝山:お時間もあまりなくなってきちゃったんですが、(著書の中で)「高原社会」(人類が「物質的不足の解消」を実現しつつあり、緩やかに成長率を低下させている状態)という言葉を使われていますよね。

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

このわくわくエンジンが一人ずつ全員に働いて、主体的に動いて、ものを考えられる人がいっぱい育って。みんなが「これいい、わくわくするわ」と言って仕事になっていったら、高原社会に有効に働くと思いますか?

山口:そういうふうになりますよ。

朝山:日本や企業や経済の元気になりますか?

山口:なるなる。

朝山:やった! これ、マルバツでください(笑)。

山口:ピンポーン!(マルの札を上げる)

(会場拍手)

朝山:やったぁ!(笑)。ありがとうございます。私、これをどこの講演に行っても堂々とやっているんですけど、根拠を出したいと思っていて。

山口:「なぜなら私がそう思うから」でいいんですよ(笑)。

朝山:本当!? 良かった、ありがとう! それを言うと、「根拠は何?」と言われちゃうから、山口さんにそう言っていただいて(よかった)。「いや、そう思わない?」「自分の子どもがわくわくして元気だったら、家族も元気になるでしょう?」「旦那やお母さんが元気じゃなかったら、家族がおもしろくないでしょう」みたいな。

山口:そうそう。「山口氏がそう言ってた」と言うのはぜんぜんいいんですけど(笑)。

朝山:じゃあ言うわ。

(会場笑)

山口:でも、「私がそう思うから」というのでいいと思います。

朝山:そうだね、じゃあそこは強気でいくかな。オッケー(笑)。これから周さんと一緒に何かやれることあるかな?

山口:ピンポーン!(マルの札を上げる)

朝山:ある⁉ やった! どんなこと?

山口:うーん。おいおい考えましょう(笑)。

(会場笑)

朝山:おいおい考えましょう(笑)。じゃあ、これからもコミュニケーションをよろしくお願いします。やったぁ(笑)。

現代社会は“呪い”に満ちている

朝山:もう時間が……。『くさつ未来プロジェクト』というチームが、そこでもう待ってるんですよ。

山口:素晴らしいですね。

朝山:今から滋賀県のNPOの子どもたちが発表するんです。今、子どもたちも大人もいっぱい聞いてくれていると思うんですが、これから社会で「必要な力」みたいなものがあったら、1つ書いていただきたいなと思って。がんばれメッセージ的なものとして、みんなにこれを送っていただけたらなぁなんて思うんですよ。

山口:あぁ、なるほど。

(会場笑)

朝山:唐突にすみません。力っていろんな力があると思って、私は「自分の中のわくわくを発見する力」が、これから必要な力だと思っているんですよ。それをいつも子どもたちに送る。「いろんなことを言う人がいるけど、結局そこじゃない?」ということを言っているんですね。ぜひ周さんから……ご自分のお嬢さんに向けてでもいいですし。

山口:そうねぇ。うーん。

朝山:悩ませちゃってますね。

山口:いやいや。言いたいことはだいたい紙に書いちゃっているので、同じことを言ってもしょうがないなぁ、ということなんですよね。ちょっとネガティブになっちゃいますけど、(フリップを出して)これですかね。

朝山:じゃん! どういうことですか?

山口:「呪いに注意」ということですね。やっぱり、呪いにかかっている人がすごく多いと思うんですね。呪いって、昔のものだとみんな思っていると思うんですが、今ほど呪いがわーっと渦巻いている世の中ってないと思うんです。みんなものすごく呪いにかかっている。

呪いの定義は、「その人から自由度を奪う言葉」のことです。その言葉が呪いになるわけですよね。だから『ハウルの動く城』でも、ソフィは呪いにかかるわけです。「帽子屋を継がなくちゃいけない」「長女だから」「私、そんなに綺麗じゃないし」とか、そういう呪いで自分を縛っているわけです。

荒地の魔女が呪いをかけているわけじゃなくて、あれは自分でかけているんです。気を付けなきゃいけないのは、呪いは一見すると呪いに聞こえないんです。「あなたのためを思って」とか。

朝山:正しいかのように言ってくるんですよね。

山口:そうなんですよ。「あなたのためを思って」「世の中では通用しないよ」「そんな甘いことはダメだ」とか。そういうことを枕詞に付けて、大人とか先生がその人の自由度を奪う言葉を周りの人がたくさん投げてきます。

“呪い”に惑わされないための、リベラルアーツ

山口:一番大事なのは、みなさん自身の喜怒哀楽というか。自分で振り返った時に、何が楽しいか・悲しいかということなので。

今、本当に世の中で呪いをかけている。会社の上司もそうだし、僕もずいぶん呪いに惑わされた時期があったんですけど、だからこそ「リベラルアーツ」です。リベラルは「自由」ということですが、じゃあ何から自由になるのかと言ったら、呪いにかからないということなんですよ。

朝山:よくわかります。

山口:呪いにかからない「考える力」の相対はリベラルアーツなので、「呪いに注意」ということは、「そういう言葉に注意してくださいね」ということです。呪いにかからないためには、みなさんがいろんなものを見たり聞いたり、試したり、考えたりすることが大事なので。そうすると、どんどん呪いにかかりにくくなりますから。

朝山:私たちも、“ねばねば君”とか言ってるんですよ。「〜ねばならない」「〜あるべきべき」。べきべき君とか、ねばねば君。それをやられると、「もう私、死ぬ」という感じで倒れそうになるの。この呪いですね。

山口:呪いはそういうものだよね。「ねば」や「べき」とかは、だいたい呪いですよ。

朝山:呪いをわくわくに変えましょう。

山口:呪いエンジンとわくわくエンジン。

(会場笑)

朝山:呪いエンジンとわくわくエンジン(笑)。

山口:呪いエンジンで動いている人、いっぱいいますからね。

朝山:いるんだよね。しかもそれはノロいんです。動かないんですよ。そろそろお時間のようでございます。周さん、本当に今日はどうもありがとうございます。

山口:どうもありがとうございました。