2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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山口周氏(以下、山口):ものに価値がなくなっていることを、象徴的に示す現象が起こっています。みなさん、こんまりさんという名前は聞いたことありますか? 近藤麻理恵さんという、『人生がときめく片づけの魔法』という本を日本で出されて、ベストセラーになりました。
今、世界中で彼女の本が1,200万部売れているんですね。1,200万部ということは、印税で言うとだいたい100万ドル、日本円で2億円ぐらい入ってきます。20数億円が印税だけで入ってきている状態だから、もう大富豪ですよね。
Netflixの番組にもなったり、アメリカに『TIME』という雑誌があるんですが、『TIME』が選ぶ「21世紀においてもっとも影響力を持つ世界の人物」の50人のうちの1人に、こんまりさんは選ばれているんですね。日本人ではたった1人だけです。もう世界的にメジャーな存在になって、お金も彼女のところにものすごく集まっているし、非常に注目されている人なんです。
なんで彼女があそこまで注目されて、お金が集まって来ているのかを、改めて考えて欲しいんですね。世の中で起こっていることって、必ずその時代を示すヒントがあるわけなので、「どういう時代なのかな?」と、みんなに考えて欲しいんですけども。
彼女は本の印税だけで数十億円のお金が入ってきて、もう大金持ちになったわけですが、お金が集まっているということは、必ずそのお金と引き換えに世の中に出している価値があるわけです。みなさん、何十億のお金が入ってきている引き換えに、彼女が世の中に出している価値って何だと思いますか?
それがどんなに不自然に思えることであっても、やっていることをちゃんと言葉に落として考えるのが、すごく大事なんです。なぜなら人間の頭のほうが古くて、現実のほうが先に行っているわけです。
山口:こんまりさんがあれだけの名声と富を集めていることは現実です。私たちは、なんとなく頭で「ものに価値がある」と思っている。これは昭和の価値観で、みんなインストールされていますから、現実で説明できない。
でも、現実をちゃんと言葉にしてみたら何が起こるかと言ったら、彼女がやっていることはたった一つ。世の中からものをなくして捨てさせることで、価値を作っていってるんです。彼女が教えているのは、捨てるテクニックです。つまり、ものをなくすことをして、彼女は莫大な富を生み出しているんですね。
中学校の子は数学で、マイナスプラスの符号の演算や、足し算や引き算とかをやっていると思うんですが、(こんまりさんは)引き算をしてプラスになっていますね。世の中からものをなくしてお金が生み出されているということは、「ものにマイナスの価値が生まれている」ということです。
ものにマイナスの価値が生まれているから、ものをなくすとプラスの価値が生まれているわけです。こんまりさんが世の中からものをなくして、莫大な富が生まれているということは、ものにマイナスの価値が生まれているということですね。
日本の働いている人や世の中の人って、ものに価値があると思ってる人が多いわけですが、マイナスの価値が生まれているんです。マイナスの価値があるものを仕事で生み出したら、それは儲かるわけがないんですよね。
山口:あと、便利さもそうです。僕は企業の研修や大学とかでも教えているんですが、便利なものと不便なものが2つあって、「どっちを高い値段で売りますか?」と聞かれたら、普通はほぼ100パーセントの人が「便利なものの値段を上げる」と答えますよね。
これも、頭で考えるからそういうふうになっちゃうんです。頭のほうが古いので、ポンコツなんですよね。でも、現実の世の中ってどうなっていますか? 例えばいろいろな商品があるわけですが、一番高いものと一番安いものを比較して、「どっちのほうが便利か」となったら、賭けてもいいですが、不便なもののほうが今は高いと思います。
「えっ?」と思うかもわからないですが、これもなんとなく頭の中のイメージだけで考えているからそうなっちゃう。例えば、自動車なんかを見てもそうでしょう? 今、一番高い自動車って、スポーツカーとかもっと古い車ですよね。50年前につくられたヴィンテージカーですと、もう何億円とかで売られているわけですけども。
エアコンが効いて燃費が良くて、プリウスみたいな車ってどうなのかと言ったら、これは200万~300万円で売られているわけです。じゃあどっちのほうが便利なのかと言うと、便利な車のほうが100分の1の値段で売られているわけです。あるいは今、新築の家を建てる人の間で、暖炉とか薪ストーブってすごく流行っているんですよ。
今、日本はもう熱帯みたいな気候になっていますから、家を建てる時は必ずエアコンを付けます。ボタン1つ押せば、暑くも寒くもない適温に部屋を保ってくれる便利な機械があるにもかかわらず、わざわざ薪をくべて暖を取るようなものを……あれ、けっこうなお金がかかるんですよ。エアコンより確実に高いんですが、それを入れたがるわけです。
どっちのほうが不便なのかと言ったら、明らかに薪ストーブのほうが不便。どっちのほうが高いのかと言ったら、薪ストーブのほうがぜんぜん高いわけですよね。便利にすると価値が上がるというのも、昭和の価値観です。
だから便利なものを作っている会社って、だいたい業績が悪いでしょ。きつい言い方ですが(笑)。みなさんのお父さんにもそういう会社の方がいらっしゃったら申し訳ないんですが、快適で便利なものを作っている会社って、今はどんどん業績が悪くなっています。
裏切られているわけですよ。そういうものに価値があると習っちゃったので、そういったものを作ろうとするんだけど、実際には世の中で価値はなくなっているんです。だから、騙されちゃいけない。ちゃんと世の中を見て自分で考えてね、ということなんですね。
あと今は、キャンプも流行っているでしょ。昭和の三大価値観は「安全・快適・便利」です。安全にすると価値が上がる、便利にすると価値が上がる、快適にすると価値が上がる。でも、キャンプブームって真逆でしょ? 危険で不快で不便にすることをやって、そのためにみんなすごくお金を使っているわけですよ。
(会場笑)
山口:今、危険で不快で不便にすることがお金になっているのに、「安全・快適・便利にすると価値が上がる」と思っちゃっているわけです。もう僕はこれ、10年ぐらい言っているんですけど、なかなか状況は変わらない。
山口:これは2007年の日本の携帯電話です。みなさん、下手すると生まれていない人も今日はいるかもしれないですけど(笑)。
2007年ってたった14年前なんですが、あの時って日本の携帯電話にものすごく元気があったんです。すごく高性能なものがたくさん出てきて、バンバンCMが打たれて、お店に行くと日本の携帯電話がずらっと並んでいて。事業もすごく元気だったんですが、日本では今、携帯電話を作る会社もほとんどなくなっちゃいました。
たった14年の間に、産業が蒸発しちゃったんですね。何がきっかけだったかというと、2007年にAppleのiPhoneが出てきたんです。Appleと言うと、みなさんからしたらスマートフォンの会社だと思っているかもしれないですけど、たった14年前なんですよ。
Appleってその前はコンピューターのメーカーだったんです。たった14年前にスマートフォンが出てきて、本当に軒並みお客さんを取られちゃったんですね。ですから当時は、日本の携帯電話産業はいろいろな意味ですごく注目されていたんですが、結果からすると極めてしょぼい産業だったということです。
4兆円ぐらいあるものすごく大きな市場だったんですが、たった10年でばーって取られちゃったわけですよ。産業の歴史に類を見ないぐらいのボロ負けです。じゃあ、なんでそんな惨敗しちゃったの? というと、惨敗した時って典型的にはだいたい理由がいくつかあるんです。
「やっている人がバカだった」「金がなかった」「運が悪かった」とか、理由はだいたいこの3つなんですけど(笑)。
運はよくわからない。お金がなかったのかと言ったら、資金がなかったこともない。日本を代表する起業のパナソニックやNECも、携帯電話を作るのをやめちゃいました。シャープはまだ作っているのかな。じゃあ、やっている人がアホでしょぼかったのかというと、そんなことない。逆に、極めて優秀な人たちがやっていたんです。
ということは、物事を考える時には起こっていることをそのまま丸呑みしないといけないです。理由は明白で、優秀な人が一生懸命やったから負けた。これが理由なんです。優秀な人が一生懸命やると、ものすごく弱い産業・利益の出ない事業ができるというのが、今の日本の状況です(笑)。
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