「自分たちなりの読み解きを、主体的にしていくこと」

沢渡あまね氏(以下、沢渡):あと1つ、私も個人的にモヤッとしたので、このコメントだけ拾っていいですか? 

斉藤知明氏(以下、斉藤):はい。

沢渡:「クリエイティブとオペレーティブのような二元論的解釈はわかりやすいが、本質をうまく表現できていない。工場の作業オペレーターの仕事はマニュアルに従いますが、常に改善の余地があると教育します」。

おっしゃるとおりなんです。「VS構造にしないでいただきたい」というのは、もうそのとおりで。物事のフレームワークって思考を促すために、例えば「A対Bの対立構造」を置いたりしますけれども、やっぱりそれで対立構造を煽るものではないと思うんですよね。

1回整理して「でもここは違う。だからここはこう取り入れていくべき」という、ハイブリッドな議論。いかに解釈をしていくか? が非常に大事で。フレームワークの言いなりにならずに、いかに対立構造とかを読み解いて正しく解釈していくか? 正しくアジャストしていくのか? が、私たちに求められる能力なのかなと思うんですよね。

おっしゃるとおり、工場の作業もオペレーターの仕事も噛み砕いていくと、そのマニュアルに従っている人たちと、そこに改善余地を疑ってプロセスの中で良くしていくという取り組みは、細かく定義していくと工場のオペレーターの仕事の中にも「クリエイティブな仕事・オペレーティブな仕事」って、また分かれていくんですよね。

これはやっぱり、細分化して考えていくのが大事なのかなと思っていて。今日、語りきれなかったんですけれども、詳しくはこの『バリューサイクル・マネジメント』のところで書いています。

バリューサイクル・マネジメント ~新しい時代へアップデートし続ける仕組みの作り方

斉藤:そうなんですよね。

沢渡:対立構造に乗るのもよくないし。やはりフレームワークを使いこなすというのは「自分たちなりの読み解きを、主体的にしていくこと」なのかなと思うので、そういう議論につなげていただけるとうれしいです。

ティーチングとコーチングの使い分け

斉藤:では次の質問です。「メンバーのアウトプットがマネジメントの期待値に届かないケースが多々あります。その時に期待も含めた育成のためにさまざまな指導をするのですが、それってメンバーの承認欲求を満たす妨げになっているんでしょうか?」。

沢渡:そんなことはないと思うんですよね。斉藤さんもよくご存知だと思うんですけれども、物事を教えるうえでティーチングとコーチングって2つありますよね。

慣れていない人に、あるいは決められたことをやれば答えが出せる領域において「これだけやってください」という領域も間違いなくあるワケで。その場合は「ティーチング、教えてあげる、指導する」というのが極めて合理的で。そこから知らないことを学んで、その人の成長にも間違いなくつながりますよね。

一方でコーチングというのは、共に答えを出していく、サポートをしていくという役割で。

やっぱりどっちも使い分けが非常に大事なのかなと思っていて。「この人はまだ初心者で業界も違うから、最初はティーチングでいこうよ。でもある程度できてきたら、そこからコーチングに切り替えよう」とか。できればそのモードを、指導する側が示してあげるといいですね。

例えば「最初の1ヶ月はまずとにかくこれに慣れてもらいたいので、まずティーチングモードでのぞみます。やってみて『おや?』と思うことは書き出して、1on1で言ってください」。

そこから「質問のレベルが高くなってきたな」とか、あるいはティーチングで教えてたけれども、初心者から来たフィードバックの「これ、こうしたほうがいいと思うんですけど」から「確かに」って(教える側が)学ぶ部分もあると思うんですよね。

そこから徐々にコーチングに切り替えていくというような。ティーチングモードなのかコーチングモードなのかを示しながら使い分けていくと、相手と気持ちよく仕事ができるのかな。相互リスペクトをしながら成長していけるのかなと思います。

マネジメントの一番の仕事は「期待値の調整」

斉藤:僕がマネジメント1年生の時に言われた、メンバーからの強烈な一言がありまして。「知さんって『後出しジャンケン』多いですよね」って言われたんですよ(笑)。

沢渡:それは少しショックですね。

斉藤:「やらかしたー!」と思って。何が言いたいかというと「期待値の調整」を事前にちゃんとしなかった。期待値を正しく伝えていなかった中で、評価の時に「期待値として伝えていなかったもの」を軸に評価してしまうと、こういう言葉を言われるという構造だと思うんですけど。

マネジメントの一番の仕事は「期待値の調整」なんですよね。「あなたに対して何を求めているか?」。それはタスクであるかもしれないし、目標であるかもしれないし、目的・課題であるかもしれないし、振る舞いであるかもしれないですけれども。

「あなたにこういうことを期待している。それに対して届いていたら、ないし近づいていたらちゃんと『よかったね』と伝えるし。離反していたら『そうじゃないんじゃない?』って伝える」という、この「期待値をちゃんと伝える」ことが何よりも大事なんだなって、僕の心に残っている。忘れもしない、サトウカイくんからの一言なんです。

沢渡:きちんと伝えてくれる部下って、すごく大事ですよね。

斉藤:いや、ありがたいですよ。本当に。

「ポリシー曲げてもらって本当に申し訳なかったね」の言葉

沢渡:私が部下時代の思い出話を1つだけすると。私がNTTデータに勤めていた時、まだ課長代理だった頃に、部長といい関係で仕事をしていたんですけれども。

ある時だけ部長が「ごめん。ここだけ僕に判断させて」って言ったんですね。それで、僕の意に沿わないやり方の判断をしたんですけども。その後、部長が私のところに来て「ポリシー曲げてもらって本当に申し訳なかったね」って言ってくれたんです。この一言がもう、すごくうれしくって。

やはり「自分にポリシーがあって、そのポリシーを元に仕事をしている。ぶつかっている」ことが認めてもらえた。受け止めてもらえたというすごい……。

斉藤:すてきですね

沢渡:今でもいい“元上司”です。最近はよく相談に、逆に乗ったりしてるんですけれども(笑)。

斉藤:いいですね(笑)。そうやって“元部下”に相談に行けるというのが、すてきですよね。

沢渡:本当うれしいですね。

斉藤:だから本当にそういう行動が、元部下であれど現部下であれど、ちゃんと相談に行けるという状態自体が「リスペクトされている」って感じるんですよね。

斉藤:僕、本当に自分にブーメランをぶつけながら話してるんですけど。「かっこよく見せようとすると、実はリスペクティング行動じゃない」っていう。「自分のほうが上だ」と言っちゃっているということなんだろうなって思うんですよね。

「経営から景色を合わせる。現場から景色を合わせる」

斉藤:ありがとうございます。では、改めてですけれども、本日はこちらで以上とさせていただければと思います。

では最後に沢渡さん、お一言いただけますでしょうか。

沢渡:はい。まさにこれから求められていくのが、経営の課題と現場の課題をいかに景色合わせしていくか。それによって組織の成長、個人の成長につなげていくかだと思います。

そのためには、やっぱり今までの型にこだわらず引っ張られずに、いかに新しい要素・発想をを取り入れていくか。その議論の中で、今までの大切なものを守っていく。本当に「両利きの経営」が求められる時代なのかなと思っていますので。

経営から景色を合わせる。現場から景色を合わせる。こんな情報を、これからも発信していきたいと思います。よろしくお願いいたします。

斉藤:はい。では改めて、本日もみなさんありがとうございました。まだ300人の方が残っていただいてましたね。本日のウェビナーは「マネージャーの新常識『リスペクティング行動』」でお送りして参りました。

本日はみなさんありがとうございました。

沢渡:はい。ありがとうございました。

斉藤:沢渡さんもありがとうございました。

沢渡:ありがとうございました。