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「なぜ、いま『内省』が必要なのか?」熊平美香×伊藤羊一『リフレクション』刊行記念対談(全5記事)

人が意見を変えられないのは、“感情”を捨てられないから 「内省」の第一人者が教える、自分の思考を知る方法

自分の内面を客観的、批判的に振り返る「リフレクション」(内省)。経済産業省が提唱する「人生100年時代の社会人基礎力」としても注目を集めています。本記事では『リフレクション(REFLECTION) 自分とチームの成長を加速させる内省の技術』の刊行記念イベントとして行われた、著者の熊平美香氏とZアカデミア学長・伊藤羊一氏の対談の模様をお届けします。伊藤氏が内省の大切さを感じている理由や、リフレクションに重要な「認知の4点セット」について語りました。

リフレクションを、日本の当たり前にしたい

司会者:それでは登壇者をお呼びいたしましょう。熊平美香さん、伊藤羊一さん、よろしくお願いいたします。

伊藤羊一氏(以下、伊藤):よろしくお願いします。

熊平美香氏(以下、熊平):よろしくお願いいたします。

司会者:さっそくですが、お一人ずつ自己紹介からお願いできますでしょうか。まずは熊平さん、お願いいたします。

熊平:はい。熊平美香と申します。よろしくお願いいたします。リフレクションラブ(笑)。

司会者:(笑)。

熊平:なので、こんな本(『リフレクション 内省の技術』)を書いてしまいました。リフレクションを日本の当たり前にしたいと、かれこれ5年以上活動してきたんですけども、なかなか自分1人でみなさんにアクセスすることができないので、本という手段は素晴らしいと思って書かせていただきました。

リフレクション(REFLECTION) 自分とチームの成長を加速させる内省の技術

教育を変えたいという熱い思いを持って、さまざまな活動をさせていただいております。ダイバーシティの推進などもやっております。どうぞよろしくお願いいたします。

学長になってから内省の重要性を再認識した

司会者:よろしくお願いいたします。それでは伊藤さん、お願いいたします。

伊藤:みなさん、こんばんは。伊藤羊一でございます。今、私はヤフーやZOZO、アスクルや一休、ほかたくさんの企業が入ったZホールディングスという一大インターネットカンパニーで、Zアカデミアという企業内大学の学長をしております。Yahoo!アカデミアから数えますと、これから7年目に入るところですね。

本日から武蔵野大学で、日本で初めての「アントレプレナーシップ学部」を立ち上げて、その学部長に就任いたしました。

Zoomの背景も入れずに、なんか生活感がある場所にいるんですけど。武蔵野大学のアントレプレナーシップ学部は1年目が全員入寮で、73名が1年間共に暮らします。なので、青学(青山学院大学)の駅伝の原監督みたいなノリで、私も一緒に寮に住んで、寝食を共にしながら学生の成長を見守ろうということで。

Zホールディングスの仕事もこの寮からする。テレワークになったのでめちゃめちゃやりやすくなったのでこのスタイルが実現できています。

僕もYahoo!アカデミアの学長をやるようになってから、「やはり内省だな」と思って。それ以前も、自分で振り返りをする習慣がちょっとずつ付いている中で、振り返りをすごく大事にしていて。まさにリフレクションですよね。

ただ、本能に任せてなんとなくやってたんですけど、熊平さんの本を読んだら、「そうか! こういうふうにやればこことここが分離できるわ」とか、「こうすることによってより深まるわ」みたいなところがあったり。

本当に今、勉強中で、Zアカデミアの人間にも、「全員『リフレクション』を読んで勉強しよう」と指示しています。今日は対談というより教えていただくことも多数あろうかと思いますけれども、ぜひどうぞよろしくお願いします。

熊平:ありがとうございます。よろしくお願いします。

司会者:ありがとうございます。

熊平:こちらこそ光栄です。

「振り返り」と「気づき」で成長している実感がある

司会者:今回はテーマに合わせて、9つの小テーマをご用意しております。こちらを元に、お時間が許す限り、自由にお二人のお考えをお話しいただければと思います。では、さっそくバトンをタッチさせていただければと。お願いいたします。

熊平:バトンタッチ(笑)。

伊藤:今日参加されている方が『リフレクション』をどのくらい読んでいらっしゃるかわからないんですけど、別にヨイショするわけでもなんでもなく、この本、ヤバいですから! まだ読んでなかったら必読です。本当にすげぇなと思って。

この本の一番最初にある、「内省とは何か?」とか、「認知の4点セット」と「推論のはしご」の2つが振り返りの基本に当たると思うので、ぜひ基調講演的に。「つまりこれはどういうことなんだ」みたいなところを、まず最初にお話しいただけたらなと思って。

熊平:ありがとうございます。すごく関心を持っていただいたんですけども、伊藤さん、「なんでそこが気になりました?」と聞いてもいいですか?

伊藤:もちろんです。なんで僕が興味を持ったかというと、僕は僕で「振り返りってめちゃめちゃ重要だな」「振り返って気付くことで成長って決まるな」「これ、気付きの回数だな」みたいなね。ここ10年ぐらいで「最近成長しているな」と毎日、自分で感じるくらい変化がありました。

そんなことを言うと聞いていらっしゃる方が、「あいつ、ちょっと大丈夫か」と思うかもしれないけど、そう思われてもいいから俺は言いたい! 振り返りと気づきで成長しているんだという実感があるのです。

熊平:(笑)。

伊藤:一方で、振り返りは『1行書くだけ日記』で書いたように、まず言語化して、「それが自分にとってどういう意味であるか、なぜ重要だと思ったのか」というso whatを考えて、Aha! と気付くんだと。Aha! と気付いたら次やってみようって、これだけをやっています。

1行書くだけ日記 やるべきこと、やりたいことが見つかる

でも、自分の体調の良い悪いで気付きの質って変わりますし、うまくできる人と、「いやぁ、わかるんですけど、どうやって考えたらいいんですか?」とわかんない方もけっこういる。

その時は「とにかくがんばって気づくんだ!」などと言ってたんだけど、「待てよ」と。そこを考える時に、まさに『リフレクション』で書かれているかたちで順を追って考えていくと、ガイドになるなと思ったんですよね。

よくよく考えると、ボーッと深く考えたり、とにかくウーンと考えるんじゃなくて、4つに分けて考えるとか、順を追って考えていくと、僕自身がより深い気付きになるし、人に対しても「気付きってこうやってやっていくんだよ」 みたいな(説明をする)ことができるかなと思いまして。

意見の背景を知るための「認知の4点セット」

熊平:ありがとうございます(笑)。今のお話もまさに(認知の)4点セットで聞き取っていたんですけど、やはり伊藤さんも、もっともっともっと! と渇望しているじゃないですか。

伊藤:ああ、そうですね。

熊平:それが価値観ですよね。感情もそうですけど、「もっと成長したい」「もっとみんなにリフレクションの良さを伝えたい」「もっと上手にやってほしい」という価値観があるのが4点セットなんですよ。

伊藤:ああ、すげぇ! 僕、今気付いちゃったんですけど、要はリフレクションというと、内省みたいに自分が振り返る時にやることもあるんだけど、人の話を聞く時も当てはめて考えてみれば、(気づきを)受け取れるわけですね。ああ、すげぇ! 

熊平:そうなんです。本に書きましたけど、つまり人間誰でもやっていることなんです。ただ、私たちは普通に話す時、(その意見が何から形成されているのかを)分ける習慣がないじゃないですか。それを分けようというのがこの本のポイントになります。

伊藤:めちゃめちゃすごい! 確かに僕は「もっともっと」って、「俺は満足できねぇ」というのが口癖なんです。「I can't get no satisfaction.だ」と言っていて。

熊平:(笑)。

伊藤:ストレングスファインダーでも、やはり「最上思考」というのが3番目ですね。

熊平:そうなんですね。その価値観がおありだから、素敵。それで認知の4点セットなんです。

自分では気づけない、自分の意見にある「背景」を明らかにする

熊平:認知のプロセスのことを推論のはしごとも言うし、もともと学習組織ではメンタルモデルと言われているものだったんですね。

メンタルモデルは、「この人はこういう人だ」とラベルを貼るのもそうですけど、なにかを経験したら「この人はこういう人だな」と判断の尺度を作っていって、そのレンズでその人を眺める。なにかを経験すると判断の尺度が作られていくことを、はしごで説明しているんですよ。

(メンタルモデルは)私たちが物事を見ることを、何においても規定しちゃう。だから、それに気付きなさいというのが、学習する組織でメンタルモデルの活用方法と言われていたんです。それはわかるんですけど、自分で気付くのは難しいと思ったんですよ。

伊藤:うん。

熊平:自分で意見の背景を分析するほうがはっきりするなと思って。意見の背景には必ず経験で知っていることがあるから、何を知っているからその意見になっているのかとか。

意見の背景にある経験の記憶と感情はつながっているから、背景にどんな感情があるのか、物の見方の価値判断が入っているのでそれは何かとか。そういうことを、自分で見るように考え直したほうが、はしごで捉えるよりはいいなと思ったのがまず1つ。

人が意見を変えられないのは、「感情」が判断の軸にあるから

熊平:もう1つ、脳科学では、結局私たちが判断する時、目的を設定する機能を感情が果たしているという話もあって。

伊藤:ええ!

熊平:例えば、伊藤さんが「もっとリフレクションしたい」と言うから、その方法を考えるじゃないですか。

伊藤:はい。

熊平:でも、「(自分の)失敗は見たくないんですよね」という人は、そこでリフレクションが停止する。 

伊藤:それはそうだ。

熊平:感情が先にあって、目的設定して、思考が巡るんですよね。感情は私たちの判断の重要な軸になっている。ところが、いつも私たちはロジカルな話をする時に、感情って出さないじゃないですか。

伊藤:なるほど!

熊平:これはすごく間違っているんだなと。「役員会って、実は感情なんだな」みたいな。

伊藤:なるほど、なるほど。

熊平:それで感情が重要という話と、経験の記憶が感情と紐付いているという話がつながってきて、「ああ、わかったぞ」と思ったんですよ。人が意見を変えられない理由は感情なんだなと。感情の記憶が「僕、それ手放したくない」みたいな(笑)。

伊藤:なるほど。

経験や価値観は、実は「感情」に紐付いている

伊藤:意見があって経験が紐づいている。経験がその意見を作っていくのはめちゃめちゃよくわかるし、経験があるから価値観が生まれて、意見になっているということはすごくストレートにわかるんですね。経験から価値観が生まれている部分もあるし、他のことから価値観が生まれているものもある。

ここがつながっているのはわかるんですけど、例えば僕が「リフレクションが大事だー!」と言っている意見に対する感情は、「もっともっと」という思いなんですか?

熊平:no satisfaction.なんだったら、もっと満足したいという気持ちがありますよね。

伊藤:はい。

熊平:世の中にはいろんな満足があると思うんですけど、伊藤さんの場合の満足の方向は、より良くなる、進化する、成長とか学習とかの価値観に寄せた「もっと」だと思うんですよね。

伊藤:はい、そうですね。

熊平:その価値観は、感情と紐付いているわけです。つまり、「伊藤さん、このままでいいじゃないの」と言ったら嫌でしょう?

伊藤:なるほど。「嫌なんだ。俺は嫌なんだ!」みたいな。

熊平:嫌でしょう。感情が「嫌だ」と言っているけど、価値観は「学習できない状況が嫌だ」と言っているんですよね。

伊藤:なるほど、なるほど。

熊平:要は、価値観が満たされていると気持ちがポジティブになって、逆に満たされていなければネガティブになるんです。

伊藤:なるほどね。

熊平:これは経験で形成されると言います。私たちは幼少期からのいろんな積み上げの中で、経験を意味づける時に価値観を使うし、新たな価値観を自分の中に取り込んでいく。複雑なものだとは思いますけど、それ(価値観)を選んでいる段階で、感情なんです。

心が動いていないとき、人はなにも聞いていない

熊平:もっと言っちゃうと、どうでもいいことは人は聞いていないんですよね。感情が動いていないから(笑)。

伊藤:なるほどね。

熊平:だから、感情は学習において非常に重要な役割を果たしていて。

伊藤:いやぁ、それは初めて認識したな。今。

熊平:これは私もインターネットで学んだんですけど、アメリカとかだと、ニューロサイエンス・イン・ザ・クラスルームという脳科学と教室を結びつける考え方があって。要は子どもたちの心が動いていない時は、なにも学んでいないよと(笑)。学びの設計を考え直したほうがいいよというご指摘なんですよね(笑)。

伊藤:なるほど。

熊平:4点セットはそういうことだったりもするんですよ。でも、もう1つだけ、ビジブルシンキングという思考を可視化するフレームワークがあって。ハーバードの教育大学院のプロジェクト・ゼロ(という教育研究機関)で研究されていて、それにすごく共感したんですよ。

伊藤さんがさっき言われたように、「もっとリフレクションしてほしい」とか、「もっと考えようよ」とこっちは思っても、相手は「ええ!? わからない」と(笑)。

学校の先生も同じだというんですよ。先生はもっと深く考えてほしいって思うんだけど、生徒は考えてくれない。その時に、上質な思考の型を子どもたちに渡して型を共通言語にすると、上質な思考ができあがっていくという研究があって。そこではいろんなフレームワークがあったんです。やはりフレームワークはパワフルだなと思いました。それで4点セットになったんです。

伊藤:なるほどね。モヤモヤモヤと頭が混乱しちゃって、「うわー、わかんない」じゃなくて、そのフレームワークがあるから、ちゃんと4つに分けて考えられますもんね。

熊平:そうなんです。人間はみんな知っているし、本当はやっていることなんです。

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