習慣をゼロから仕掛けられるか

鍜冶村忠氏(以下、鍛冶村):ちょっとまた、いろいろチャット(に質問)が。

中川悠氏(以下、中川):すごいですね。

鍛冶村:「きっかけについて、世間の動きや情勢だけでなく、自分たちでつくり上げることもできるんでしょうか」。

中川:あぁー、まったくゼロから。けっこう難しいというか……。

鍛冶村:仕掛ける感じですよね。

中川:ぜんぜんありだとは思うんですけど、意外とないものって、なにか理由があってないから。ちょっと博打感が出ますよね(笑)。

鍛冶村:あぁ、確かに。ブームは仕掛けられるけれども、いわゆるトレンドのような、自然発生的に起こってる習慣化する兆しを見つける行為のほうが正しいってことですか。

中川:そのほうが正しい気がして。

鍛冶村:作為性がないほうがいいってことですよね。

中川:作為性はあってもいいんですけど、何だろうな……思い描いているその瞬間が今まで誰も使ってないようなシチュエーションで、例えば消臭スプレーを傘にかけますと。確かに、実際に傘にかける人はいるとも思うけど、すごく水面下じゃないですか。消臭スプレーを傘にかけるのを大々的なキャンペーンでやっていきましょうといって、火がつくかどうかはわからない。

火がつくかもしれないですよ。だけど、いわゆるイノベーターとかアーリーアダプターぐらいの人の中で徐々にきてるみたいな状態でやったほうが、(ゼロからつくるよりも)得ではありますよね。僕の広告会社は基本マスマーケティングも手がけているので、マスに広げる上ではそういうことをやったほうがいいと。

鍛冶村:あぁ、なるほど。

2割を狙うか? 8割を狙うか?

中川:例えばハイブランドとか、新しい雑誌をつくるとか。世の中って2割と8割の人がいて、2割を狙っていくものなのか、8割を取り込んでいくものなのかでぜんぜん変わると思うんです。僕の脳みそはもう8割の人を狙う発想になっちゃってるんで。本当のイノベーションは2割を当てることなのかもしれないんで、ちょっと一概に言えないところもあって。そこってけっこう会社の中でも……。

鍛冶村:今けっこう重要な話してますね。

中川:妙にかっこよくしたがる人とか、妙に思いっきりずらす人とか、「合わないな」ってあるじゃないですか。あれが僕は危険だと思う。

鍛冶村:(笑)。

中川:2割を狙うか? 8割を狙うか? そこの差はめちゃめちゃあると思います。もう僕は、宗教の違いだと思ってるんですよ。

鍛冶村:うん、これすごい大事な話ですよね(笑)。

中川:アパレルでも、ハイブランドをやりたい人と、ファストファッションをやりたい人では、宗教が違うじゃないですか。そこも関わってくるイシュー(課題)なのかなという。

鍛冶村:今回の話はどちらかというと、マスに向けてということですよね。

中川:そうです、そうです。

鍛冶村:いわゆるイノベーターを狙った、エッジの効いた習慣化の話ではなくて。マスマーケティングの中ですね。

中川:僕は、そんな感じの宗教で書いてますね(笑)。

短期的な数字と中長期的な数字は、「and思考」で考える

鍛冶村:なるほど(笑)。ちょっとまた質問がきてますね。

「短期的な数字を追っている企業が、長期的な数字を追う方針にシフトするためには、まずどのようなアクションから始めるべきでしょうか。前者のほうが評価されやすい環境も多いと思っています。事業会社・代理店、双方の視点で伺えますと幸いです」。

中川:これは難しい……!

鍛冶村:難しそうですよね、これ。

中川:結果、ほとんど短期的に追いかけちゃいますよね。

鍛冶村:よく言う「PL経営からBS経営」とか、こういう話じゃないですか。いわゆる会社の価値資産を高めたほうがいいんじゃないかという。ただ短期的にはお金にならないので、「じゃあどうするんだ」って現場との乖離があったりとかいう話はよく出てきますけど。

中川:難しいですね。鍛冶村さんどうですか(笑)。

鍛冶村:(笑)。

中川:これって変わるんかいな、とも思ってはいるんですけど。今しゃべっててなんとなく思ったのは、中期的な数字を狙うからといって、短期的な数字を狙わないわけではないという話はある気がしています。

どういうことかというと、結局「習慣化」は1つの仕組みなんですよね。当然その仕組みをつくって、ループを回すけど、そこにCMとかキャンペーンとか短期的なものをやれば、やっぱりグンと数字が上がるんですよ。それはそれでいいじゃないですか。

変にブーム的にならないようにするのもあるけど、習慣化のループがちゃんと組み込まれてたら大丈夫だと思うんです。短期的なのも狙うんだけど、ちゃんと中期目線も持っとかなくちゃいけないって話なのかなと思ってます。

鍛冶村:なるほど。「or思考」じゃなくて「and思考」のほうがいいってことですよね。

中川:そんな気はします。僕も「習慣化とは言ってもね」みたいな話に当然ぶち当たるので、短期的なのも狙うんですけど。僕が言うのもなんだけど、ちゃんと中期的に売れ続ける仕組みがないと、永遠に「広告」をやることになって疲弊する。

伸び続ける仕組みがないと、ダウントレンドじゃないですか。ダウントレンドだと上がってまた下がっていくけど、上昇トレンドのところに油を注ぐと、上がって、もう1段上がってくる。ダウントレンドを上昇トレンドにするために、中期的な仕組みは入れといたほうがいい。でも当然、それを組み込んだ上で短期的な成果も狙う気がします。だから「or」じゃないですよね。

鍛冶村:「and」ですよね。あと商材も1つとは限らないですもんね。商品のライフサイクルが早いものもあれば、中長期で追っかけて投資していくものもありますよね。

中川:そうだと思います。でも、みなさん悩みは同じですね。

習慣を定着させる「現象化」

鍛冶村:そうですよね。実際、習慣化してアディクションのループを回して、ある程度設計ができたものを、拡散していくところはどうやっていくんですか。これまでと違うやり方でやるんですか?

中川:そしたらこれも映しますね。本に書いてあるんで、詳しくはご覧いただければと思うんですけども。今までの広告とかコミュニケーションの活動は「理解させる」「態度変容を起こす」だったと思うんですけど。これからはやっぱり「行動を変える」から、どっちかというと「現象をつくる」感じなんですよ。

鍛冶村:あっ、そうなんだ。僕は「習慣化」自体が態度変容なのかなと思ったんですけど。

中川:態度変容も当然あるんですけど、結果「行動」を起こさないと意味がなくて。「行動」の集合体が「現象」なんですよ。要は、みんなの頭の中で何となく「これいいよね」じゃなくて、「外でああいう人見た」とか、「これ飲んでる人がTwitterにいる」とか。

鍛冶村:なるほど。

中川:でも現象化できないと、広告を打って終わっちゃう。広がっていかないんですよね。

鍛冶村:「こうあるべきだ」って理性で感じるよりも、本能的にやってる人がどんどん増えてる状態を「現象化」って呼んでます? 現象化っていうのがちょっと……。

中川:自然発生的に行動が広がっていくこと。なにもしなくても商品を利用する人が増えているように、行動が見えること。

鍛冶村:パラドックス的に、それが習慣だってことですね?

中川:習慣を定着させるには、現象化が必要だと。

鍛冶村:難しいな……。

中川:(笑)。習慣を世の中に広げる。例えば歯磨きをしている人がたった1人だったら、ビジネスにならないじゃないですか。家族全員が歯磨きする人ようになったら、家族ぶんの商材は売れる。その歯磨きした人が「これめっちゃよかったわー」って周りにカンバセーションして、別の世帯もやりだしたら、広がるじゃないですか。

鍛冶村:それが現象っていうことですよね。勝手に広がっていく感じ。

中川:それが現象。(行動が)表出している状態が大事な時に意識したいことを、この「1→10」と「10→100」でまとめてあるんですよ。ただこれを説明するとけっこう難しいから、ご興味のある方は本を読んでいただければ。

中川氏の考える「マーケティング×デザイン」とは

鍛冶村:最後、いい感じですね(笑)。

中川:(笑)。

鍛冶村:この話、たっぷり話すと3~4時間ぐらいかかっちゃいますもんね。

中川:取り留めがないですし、みなさんのご質問もあって楽しいですね。

鍛冶村:そうですね、いろんな質問をいただいて、だいぶお時間になってきたので(笑)。毎回(登壇者の)みなさんにお聞きしてるんですけども、中川さんがこの先、未来に対して何を描いて「マーケティング×デザイン」されているのかを、書いていただきたいなと思って。

中川:はい。……それはマジで考えてこなかったんですよね(笑)。

鍛冶村:(笑)。

中川:どうしようか、今もまだ迷ってます。書こうと思ってたやつをやめようかなって。

鍛冶村:最悪、白紙でもいいです(笑)。

中川:白紙(笑)。もう1回、質問は何でしたっけ。

鍛冶村:マーケティングの新しいデザイン、「マーケティング×デザイン」。習慣化というマーケティングの新しいデザインをしてるじゃないですか。世の中に対して何の新しさをつくっていくのか、何を変えていきたいのか。パッと思いついたことでもいいので。

中川:じゃあ、普通のことを書いていいですか。

鍛冶村:大丈夫です。

中川:めちゃくちゃ普通のこと書きますよ。

鍛冶村:……おぉ。

中川:(笑)。

鍛冶村:いやいや、普通っていうか、いいですね(笑)。どうぞ。

習慣から「文化」をつくりたい

中川:いいですか。僕の考えるこれからのマーケティングのデザインは、「文化」。

鍛冶村:文化をつくる。カルチャーですね。

中川:カルチャーです。やっぱり習慣の話もしてますし、僕のほうは生活文化ですよね。いわゆる音楽とか映画とかではなく、習慣が広がって、それが世の中に残れば、文化になる。ど忘れしちゃったんですけど、誰かが「文明はなくなるが文化は残る」と言っていて。確かに、マヤ文明とかの文明はなくなっているけど、人々の営みは変わらないじゃないですか。

マーケティングは、短期的な売上とかだけじゃなくて、人がずっと生き続ける上で幸せになるためのもの。習慣本とかもすごく売れてるように、「人は1日にして幸せになれないもの」とみんなが気づいている。続けることで世の中がハッピーになっていく文化って、そんなにいっぱいは作れないんですけど。死ぬまでになにか大きな文化が、1個でもできればいいなと思いながら、日々仕事している感じです。……真面目に終わりました。

鍛冶村:(笑)。今日は時間も限られているので、全部を話しきれなかったと思います。中川さんが執筆された、『カイタイ新書』という本が出ておりますので、ぜひご興味ある方はお買い求めいただければと思っております。

中川:ありがとうございます、助かります。

鍛冶村:助かります(笑)。

中川:「さっそく購入しました」って方が。いや、すごいなぁ。

鍛冶村:すごいですね、さすがっすね(笑)。

中川:今日は出てよかったです。ちょっと1個だけ「不動産とかLTVが低いやつはどうしたらいいですか」という質問があったので。たぶん僕が答えるより、『アフターデジタル』って本があって。

鍛冶村:知ってます。

中川:僕の本よりよっぽど良い本なので、『アフターデジタル』を読まれると、このあたりの悩みが解決するかもしれないです。ぜひ、オススメです。

鍛冶村:なるほど。じゃあ『カイタイ新書』と『アフターデジタル』を購入されると、ってことですね(笑)。ありがとうございます。

カイタイ新書 -何度も「買いたい」仕組みのつくり方-

中川:あ、(質問者からコメントで)「買います」って(笑)。

中川:(笑)。中川さん、本日は1時間どうもありがとうございました。

中川:ありがとうございます、めちゃめちゃ楽しかったです。ありがとうございます。

鍛冶村:僕も楽しかったです。ありがとうございました。