教育系YouTube『とある男が授業をしてみた』の葉一氏

小幡和輝氏(以下、小幡):ゲストの葉一さんをお招きしたいと思います。もうみなさんご存じの方も多いと思いますが、“教育系のYouTuberの走り”というか。ずっと昔から活動をされていて、チャンネル登録者も100万以上です。

この前『情熱大陸』にも出られて、僕も非常に楽しみにしておりました。では、葉一さんをお招きしたいと思います。よろしくお願いします。

葉一氏(以下、葉一):葉一です。よろしくお願いします。

小幡:まぁ、もう知ってる方もたくさんいらっしゃると思いますが……。

葉一:いやいや。

小幡:いやいや、超有名人ですよ。簡単に自己紹介をいただいてもよろしいですか? 

葉一:YouTubeチャンネル『とある男が授業をしてみた』をやっております。葉っぱの葉に数字の一で、葉一(はいち)と申します。一応メインの活動として、小学校3年生から高校生までが、学校で勉強する教科書レベルの授業動画を配信をしております。本日はよろしくお願いします。

小幡:お願いします。楽しみにしておりました。今日の(イベントの)ゲストの高濱(正伸)さんと茂木健一郎さんは、けっこう昔から知っているんですけれども、実は葉一さんは今日初めてお話を……。

葉一:そう、初めてなんですよね! 

小幡:ということで、僕はすごく楽しみにしています。

葉一:ありがとうございます。お願いします。

「教育系チャンネル」がYouTubeの可能性を広げた

小幡:実は昔から、葉一さんに注目をしていて。特に子ども向けのYouTubeのイメージを、すごくポジティブに変えられた方だなと思っています。例えばHIKAKINさんやゲーム実況とか、もちろんだめではないんですけれども、いろんなYouTubeがあったらいいなと思っていて。

学校の勉強をわかりやすく解説する先生がYouTuberにいるのって、YouTubeのいろんな可能性が広がるし。「すごくいいな」とずっと思っていて。

葉一:ありがとうございます(笑)。

小幡:もう、ファンみたいな感じで(笑)。

葉一:すごく満足なんで、そろそろ終わりますか! 

(一同笑)

小幡:「いつも見てます」ってコメントがめっちゃ来てて、やっぱりすごいなって。

葉一:本当ですか!? ありがとうございます。

塾講師を退職後、YouTuberの道へ

小幡:どこかで話したこともあるかと思うんですけど、一応改めて(お聞きします)。最初、なんでYouTubeをやろうと思ったんですか?

葉一:きっかけは、YouTuberの前職が個別指導塾の正社員で、普通に塾講師として働いていたんです。けど、やっぱり月謝の関係で塾に通えないご家庭が想像以上に多かったんですよね。

集団塾と個別指導塾だと、集団塾のほうがちょっと安価になっていて。集団塾なら通わせられるご家庭もあれば、そもそも塾(に通うこと)自体の選択肢がないご家庭もある。

多くの方がそれを「仕方がないことだ」とおっしゃる。もちろんその気持ちもわかるんですが、「いや、これを『仕方ない』で済ませていいのか……?」とずっと思っていて。

それで働きながら「子どもたちからお金をもらわずに、子どもたちに教育を届けられないかな」「でも俺も生活があるから、お金ももらわなきゃだよな」と考えて、塾講師を辞めたんですよ。(先のことを)何も考えていない状態で。

小幡:へぇ〜。

葉一:(塾を)辞めて、2012年のある日YouTubeを見ていたら、「おや」と。YouTubeって、アカウントを作らなくても視聴ができるんですよね。もちろんお金も発生しないし、「ここに授業動画を投稿したら、子どもたちも見られるじゃん」と思って。その翌日から動画投稿を始めて、気付いたら9年目になってましたね。

小幡:いやぁ、9年というのがすごいですよね。もちろんYouTubeって昔からありましたけど、やっぱりここ数年のトレンドじゃないですか。

葉一:そうですね。

家庭間の経済格差が、思いっきり教育格差につながる

小幡:9年前からずっと(動画投稿していること)は本当にすごいなと思うし、さっきの高濱さんのお話にすごく絡むところがあって。高濱さんとお話ししていたのが、「学校は土台で、セーフティネットとしてある」と。

でもやっぱりここ(学校)だけじゃ足りなくって、塾やいろんなサービスを受ける必要があるんだけれども、「学校がなくなって全部民間になることをよしとはしないよね」という話をしていて。

僕らは民間の教育事業者だけれども、僕らのものって当然ながらお金がかかりますから。選択肢がここ(民間)しかないとすると、家庭間の経済格差が思いっきり教育格差につながる。だからやっぱり、「お金に関係なく、学びの環境をどう届けていくかがすごく大事だよね」という話を、実はさっきしていたんですよね。

その中で、まさに葉一さんの動画はレベルもめっちゃ高いし。しかも、ちゃんとそこで葉一さん自身もお金を稼げていて、コンテンツを提供し続けられることが、めちゃめちゃいい仕組みでまわっていて。本当にとても……。いい話しかしない(笑)。

葉一:やべぇ、俺、今日めちゃくちゃ褒められますね!(笑)。

小幡:いや、本当に今日は楽しみで。

葉一:うれしいです。

マイナーだった教育チャンネルを「やってきてよかった」と思えた瞬間

小幡:9年間(YouTubeを)やられていて、(チャンネル開設の)最初に見ててくれてた人とか、たぶん大人になってる人もけっこういるし。

葉一:普通に働いてる方、いっぱいいますね。

小幡:そうですよね。いろんな話を聞いて、「やってよかったな」という状態かなと思うんですけど。自分の授業を受けて大人になった人たちがけっこう出てきて、改めて自信になったりしますか? 

いわゆる他の先生の授業や学校の塾とか、いろんな選択肢と比べた時に、「自分は負けてないな」「ちゃんと自分の授業を自信を持って届けられるな」って……。

葉一:コンテンツの内容的にってことですよね? 

小幡:そうです。

葉一:実は、コンテンツの内容に関してはずっと自信があるんですよ。自分の授業動画を見ていれば、絶対に成績を上げられる自信があるので。

小幡:すげぇ。

葉一:そこは意外と昔から……(自信がある)。塾講師を3年間やっていたんですけど、けっこう営業気質の強い会社で、数字で判断や評価をされるんですが、3年間ほとんどトップ3にずっと入り続けていたという自信もあったので。

でも、付加価値というか、それとは違う部分で自信になっていることがあります。やっぱりうちのユーザーの子たちも不登校の子が多いんですよね。「学校に行きたくても行けない。でも勉強したい」という子たち。今でこそ、このチャンネルの認知が広がったので「それもありだよね」と言われますけど。

でも、数年前の(教育系チャンネルが)ぜんぜんなかった時は、YouTubeで勉強している子はもうめちゃくちゃマイナーなわけですよ。だからやっぱり、子どもたち自身も「これでいいのかな」と、絶対どっかで思っていたはずなんですよね。

でも今、あの子たちが大きくなって振り返って、たまに連絡をいただくので。振り返った時に「あの時はすごく迷っていたけど、あそこで努力したのは間違ってなかった」というのが、文面からもすごく伝わってくる時に……。

小幡:あぁ、めっちゃいいですね。

葉一:「やってきてよかったなぁ」というのは、すごく思いますよね。

学校に通うことは、あくまで選択肢の一つ

小幡:葉一さん自身も授業自体にすごく自信があるし、実際にそうやってたくさん感謝のメッセージをもらっている。その中で逆に「学校に行かなくても、葉一さんの授業だけを受けていればいいじゃん」という子どもが増えたり、実際にちょっといるような気もするんですけど。

葉一:います。

小幡:今の学校の状態やそういう子どもたちの声を聞いて、どうお考えですか?(笑)。

葉一:(笑)。

小幡:難しい質問かもしれないですけど。

葉一:ぜんぜん。でもよく「塾や学校ってなくなってもいいですよね」という意見があるんですが、これは微塵も思っていなくて。まずそもそも、学校で学べることって授業だけじゃないですよね。“集団活動の中で学べること”って、絶対に自分の(YouTube)チャンネルじゃ学べないので。

ただ、「子どもたちのコミュニティの中で学ぶことが必須ではない」と思っているんです。だから「学校には行かなきゃいけない」とは微塵も思ってないですが、「行かなくていいよね、無駄だよね」とも思ってないんですよ。

(学校に行くことは)「ただの選択肢の1つでいいよね」という発想なので。子どもたちの中には「学校サボってこれ見てりゃよくね?」みたいな子もいますよ。「たぶんそれは違うぞ」と思ってますし(笑)。

でもやっぱり、いろいろあって「(学校に)行きたくないな」と思っている子たちが、「だったら行かなくてもいいよ。勉強はここで任せてくれ」という選択肢でいいんじゃないかなと思っています。

小幡:すごく共感ですね。学校でやっていることをいろいろ分解した時に、「これは学校じゃなきゃできないよね」「これは学校ならできるな」とか、いろいろあるなと思っていて。

学校は、学びの選択肢の1つなので。その中で勉強の部分に関しては、葉一さんのYouTubeを見るなり、いろんなものですごく補えるようになってきて。(学校という)コミュニティに関してはすごく価値があるなぁと思うし、やっぱり「学校は手段・選択肢である」と僕は言い続けたい。

葉一:そうですね。

学校の先生にすべて任せるという、間違った価値観を持つ親

小幡:「とりあえず学校に行っときゃ安心」という人が、本当に多すぎる。

葉一:そうそう。間違いない。

小幡:学校が全部をやってくれるというか、そもそも学校に期待しすぎだし。だからこそ逆に、学校に合わなかったり不登校になった時に、本人の劣等感や周りへの偏見につながってしまうと思っています。学校の価値や役割を、いい意味でちょっと下げたいなと思うんですよね。

「学校は無駄」とかは本当に思っていなくて。学校でやっていることはすばらしいことなんだけれども、「ここじゃなくてもできるよね」と。「学校が好きだ」「友達に会いたい」と、学校でやるのが合っている人はもちろん学校に行ったらいいです。

葉一:そうです。

小幡:やっぱり、そこをずっと言いたい。

葉一:本当にその通りですね。

小幡:めっちゃいいですね(笑)。

葉一:「学校の価値をいい意味で下げる」というのは、いい言葉ですね。今、期待値が上がりすぎちゃっているから、“学校の先生にすべてを任せる”という、ちょっと間違った価値観を持ってる親御さんも出てくるじゃないですか。

それが学校の先生に負荷をかけすぎちゃって、業務を潰しちゃうから。先生が生き生きと仕事ができないって、いろんな負のスパイラルにはまっているなと思っていて。

小幡:本当にそうなんですよ。みんな、学校の先生に負担をかけすぎですよ。

葉一:そう、本当に。いいですね。自分、今の表現をどっかで使いますね! 

(一同笑)

小幡:まさにそう。やっぱり期待値は下げたほうがいいと思う。みんな学校に期待しすぎだし、負担をかけすぎていると思う。

葉一:そう思いますね。

小幡:でも「(学校に行くのは)無駄!」という話は、本当にしないので。ここを誤解されたり切り取られたりして、たまに叩かれるんですけど。

葉一:そうなんだ(笑)。

小幡:そんなこと、僕は一切言ってない。「学校に行かないほうがいい」「無駄」とか言ったことないし。行きたい子はもちろん行ったらいいけど、「他に選択肢もあっていいよね」とはやっぱり思っていて。

葉一:そうですね。「それじゃなきゃだめ」というのは、絶対に間違っていると思いますよね。