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内科医が話すストレスと自律神経の話(全3記事)

すぐに弱音を吐いちゃう人ほど、実はストレス回避力が高い? “つらたん”状態からは「無理しないこと」でしか抜け出せない

SNSを通して医療の情報を発信するプロジェクト「SNS医療のカタチ」。YouTubeで開催された一般市民公開講座「SNS医療のカタチONLINE」の第10回目となる今回のテーマは、「内科医が話すストレスと自律神経の話」。ゲストに内科医の國松淳和氏を迎え、SNS医療のカタチメンバーとのトークセッションが行われました。本記事では、國松氏がストレスとの付き合い方を解説しました。

「つらたん」という感情は、悪いことばかりじゃない

國松淳和氏(以下、國松):続きまして、ストレスの説明です。ストレスには、私の考える3原則があります。1番目、無意識にのしかかる負担全般をストレスと呼ぶ。2番目、「ストレス=メンタルがやられている」ではないこと。3番目、ストレスは自然消滅しない。これが3原則です。

ストレスのイメージです。ストレスがあり、脳の負担になって、自律神経の症状が体に出やすくなって「つらたん」となります。ストレスが多い時は精神が蝕まれるというイメージがありますが、そうではなくて、最初に出ているのは体の症状なんです。

「つらたん」というのは、フィードバックがかかって脳や体にさらに負担になるシステムが働いて、ぐるぐると悪循環でやられていきます。これがストレスのイメージです。

「つらたん」(と感じること)は悪いことばかりじゃないんです。実は「つらたん」(という感情)は、脳や体に行動として働きかける。人間は考える生き物なので、負担を抑える行動を取れる。それによって負担を減らす。

具体的に説明します。例えば、ちょっとのストレスで「つらたん」となる人。言いようによってはおサボりが過ぎるような人だったり、すぐに弱音を吐くような人を想像してみてください。そういう方はすぐに「つらたん」となるわけですね。

そうすると、その人はサボったりして体を休める。仕事からちょっと離れるとか、勉強をすぐやめてしまうといった、負担を抑える行動をすぐに取る人という意味では、むしろとても健全なんです。

ちょっとのことで「つらたん」となってすぐにサボる人は、むしろ生物の体を守るという点では、ストレス管理上はとても健全な行動だと思います。

直接消せない「ストレス」との付き合い方

國松:一方で、ストレスをためる現代社会的な人ですね。「つらたん」となってもがんばっちゃう人にはどういうことが起きているかと言うと、「つらたん」となっても、負担になるようなことをどんどん続けていく。

ちょっとわかりにくいかもしれませんが、実はストレスは勝手に消えていかないんです。どんどんストレスが降りかかってくる上に、負担を抑える行動も取らないので、負担が取れないことになります。

ストレスは、無意識にため込みやすい。そして、消えにくく跳ね返せない性質があります。こういうところから、どんどん(ストレスが)振ってくるんですね。実は私たちは、ストレスそのものを扱えないんです。

(ストレスを)扱えているような言い方をされることがとても多いと思いますが、ストレスをなんとかすることは難しい。ストレスそのものは直接減らせないので、負担を減らす行動を取るしかない。

だから、脳や体の負担になることを減らし、負担になることをしないことで、だんだんと「つらたん」を減らしたり、やがてストレスが負担にならなくなることを待つしかないのです。

ストレス軽減の唯一の方法は「無理をしない」こと

國松:ここまでのまとめです。すべての症状に、自律神経が関与しています。自律神経は“操り人形の糸”の部分であって、精神ではありません。

医者としては、自律神経症状がメインの患者さんには、操り手である脳のことを考えざるを得ません。「脳そのものが精神ではない」ということに注意してください。

脳や体に関わる負担をストレスと言いますが、私はこれを精神的だとは言っていません。ストレスが多くなると最初に出てくるのは、体の不調です。ストレスは自然消滅せず、ストレスそのものを扱うこともできないので、「無理をしない」という行動のみが脳や体の負担を取ります。

すれ違わないために伝えたいことは、お医者さんが「自律神経」や「ストレス」という言葉を持ち出しても、別に精神やメンタルのせいだと言いたいわけではありません。

病気がなくても自律神経は狂ったり、体の症状が出ますし、ストレスは体の症状を悪化させます。(ストレスの問題を)「心」と「体」のように分けて考えていませんか? 正しくは、相互に関与し合う関係性です。

医者と患者のすれ違いが生む誤解

國松:(スライドの)右側に、先生と患者さんがいます。先生は患者さんの症状を見て自律神経由来だと思い、「自律神経の異常です」と説明します。「別に精神は普通でしょ」と言っています。

ただ、この患者さんは頭の中でこんなことを考えているようです。「この先生も、精神的なもの(が原因だ)って思ってるんだろうな」と。

このすれ違いの背景ですが、1つは患者さんの知識不足があるかもしれません。しかし、どれぐらいの割合でいるかはわかりませんが、一番重要な背景にあるものは、お医者さんも患者さんの症状を「これは精神的(な問題が原因)だな」とすぐに思ってしまうこと。「自律神経の異常です」と説明するお医者さんが多いんですね。

そういうお医者さんとの関わりを経験すると、この患者さんのように思っても仕方ないかもしれません。これは医者代表として私が謝っておきます。ごめんなさいね。

最後のスライドです。この文はどこが間違っているでしょうか? 私なりに間違いがあるんです。

「こんなに体の症状が辛いし、ストレスなんて感じてないし、ストレスや精神から来ているなんて、先生は私を精神病扱いしてる……」これはどこが間違っているでしょうか? 

まずは、「ストレスなんて感じていない」というのが間違っています。自分で感じることができないものをストレスと呼びます。

次は「ストレスや精神から来ている」が違います。たぶんそうは言っていなくて、先生は「自律神経の問題」と言ったんじゃないでしょうか。散々言ったように、自律神経=精神ではありません。

精神科への通院を隠したがる人たち

國松:最後です。これはちょっと今日の本論から外れてしまいますが、どうしても言いたいことがあって。この「精神病扱いされた」という気持ちはよくわかるんですが、私からするとこの表現は精神病・精神疾患の人への偏見を生みかねないと常々思います。

精神の異常・正常で人を分けることは、社会を豊かにすることを明らかに阻害すると思うんですよね。世の中には、精神科に通っていることを隠している人はとても多いんです。私はそれが、個人的にとても悲しいんです。

なんとか私が本とかを書いて、みなさんの辛い症状をうまく診てあげられるように、お医者さんに働きかけて全体を底上げしますので。どうか「精神病扱いされた、ひどい!」という言い方をやめてほしいなと思います。

すみません、長くなりましたが、以上です。ご清聴ありがとうございました。

ヤンデル先生(以下、ヤンデル):ありがとうございました。我々、先生方がしゃべっている間は基本ミュートにするんですよ。ちょっとコアなフォロワーが求めるので僕の相づちだけはミュートしないんですが、他の3人はミュートするんです。

みなさんに音は聞こえないですけど、最後全員が拍手しました。「おおー!」と。おもしろかったですね。

國松:ありがとうございます。

お医者さんの説明は“かっこ悪い”ほうがいい

ヤンデル:先生、ちょっと一旦お休みで。SNS医療のカタチのメンバーからそれぞれ一言ずつもらおうかと思うんですが、まずはけいゆう先生いかがですか? 

けいゆう先生(以下、けいゆう):國松先生、ありがとうございました。

國松:ありがとうございます! 

けいゆう:もう、すばらしいです。感嘆してます。わかりやすいだけではなくて、おそらく先生が、患者さんとのコミュニケーションの中でいろいろな問題を感じて悩んでこられて、その解決策が今回のご講演なのかなと思いました。

内科系の非常に難しい話をされていながら、最終的には実はコミュニケーションの話に昇華させているのがすごいなと思いまして。これは、あらゆる人に教科書にしてほしいなと思いました。

國松:ありがとうございます。

けいゆう:このことを知っているだけで、だいぶ医師と患者間のコミュニケーションエラーが減りそうな気がしています。特に内科系の外来には、原因がはっきりしない不調を訴えられる患者さんが多いと思いますが、このことを知っていると、ずいぶん変わるんじゃないかなと思いました。

僕から1点だけご質問としましては、外来で説明する時に、今日みたいな話ができたら一番いいんでしょうけど、なかなか時間が足りなくて難しいと思います。僕自身がコミュニケーションに興味があるので、國松先生がどういう感じで病状説明をされているのかを、ちょっと教えていただきたいなと思いまして。

國松:わかりました。やっぱりポイントは、図を描いたりとか、身振り手振りがけっこう大事だなと思っていて。圧倒的に言語を短縮すると思っているんですよね。

たぶん、今日のしゃべりって「具体例がない」という突っ込みが想定されるんですけど。ここであえて言っちゃうと、これから夏バテの季節になるわけですが、例えば「この1ヶ月ぐらいずっと食欲がない」という人を診察する。胃カメラとか(で検査して)もぜんぜん原因がなくて、「なんでですか!?」ってすごまれた時の説明も、もちろんこうやって今日みたいにやる時間はないので。

例えば「胃の動きが悪いんですよ」と身振り手振りで(伝える)。「縮みたい時に縮まなくて、広がりたい時にうまく広がらないから、人間はこんなことだけでけっこう気持ち悪くなったりするんですよ」「働きが悪いんですよ」と言って。

「その働きや、腸を動かしているのって脳なんですよ~」と言う。「(人間は)操り人形で、脳や腸を動かしている感じなんですよ。だから、ちょっと脳を休ませてやりなさい」という方向に持っていく感じですね。古典的な手なんですけど、やっぱり図とか身振り手振りで(笑)。

けいゆう:なるほど。医者って身振り手振りがけっこう苦手だったりするんで(笑)。いやぁ、すごい。

ヤンデル:おもしろいね。

けいゆう:ありがとうございます。

國松:医者って言葉の力がけっこうあるので、ちょっとダサい身振り手振りをして。手の内を明かしちゃうんですけど、めちゃめちゃ患者さんには効いていると思うので。わりとかっこ悪く説明したほうがいいかな。

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