がんは「がんに関わっている人だけのもの」じゃない

ヤンデル先生(以下、ヤンデル):入ってきていいけど、ここで何をしたいかというと、藤松さんにバシッとメディアの話をやっぱりしてほしいなと思った。ちょっと、僕もしゃべっていい? 

小国士朗氏(以下、小国):もちろん。

ヤンデル:20秒ぐらいにする。「中島さんの熱意と、人の縁で」って言うけど、「ちゃんと反応してくれた人が多い」ということが、僕は一番大事だと思っていて。

もっと言うと、メディアがそこの中に入ってくれたというのは、もう拍手しかないワケ。だからもう、ここは藤松さん。藤松さんは無駄に顔かっこいいし、変な仕事を俺にバンバン振ってくるから、あまり好きな人じゃないんだけど……。

(一同笑)

藤松翔太郎氏(以下、藤松):すみません(笑)。

ヤンデル:ここでぜひしゃべってほしい! どうですか?

藤松:僕、「deleteC」に関わった理由って単純に言うと、小国さんから急にメールが来て……。

ヤンデル:急にメールね(笑)。

藤松:メールが送られてきて「3日後におもしろいことやるから来て」ぐらいから始まってるんですけど。

ヤンデル:(笑)。

藤松:最初のキックオフイベントみたいな時にナオさんに会って、お話を聞いた時に。もともと僕は、がんって触れてはいけないもの……相当な責任と知識がないと触れられないぐらいハードルが高いものだったんですよ。

それで考えて「ちょっとこのイベントに僕が参加しても、リポートとかも含めてできないかもしれないけど、とりあえず小国さんが言うから行ってみよう」からスタートしていて。

ヤンデル:あぁー。

藤松:その時にナオさんが最初に「がんって別に『がんに関わっている人だけのもの』じゃなくて、もっといろんな人とやらないと、結局は何も変わらないんだ」という話をされていたんですね。

その時に「あぁ、自分にできることってなんだろう?」って、初めてがんのことで考えたのがdeleteCの……ちょうど2年前ですね。2年前の2月4日にそれを感じて。その場でナオさんに「ちょっと話が聞きたいから、今月中に話を聞かせてくれ」っていうような感じで、スタートしたんですけど。

ディレクター人生の中で出会った、最大の“つわもの”

藤松:僕はナオさんって、自分のディレクター人生の中でもっとも強敵だったんですよ。

ヤンデル:強敵(笑)! ちょっと一瞬待ってもらっていい? 中島さん、先に反論してください。

中島ナオ氏(以下、中島):いや、大丈夫です(笑)。何も反論できることはないんで(笑)。

ヤンデル:公認の強敵。はい、どうぞ。それで? どう強敵? 

藤松:敵ではないですね。ただ、強かったという意味で“つわもの”だったのかなと思うんですけど、僕の質問とかに違和感があると、全部ちゃんと言葉にしてくれる方なんですね。僕は、この『SNS医療のカタチ』とか、けいゆうさんの言葉ともすごくつながってくるところではあるんですけれども。僕の質問って「白か黒か」だったんですよ。

例えば「がんは絶望するもの・死ぬもの」みたいな、苦しい部分をとにかく聞こうとしてた時があって、それをナオさんが否定をする。そしたら「大丈夫ってことだったら、大丈夫だと思ったことってどういうこと?」って、白か黒だけを聞いていたんですけど、たぶんもう、がんってぜんぜんそんなことなくって。その間のグレーの部分というか。

いかにそういう部分に興味を持ってもらって、ちゃんと自分事で思ってもらえるかみたいなところが、たぶん相当なテーマで。僕、インタビュー中にナオさんに言われてハッとして、1回インタビューを止めたことがあって……。

ナオさんに「例えば診断をされたり辛いことを感じた時、夜、泣いたりしないのか?」っていうことを聞いたんですよ。これは漫画だったりドキュメンタリーだったりで、すり込まれているイメージだと思うんですけど。

泣いた時、泣くことが前提で「泣いた時にどういうことを考えてましたか?」って聞いたんですよ。そしたらナオさんに「夜中じゅう泣いているってイメージを、そもそも持ってるの?」っていうことから言われて。

ヤンデル:(笑)。

藤松:「30分ぐらいすると、泣くの疲れるんだよ」って言われるんですよ。

ヤンデル:なるほど。

藤松:それの積み重ねで番組を作っていくという状況だったんですけど、もうすごい気づきがあって。「がん患者」という言葉を、僕は番組で一切使わなかった理由としても、がん患者というくくりだけでレッテルを貼ってきた自分に相当気づかされたのが、このナオさんの番組を作っている時。『ひとモノガタリ』という番組でやったんですけど。

それと、なんでけいゆうさんがつながるかというと「いろんな情報が悪質なものも含めて広がる中で、医療というものは白でも黒でもない。そのグレーのグラデーションなんだ」って話を、けいゆうさんが言っていて。

ヤンデル:けいゆう先生、いいこと言うじゃない。

藤松:『フェイク・バスターズ』と『ひとモノガタリ』で、取材ノートは別々に分かれているんですよ。

ヤンデル:そうか『フェイク・バスターズ』は、けいゆう先生がご出演されているやつで、『ひとモノガタリ』は中島さんをフィーチャーしたやつですね。

藤松:そう。でも昨日読み返したんですけど、どっちのノートにも「白でも黒でもないグレー」っていうのが書いてあったんですよ。

中島:すごい。

ヤンデル:かっこいい! 

藤松:やっぱりそこだなって思って。

メディアの役割は“グレーゾーン”にスポットライトを当てること

藤松:メディアの立場からできることって、僕、こうやって話すの初めてだったんで「何を言おうかな?」って思った時に、やっぱりそのグレーの部分にどれだけ興味を持って見てもらえるか? っていうところが勝負かなっていうのと。あとは僕の中で1個課題としては、テレビってやっぱり一発屋というか“花火”でしかないので。

テレビの今までの番組屋さんって、ゴールにしてきた……もう放送して「あとはよろしくお願いします、社会のみなさん」というのが、たぶんこれまでのテレビだったと思うんですけど。僕はできる限り、その番組をスタート地点にするというのが……きっかけを作って、そこからずっと番組で追うことって、たぶんなかなか難しいんですけど。

でも僕はプライベートを使って「deleteCと一緒になんかやれることがないか」って言いながら、番組の先をご一緒させてもらっているし。今日は『フェイク・バスターズ』も、けいゆうさんとかと一緒に、放送の先に何かイベントも含めてできることを探りたいなと思っているんですけど。

だからメディアの立場からできることって、たぶん今後は民放さんとかがもっと取り上げてくれたらいいな、って思いつつなんですけど。その「放送をしてくれてありがとうございました」じゃなくて。放送をして興味を持ったディレクターとかって、いっぱいいると思うんですよね。

そういう方々と一緒に「じゃあ次こういうことをやってみたい」というミーティング的なことを、deleteCでよくやっているんですけど。そのメディアのメンバーで「外でなんかできることはないか?」とか「医療者とメディアで、何か一緒にチームを作れることはないか?」とか。

そういう話を、具体的に社会を変えていく動きを作っていくみたいなところが、deleteCと関わりながら……。あと『フェイク・バスターズ』や『SNS医療のカタチ』のみなさんと関わりながら、やりたいことかなと思っています。

用意した話は、こんな感じです(笑)。