私からそれを取っちゃうと“何者”でもなくなっちゃう

吉田将英氏(以下、吉田):それと、あとは「飽きる」ってやつですよね。飽きるのをどう折り合わせるかって話だと思うんですけど。さっきの裕さんの「Twitter、レスポンスをちょっと気にしすぎかも」って、なんで、はたと思えたんですかね? さっきのインプレッションというか。

鈴木裕介氏(以下、鈴木):単純に飽きてきてる部分とかもあったと思うし「なんか疲れたな」っていうこととか。

吉田:「疲れたな」とか「飽きてきたな」とか「今これ俺、実はおもんないな」とか、それを知覚するのって、実は当たり前じゃなかったりするのかなと思ってて。要は、やってることが目的化してて、飽きたとかおもしろくないとか言うべきではない、みたいな。あとは若い人の話でたまに出てくるのが「アイデンティティが欲しい」。それこそ、自分のハッシュタグが欲しいから。

鈴木:「この人に何をお願いしたらいいのか?」っていうのが、他人から見てわかりやすい人はラクですよね。

吉田:そう。だから例えば「中学からずっと続けてきた何かがあって、正直もうあんまりおもしろくないんだけど、私からそれを取っちゃうと何者でもなくなっちゃう気がして、やめられなくて続けてる」みたいな。やっぱりそれって、アイデンティティがもがれてなくなるのが怖くて。好奇心は限りなく「CP(キュリオシティ・ポイント)ゼロ」に近いんだけど、惰性で飛行しているみたいな感じだと思うんですよね。気持ちは僕、すごいわかるんですよ。

鈴木:わかる。わかるー……。

吉田:でも、見切りが早い人もいるじゃないですか。「だってもうおもしろくなくなったんだもん、やめる。ほいっ!」みたいな人もいて(笑)。「あぁー……」みたいな。それは、どっちが良いとか悪いとかじゃないと思うんですけど。

“看板が立ってない状態”は、すごく苦しかった

鈴木:テーマはやっぱり統合、インテグレーションなのかなとは思うんですけど。積み上げ型のタイプの人と飛び込み型のタイプの人って、やっぱりあるじゃないですか。FFS(Five Factors & Stress理論)で言うところの、保全性・拡散性。枠組み決めてコツコツやる、それで積み重ねていくタイプのほうがしっくりくる人もいれば、いきなりぜんぜん関係ないことやり出すみたいな人もいるワケですよね。自分がまずそのどっちなのかな? っていうのを、ある程度、やっぱり把握することかなと思ってて。

で、たぶんその悩みってどちらかというと「積み上げ型」の人のほうが多いのかなと思うんですよ。僕は自分のキャリアがある程度は統合されるまでに、けっこう時間かかったほうだなと思ってて。だから僕、今「メンタルヘルスが好きなお医者さん」って言ってますけど、最初に(吉田氏と)出会った時。僕「コンサルタント」だったんですよ。

吉田:そうか。もう覚えてないぐらい(笑)。でもそうでしたね。

鈴木:そう。僕、コンサルタントだったんです。「キャリアのことを仕事にしてる人」で。でも内科医も週1でやってて。「でもプライベートでメンタルヘルスとかにはずっと関わってます」みたいな。

吉田:「なんだこの人?」って思ったのを覚えてます(笑)。

鈴木:ぜんぜん意味わかんなくないですか、この人。まったく看板が立ってない状態なんだけど、それはやっぱり、すごく苦しかったんですよ。でも自分の中でなにかしらつながってるだろうなと思うんだけど、世の中の人にわかりやすい記号として「私はこうです」って言えない時期が、僕はちょっと長かったので。

で、今それが「こういうセーブポイントみたいなことを作りたくて、こういうクリニックやっているメンタルヘルス好きなドクターです」っていうので、全部統合されて。それですごい楽になったなっていうのはあるんですけど。だから、積み上げたものが無駄になることって、たぶんなくて。でも、一旦そこの看板が立っている“心地良い状態”じゃなくなることって、けっこうしんどいことだと思うんですよね。

でも大事なのはやっぱり、今時点の自分が、本当に何に対して興味を持っているのか? ってことで。そこはちゃんと追いかけてもらえたほうが、最終的になにかのきっかけで今まで積み上げたものと結局くっついたり、異次元の統合をするかもしれないワケで。

吉田さっきの「20パーセント遊ばせておく」みたいなこともそうですけどね。

「ある何か」を掘り下げると「別の何か」に接続されるときが来る

鈴木:経験が本当に無駄になることって、まぁそんなないですよね(笑)。

吉田:僕もないと思います、それは。実はそこはけっこう確信持って「ない」って(言える)。「それは広告みたいな仕事だからだろ!」とかって言われることも「なんでも企画になるから、あなたはいいよね!」とかって言われることもあるんですけど(笑)。

鈴木:「潰しが効くだろ!」と。

吉田:結局、それは接続の仕方かな? って思ってて。僕、さかなクンの話、いろんなところでよくするんですけど。さかなクンが『いじめられている君へ』っていう寄稿を、新聞かな? 短文ですけどね、寄稿して。やっぱりあの人は、魚の話でそれをするわけですよ(笑)。

「海にいるメジナはいじめとかしないんだけど、水槽に入れると1匹いじめられっ子を決めて、みんなでいじめちゃうんだ」と。下手したらそれで殺しちゃったりする。1匹それで死んじゃったり、助けてすくい上げたりすると、新しいターゲットを作っていじめが始まって。さかなクンは「海ではそんなこと起こらないんだから、君も本当につらかったら教室から逃げていいんだよ」ということを言わんとして。それをメジナの話でしてて。その文章も素晴らしいんだと思うんですけど「メジナで拾えるさかなクンすげぇな」と思うワケですよ(笑)。

鈴木:「すギョい」ですね(笑)。

吉田:そうそう「すギョい」なんですよ(笑)。だから何が言いたいかっていうと、彼は「魚」を掘り下げまくって生きてきたけど、あることで掘り下げると、別の「いじめ問題」みたいなことにも接続される瞬間が、たぶんあって。なんでも拾える気がするんですよね。「母性について話してください」っていったら「タコのお母さんは死ぬ気で卵を守るんです」みたいな話をしそうだし(笑)。

そういう意味で言うと「なんの役にも立たないし金にもならないし。でも楽しいは楽しい。だけど、その楽しさだけ信じて大丈夫でしょうか?」みたいな話って……いろいろ言えることはあるけど「大丈夫です」っていうのが結論なのかな、なんていうのがね。僕はその話とか思い出すたびに、思うんですよね。

掘り下げるのがつらくなったら「その隣の領域」に行ってみる

鈴木:そうですね。「あなたはどういう人ですか?」ってなった時に、やたら自分の“機能的な情報”でやり取りをしようとする人がいるんですよね。

吉田:「株式会社ナントカで務めてます」とかね。

鈴木:でもそればっかりだと「この人、何考えてるかぜんぜんわかんないな。気持ち悪いな」って思う人も、世の中にはけっこういて。「株式会社〇〇の人なんですけど、でもこの人、週末にはX JAPANのコスプレしてるんです」みたいなのがあったりすると、急にエモーショナルな感じになるんですよね(笑)。

吉田:「あぁ、この人も人間だ」みたいなね(笑)。

鈴木:そうそう。だからその人の“エモみのある情報”って、人間的な交流をしていくうえでは、やっぱりすごく大事なことだなと思ってるし。さっきの話に戻ると「アイデンティティを捨てられない」って話なんだけど。一旦、そこで掘り下げるのがつらくなったなと思ったら……だいたいそういう人って、そこの隣の領域、それと少し関連性のある新しいこととかを新しく積み上げていくことのほうが、うまくいきやすいなっていうのは。

吉田:隣はおもしろいですね、確かに。

鈴木:まったく違うところには、やっぱり勇気がないと行けない。それこそ拡散的なエネルギーがあるタイプの人じゃないとなかなか(難しい)だけど、積み重ねるタイプの人っていうのは「おそらくそれとシナジーがありそうな予測が立てられる新しいこと」をやってみてあげるのは、いいんじゃないかなと。

吉田:「食べたことないエスニックなんだけど、たぶん唐揚げだな」っていう(笑)。

鈴木:そうそう(笑)。

吉田:それなら怖いけど食えるでしょ、っていう。だから本当に何だかわからないものじゃなくて、料理名のメニューで読んでもわけわかんないんだけど、たぶん唐揚げ。

鈴木:「唐揚げではある」っていう安心感があったら、いけますよね(笑)。

吉田:っていうことですよね。だから、いきなり飛び地にボーンと飛び込む必要はなくて。ちょっと行き詰まってたり「もうおもしろくないな」って、例えば楽器だったら別の楽器にトライしてみるとか。

好奇心の2連鎖、3連鎖、4連鎖

吉田:あと、僕の友人でそれがめっちゃ得意な人で、岩田リョウコさんっていう人がいて。最近、サウナの本を出したんですけど。

HAVE A GOOD SAUNA! 休日ふらりとサウナ旅

彼女はシアトルの領事館の職員やってて。元々、コーヒーが大っ嫌いだったのに、シアトルってコーヒーめっちゃ飲むから、騙されたと思って飲んだら、めちゃくちゃハマって(笑)。「『これは麦茶だ』と思って茶漬けにしたら、じつはそれがコーヒーで。“コーヒー茶漬け”を子供の頃に食ってトラウマになって。それ以来、飲んでない」みたいな人が、シアトルでコーヒーを飲めたと(笑)。

鈴木:(笑)。

吉田:で、コーヒーの本を書くぐらいまでハマって、シアトルでコーヒーの本出して。そして、なんか調べたら世界で一番コーヒー飲んでるのってフィンランド人らしい、ということに行き当たって。じゃあフィンランドのコーヒーを飲みに行かないといかんじゃろう、ってフィンランドに行ったら、今度はフィンランドにハマり。

あと同時期に、無理やり友達に連れていかれたサウナで、サウナにハマり。フィンランドとサウナにハマって、フィンランドの本とサウナの本をそれぞれ出すワケですよ。そういう、なんて言うんですかね……好奇心をチェインさせていく。連鎖。「2連鎖! 3連鎖! 4連鎖!」みたいな(笑)。

鈴木:『ぷよぷよ』ね(笑)。

吉田:連鎖がすごい上手で。上手とかでもないですね、彼女はたぶん。「だっておもしろそうなのに、知らなくって癪だったんだもん」みたいなことで(笑)。で、周りにどんどん聞くし、教えてもらうし。その教えてもらうっていうのはけっこう、なんか変なプライドで知ったかぶっちゃったり。あるいは知らない自分が恥ずかしくて人に教えを請うたり「連れてってよ今度」とかって言えなかったりとかで、そこで連鎖が止まっちゃう人もいるけど。彼女を見てると、そこがやっぱり連鎖が上手というか。「隣」っていうのを聞いて、思い出しましたね。

鈴木:変に中級者ぐらいになると、一番聞けないんですよ。

吉田:12連鎖組み込みにいっちゃうと(笑)。

鈴木:(笑)。

吉田:「そんな大連鎖じゃなくていいから、2連鎖を毎日続けようよ」みたいなね(笑)。それはそうかもしれないな。