疲弊している状態だと「興味・好奇心」は湧かない

吉田将英氏(以下、吉田):個々のパートで盛り上がりましたけど、今日は結局、やはり「打開する好奇心」とまで言っちゃっているので。

鈴木裕介氏(以下、鈴木):そうですね。

吉田:ちょっと、どないしたらええねんという話を(笑)。

鈴木:方法論のことを考えたいです。僕もそれを求めたくて来ているところはあるので。

吉田:何個か方法・シリーズ、考えてみて。(スライドを指して)どれから行きましょうかね? 上からいじっていこうかなと思うんですけど。やはり上(「自分の好奇心を見つける方法」)は何回か出ている「何がやりたいのかわからないんですけど、どうしたらいいですか?」ということだと思うんですけど、どうしたらいいんですかね。

鈴木:好きな話だと、やはりまず寝ることですよね。

吉田:(笑)。

鈴木:「回復する」ということです。疲弊している状態だと無理だなと思う。「これは自分が興味があるんじゃないか?」っていう、興味って基本的な感情の1つなんだけど、本当に疲弊している時って動かないので。

少なくともそれが動けるような「HP・MPがある状況」であるということが、まずは必要なのかなと思って。「今、88連勤しているんですけど、好きなこと見つかりません」と言われたら「そこをまず止めようね」という(笑)。

吉田:そういうとこなんだぞ、という。

(一同笑)

鈴木:「診断書書くよ」という感じです。まずはね。情動って理屈じゃないので、何かの刺激があった時に反応として勝手に動かされるものだから、それはやはりちゃんとキャッチしてあげたいですよね。

自分の感性「快・不快」が、好奇心の根拠になる

鈴木:これは「快・不快」と言い換えてもいいかもしれないんですけど、情動って快・不快だから理屈じゃないワケですよね。だから「快・不快のことを追いかけてください」というのを、休職中の人とかにもよく言うんですよ。快・不快を考える中で対極にあるのは、損得。

吉田:損得ね。

鈴木:善悪もそうかもしれない。善悪というのは、社会的に見て良いか悪いか。損得というのはこれも、金銭的価値があるかないかとか。というのも、これも結局は他者軸なので。だからそうじゃない、もっとより意味のない自分の感性。快・不快というものが、好奇心の根拠になるワケですよね。

そこに戻っていくことが大事で。自分の好奇心を見つけようと思った時に、多少は時間もかかると思うし。でも無限に「他に自分が答えないといけない、他の人からのニーズ」がある限りは、なかなかそこに向き合えないというのはあるんじゃないかなと思いますね。

吉田:「Don't think! Feel」みたいな。

鈴木:そう(笑)。

吉田:そうですよね。いわゆる「Feel」が、今言ったような人からすると、わかんなくなっているワケじゃないですか。

鈴木:わかんなくなる。

吉田:そういう人に「Don't think! Feel」だけ言っても「Feelがわかんないんだってば!」みたいなこともあると思うので。それは、ちょっとでも針が振れたことを信じて、少し時間かけてそういう時間の過ごし方だったり意識を増やしていったり、試していったり。リハビリみたいな感じなんですかね。

鈴木:「快い」という感覚をもう1回拾いに行くということで。よくあるリラクゼーション法であるとか「晴れた日に散歩すると気持ちいいよね」とか言われるけど。しんどい時はそんなんわからくなるけど、ちょっと元気になりかけてくると「もう1回探索して行こう」となる時もある。そんなタイミングで主治医がうまく、そそのかしたりするワケです。「休職中に仕事場の寮にいたらあまり治らないから、どっか別のところに行ってみよっか」みたいな。

吉田:(笑)。

鈴木:「秩父の長瀞に行ってごらん」みたいなことを言って。で、実際3日間行ってみたら「なんかすごい良かったです」みたいなね。そういうのとか、あるワケです。

吉田:すごい。そういうアドバイスもされるんですね。

鈴木:そういうアドバイス(笑)。はい。

吉田:なるほど。

鈴木:長瀞、いいんですよ。

吉田:「会社行くつもりで駅まで行って、反対方向の電車に乗ってごらん」みたいなね。

鈴木:ああ、そうそう。

吉田:「大丈夫。一日サボったって大丈夫だから」っていう(笑)。僕は実際やったことあります。

鈴木:(笑)。

吉田:突然、逆方向に乗るというのをやったことありますけど。

鈴木:僕、19の時やっていました。浪人生のとき(笑)。

鈴木敏夫氏が回顧していた「記憶と記録の違い」

吉田:そうですね。僕が今の1個目の方法で、裕さんの話はもうおっしゃるとおりだなと思って。重ねるとしたら、僕、ジブリの宮崎駿さんのロケハンの話が好きで。「『魔女の宅急便』を作るぞ」と言ってアイルランドかどこかに(行って)。彼、世界観を掴むまでめちゃくちゃロケハンして実際の世界を見まくるので。「家の作りってこうなっているんだな」とか「軒下ってこうなっているんだな」って。

鈴木敏夫P(プロデューサー)と、その他のみなさんと行ったらしいんですけど。その時に鈴木さんが、駿さんに怒られた話で。鈴木さんが一生懸命、昔造りの家の建て付けを、ずっとカメラで撮っていたらしいんですね。

そしたら、宮崎駿が「シャッター音がうるさいよ」と言って、撮影を止めたらしいんですよ。「僕、今見ているんだから、シャッター音うるさいよ」と言って止めたという話があって。

鈴木:いいねぇ。

吉田:それを鈴木敏夫は回顧しながら「記憶と記録の違い」の話をしていて。やはりカメラは“記録”じゃないですか。  

鈴木:そうですね。

吉田:でも、宮崎駿が大事にしようとしていたのは“記憶”のほうで。それが例え『魔女の宅急便』を実際に描く時にはちょっとボヤけた記憶になってて、若干、不正確になっていたとしても「俺にはこう見えたんだ」というほうが、すごく大事だと。

アニメーションって、基本的には主観の最大化。「正確かどうか?」じゃなくて「その時、主人公にこの世界がどう見えていたか?」というのを、写実よりもデフォルメして描くというのが、アニメーションにしかできないことだから。今思えば、宮さんの言っていたことは、アニメーター的にも超正しかったし、好奇心おばけとしても「シャッター音うるさいよ」というのは、すごくいい話だなと思って。

好奇心は最終的には役に立つけど、即物的なリターンではない

吉田:ちょっと話を戻すと。やはり何で世界を見ているか? のフィルターとかデバイスを変えるというのは、僕、1個目の「精神論で心持ちを変えよう」とか言っても、やはり難しいと思うので。物理的に何で世の中を見ているか? を、例えば「スマホで世の中を見ているな」と思ったら、それを変えるとか。

「人の評判越しに世の中を見ているな」と思ったら、評判しか知らない人に実際に会いに行ってみたり、話してたり。そういうふうに、自分の目で物事や世の中を見る時間とか割合を増やすというのは、1個目。

鈴木:これはいいトライですね。

吉田:あるな。それ、さっきのリハビリの一環かもしれないですけどね。

鈴木:ブラウザを変えるみたいな。

吉田:そう、そう、そう。

(一同笑)

吉田:ブラウザとかOSとかね。わかんないですけど。

(一同笑)

吉田:OSがね。だからやっぱり「べき論OS」みたいになってると、なかなか「なんのアプリをダウンロードしても不具合出て動かない」みたいなところなので(笑)。そこは思ったりしますよね。

吉田:その延長で「これかも」って思ったあとの、(スライドを指して)次の2行目(「知った好奇心を信じて深める方法」)ですよね。「おもしろそう」って思った自分のちょっとした気づきとか気持ちを、自分で消しちゃったりすることもあるじゃないですか。

「いやでも、俺どうせ三日坊主だからなぁ」とか「おもしろそうって思ったけど、けっこう俺、カン悪くて外すんだよなぁ」「おもしろそうって思ったことでおもしろくない思い、いくらでもしたことあんだよな」とか(笑)。

なにか“初速”を信じられないとか。あとはやっぱり、時間もお金も体力も有限だから、特に何を信じて動けばいいのか? そんなことを考えてるうちに時間が経っちゃうとか。ここはどういう方法があるのかなって。

鈴木:ここはでも、なんかフォルダが違うんですよね。フォルダを分けるというか、何でしょうね……多いパターンって「なんかちょっとこれ楽しいかもな」って思ってるけど「いやいや仕事に役に立たないし、こんなことやってる場合じゃないよな」で、かき消されちゃうことがやっぱりすごく多いなって、現場感覚としてはあるなと思ってて。

さっきとかぶる部分があるかもしれないんですけど。「役に立たないこと」ってフォルダの中にちゃんと入れる、っていうことなんじゃないかなとは思うんですけど。で結局、最終的に好奇心って役に立つから。だけど即物的なリターンではぜんぜんないワケですよね。

後々を豊かに生きるっていうことで「なんか気がついたら得してたな」みたいな。たぶん、それぐらいの時間感覚のものだから。僕はむしろ「役に立たないことをしてください」って、よく言ってるんですよ。

吉田:そこね、難しいですよね(笑)。

鈴木:難しいと思うけど。